話題:詩
その手紙は、そこ儚となく五月の薫りがした。
古い上水道を見下ろす散歩道を歩く私の前に突然ぽとりと空から落ちてきた一通の手紙だ。
その手紙に宛名はなく、差出人の名も記されてはいなかった。
ありがとう。
私は元気です。
それは僅か二行ばかりの静かな手紙だった。
この手紙を誰が書いたのか、そして誰に出したかったのか、私はそれを知らない。
しかし
そうか。元気ならば良かった。
不思議とそんな風に思えた。
幾つかの顔が浮かび、そして消えた。
やがて手紙は、再びの風に運ばれ、五月の空に吸い込まれるように消えていった。
あの手紙はまた、気まぐれな風により、五月をゆく誰かの元へと送り届けられるのだろう。
その誰かが、もしも貴方であるならば、私はやはりあの二行を五月の風に乗せたいと思う。
ありがとう。
私は元気です。
風薫る五月の空を、タンポポの綿毛のように旅をする一通の手紙が運ぶ宛先のない小さな物語。
――プチ後記――
詩に変なオチをつけようとする、もう一人の私がいる。
ここは我慢我慢。