人の数もだいぶ減ったスーパーのなか。
それでもレジには人がチョロチョロとやってくる。
三橋のすぐ前のレジで手際よく会計をこなしていくのは、同い年だけど仕事は先輩の栄口だ。
栄口は専門学校に通う学生で、学費を稼ぐためにバイトに入っているらしい。
三橋の場合は親からの仕送りがあるので、このバイトは主に生活費のプラスアルファになれば…というのと、自分自身が社会慣れというか、仕事慣れをしておきたかったから始めた、という感じだった。
栄口の働く理由はより切実だったけれど、彼はおおらかで明るい性格で、仕事が終わった後、一緒に事務所で着替えをしながらおしゃべりをするのが楽しみな人だった。
三橋はテキパキと動く栄口の背中をみながら、自分の接客に励んだ。
そうして、ふと気がつけば、スッと自分のレジに阿部が姿を現す。
「あ…いらっしゃい、ませ」
このときはふいをつかれた感じで、少し心臓がドキドキした。
「これ…」
阿部も三橋を驚かせてしまったのはタイミングを読み間違ったと後悔したのか、普段は無言が多いのだが、ポイントカードを差し出しながら、気遣うように小さく声をかけてくる。
「う は…い」
三橋はそれでも習慣から手早く阿部のカードを受け取って、機械にかけてから返すと、カゴのなかの品物をひとつづつレジに通していった。
(いつもはお菓子だけなのに…今日は、多い、ぞ)
カゴのなかにあったのは、冷やし中華のゆでめんと、トマト、キュウリ、それから牛乳が一パック入っていた。
「夕食、これでいい?」
レジを打っている三橋に阿部が話しかけた。
「え、と」
びっくりして三橋の動きがとまる。
なぜかといえば、自分がバイトで遅くなる日は、いつも阿部は先に食事をしているからだ。
「でも…」
案の定、三橋が気遣わしげな目で言葉につまると、阿部は返事を待つ気もないように口早にこういった。
「平気。お前、帰ってきてから食べよ」
ん、と…と三橋の動きがいよいよゆっくりになると、阿部は財布を取り出し、
「いくらですか?」
とたずねた。
「うえっ、えっと…」
三橋が合計金額を告げる。
「5000円でお願い」
ポスッと阿部がお札を受け皿にのせる。
「はっい…5000円のお預かり、です」
三橋がおつりを渡すと、そこでようやく阿部が自然な感じに微笑んだ。
「お前、帰り、いつも通りだろ?」
三橋がうなずくと、阿部は軽やかにカゴを持って、商品を買い物袋に詰めるための台に向かった。
そうして手早く荷物をまとめると、チラッとだけ三橋に視線を送り、自動ドアの向こうに消えてしまう。
(……そっか、今日は、一緒に 夕食)
三橋の心のなかに、妙なくらい明るい気持ちがわいてくる。
(先に食べて、いいのに)
そんなことを思いながらも、自然と口元に浮かんでしまいそうになる微笑みは、次のお客さんへの笑顔でごまかした。
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が、このあと仕事あがりに三橋(と、ついでに栄口)は、店長花井の口から、次のバイトのときには物産展フェアをするから、その土地のゆるキャラのお面をかぶってくれ、というお達しをうけるのだった。
そんな展開を控えつつ、続く。