話題:テレビについて


今更ながらではあるけれども、今年の(プロ野球)日本シリーズはとにかく熱かった。

前年度リーグ最下位のチーム同士という組み合わせは史上初。ヤクルト・オリックスの組み合わせは、あの、野村ID野球VSイチローの時以来(この時も見応えのある名勝負が続いた。ちなみに野村とは野村克也氏の事であり狂言の野村萬斎氏ではない)。と言うように開幕前から既に熱かったのだけれども、肝心の試合はそんな話題性に輪を掛ける熱さを持っていた。そして、民放地上波が試合終了まで生中継してくれたのも熱かった。

第一戦から優勝が決まった第六戦まで、その全ての試合が、最後の最後までどちらが勝つのか判らない大接戦(6試合中5試合が1点差。残る1試合も2ー0の僅差)で、テレビで観ているだけでグッタリしてしまう程だった。

さて、本来ならば、そんな激戦の内容を詳しく書き伝えたいところではあるけれども、それは既に様々なメディアがやっているので、ここでは視点を少し変えて、他所では語られていない部分を語ろうと思う。その部分とはコレ……

『球史に残る熱い試合が続いた2021年の日本シリーズ。が、真に熱かったのは試合の後だった!』

それはヤクルトの優勝が決定した第六戦。第一〜五戦までも、その全てが名勝負と言って良いほどの中身の濃い試合だったが、最後の第六戦は、それらに輪を掛けた、まさに今シリーズの集大成ととも言うべき熱い戦いとなった。

息詰まる投手戦は同点のまま延長12回を迎える。人類の98%が「これは引き分け終了で再試合だろう」と思った12回表、ヤクルトの攻撃、2アウトランナー2塁。打席に登場したのは代打の切り札、“あの川端慎吾”。川端については日本人なら誰もが知っていると思うので詳しくは語らないけれども、かつての首位打者であり、椎間板ヘルニアにさえならなければ、半分眠っていても打率3割は確実という実力者である。そんな川端の放った目の覚めるような鋭いドン詰まりの打球はサードとショートとレフトのちょうど真ん中にポトリと落ち、2塁走者がホームイン。カッコ良く言えばテキサスヒット。カッコ悪く言えばポテンヒット。これが決勝点となってヤクルトの20年ぶりの日本一が決定した。

時刻は午後11時をとうに回っていた。実に5時間超の長く熱いゲームであるが、この話の主役は実はこの先にいる。

それは、この試合を生中継したTBS局に他ならない。ここまで試合時間が長引けば以降のドラマやバラエティは中止になるのが普通だろう。実際、新聞等のテレビ欄にも(以降の番組は放送時間変更、或いは中止になる場合があります)と書かれている。30分程度の延長ならまだしも2時間を悠に超えるこのケースは以降の番組を中止にして、そのまま夜のニュースに突入するのがセオリーだ。

ところが、この夜のTBSは違っていた。なんと、11時半近い時間から無理やり【世界ふしぎ発見】を放送したのである!恐るべき力技。そこで私は考える。恐らくそこには、ヤクルト・オリックス戦に優るとも劣らぬ(世界ふしぎ発見)[放送強行派]と[放送中止派]の熱き戦いがあったに違いない、と。



中止派「じゃ、予定通りニュースに直行しまーす」

強行派「いや待て」

中止派「えっ、何か問題でも?」

強行派「ここは敢えて、世界ふしぎ発見を放送しようでないか」

突然の反逆に驚く中止派。

中止派「いや、それは無茶っす!」

強行派「無茶も加藤茶もない!」

中止派「ここはニュースに入って、スポーツコーナーの中で現場からの中継を逐次差し込むのがセオリーでありベストでもあります!」

強行派「いや、ここは世界ふしぎ発見に突入し、いち早く日常を取り戻すべきだ!」

中止派「いえ、視聴者は試合後のセレモニーとかインタビューとか、球場に残る余韻や余熱を感じたいんです!」

強行派「違う!視聴者は黒柳徹子さんとか野々村真さんが元気で頑張っている姿を見たいのだ!」

中止派「ダメです!世界ふしぎ発見は中止にします!」

強行派「どうしてもと言うなら、黒柳さんとユニセフに電話して中止の許可を取ってからにしろ!」

中止派「そんな無茶な!」

強行派「無茶も加藤茶もない!」

双方一歩も退かぬまま睨み合いが続く。と、ここで強行派のスマホに一通のメールが届く。

強行派「見ろ!田所博士からの緊急メールだ!」

中止派「えっ、田所博士から!?で、彼は何と?」

強行派「“世界ふしぎ発見を放送しなかった場合、99%の確率で日本は沈没する”……メールにはそう書かれている」

中止派「それは……間違いないのですか?」

強行派「間違いない。世良教授も同じ見解だそうだ」

中止派「……やむを得ません。世界ふしぎ発見を放送します」

かくして、TBSの熱き編成が日本を沈没から救ったのだった。




…というような事があったのではないか、と私は考えている。スポンサーのつきづらいこの御時世、今クールにおいてドクターXと民放ドラマ視聴率1位を争い続けた『日本沈没』からそう言われたら流石に従わざるを得ないだろう。

球史に残る大激戦だった日本シリーズ。が、

『真に熱かったのはその後、長寿番組が見せた底力であった!』


☆余談☆

2021年の【虚構日記】は、私がパラレルワールドに紛れ込んでしまったという体(てい)で書いていて、その一つの証左として「こちらの世界での日本シリーズはヤクルトとオリックスの組み合わせがずっと続いている」という話が挙げられているが、これは(それまでいた世界からの主観的視点から考えて)『最も有り得ない組み合わせ』という理由で書いたのであり、まさか本当に日本シリーズがこの組み合わせになるとは夢にも思っていなかった。何だか【虚構日記】が予言の書のような色彩を帯びて来ると共に、もしかたら本当にパラレルワールドに紛れ込んでしまったのかも知れないなあ、等とほんの少しだけ思ったりもするのであった。


〜おしまひ〜