「先輩、待たせてすみません。着替え中やたら日向が絡んできて」
「今日もお疲れツッキー!ジュースどっちがいーい?」
「…!じゃあ、こっちで…」
いつものように笑顔を浮かべ、彼女は缶ジュースを月島に差し出す。
小町芹、最近ようやく想いが通じた月島の恋人である。
部活のマネージャーで先輩。
ありとあらゆる障害が立ちはだかりそうなものの、今やこうして部活を終えて一緒に帰宅しているのだから念願叶ったりだ。
…とはいえ、一度は敬語ではなくなった会話も、結局月島の方が耐えかね断念。
今回の告白も、罰ゲームでヤケになり言ったようなものだ。
「…先輩、僕と付き合ってください」
正直、彼女は恋人がなんたるか、全くと言っていいほどわかっていないようだった。
だが彼女はうなずいた。
はにかみ、頬を染め、少し視線を泳がせて。
月島を見て、笑った。
それだけで月島の心は十二分に満たされた。
あのひとの特別になりたい。
最初はそれだけが重なっていった。
ただの後輩では嫌だった。
どうしても嫌だった。
そして彼女に惹かれているのだと自覚した頃には、それが欲と化していることも理解した。
(…でも、この笑顔も、言葉も……今は僕にだけ)
それだけで、月島は幸せに思えた。
たとえ抱きしめたことも、手を繋いだことさえなくても、少しずつ、確実に特別となっていく関係に月島は満足できた。
「先輩はジュースより牛乳飲んだ方がいいんじゃないですか?」
「え?そうかな。ふふ、牛乳より豆乳の方が好きなんだけどな〜」
関係が変わっても彼女自身は変わらない。
人懐っこく笑み、先輩を兄のように慕い、後輩を弟のようにかわいがる。
そこが芹のいいところでもある。
だが同時に、月島には言いようのない不安に似たような感情が付きまとうのだ。
「小町悪い!そっち頼んでもいいか!?」
「はいは〜い。任せてくださいっ」
嫌な顔どころか雑用をこなす姿は楽しそうでさえある。
「あ〜〜〜〜〜…イマイチ今日はレシーブがスカッと決まらねぇなぁ」
「田中ー!今なら手空いてるからサーブ打とうか〜?みんな忙しそうだし」
得意分野ではひときわ顔を輝かせる。
「芹ちゃん先輩っ!俺も俺も!」
「俺もお願いします!」
「あはは、いいよ日向も影山も!順番ね」
後輩が寄ってきた時の笑みはとろけそうに甘い。
誰にでも優しく平等で、面倒見のよいマネージャー。
それが芹の、部活内での位置づけだ。
(……ほんと、優しいというか…特段後輩には、甘い)
月島と芹の関係を知っている者がどれくらいいるのか、月島は知らない。
感づいている者もいるのだろうが、何せ芹があの様子である。
当然のように、日向や影山は知る由もないのだろう。
(知らないから仕方ないって…それはそうかもしれないけど)
人知れず月島は口を尖らせる。
日向は日頃からよく芹に懐いている。
芹も慕ってくる後輩を絶対に邪見にはしない。
「あッ!すみませんっ!」
「大丈夫大丈夫っ。ちょっと取ってくるね〜」
「……」
ボールが高台の上に乗ってしまったらしく、芹が追いかけ階段を駆け上がるのが見えた。
早く続きがしたいのか、すぐさまボールを片手に抱え戻ってくる。
足早に階段を下りかけたその時。
「わ、っとと…」
「!芹ちゃん先輩っ!大丈夫ですか!?」
「あはは…ちょっと急ぎすぎちゃったね。危うく落ちるかと思ったけど、何とか平気!」
(……びっくりした…。この距離じゃさすがに受け止めに行けないし)
内心気が気ではなかった月島がひと安心したのも束の間。
「じゃー先輩!手!」
「へ?」
「手すり代わりに持っていいですよ!」
(………!)
日向は芹に手を差し出したのだ。
悪気などない。
心の底から好意で行ったことなのだろう。
…だが月島は思い返す。
月島と芹は付き合っているにも関わらず、手を繋いだこともないという事実を。
そして、相手があの芹だということも。
「ありがとう日向〜。ちょっと手借りるね!」
(………)
いとも簡単に、月島でさえ触れたことのない手は、日向の掌に収まった。
階段を下り、再び礼を告げ、日向の頭を撫でる。
その一瞬一瞬がスローモーションに見えた。
(…知ってる。先輩は、…そうだ)
誰も、何も悪くない。
あえて挙げるとしたら、チームメイトの親切心とその行為を妬ましく思ってしまいそうになる自分自身だ。
(先輩は、そんなこと望まない。…きっと、こんな僕の思いに、気づいてもいない)
だが月島はそれでいいと思っていた。
そんな芹に、己は惹かれたのだからと。
天真爛漫なあの笑みが己に向けられないのなら、自身が彼女の特別でいられなくなるのなら。
(……こんなくすぶりなんて、なんでもない)
鳥は空を飛んでこそ美しいと、なんてらしくない表現だと月島は自身を嘲笑った。
月島は何事もないかのように平然と、練習に戻っていく。
自らの中で日に日に大きくなっていく欲を、無理やり抑えつけてでも。
…それでも、彼女にはいつものように笑っていてほしかった。
続く
**********
この月島さん、病みそう(笑)
とりあえず、自分の嫉妬心よりも、先輩が先輩らしくいられることを選んだ月島君の話。
そんなんさー無理しちゃダメだと思うけどね。
若いんだからもっと暴走してもいーよ。
でもそこはツッキーだから。
最初は理性で抑え込もうとするのかなって。最初は
たぶん続きます。
大変お粗末さまでした。
久々の茜ちゃんのお話ー!茜ちゃんー!!!←
ともあれ芹ちゃんマジ天使が故の
悩みツッキー…葛藤の文がさすがなああって
入り込んだよ!すげ!\(^o^)/
うわああ一枚絵に向かうとしたら
うわあドキドキが止まりません!
付き合ってるだなんて!余計に!!!
空回りだけで終わらない月芹楽しみだー!
久々のこめんとでなんだこれ状態だけど
お邪魔しました…続き全裸待機してます!!≡└(┐卍^o^)卍ドゥルルル
わーーー!!!!三(卍^o^)卍ドゥルルルルルルル
いやあああなんか久しぶりの文でしたわー!
ゐ子ちゃんのおかげで調子乗っちゃいましたてへぺろ(≧▽≦)
いつも以上に何も考えず、でもとりあえずはあの一枚絵に近づけようと適当に書いてたら案の定たどり着かず\(^o^)/
でもでもうだうだしてるツッキーが予想以上に楽しくてもっとうだうださせたいですまる(笑)
ほんとにほんとにありがとうううー!!
いつもゐ子ちゃんのおかげでやる気にさせていただいてます!!!
次もやる気出しちゃう(ノ><)ノシ