木吉鉄平が遊廓「黒菊屋」に通い始めてからしばらく。
黒子がどこからか連れてきた葉佑という新人を加え、廓はさらなる盛況っぷりを見せていた。
「高尾、緑間が来るらしいな」
「え、うっそ!なんで知ってんの!?」
「さっすが弥雅っち!どんなささいな情報も聞き逃さないっスね〜」
「黒子宛の手紙が置いてあっただけさ。よかったな」
「うっわ余裕〜!なになに、いいことでもあったわけ?弥雅ちゃん」
「…!その呼び方はやめてもらおうか…!」
思わぬところで図星を突かれてしまい、弥雅はそそくさと座敷を出た。
(ったく…素直に自分のことで喜んでいればいいものを)
やり場のない気恥ずかしさか、少々ふてくされたように廊下を歩く。
すると向かいから酷く見知った顔がひょっこりと姿を現した。
「ああ弥雅君、ちょうどよかった。今君を呼びに行こうとしたんです」
「黒子…何か用か?」
「ええ、お客様ですよ」
「…!」
ふと視線を動かした弥雅は目を見開く。
からかうように微笑む黒子の後ろには、木吉がいつもの朗らかな表情で手を振っていたのだ。
「て、っ木吉様…!?」
「突然すまんな!驚かせたか?」
それを聞くや弥雅はつかつかと黒子に飛びかかりそうな勢いで小声を放った。
「くっ黒子!どういうつもりだ!?今日いらっしゃると知っていればもう少し着物もいいものを選んだし紅だってちゃんと…!」
「何を言っているんですか弥雅君。君はいつだって美しいですよ。着物を選ぶのだって普段から気を遣っていることも知っていますから」
「だが…!」
「オーイ、あんまり二人でこそこそしないでくれよ。寂しいじゃないか」
「!?てっ、ぺいさ…!?」
「オレには構ってくれないのか?弥雅。妬けるな」
「っ…!」
突然木吉に抱き上げられるようにして引き離され、弥雅は思わぬ事態に心臓を落ち着かせようと必死である。
対して黒子はおもしろそうに口元の歪みをなんとかこらえ、咳払いをした。
「ああこれは失礼しました。弥雅君、いつものお座敷を空けてありますのでそこを使ってくださいね」
「………」
黒子が見えなくなると、ひとまず木吉は弥雅を床に下ろした。
そして見慣れた人懐っこい笑みで目線を合わせる。
「しばらくぶりだな、弥雅」
「お、久しぶりです…木吉様」
「ん?」
「…!」
(顔、が…近い………)
「さっきは名前で呼んでくれたじゃないか」
「一応、今は廊下ですから…」
「…そうか」
木吉は一瞬の間の後短い返事をした。
「じゃあ、座敷にお邪魔しようか」
「はい…!ご案内いたします」
…なぜ木吉に惹かれたのかなど、今となってはもう弥雅にはわからなかった。
人の良さそうな表情や上品な振る舞いはもちろんのこと。
優しく大きな手に、己を抱く腕、吐息と共に漏れる名を呼ぶ声。
全てが弥雅の心を奪っていった。
木吉は、あれから何度も黒菊屋を訪れた。
(呉服屋の若旦那という立場では、そう暇でもないだろうに…)
顔を出しては、弥雅の姿を見てどこか安堵したように微笑むのだ。
初めて弥雅を抱いた夜も、帰る朝方も、昼見世を訪れた時も、必ず愛おしそうに「好きだ」と言った。
それが木吉の紡ぐ真実だと、弥雅は知っている。
弥雅は聡く、今まで様々な場所を転々としていたために人を見る目は確かだ。
その人物が嘘を言っているのかどうかも。
だから、木吉が想いを囁く度に弥雅は感じたことのない「幸せ」というものを噛みしめては応える。
『…俺も、あなたのことが』
それは、弥雅が木吉にだけ口にする唯一の本音だった。
(…………だが、俺は)
弥雅は、しばらく前よりひとつの不安が頭から離れなかった。
そしてそれは、木吉が廓を訪れる度に大きくなっていく。
…本当はもっと早くに気づいていたのかもしれない。
しかし、それを事実だとは思いたくなかったのだ。
(この町の商家は、ほとんどが赤司の傘下でその支援を受けている…)
黒子を含め、赤司を筆頭に一掃されたこの土地。
有り余る富と権力で赤司はそこに町を作り、昔からの老舗商家も若手や息子に譲るよう働きかけた。
そうして赤司は、裏で町を見守る形であの大きな屋敷に君臨している。
その際傘下に入った若手の商家のほとんどが、弥雅と面識があるのだ。
(なぜなら、俺が相手をして傘下に取り込んでいったから)
嫌な言い方をすれば、赤司は弥雅を餌として多くの商家を味方につけた。
だが弥雅はそれを効率のいい方法であるとさえ思っていた。
使えるものは使う。
なんとも赤司らしいやり方だ。
(…でも、だから、…だからこそ、まずいんじゃないか……)
弥雅は、木吉を知らない。
(俺が相手をした男の中に、鉄平さんはいなかった…)
呉服屋の木吉と言えば、ここでの生活が長い黄瀬や高尾でさえ知っていた。
あれだけ大きな商家に対し、赤司が傘下に入れと打診しないはずがない。
そこから導き出される答えはひとつだ。
(鉄平さんは…赤司と手を組むことをしなかった…?)
木吉の性格からすれば、赤司のような強引なやり方に反発したとしてもおかしくはない。
だが傘下に入らない者は全て、赤司の敵となる。
それは、赤司の所有物たる弥雅の敵であることと等しいのだ。
(………俺が、鉄平さんの…敵……?)
町から離れ隠居したように丸くなった赤司でも、敵対した者に容赦がないのは彼を知る者なら誰でもわかる。
このまま赤司の下にくだることをしなければ、たとえ呉服屋の木吉といえどいずれは目をつけられ潰されかねない。
『どこへ行こうと、お前が誰のものであるか…忘れてはいけないよ?』
「!」
(…そうか俺は、……鉄平さんの敵、なのか)
着物にかけた手が一瞬震えた気がした。
赤司の屋敷を出る時に感じた、首や手足に絡まる鎖が再びその姿を現したように。
(……皮肉だ。この人が、敵だなんて)
今まで人に執着したことなどない。
いつだって、どこか別の場所に行く時は思いも馳せず何も持たず、この身ひとつだった。
初めて愛したたった一人だけが……その男が、いずれ敵になろうとは。
(ああ、鉄平さん。今ほど、このわずらわしい立場を呪ったことはない…)
…弥雅は振り切るように目を閉じて、近づく唇を触れさせた。
(………何を、考えているんだろうな。…そんな顔をして)
そっと吸い付く唇に、木吉は静かに目を開いて弥雅の端正な顔を眺めた。
木吉とて、抱く思いに着物をはだけさせる手が強張る。
隠し事を秘めているのは、弥雅だけではなかったのだ。
(弥雅は知らない…。オレが、嘘をついていることを)
そして直後、自嘲するように息を吐き出した。
(…いや違うな。嘘を言えば弥雅は気づく。なら「本当のことを言っていない」…が正しいか)
木吉は弥雅の艶やかな髪を撫でた。
ぴくりと反応するその様子に笑み、また口付けを落とす。
(違うんだ弥雅…。でも違わない。ああおかしな矛盾だ。なあ弥雅、俺はお前を……)
「んッ…!あ、鉄平さ…っ」
「弥雅、もっと、お前が欲しいよ。弥雅…!」
「っあぁ、はッ…」
「…好きだ、弥雅。本当なんだ、この想いだけは…!愛してる、弥雅。弥雅……!」
「ひぁっ、あ!んッ、う…俺も……鉄平さん…っ!」
それは、まるでいけないことをしているような罪悪感。
だがこみ上げる愛おしさは切なさよりも勝り、それがまた胸に抱く影の存在を主張する。
…流す涙はこの時だけ。
情事に紛れさせて本当の想いを零すように。
優しく言葉を紡がれる度、責められているような心の痛みがいっそのこと心地よかった。
喘いで、求めて、名を呼んで、ありったけの想いをぶちまける。
どんなに触れても抱かれても繋がっても、心に巣食う空虚は埋まらない。
(時間が止まればいい…。朝なんて、来なくていい…!)
このただれた想いごとかき抱いて、そのまま溶けてしまえたら。
(鉄平さん、鉄平さん……鉄平さん。………どうして…俺達は)
もう遅い。もう後戻りなどできない。
あの広い背を見世の中から眺めていただけの頃には、もう戻れない。
(……あなたを、愛してしまったから)
続
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すんませんでした………!(土下座)
なんかもう、すんませんでした…!←
遊廓パロ久しぶりすぎてちょっと……だらだらしすぎ。
いつもか?そうか。
想いはお互いにわかってる。その気持ちが本当であることも。
でも二人は知らない。互いが互いに何らかの隠し事を秘めていることを。
愛し合っているのに微妙なズレが生じている。
……めっっっっちゃくちゃ難しかったです…
というか今でもよくわからん…
弥雅くんは、木吉さんのためなら…というより木吉さんのためだけならいくらでもおかしく(良い意味で)なれると思っている。
そうであってほしいという願望かもしれんですが……
頭は冷静に分析しているようで、気持ちは全然そうじゃない。
だからあんなに激しく求めて求めて朝なんて来なければとかむちゃくちゃ言っちゃう。
そんな弥雅くんがかわいい←
まだもうちょっと続きます!
大変お粗末さまでした!(土下座二回目)
もぅマジこの夜誰かとめてええー!!!(´;ω;`)
あっかん……つか予想してなかったから
不意打ちで死にそうであります!
だー!木弥が切なくて木弥だけど木弥でああくそ
床叩くだけじゃたりひん!!弥雅あんま言ってるか
わからんが好きだ馬鹿やろー!!!\(^o^)/←
そうか…!そんな繋がりがというか因果があるのね!
ク、クソ!赤司め!しかし萌えるわあかんわー!!
ああ幸せで死にそうなんですが
どうしたらいいですか……!!?!
いや茜ちゃんが書いてくれるうちの子らのお話が
本当神過ぎてもうなにも言うことなく
死んでもよいな!しかし遊廓見届けるまでは死ねん!\(^o^)/←え
本当本当本当にありがとうううー!!!
もっと書いて!ってなっちゃうわああえへへへ(^q^)←
また続きもはたまた違うお話も全裸待機であります!!!
ありがとうしかいえませんがありがとうううー!!!←
コメント煩くてごめんなさい!ではあ!!
うへぁあああああああああもうすんませんんんんんんん!!!
あのね…!曲聴いてお風呂でじっくり妄想したらもう書かずにはいられなかったんです…!
あの曲ほんと神すぎて…!
ようやく書けて、というか吐き出せてほっこりです。
毎回言ってるけど木弥が好きすぎてつらいですorz
もうね、赤司絡み?のごたごたありきの今ってのがずっと私の中にありまして。
この過去編を終えて、ようやくもう一度今の遊廓を出したいですな。
また見方が変わっておもしろいかもと(完全に個人の趣味←)
葉佑くんの時は葉佑くん自身の問題だったけど、弥雅くんはそうもいかずですね。
もう少し問題は広がる、かも?←
弥雅くんらしさを出せるようにがんばりたいところなんですが……大丈夫か…?(゜Д゜;≡;゜Д゜)
もうもうもうそんなこと言われたら調子乗っちゃう…!!!
ありがとう!
遊廓パロ久々だし楽しかった!
長いから思い入れも強いし、ちゃんと終わらせてやりたいです…!!
いつも好き勝手書かせてくれてありがとう!
コメント本当に嬉しいです!!!
またよろしくお願いします!