突然の吐露に、いよいよ彼女はぽかんと目を見張る。やがて意味が理解出来てきたようで、頬に赤みが差すのと同時に、
「だのに、何故背く」
今まで距離を取っていた彼が、美雪の肩を掴んだ。腰をかがめ顔を近づけ、しっかりと目を合わせる。それが辛くて目を逸らす彼女を、そのまま上半身だけ抱き取る。
「貴女は私の妻なのだぞ。いずれ月にも連れて行くつもりだ」
耳の後ろでそう囁かれて、顔から体が熱くなる。非を詰られているというのに。
そういえば、たまに会う日系の少年、ケーンが、「マイヨさんはさぁ、尋問のプロだぜ。飛行機だけじゃなくってさ」と、冷やかし混じりにそう言っていた。自称、彼の弟分だそうだが、どういう経緯でそうなったのか詳しくは知らない。いや、それだけではない。彼のことを、本当は良く知らない部分が多いかもしれない。
「その心を、裏切るようなことをするなど…許さん」
短い黒髪の、くりくりした目が可愛らしい少年はこうも言っていた。「一度目をつけられたら最後、もう逃げられない。降参、降参」と、笑いながら。
現に今、自分は逃れられない状態にあるのではないか。いつになく体が密着していることを思い、急に恥ずかしくなる。
「あっ…あの……私、違います。そんな、つもりじゃ…」
しどろもどろになっているところを、左耳たぶに甘噛みされた。体の奥までじわっと伝わる感触。
「あ……」
完全に頭の処理が止まってしまいそうで、こんな声を上げるのが精一杯だ。
「それならば」
再び視線を戻し、美雪の瞳を捉えた彼の顔には笑みが浮かんでいる。場の主導権を握っているのは自分だという余裕の現れだ。
「うぅ……」
―こんな至近距離って…困るよう……
今度は視線をよそにやることもできない。
「証を立ててもらおうか。私を愛している、と」
強く迫られてうろたえるばかりの彼女を、面白そうに見ている。意地が悪そうな目で。あぁ、そうだ。この人はこういう人だ。
頭が真っ白になる。離して欲しくて、身をよじる。でも、彼は意外と腕にしっかりと力を入れている。痛くはないが、抗えない。