からくれない

「生きているうちに打つ鼓動の回数は産まれた時からもうすでに決まっている。長生きしたくば、心臓に負担をかける回数を減らすようにするべきだ。長生きをしたいから私は恋愛とか激しい運動を避けている。」

誰かが話していたそんな話を、寝ようと目を閉じたおりにふと思い出した。いつ、誰が話していたのか到底思い出せそうにはないが、言葉だけははっきりと覚えている。この話を聞いた時、この人はなんて寂しい人だろうと思ったのだ。

繰り返される忙しい日々の中では、自分の心臓が鼓動を打っていることをついつい忘れてしまう。当たり前のことを人は忘れてしまいがちであるし、普段から自分の心臓の鼓動を意識している人など稀であろう。生きていることを忘れるほど、繰り返される毎日は退屈なのだろうと私は思う。そんな人生を長く続けるなんて、どれほど寂しいことだろうか。

私は心臓の鼓動が早まる時やドクドクとうるさい時にたまらなく生きていることを実感する。そしてそれは私を楽しませる。たまらなく愛おしい瞬間である。
好きな人が近くにいるとき、美味しいものを食べているとき、興味深い出来事に出会えたとき…これらの瞬間を私は多く経験したい。たとえ経験した分だけ寿命が縮まるとしても構わない。生きていることを実感したいのだ。


そこまで考えて、我に帰った。目線を動かすと時計の針が12時を指していた。ついつい思いにふけってしまった。

さぁ、今日はもう寝よう。