カンヌ映画祭に出品したら即座に返品されるであろう。

話題:過去に戻れるとしたら


前回、映画を借りる話を書いている最中、急に思い出した事があって、それは高校1年の時の文化祭の話なのだけど……出し物を何にするかで話し合った結果、『クリエイティブに行こう』と、自主製作映画を撮る事になった訳です。

これが、とにかく酷い作品だった。何せ、監督も脚本も配役も全てクジ引きで決定するというアバウトさ。あの頃の私達は恐らく“適材適所”という言葉を知らなかったに違いない。ストーリーがまた非常に幼稚で、確か…「宇宙からやって来た不良軍団(ヤンキー)が学園のマドンナを誘拐しようとするのを帰宅部の面々が阻止する」といった内容だったと思う。

はっきり言って、ヤンキーが宇宙人である必要性も、迎え撃つのが帰宅部である必要性も全くないのだが、脚本家の大先生がそう言うのだから仕方がない。でも、それはまだいい。極めつけは配役。主役である学園のマドンナは日本有数の財閥の令嬢という、これまた、つきたてのお餅よりもベタベタの設定なのだけど…これが、厳正なるクジ引きの結果、よりによって、白鵬みたいなレスリング部の巨漢のヤツがやる事になってしまったのだ。まあ、男子校なので誰かが女装するしかないのだけれども…一番相応しくないヤツが当たってしまったと。

学ランを裏返しにして顔をベビーパウダーで白塗りした(←宇宙人らしさを出す演出らしい)宇宙ヤンキー軍団(2人)に絡まれて悲鳴(というより雄叫び)を上げる学園のマドンナ。何故か電信柱の蔭から飛び出す帰宅部の精鋭たち。そしてバトル(というか、おしくらまんじゅう)が始まる……のだが、どう見てもマドンナが一番強そうだという……。おまけに、一応、女性の設定なので、セーラー服(誰かが姉貴から借りて来た物。サイズ的によく着られたのが不思議)に金髪のロングヘアーのカツラという衣装を着ているのだけれども、これがもうマツコデラックスを超えるような異形さで、FFの召還獣に新しく加えたい程の迫力だった。

結末も当然グダグダで、確か、宇宙ヤンキーを迎えに、ラグビーボールを持った熱血宇宙人教師がやって来て、みんなで泣くという、意味不明もいいところのオチだった気がする。


もしも、過去の世界に戻れるとしたら……

是非とも、あの時に戻って、脚本も監督も演出も全て私が引き受け、もう少しマシな作品を作りたい。映画を撮るような自由に過ごせる時間がたっぷりあって、一声掛ければ仲間が何人も揃う。あの頃は当たり前のように思っていたけれども、今それだけの時間と人数を工面しようと思ったら、けっこう大変だ。

それはそうと…。撮影終了後、金髪のカツラが行方不明になり、結局最後まで出て来なかったのだが…アレはいったい何処へ消えたのだろうか?


【終】


追悼コーナーの先客。


話題:なんとなく

映画でも借りて帰るか、などと思いたち、レンタル屋に立ち寄る事にした。特に目当ての作品がある訳ではないので、あちこちのコーナーを節操なく見て回る。縦横無尽に通路を移動するさまは俯瞰で見れば限りなくパックマンに近い。店員に捕獲されないよう気をつけ、パワー餌を食べつつ、目ぼしい作品を探す。

そう言えば、観よう観ようと思いながら『ハウルの動く城』を未だ観ていない。パッケージを手に取り眺める。そして思う。いつか観ようとは思うが、それは今ではない気がする。うむ。林先生には申し訳ないが今はやめておこう。パッケージを棚に戻す。これは過去二十回ぐらい繰り返されているパターンだ。果たして、私が『ハウルの動く城』を観る日は本当に訪れるのだろうか。

そうこうする内、通路の割と目立つ一角に特設コーナーが設けられているのを見つけた。【追悼:高倉健】と書いてある。そうか…そうだったな…。未だ実感は湧かないながら幾分しんみりとした気分で出演作のラインナップを眺める。

追悼コーナーには私の他にもう一人先客が居て、それは水戸黄門のようなお爺さまだった。健さんの映画に何かしら思い出があるのかも知れない。そんな事を思っていると、返却されたDVDを棚に戻しに店員の女の子がやって来た。その姿を見て、黄門さまが「あのぅ…」と声をかける。

黄門「すみません…ちょっと探してる物があるんだけど…」

店員「はい、何でしょう」

どうやら、黄門さまは私と違って目当てのタイトルがあるようだ。何だろう。健さんの出演作で有名な物はあらかた棚に並んでいるので、若い頃のマイナーな作品でも探しているのだろうか。そんな事を思いながら、何となく横の会話を聞いていた。

黄門「えっとね…」

店員「はい」

さて、何を探しているのだ?心の中の井上陽水が歌いだす。探し物は何ですか♪

が、黄門さまの口から飛び出した言葉は予想だにしないものだった。

黄門「…ロボコップってある?」

………。さらば、井上陽水。

店員「……ロボコップ…ですか?」

黄門「うん、ロボコップ」

ロボコップ……。
健さん……全然関係ない。

そして黄門さまは、店員に導かれる形で悠然と追悼コーナーから去って行ったのだった。


【終】




徹夫の部屋。


話題:突発的文章・物語・詩


温井徹夫くんは元より出不精であるが、冬はその性質がより顕著に現れる。乃ち、安アパートの彼の部屋、四畳半一間の中央に鎮座まします炬燵(こたつ)から出ようとしないのである。その癖、やたらとカロリーの高い物を欲するのだから始末に悪い。彼に言わせれば「生命体としてエネルギーを蓄えようとする自然の摂理に則っている」らしいが、このような“食っちゃ寝”生活は決して褒められたものではないだろう。

おまけに彼の場合は怠惰のみならず、だらしもない。結果、どうなるかと言うと、炬燵で寝そべったまま物を食べ散らかすので畳の上に食べ物のカスがこぼれまくるのである。食べ物だけではない。ビールやコーラなどの飲み物も平気でぶちまける。勿論、掃除など気の利いた事は一切しない。彼はそれを「無為自然」と呼んだが、これには老子も激おこぷんぷん丸だろう。

兎に角そんな具合に栄養価の高い物を食べるだけ食べ、まったく体を動かさないといった生活を続けたせいで彼は目に見えて肥っていった。不健康な生活。あらゆる面で良くない。

が、そんな中にあって一つだけ良い点がある。彼の部屋はもともと四畳半であるのだが、現在は六畳となっている。食べ物や飲み物を畳の上にこぼし続けたせいで、部屋も彼同様、肥ってしまったのである。彼はそのメタボ部屋を今冬中に二十畳まで増築しようと今まで以上に頑張って、ゴロゴロしているそうだ…。


【終】



頼りない商社マン。


ある会社の応接室。一応は商社であるが、築の古い賃貸ビルに間借りしている時点で大手でない事は判る。その一室に、二人の男性が向かい合って座っていた。一人はカジュアルな格好の中年男性で、取引先の会社の人間もしくは一般の顧客であるらしい。もう片方は当然会社側の人間―いわゆる商社マンであるが、二十歳そこそこで背広姿が全く板についていない。見るからに頼りない。新入社員か、それに準ずる存在であろう。

二人は商取引の話をしているようだった。が、それは順調さを欠いているように見える。顧客の男は明らかに苛立っていた。それに対し、若い商社マンはただオロオロとするばかり。

『君の話しは先刻からどうも要領を得ないね』。『はぁ…担当の者が急な出張で不在でして…』。どうやらそういう事らしい。『こちらとして急いでるのだがね』。『…ですよね』。『このまま貴方と話しを進めても大丈夫なのだろうね』。『さあ…どうでしょうか』。

頼りない答えのオンパレードである。顧客の男性も流石に、この相手はラチが開かないと思ったのだろう。『悪いけど、誰か別の人を呼んで貰えないかな』。『えーと…誰を呼べば良いのでしょう』。打ってもまるで響かない、低反発マットレスのような男である。『もう誰でも良いから、とにかく上の人間と代わってくれー』。それはもはや悲鳴に近かった。『判りました、では一応呼びに行ってみますけど、もしかしたら誰もいないかも…』。とことん頼りない台詞を残し、若き商社マンは部屋から出て行った。

『一応、呼んで来ましたけど…』。間もなく戻って来た彼の横から一人のお爺ちゃんが顔を出す。『あのぅ…わしをお呼びだそうじゃが…何か御用で?』。寝間着姿のお爺ちゃん。とても商社マンとは思えない。顧客の男性が訊ねる。『貴方が…上の方?』。お爺ちゃんが答える。

『はぁ…確かにわしは、“上の階”に住んどる、このビルの大家じゃが…』。

こういう場合は、この台詞しかないだろう。顧客の男性は思っていた。


だめだ、こりゃ』。



〜〜おしまい〜〜。



昭和食堂モンパルナスシチュー(緊急連絡網の夜に)。


話題:SS


夕飯のクリームシチューを作り始めた時、リビングの電話が鳴った。瓦斯コンロの火を止めてキッチンからリビングへ、受話器を取る。

「もしもし」
「あ、和久ちゃん?」

親しげな切り出し。そして、和久は私の苗字で間違いない。しかし受話器から届いた声は明らかに子供のそれだった。私に子供の友人はいない。少なくとも名前を“ちゃん付け”で呼ばれるような親しい関係の子は。間違い電話だろうか。でも、その声には微かに聴き覚えがあるような気がした。

「はい…和久ですけど…えーと、どちら様でしょうか?」幾らか戸惑いながらも平静を保ち電話に応じる。

「何だ、その大人みたいな言い方。フザケてんのか?」

いや、フザケるも何も私は四十を超えた立派な大人なのだが。

「すみません、どちら様でしょう?」

「だ・か・ら…吉川に決まってんじゃん
…あ、判った。今日、お前の消しゴム勝手に使ったの怒ってんだな?」

消しゴムとは?今日はずっとオフィスでパソコンに向かって仕事をしていて、消しゴムは一度も使ってない筈だけど。

「とにかく、消しゴムの事は悪かったよ。ゴメンな。で、緊急連絡網なんだけど…」

「…緊急連絡網?」

「うん。えっとね、明日の遠足だけど、北口の集合が南口に変わったから」

「えっ、何の話?」

「だから明日の遠足だって言ったじゃん。とにかく、集合場所は南口のバスロータリー前の広場に変更になったから。間違って北口に行かないようにな」

とんと話が掴めない。北口集合…遠足…そして緊急連絡網。まるで小学生ではないか。やはり間違い電話だろうか。それとも悪戯電話か。でも、それにしてはあまりに会話がナチュラル過ぎる。私は狐につままれたような気持ちになっていた。が、そんな私に構う様子もなく、その吉川とやらは更に話し掛けて来た。

「ただ、雨がなあ…この様子じゃ止みそうに無いし。明日の遠足は中止かも知れないな」

「そうなの?」。取り合えず話を合わせる。

「そうなのって、今、土砂降りじゃんか。雷も鳴ってるし。あっ、そうだそうだ!」

「どうした?」

「さっき塾から帰って来たんだけど…裏山公園の一本杉に雷が落ちて、樹が真っ二つに割けたらしい。消防車とか野次馬で大騒ぎになってたぞ」

裏山公園の一本杉はよく知っている。いや、そうじゃない。“知っていた”が正しい。あの大きな杉の木は公園のシンボルのような存在だったが、かなり昔に落雷で失われてしまった筈。あれは確か三十年前。そうだ。あの日はちょうど…。徐々に記憶が甦る。そうだ…あの日はちょうど遠足の前の日でずっと天気を気にしていて…。と言う事はつまり、この電話で話されている事は全て三十年前の出来事になるのか?

思考の枝は更に伸びてゆく。三十年前…吉川…吉川?

「もしかして君、吉川哲也…哲ちゃんかい?」

「だから、そうだって言ってんじゃん!」

そうだ、間違いない。この声は小学校で仲の良かった吉川哲也のものだ。しかし、声は小学生のまま。話の内容も、どう考えても小学生当時のリアルタイムの出来事としか思えない。となると、行き着く答えは一つしかない。それは、この電話は三十年前から掛かって来たという事だ。タイムリープ。電話の。しかし、そんな馬鹿な話があるだろうか?

「おーい、どうしたー?聴いてるかあー?」

「…ああ、聴いてる」

「どうした?何かあったのか?」

「いや…そういう訳じゃないけど」

哲ちゃんの反応に不自然さは無い。と言う事は、向こうには私の声が小学生の時のまま伝わっているのだろう。 三十年前。一本杉に雷が落ちた翌日の遠足。翌朝、奇跡的に天候は回復し遠足は中止にはならなかった。そして…

そうか…そういう事だったのか…。私は思い出していた。あの遠足の日の朝、私は駅の“北口”で皆を待っていた。ところが、集合時間を過ぎても誰も来ない。十分が経ち、二十分が過ぎ、三十分を超え、不安で顔が青くなりかけた時、学年主任の先生が私を見つけて走って来たのだった。そして一言、「何やってんだ、集合は南口だって夕べ緊急連絡網回って来ただろ?」。


―続きは追記からどうぞ―。

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