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げに人というものは

実家に帰ってくると、星がよく見える。
今夜も風呂上がりに涼みがてら庭に出てみた。
缶ビール片手に空を見上げれば、たくさんの星が瞬いている。
私の好きな北斗七星もハッキリと見える。
少しひんやりとした風が火照った体に心地良い。

今回の帰省はタイミングが良かった。
“従兄弟の結婚式に出るため”という口実で帰ってきたが、結婚式はもう3日前に終わっている。
通常ならば仕事があるために早々に帰るところであるが、なにぶん今は仕事をしていない。
ゆえに強制的に帰らねばならぬ理由はない。
ただ、次の就職先を探すだとか、友人に今貸している本の続きを貸すだとか、冷蔵庫に入っているサヤエンドウが腐ってしまわないかとか、そういう細々とした理由はある。
しかし時間の許す限りしばらくはゆっくりとしていたい…というは建前で、元の生活から逃げ出したいというのが本音だ。

仕事は先々月に辞めた。
職場には5ヶ月前から一度も出勤していない。
ある日、急に家から出られなくなった。
昔からよくあることだった。
いつものように支度をして家を出ようとすると、急に玄関にうずくまって動けなくなる。
体が、心が、全身で拒否をするのだ。
あの日もそうだった。
急に動けなくなった。
しかし今までとは違い、次の日もその次の日も出られない日が続いた。
携帯電話は電源を切り視界に入らないところに置いた。
一週間後、少し症状が落ち着き、友だちの勧めで受診すると抑うつだと診断された。

会社を辞めてからも、日々自分の好きなように一日を過ごしていた。
元々少なかった貯金は日に日に無くなっていき、働かねば生活が出来ないのが目に見えていた。
知り合いが仕事を紹介してくれるが、まだ自分のペースでゆっくり生きたい。
自分がどうなりたいのか、どうしたいのか、どうせねばならないのか、全くわからなかった。

そんな時、従兄弟の結婚式のために帰省することになり今に至る。

実家に逃げたとて、いずれは自分と向き合わねばならぬことに変わりはない。
頭ではわかっている。
しかし向きあえぬ。

そんなことを考えながら缶ビールを飲み干した時、携帯が鳴った。
本を貸している友人からだった。
通話ボタンを押してから携帯を耳に当てる。

「まだ帰ってこないのか。早く本の続きを貸してくれ。待っている。」

それだけ言うと、友人は電話を切ってしまった。
仕方のない奴だ。

友人のために帰ってやるとしよう。
どうするかは帰ってから考えればいい。
逃げ出すことは悪いことではないが、中途半端なままで投げ出すことは良くない。


もう一度空を見上げると流れ星が瞬いた。
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