迂闊だった。

「だーれだ?」
急に視界が暗くなり、それと同時に後方から聞こえる楽しげな声。

温かな体温。
甘やかな香り。
姿を見ずともわかる。

「俺がわからないとでも?」
挑戦的に返せば ふふ、と笑う声がして けれどその手は緩められぬまま、月森の視界を遮り続ける。


「本当にわかってる?」
「勿論」
「本当に本当に、本当?」
「本当に本当に、本当だ」

つまらない戯言。
それ以上に甘い睦言。



「香穂子」

「えへへ」
満足したのかしなやかな指先が瞳から離れ、視界を光が埋め尽くす。
振り返る先には笑みを浮かべた香穂子。

刹那、月森は痩せた腕を引き寄せた。
ぴったりと、示し合わせたかのように隙間なく収まる身体。

「まったく、君は…いきなり何をするかと思ったら…」

「怒った?」

じゃれあうように寄り添い、笑い混じりに囁き交わす言葉だけが室内に響く。




「いや、可愛い」



悪戯
(癖になりそう)