三橋視点で。
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朝食は、一日交代で作る。
阿部君はもっばらトーストにジャム。そして焦げたり、目玉がくずれてしまった目玉焼きだ。
オレは、お味噌汁を作ったり、厚焼き卵を作ったり。どっちかっていうと和食だと思う。
そして、オレは密かに楽しみがあるメニューを、一週間に一度くらいの割合でだす。
それはお味噌汁と、海苔と、納豆だ。
「いただきまーす」
初めの頃は、オレの朝食のほうが手が込んでいるといって気にしていた阿部君だが、料理ではオレにかなわないと気を抜いてくれたのか、最近じゃ、当たり前のように食事を始める。
オレはそんな素直な阿部君をみるのが好きだ。
「今日は納豆なんだな」
阿部君はそういって、白い容器をバコンと開けると、お箸を突っ込んでかき混ぜだす。
そして阿部君は、一生懸命、一生懸命、まるでハムスターがひまわりの種のカラをかみとるときを思わせる熱心さで納豆をかき混ぜる。
シャカシャカシャカシャカ
なんでも阿部君のお母さんが教えたことらしい。
かき混ぜるほど、眠っている納豆菌が目覚めて栄養が増すらしい。
それを素直に信じている阿部君は、納豆のネバネバが白いホワホワの泡みたいになるまでかき混ぜ続ける。
そうして、白っぽくなった納豆を満足げにみつめてから、白いご飯のうえにかける。
それから、ハフハフとそれを食べるわけだけど、今度は阿部君は箸で納豆の糸を巻き始める。
クルクルクルクル
グルグルグルグル
そんなに一生懸命巻き取らなくても大丈夫なんじゃなかな、と思っているのだが、口にはださない。
真顔で食べながら忙しげに右手をまわす様子がみていて楽しいから。
食事が終わると、阿部君はいつもにまして歯磨きを一生懸命にする。
シャカシャカシャカシャカ…
一緒に歯を磨きながら、そんなにしなくても大丈夫なのにとつい微笑んでしまう。
そうしてオレたちは玄関に立つ。
朝、出かける前のこの一瞬、キスをするのがいつもの習慣だ。
いつもは自然とするその行為も、阿部君は身構える。
それはホントにわずかなためらいなんだけど、オレにはよくわかる。
ジッと、阿部君はこちらをみて、顔を動かさない。
チュ
オレから口づけると、唇がふれた瞬間、ビクッと小さく震える。
だから、オレは丁寧に舌までいれてしまう。
おずおずと遠慮がちに動く、阿部君の舌。
ものすごく可愛いと思ってしまう。
「よし、じゃあ、いこうぜ」
キスが終わるとホッとしたように、急に声をだす君。
玄関を開けて、右側に進む。
ダークブラウンの傾斜のきつい、外階段。
三階建てのアバートから、僕らの今日に出発する。
2012-9-25 03:50