何か変な人が1人増えた。
それが亮の感想だった。
何かと極限極限言う笹川了平がいなくなり、代わりに同姓同名でやはり極限バカの人が紹介されたときにはもう驚くしかなかった。
何でも過去から来たらしい。
「……タイムスリップ、ねえ」
亮も無事解放され、あの基地ともおさらば。
皆怪我だらけなのに、よく無事で帰って来たものだ。
特にクロームって人は確か内蔵のほとんどが損傷しているはずなのに、どうやって動き回っていたのだろう。
どうせ、もう亮には関係のないこと。
……そのはずだった。
ランボとイーピンがいない。
「……ま、いっか」
別に亮の知ったことではない。
幸い基地内の人間はほぼ全員ミルフィオーレの戦闘に集中しているらしく、亮に気を払っている人間はいない。
「両親が共働きなんですか!?」
「ねえ亮君は寂しくないの?」
この女2人以外。
女3人寄れば姦しいというが、京子とハルは2人でも五月蝿い。
やけに賑やかなミミルを思い出すが、あの女3人組はそこまで五月蝿くはなかった。
昴と司はあまり喋る方ではない。BTの憎まれ口は無視。
「だって父さんも母さんも仕事が忙しいっていうから……」
ものすごい疲れる。
これならネトゲしていた方がマシだ。
サイレンで叩き起こされたこの2人に見つかってしまったのが運の尽きだった。
年相応よりちょっと幼いくらいの演技にしていたのもマズかったのかもしれない。
何かとこの2人は亮のことを構うようになったのだ。
(早くあいつら帰ってこいよ……)
そうすれば押し付けられるのに、と思わず考えてしまう亮だった。
騒がしいサイレンの音で目が覚めた。
どうやらミルフィオーネとかいう連中が攻めてきたらしい。
「……迷惑な奴らめ」
たたき起こされた亮の機嫌は悪い。
「安心しろ。雲雀がやっつけてくれてるさ」
亮の隣にリボーンが座った。
「別に心配してないけどさ……」
子供は寝る時間だ。
もちろん深夜に遊ぶときは遊んでいるが、だからといって眠ってるときに起こされていいわけではない。
「……ねえ、あいつら強いの?」
「少なくとも、お前よりかはな」
「……へぇ」
亮の口元に笑みが浮かぶ。
目に剣呑な光が宿ったのを認め、リボーンは帽子を被りなおした。
「おめぇ、タダ者じゃねえな」
「何を今更?タダ者だったらランボと会ったとき死んでたよ?」
「……それもそうだな」
「言いたいのはそれだけ?」
「……面白い奴だな」
「そう?ウザいとかはよく言われるけどw」
「鍛えれば即戦力になるな」
「マフィアの抗争に巻き込まれるのはご免だよ」
亮は椅子から立ち上がる。
「そんじゃ、せっかく起きちゃったし少し遊ぼうかな?」
「あのネトゲでか?」
「廃人ってのはいるもんでね、どんな時間帯でもプレイヤーはいるもんさw」
憂さ晴らしでPKをするか、それともサブキャラのレベルを上げるか。
何パターンもPCのエディットの好み、というものは案外決まっているものである。
「あんれ〜?」
マク・アヌの橋の上で見慣れないPCがいて、楚良は首を傾げた。
白一色のプレイヤー。ジョブは……判断できない。
明らかなチートPC。
「おっもしっろそ〜」
にんまりと笑って、楚良はそのPCをターゲットした。
名前は……百蘭。
その名前には聞き覚えがあった。
どうやら、わざわざジャパンサーバーでログインしているらしい。
「コンニチハw」
「ん……?」
わざとらしく笑みを浮かべて挨拶すると、百蘭が顔を上げた。
「オニーサン、チート?僕ちんにもそのやり方教えてくんない?」
「教えてほしいの?」
「ん〜……やっぱいいや」
「どうして?」
百蘭が首を傾げる。
「だって、簡単に出来てつまんなそーなんだもん」
「つまんない、か……」
「オニーサンはつまんなくないの?」
楚良の質問に百蘭は考える素振りを見せた。
「つまんない、か……。でも、今は面白いんだよね」
「どーして?」
「面白いことをしてるからw」
「それなに?本当に面白いの?僕ちんにも教えてよ」
「……教えるわけにはいかないな」
さすがにそう簡単に教えてくれないらしい。
「……でも、君の方も面白いかも?」
「そーだよ。僕ちんお買い得?今ならPKついてきますってね」
にんまりと楚良が笑みを深める。
「どーする?買ってみる?」
「……楽しみは後で取っておくさ。……ソラ、だね」
「そ」
「またね、楚良」
百蘭がログアウトをした。
「……ふーん」
すぐに楚良もログアウトをする。
やはりというべきか、百蘭のログは見つからなかった。
「楚良、何か機嫌良くないか?」
「……実はね、今マフィアの抗争に巻き込まれてんの」
「はぁ?さすがにその嘘はバレバレだっての。っつーかマフィアの抗争って突拍子もねえな……」
わざと真面目腐った顔をすれば、クリムは呆れた表情になった。
「あ、やっぱさすがにクリムでもバレる?」
「当たり前だ。お前、俺を馬鹿にしてるだろ」
「トーゼンでしょ?」
「こいつ!」
本当のことを言っても信じてもらえないのは楚良というキャラクターのなせる技。
もちろん楚良もそれを分かっていて本当のことを言ったのだが。
いつもの通りじゃれ合いという名の決闘が始まる。
「で、何があったんだ?」
「そんなんシミツに決まってるじゃ〜んw」
出席日数は充分足りているから学校を休んでも支障ない。勉強も充分。
つまり亮がしばらくこのボンゴレファミリーのアジトに篭りっぱなしでも大丈夫なわけで……。
「事実は小説よりも奇なり、かな?」
さすが、外部からのセキュリティは万全でも内部からは弱い。
「おっもしろそ〜」
残念ながら亮は武器となる指輪もボックスも持っていないのだが。
「どーやったら手に入るかな〜?」
自然と笑みが浮かぶ。
映像に残されていたツナ達の戦闘記録を見る限り、とても人間技とは思えない。
しかしThe Worldを見慣れている亮からすると、これはゲームの延長に過ぎない。
こんな面白そうなゲームは見過ごせない。