続き。
「…痩せてもここは気持ちいいか」
ゾクゾクとハルナの指先が刺激を送ってくる。
違う。
この感覚に流されたくない。
もっと、オレのペースで考えさせて。
タカヤは唇を噛んだ。
これじゃ、いままでと同じじゃないか。
このまま黙っていたら、ただハルナのもたらす快感に引きずり込まれるだけだ。
彼は脈打ちだした鼓動を抱えて一心に気持ちを整理しようと努めだした。
オレはどうしようとしていたのだっけ。
そうだ、ハルナを手玉にとって愛欲に突き落として、この城を脱出する…
それがどうしてまた、こんなふうに黙ってヤツの腕のなかで鳥肌を立てられているんだ?
ああ、もっと早くに自分から行動を起こしてハルナを抱いていればよかった。
胸の悪くなるような、媚びた笑みを浮かべてヤツを迎え入れればよかった。
それであのマヌケ面を思った通りに…
「なにさっきから眉間にしわ寄せて震えてるんだよ」
ハッとして瞳を開く。
「どうした? そんなに気持ちいいのか?」
ハルナの軽い冗談に、タカヤはカアッと血をのぼらせた。
「違っ…」
「じゃあ、なに?」
タカヤが言いよどむ。
そしてまた口を閉ざした。
ハルナはため息をつく。
(もともと口数の少ないヤツだったけど…さらに言葉が減った)
タカヤの反応を試すようにいじっていた背中からスッと手を離す。
そうしてハルナはまたタカヤの頭を撫ではじめた。
(あれ…?)
いつもの違う展開に、タカヤが心の中で首を傾げる。
(いつもなら、このままオレ、やりたい放題されて…)
頭を撫でる以上のことは、する気がなさそうなハルナに初めて不信感を持つ。
(なんだろう…)
タカヤは息をつめてハルナの様子をうかがった。
だが、いっこうに彼の優しい愛撫はとまらない。
ただ、優しく。
自分の頭を撫でる。
それから、ハルナが用心深く、タカヤに話しかけだした。
「…隣の国の式典にいってたんだけどさ」
「………」
「すごく、うまい料理がでてさ」
「………」
「でも、なかでも一番うまかったのは…なんだと思う?」
「………」
「ぶどう」
ニッ、とハルナが笑う。
「すげえ、でかくて、甘い。香りがいいんだ」
タカヤは大粒のぶどうを想像した。きっとそれは黒に近い紫色をしているのだろう。
「水分が多くてさ、喉が潤ってくんの。でも甘いから、途中で少し酒が飲みたくなったり。肉料理を食べたあともいいな。うまいんだよ、とにかく」
タカヤは黙って目をつぶった。
芳醇な香りを思い浮かべて。
かすかにその唇が開く。
「 お前も食べてみる?」
囁かれて、パチリと瞳をひらく。
「あるんだ。ここに」
そういって、ギシリとハルナがベッドをきしらせて降りた。
そして暗い部屋の隅に置いてあった小さなテーブルまで手探りで進むと、なにかを持って返ってきた。
ふいに、タカヤの鼻先に一房のぶどうが差しだされる。
「食べてみろよ」
それは暗い部屋のなかで、油火のほのかな光でぼんやりとみえたが、香りのほうはハッキリと彼の鼻孔をくすぐった。
2012-10-9 22:05
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