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美少女ゲームの捉え方を間違っていたらすみません(小声)
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(……なんとなくAだな。コイツ、前にも軽く気休めいってもいい反応しなかったし。心配するなよっていうと、なんかオレがついていてやっからっ…て感じがするし)
ピコン
選択すると、主人公がしゃべりだした。
心配なんかするなよ、オレがついているから…と言葉が続く。
(ほらな!! こーくると思ったんだ。なかなかいいんじゃねえの?)
ロングの美少女の顔が、ハッとしたようにこちらを向く。いい感じだ。
『なにいってんのよ……。私は、別にあなたに迷惑かけたいわけじゃないんだけど…』
(きた! きやがったよ、コイツのこーゆー反応! これがメンドくせーんだよな。なんだって、こんな言い方しかできねんだろ。コイツ、体育祭でこっそりオレのこと応援してたの知ってるんだぞ。せっかくこんなに近づいてやろうとしてるのに、はねつけたがんだかなぁ)
榛名はイラっとしながら美少女を眺める。
(主人公が可哀想じゃねーか。お前と距離を縮めたいと思ってこんなに気を遣ってんのによ。お前だって、コイツがツレなくしたら、みえないところで落ち込んだりするんだろうが)
美少女の伏せられた瞳が気に食わない。
(とっとと素直になれよ。意地はったあげくに、お互いイヤな気持ちで別れるとか、なんでそんな無駄なことすんだよ!)
すると、画面に選択肢が現れた。
A:迷惑だなんて思わないよ
B:なんでいつもそんなこというんだよ?
C:いいよ、俺はそばにいたいから
(三択!? なんだよ、力入ってんな。これ、どうすんだ? とりあえず……Bは…やめとくか。オレが一番いいそうな言葉だから…あんま、よくねーのかもしんね。あー? けど、あとはなんだ。Aが無難か? 迷惑じゃないっていっときゃ安心するかな? でも、コイツ、性格ネジ曲がってるとこあるから、そうかしら? とかいってまた顔をそらしたりしねーかな? でも、Cって変じゃねーか? 相手の話し聞いてんのかって感じがするし。ずいぶん、自意識が強くねーか?)
うーん、と榛名は頭を抱えた。
(あー、でもいいのか? このゲームの主人公、ときどき腹立つくらい調子に乗っても相手の女から好かれるからな。なにを根拠に自分に自信持ってんのかよくわかんねーけど、微笑みかけると女がなびくって感じの展開になるから…ここはコイツのトッケンってヤツに賭けてみるか。……これでなびかなかったら………)
榛名はまた数秒間、固まる。それから決心したようにコントローラーの決定ボタンを押した。
(なびかなかったら、もうしょうがねえよ。もとからやりずらい女だったんだ。…別に、コイツがダメでもほかにも親密度を稼いだヤツいるし。そっちの方が素直で可愛いし!)
最悪の事態を迎えて自分が傷つくことをできるだけ小さくしようと、彼は心に防波堤を築く。
脳裏にはおっとり系パールピンクのツインテールとか、金髪碧眼なのに鮭の塩焼きとお味噌汁が好きという少女の恥じらった顔などを頭に浮かべる。
そうしながら、画面に浮かび上がるネイビーロングヘアーの動きを一心に見守った。
『………』
沈黙のあと、彼女の頬に赤みが浮かぶ。
『バッカじゃないの…?』
そういって動揺したように彼女は教室を出て行った。主人公なそんな彼女の背中で揺れる髪を見送る。
ーー彼女がいなくなった教室には、まだ彼女のぬくもりが残っているようだった… と、説明描写が流れ、画面が切り替わって彼女との関係バロメーターが現れる。ピコンと音がして、親密度レベルがひとつあがった。
「おっしゃ!」
榛名が突然声をあげたので、ベッドの上の隆也はビクッとなった。
「んだよ、いきなり…」
にがにがしくつぶやいて榛名をみると、ゲームをセーブしたのか、イヤホンを外してなにやらかたづけをはじめている。
その横顔をみると、どこか満足げで、それがまた面白くなかった。
「お前も飲む?」
ゲーム機をテレビの下のキャスターにしまうと、榛名は自分の机の上においてあったペットボトルのお茶をコップについで飲み始めた。
ようやく声をかけられた隆也は「はい」とだけいう。
お茶がなみなみとつがれたコップが手渡され、隆也はマンガをベッドに置いて、そこに座り込んで飲んだ。
「なにやってたんですか?」
「あ? 恋愛ゲーム」
あっさり返される返事にげんなりする。
「なんだよそのケーベツの目は」
「…してませんけど」
「うそつけ、してんじゃん」
はあ…と隆也はため息をついた。
こんなことならマジで弟の試合に行けばよかった。
この年になると、兄弟で関わりを持つのなんて野球を通してくらいだ。シュンは自分が試合をみに行くと、どこか気合いが入るのか、なかなかいいプレーをする。そして、得点にからむと誇らしげにこちらをみてくるのだ。
ただ隆也は、近くに母親の姿をみつけるとさりげなく場所を移動する。シュンのプレーに一喜一憂をみせる母親の大げさな姿が、しんどく感じる年になっていた。
が、付き合いが長いとはいえ、人を家に呼び出しておいて放ったあげく、恋愛ゲームなんてものを堂々とやり込んでいる人間のそばにいて、なにが楽しいものか。
「…なんでそんなの始めたんですか?」
「友達が貸してくれたから」
「…ふーん」
「お前もやってみたい?」
「いや。遠慮します」
「なんだよ、やってみたら意外に楽しいぞ?」
その言葉に隆也はピクッと反応する。
恋愛ゲームといえば美少女ものだ。美少女といえば、女だ。
女をみて嬉しそうにしている彼をみると、自分じゃ役不足なのかと思えてくる。
「アンタ、バーチャルの世界でそんなことしなくったって、ファンならいっぱいいるじゃないですか」
「ファン?」
「武蔵野の女子。他校にもいんでしょ?」
「べ、別に、それほどじゃねーよ」
急に照れてそっぽを向くしぐさをみると、本当に妙な気分になる。否定しねえし。
「そっから気に入った子、選べばいいじゃないですか」
「はあ!? なにいってんだよ? そんなカンタンに人と付き合えるわけねーだろ?」
榛名が気色ばむ。
「軽い気持ちで人と付き合えるなんて思ってんのかよ? そんなんできないからゲームしてんだろ!?」
「え? それは…まあ」
「お前いるのに、ほかのヤツに声なんかかけたら二股じゃん」
「えっ…あ…」
隆也が言葉につまった。
その頬にサッと赤みがさす。
(お…?)
その反応をみて、榛名はハッと気づいた。
(なんかコイツ、あの子に似てね?)