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ランダムCPバトン1

今回もいっくぜー!!

(1)アーク×(7)テレーザ

『出会い』


「…あなたって本当に歌えないのね」
「なっ!?」

静かな眼差しとともに発せられた言葉に、アークは聖典を取り落とした。

ごん、という音が鈍く響く。
その音が耳に入っていないのか、アークは口を開けたまま目の前の人物を凝視していた。

床に落ちた聖典を拾い上げたのは、現トルバドゥール(宮廷詩人)のテレーザ。


「な、な、な…」
「そんなことであの子に会うつもり?」

エルフ特有の青い瞳に呆れの色を浮かべ、白い指が聖典の縁をなぞる。

「なんであなたがこんなところにいるんですか!」
「あら、いたらおかしい? 聞くに堪えない歌だから気になっちゃって」

アークがぐ、と黙り込む。
王宮の外れに位置する武器庫。この中なら人も来ないだろうと踏んだのはとんだ計算違いだったようだ。
人知れず練習に励むつもりが、しっかりと見られていたらしい。


「…帰ってください」

テレーザから聖典を引ったくって、アークはそれだけを絞り出した。
王宮お抱えの宮廷詩人に対しての態度としてはどうかと思うが、この際どうでもよくなっていた。


テレーザは何も持っていない自らの手をゆっくりと眺めると頷いた。

「分かったわ。ただし、1つ条件があるの」
「…何ですか」
「1曲歌って」
「は?」

アークはまた聖典を落としそうになった。
今彼女は何と言った?

「聞こえなかった? 1曲歌ってって言ったの」
「いや、ですから、」

俺が音痴なのはご存知でしょう。現に先ほどからお聞きになってらしたじゃないですか。トルバドゥールの目の前で歌えるわけがないでしょう…云々。

尚もまくしたてるアークの唇にそっと人差し指が当てられた。反射的に口を閉じると青い瞳にぶつかる。
いつの間にかテレーザの秀麗な顔が目の前にあった。

「…っ」
「やっと静かになったわね」

世界一の美しさを誇るエルフ族、その中で最も美しいと賞賛されるテレーザに気圧され、アークはふらりと後ずさった。

「で、ですからっ…俺の歌は人に聞かせられないほどひどくて」
「それで自分1人で練習しようって? 甘いわね」
「え」
「1人で練習していたら上手くなっているのか分からないでしょ。上達したいなら、第三者に見てもらうのは当たり前。それも実力のある人間の方がいいわ」
「…付き合ってくれるんですか」
「まずは1曲歌って。そうしたらあなたの課題が見えるから」

テレーザは武器庫の奥にあった椅子を持ってくると流れるような仕草で腰を下ろした。
アークは慌てて聖典を開いて、今まで練習していたページを見つける。

「じゃ、いきます」
「どうぞ」

ごくりと唾を飲み込んで、深く息を吸って、

歌った。

明かり取りから漏れる光がアークを照らした。
しんとした武器庫の中でアークの低い声が流れ…。

こほん、という小さな音に歌は止まった。


「あの…やっぱりダメでしたか」

アークが聖典から顔を上げて問いかける。その表情には不安の色が見えた。

「いえ、今のは別に…まぁ、いいわ」

テレーザは1つ息をつくと、

「評判通りの歌声ね。音程取れてないしブレスもバラバラ」
「そうですか…」
「曲はどれ?」


アークが再びえ、と声を漏らす。ふと気がつくと聖典がテレーザの手に渡っていた。
細い指がゆっくりとページを繰り、アークの歌った詩を目が追う。

「これね。ちょっと聞いてなさい」

そう言うと、テレーザは瞳を閉じた。静かに息を吸って歌い出す。


深い森の奥、こんこんと沸き出る泉のように清らかな歌声が溢れ出す。その中には、一瞬の緊張も燐とした強さも秘められていた。


アークは息をするのも忘れて聞き入った。
曲が終わったあとも、武器庫全体が余韻に震えているように感じた。

「…どう?」

問いかけられても答えられない。
これが王家に歌を贈る者の力。
王が近くに留め置きたいと思う歌。

「…すごい」

心の声が口に出ていたらしい。テレーザはその青い瞳を細めて微笑んだ。

「お褒めにあずかり光栄です」

少しおどけて肩をすくめてみせる。その仕草1つ1つが優雅だった。

「…まあ、お手本はこんな感じ。できるようになったら私を呼びなさい」
「えっ?」

テレーザは椅子から立ち上がって、武器庫の入り口へと歩き出す。

「あなたの声、見てあげる。ただし、覚悟してね」
「あっ…ありがとうございます! でも、どうして俺なんか…」
「気まぐれよ。あなた、ラッキーだったわね」
「ラッキー?」
「これで少しあの子に近づいたんじゃないかしら?」


返答はない。そもそも返答は期待していない。
テレーザは入り口の扉に手をかけた。

「…半音ずれてたのは、わざとですか?」
「?」
「最後の1章節。半音ずれてましたけど」

反射的に振り向くと、アークと目があった。穏やかな瞳がテレーザを見つめる。

「意図的ならいいんです。ただ、ちょっと気になって…」

視線を交えた静かな時間が流れたのも束の間、ふっと微笑みを浮かべたのはテレーザだった。

「そうよ、僕」

そう言いおくと、テレーザは靴音を響かせて光の中に去っていった。
滑らかな金の髪が陽光を取り込んで輝く。
頭を軽く振ると、髪の隙間から真っ白なうなじが覗いた。
その姿は誰が見ても驚嘆と賞賛のため息を漏らすほどだった。


―――――


視界が突然開け、テレーザは目を細めた。
しばらくじっとしていると目も慣れてきて、足元にかしずく人間の姿も見えた。

「テレーザ様、歌主がお呼びです」
「ありがとう」

伝令と事務的な会話を交わし、足早に宮廷へと急ぐ。


――半音ずれてたのは、わざとですか。

たじろぎそうになるのを隠すのに精一杯だった。

そんな自覚はない。
さらりと歌って実力を見せつける。そうすれば大抵の人間は押し黙ってしまうのだ。


「…あの子」

静かな言葉で喉の不調を見破られた。見くびってくれるなということなのか。


「…? テレーザ様、どうされました?」
「え?」
「とても嬉しそうな顔をされていますので」
「…気のせいよ。さぁ、いきましょうか」

気を取り直すように髪をかきあげると、テレーザは歩き出した。

――面白い子。

ふと漏らした呟きは、本人にしか聞こえないごく小さなものだった。

end.



はい!!
アーク×テレーザでした!
長かった…(汗)
2人をどう絡ませようかと思いましたが、結果こんな形になりました。

音痴のアークがテレーザにビシバシしごかれればいいんだよ!!(笑)
なんでアークがテレーザと会える環境にいるのかとか、ジョイスはどうなったんだよ!とか、ツッコミは色々ありますが、一言で言わせてもらいます。


続きは本編で☆

…うん、書くよ。
最近時間がないんだって…。

そんなわけで、ここまで読んでいただきありがとうございました!!
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