帰宅したので、もいっちょ。
「お面、被るんですか?」
レジ係みんなの気持ちを代表して栄口が花井にたずねる。
「ああ」
ざわざわっとみんなはお互いの顔を見合う。
笑っている人、戸惑っている人、さまざまだ。
「まー、レジでなにかをつけながらやるのは初めての試みだが、なかなか可愛いと思うぞ」
花井はゴソゴソと机の引き出しから、袋詰めされたキュ/ンちゃんのお面をとりだした。
袋からだして、おもむろに頭に被る。
「ほら」
その姿をみたレジ係のみんなは……
やっぱり、笑いだした。
「そ、そんなにか? この前、店長同士の集まりで、みんなで被ったけれど、結構真面目に被れたぞ」
花井は店長という職務に真面目に取り組むあまり、少々のことでは動じない人間になってきていた。
おそらく店長会議を取りまとめる、エリアマネージャーの百枝まりあという人物が、実に見事なプレゼンをして『可愛いゆるキャラお面の効果』を強く印象づけたのだろう。
しかし、花井店長の頭の上で、キュルンと潤んだ瞳をみせるキュ/ンちゃんは、どうにも不思議な雰囲気をかもしていた。
キュ/ンちゃんは可愛い。
花井店長は買い物に来る主婦にも人気のしっかりしたイケメン店長だ。
だがしかし、この二つが掛け合わされると、妙に独特の迫力を持つ。
花井店長の目が結構、マジなのもインパクトを強めているのかもしれない。
とにかく、三橋と栄口は悟った。
このお面を被る事は、避けられない決定事項なのだ。
「たしかに……可愛いですね」
栄口は素直にお面を手にとって眺めてから、スッと被ってみせた。
こういうとき、栄口は順応が早い。そして、正直、ちょっとこういうのが好きな方だ。
「どう? 似合う?」
栄口がキュ/ンちゃんを頭上にかかげてみんなの方に笑顔でみせた。
すると……なんだか、ほんわかした感じが似合って、きゅうにキュ/ンちゃんが親しみやすく感じてくる。
花井店長とキュ/ンちゃんだけをみせられたときは、戸惑いが走ったが…。
「なかなかいいんじゃないか、栄口」
満足そうにうなずく花井&キュ/ンちゃん。
やっぱ、似合わない。
レジのみんなは栄口からお面を借りて、順番に頭にのせあっては、笑い合った。
三橋は、あっという間にまわりの雰囲気を和ませた栄口を尊敬の目でキラキラみていたが、お面が自分にもまわってくると、ぎこちなくそれを頭につけた。
「お、三橋も似合うじゃん!」
レジ係のひとりがいう。
「本当! これは栄口君と三橋君が一番似合うよね!」
と、女の子のレジ係がはしゃいだ声をだす。
三橋は照れて微妙な笑顔を浮かべつつ、お面を頭から外す。
明るい雰囲気になったみんなを、安心したように眺めていた花井店長が口をひらいた。
「このフェアは9月5日からの三日間行います。その間、シフトが入ってる人は、制服と一緒にこれをつけるようにして」
そして、みんなは事務所を後にした。
途中の歩道橋の下で、三橋は栄口と別れる。
一人になってテクテクと夜の道を行きながら、三橋は考えた。
(オレ、フェアの間、二日間、入って る)
きっと阿部は、そのどちらかの日には、いつものようにスーパーに寄るだろう。
(阿部君 なんて 思うかな)
レジに立った自分が、お面をつけていたら……。
(先に いっとこっか な)
三橋は考えながら足を進める。
(あ、でも そんなこと知らせたら こなく なるかな)
ふと三橋は、自分にたいしてやたらと気を遣うところがある阿部を思いだした。
もしかしたら、変に意識して、フェアの間はスーパーに足を向けなくなるかもしれない。
三橋は自分でも不思議なのだが……それは残念な気がした。
いつもと違った様子の仕事場、いつもと違った自分。
ちょっとしたいたずら心が、なにかを期待させる。
(教えるか、教えないか……もうちょっと、保留)
心のなかでそういうと、三橋は唇に笑みを浮かべて足をはやめた。
アパートの下までくると立ち止まり、我が家の窓を見上げる。
カーテン越しに映る明かり。
あの中に、自分のことを待ってる、可愛らしい人がいるんだと思った途端、胸が震えた。
ふっと昨夜のことが頭によみがえり、キュウと胸の奥が締まる。
なんだかいまにもあの窓ごと抱きしめてしまいたくなった。
それと同時に、あんな可愛い人を、ひとりぼっちで置いてしまっていた……というような、焦りの気持ちがわいてくる。
阿部君は無事かな? 阿部君は元気かな? 阿部君はオレのこと心配していないかな?
そんな気持ちにかられて、三橋は早足にアパートの外つけ階段をのぼった。
******
三橋、ご帰宅。
なんだかときめきに燃え上がってますが、部屋の中の阿部は、テレビのバラエティをつけながら、今日の講義内容をノートにまとめたり、自分で作った水だしウーロン茶を飲んだりしているだけの状態でした。
レジ係みんなの気持ちを代表して栄口が花井にたずねる。
「ああ」
ざわざわっとみんなはお互いの顔を見合う。
笑っている人、戸惑っている人、さまざまだ。
「まー、レジでなにかをつけながらやるのは初めての試みだが、なかなか可愛いと思うぞ」
花井はゴソゴソと机の引き出しから、袋詰めされたキュ/ンちゃんのお面をとりだした。
袋からだして、おもむろに頭に被る。
「ほら」
その姿をみたレジ係のみんなは……
やっぱり、笑いだした。
「そ、そんなにか? この前、店長同士の集まりで、みんなで被ったけれど、結構真面目に被れたぞ」
花井は店長という職務に真面目に取り組むあまり、少々のことでは動じない人間になってきていた。
おそらく店長会議を取りまとめる、エリアマネージャーの百枝まりあという人物が、実に見事なプレゼンをして『可愛いゆるキャラお面の効果』を強く印象づけたのだろう。
しかし、花井店長の頭の上で、キュルンと潤んだ瞳をみせるキュ/ンちゃんは、どうにも不思議な雰囲気をかもしていた。
キュ/ンちゃんは可愛い。
花井店長は買い物に来る主婦にも人気のしっかりしたイケメン店長だ。
だがしかし、この二つが掛け合わされると、妙に独特の迫力を持つ。
花井店長の目が結構、マジなのもインパクトを強めているのかもしれない。
とにかく、三橋と栄口は悟った。
このお面を被る事は、避けられない決定事項なのだ。
「たしかに……可愛いですね」
栄口は素直にお面を手にとって眺めてから、スッと被ってみせた。
こういうとき、栄口は順応が早い。そして、正直、ちょっとこういうのが好きな方だ。
「どう? 似合う?」
栄口がキュ/ンちゃんを頭上にかかげてみんなの方に笑顔でみせた。
すると……なんだか、ほんわかした感じが似合って、きゅうにキュ/ンちゃんが親しみやすく感じてくる。
花井店長とキュ/ンちゃんだけをみせられたときは、戸惑いが走ったが…。
「なかなかいいんじゃないか、栄口」
満足そうにうなずく花井&キュ/ンちゃん。
やっぱ、似合わない。
レジのみんなは栄口からお面を借りて、順番に頭にのせあっては、笑い合った。
三橋は、あっという間にまわりの雰囲気を和ませた栄口を尊敬の目でキラキラみていたが、お面が自分にもまわってくると、ぎこちなくそれを頭につけた。
「お、三橋も似合うじゃん!」
レジ係のひとりがいう。
「本当! これは栄口君と三橋君が一番似合うよね!」
と、女の子のレジ係がはしゃいだ声をだす。
三橋は照れて微妙な笑顔を浮かべつつ、お面を頭から外す。
明るい雰囲気になったみんなを、安心したように眺めていた花井店長が口をひらいた。
「このフェアは9月5日からの三日間行います。その間、シフトが入ってる人は、制服と一緒にこれをつけるようにして」
そして、みんなは事務所を後にした。
途中の歩道橋の下で、三橋は栄口と別れる。
一人になってテクテクと夜の道を行きながら、三橋は考えた。
(オレ、フェアの間、二日間、入って る)
きっと阿部は、そのどちらかの日には、いつものようにスーパーに寄るだろう。
(阿部君 なんて 思うかな)
レジに立った自分が、お面をつけていたら……。
(先に いっとこっか な)
三橋は考えながら足を進める。
(あ、でも そんなこと知らせたら こなく なるかな)
ふと三橋は、自分にたいしてやたらと気を遣うところがある阿部を思いだした。
もしかしたら、変に意識して、フェアの間はスーパーに足を向けなくなるかもしれない。
三橋は自分でも不思議なのだが……それは残念な気がした。
いつもと違った様子の仕事場、いつもと違った自分。
ちょっとしたいたずら心が、なにかを期待させる。
(教えるか、教えないか……もうちょっと、保留)
心のなかでそういうと、三橋は唇に笑みを浮かべて足をはやめた。
アパートの下までくると立ち止まり、我が家の窓を見上げる。
カーテン越しに映る明かり。
あの中に、自分のことを待ってる、可愛らしい人がいるんだと思った途端、胸が震えた。
ふっと昨夜のことが頭によみがえり、キュウと胸の奥が締まる。
なんだかいまにもあの窓ごと抱きしめてしまいたくなった。
それと同時に、あんな可愛い人を、ひとりぼっちで置いてしまっていた……というような、焦りの気持ちがわいてくる。
阿部君は無事かな? 阿部君は元気かな? 阿部君はオレのこと心配していないかな?
そんな気持ちにかられて、三橋は早足にアパートの外つけ階段をのぼった。
******
三橋、ご帰宅。
なんだかときめきに燃え上がってますが、部屋の中の阿部は、テレビのバラエティをつけながら、今日の講義内容をノートにまとめたり、自分で作った水だしウーロン茶を飲んだりしているだけの状態でした。
2013-9-3 18:48
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