話題:妄想
『朝礼の校長先生の事』
〇〇月××日【火曜日】
(晴れ 時々 誰かの抜け毛)
古いカセットテープをCDにダビングし、残しておこうと思い立つ。選別の為に改めて片っ端からテープを聴いていると、小学校の時の朝礼の校長先生の話し声が入っているものがあった。そう言えば、冗談で朝礼の様子を録音した事があったっけ。
内容があるような無いような話を声の大きさと元気さでカバーする独特の話術に懐かしく耳を傾けていてハッとした。話の途中、校長先生は「ヘイセイ」言ったのち、慌てて「ショウワ」と言い直していたのである。テープを止めて再度聞き直したが間違いない。明らかに[へいせい]と自信を持って発音している。声がデカいのでよく判る。
どういう事だろう。この時は「平成」という元号は存在していない筈なのだが。
注意して他の部分を聴き直す。すると明らかにおかしな言葉が幾つか飛び出していた。「スマホ」「Win-Win」「小惑星リュウグウ」「ワイルドだろぅ〜」。当時は気づかなかったが、いずれも昭和の中頃には不自然なワードだ。他にも「新東京へちまタワー」「ポルッペンホルッペン」「尾てい骨ブーム」「首都群馬」「えびす総理大臣」など聞いた事がなかったり意味の解らない言葉も幾つかあった。
今にして思えば、あの校長にはどこか浮世離れしたような所があった。物影で腕時計の文字盤に向かってコソコソ話しかけたり、かぶっていたヅラの横の小さな突起(ボタンか?)を押し、一瞬で髪型を変えるのを目撃した人もいる。
もしかすると、あの校長先生は数十年、いや数百年後の世界から来た未来人だったのかも知れない。
〜おしまひ〜。