追記部分に書いた文章は創作です。
更新のたびに文章が短くなっているのは気にしないでください。
その発言を最後に少年は、読書に戻ってしまった。もう、ちらりともラリサを見ない。
ラリサにはもっと話していたい気持ちはあったが仕方がない。気晴らしに来たつもりが余計もやもやとしてしまった。
そろそろ仕事に呼ばれている気もする。考え事は後ですればいい。
けれども、理想で腹は膨れない、という、よくある言い草に対し、諦めの悪い感情を抱いてしまうのは抑えられなかった。
「ふぅ……。行ったか」
少年は疲れを感じて軽く体を伸ばした。久しぶりに人と話したような気がする。
彼はなかなか自分の部屋から出られない。それは摂政に幽閉されているとも言えるし、病弱のためでもあり、半ば自分の意思でしていることだった。人目についてはいけないのであるが、ここに来る自由くらいはあるものと思っている。
頬杖をついて木を眺める。今日はどうしても外せない会議だった。
彼は試験管ベビーだ。小さく未熟な体は生まれる前の遺伝子操作の副産物だった。恐らく、脳の成長や老化を司る部分に手が加わってしまったのだろう。免疫系も不全で、よく色々な病気にかかる。
これでいて何十歳にもなる。あの娘も信じただろうか。きっと半信半疑だろう。
冗談半分に摂政は「兄上は幼体成熟ですな」などと言って、彼にウーパールーパーの写真を見せたことがある。
確かに、そのサンショウウオの仲間は、自分に似ているかもしれないと彼は思った。のっそりとしていて、白くて、そして……
「水族館のアイドルだよね」
そう言った気がする。実際のところ自分たち兄弟は偶像、アイドルだと彼は思う。
(歌って踊れるわけじゃないけど……。あ、アリオールは一応できるのか)
いわゆる貴族の嗜みというのか、無駄にそういうことを身につけたがるきらいがある。若い時は実学志向だの何だのと言っていたくせに。
少年はくったりと椅子に横になった。こういうことをしても許されるのがこの姿の特権だろう。
しかし、セーラー服はいただけないのではないかと内心思っている。実年齢からして。本当はスーツ姿ででもいるべきなのかもしれない。でも着ているのは、部屋に閉じこもっているのと同じで、半分は彼の意思。もう半分は、
(アリオールの趣味なんだよなぁ、結局)
軍服だからといった理由をつけてみても、そこに帰結するように思われた。既製品ではないのだから、誰かが発注しなければ着させることもできない。
(あの変態……)
摂政は一見ストイックな人物だ。職務に忠実で、不正をしないのは事実だし、端整な容姿もそのイメージに一役買っているのだろう。先ほどの娘が言っていた通り、真面目で懸命なのだ。摂政は。
だが、そういう奴ほどこじらせているものだと、少年は思う。
全てを尊敬していると言った、娘の目。恐らく恋でもしているのだ。
このまま空気のこもった自室に戻るのも退屈だ。彼はしばらくしてから、体を起こして中庭を出た。