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憂鬱が吹き飛ぶ

夜中に雨音で目が覚めてしまう程の土砂降りだった。太陽が昇り、家を出る時間になっても雨足は一向に弱まる気配はない。気怠いなと思いながら傘を手に家を出た。歩き始めて5分も経たないうちに靴下が濡れ出した。会社までは徒歩30分だ。この調子だと着く頃には全身びしょ濡れだろう。
信号待ちをしている時だった。交差点の向かい側で、スラリと背の高い女性が同じように信号待ちをしていた。僕は彼女から目が離せなかった。不思議な空気を身に纏った人だった。酷い土砂降りにも関わらず、彼女は傘を差していなかった。ずぶ濡れのはずなのに、彼女の存在は優雅だった。綺麗にアイロン掛けされた白のブラウス、髪を耳にかけるしぐさ、信号を見つめる眼差し、歩くスピードに合わせてなびく長い黒髪や揺れる紺のスカート…それらは今日が土砂降りであることを忘れさせた。彼女のいるところだけ雨が降っていないようだった。彼女が視界から消えるまで僕は見送り続けた。はっと我に返って信号を見ると、赤に変わっていた。

あの日以来、雨が降る度に僕は少し浮かれた気分で家を出る。もしかしたらもう一度、彼女に会えるかもしれないと期待して…。
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