ドクドクドクッ…とポットからぬるくなったお茶が注がれていく。
みるみるカップに溜まる紅茶を映す阿部の瞳もまた、みるみると大きくなっていく。
だが、三橋はテーブルの上にみつけた真っ白い角砂糖をポイポイといれると、素早くスプーンでかき混ぜて、ゴッゴッと飲みだした。
「ちょ…待って…」
阿部はひきつった顔をするが、顔を天井に向ける勢いで飲んでいる三橋にはそんなことわからない。
(お茶…阿部君が……いれてくれてた のに…)
ハヤク ノマナ クッチャ
お茶の時間に遅刻したことで頭がいっぱいになっていた三橋の気持ちは、一刻も早くお茶を飲むイコール阿部君へのお詫び…という思い込みが発動していた。
「やめろ三橋!」
自分の理想とする紅茶からしたら、まったく色あせたお茶を飲ませたくなかった阿部の口からは悲鳴に近い声が飛び出す。
ゴッキュ ゴッキュ ゴッキュ
だが、ひとつのことに気持ちが支配された三橋の動きは、そうそう止まれるものじゃない。
一心なあまり、少し頬まで赤くなった三橋はカップを一気飲みすると、ようやく人心地ついたように幸せそうな顔でカップを置いた。
「おいし…かった…です」
その言葉に偽りはなかった。
急いで帰ってきたので、喉もひどく渇いていたのだ。
「…阿部君 お茶 おいし」
フヒッと無邪気な笑顔を向けた三橋。
だが、その目の前にはショックと悔しさで固まった阿部の顔があった。
(世界で一番、うまいお茶を飲ませる気だったのに……)
すぐにパーフェクトを狙う阿部の悪いクセがここに露出する。
思った通りの展開にならなかった場合、阿部という人間は一時的なショックから立ち直るのに苦労するのだ。
(…コイツ…香りと熱があせた紅茶を飲みやがった…!)
「あ…べくん…?」
さすがの三橋も、青い顔色に変わって宙をにらみつけている阿部の形相にハッとなる。
「ど…し…」
阿部の背後にビシャビシャとカミナリが散っている。
だが、阿部は固まり続けたまま、なにもいわない。
おそらく三橋に怒鳴りたい気持ちを必死におさえて心のなかを整理しているのだろう。
だが、残念なことに、身体全体に不穏なオーラをまとい、それがおそろしいほどハッキリとみえる人なので、いくら気持ちを整理してくれても、そばにいるだけで充分怖いのだ。
(の……んじゃ……イケ…な か た)
カップを手にしたまま三橋がブルブルと震えだした。
まるでいたいけなヒヨコのようだ。
阿部が視線を自分の手元に落として、静かに、自分になにかをいいきかせている。
それがわかるのだが、彼の髪が逆毛だってゆらゆらと揺れている。
(ダ……ダメ だ)
三橋は黒目が消失したヒヨコ口の白目になって、ヒョーーーという効果音を背負って思念の渦巻きに飲み込まれていった。
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続きます。なんだこれ、萌えどころはどこだ。