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さて、まとめるか

いきなりの創作文連続投下に、皆様さぞかし驚かれたことで………え、そうでもない?なーんでー(`3´)

まあね、気にならない人のが多いでしょうが自己満のため説明させていただきますと、記事数稼ぎです。

と言いますのも先ほど、今月の記事数を確認しましたところななななんと七十件を超えており、私どんだけ更新してんだと呆れる反面これは今月中に百件超えねばなるまいという意味不明な使命感にかられ、SDカード内にあるデータからまだブログには未掲載の一次文を探し、投下したというわけであります。

とね。今日日ギャルでもこんなに更新率高くは………、いや待てよ。一日二十件更新余裕ですとかいうギャルも珍しくないらしいし…。結論、私普通ですた^q^

そういえばPCサイトのサイトネーム違うじゃないですか、ここ。だから、PCサイトに沿ってここも改名すべきかとか考えたんですけど面倒だし別にいいですしません。

おしまい。追記にコメレス
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夢前案内人ユメサキアンナイニン

私が白だと認識している色彩が空間全体を包んでいた。包んでいた?包み込まれている感覚はないのに、その表現は果たして正しいのか否か。とにかくここは何らかの空間であり、白一色であったことを前提に話をしよう。私はそこにぽつねんと在ったわけだが、それに対して私は何の疑問も抱かなかった。それが自然の摂理であるように。そこで、自然と呼ばれるものはこの空間には存在していてないらしいのだから、その言葉は不相応だと思った。そうして私が考えなくてもいいような(何を基準に考えていいものと考えなくてもいいものに分けられるのかは私には理解できなかった)ことを悶々と考えていると、声が聞こえた。声。正しくはそれは声と呼べるのかは分からないが、何らかの物質が私に対して思念を伝えてきた。それを私のもっとも身近な言葉で表現したら、声だったのである。

「やあ。そんなくだらないことを悶々と考えていて楽しいかい?」

何を持ってくだらないのか。

「くだらないさ。答えの無い疑問ほどくだらないものはない」

しかし誰かよ。これは、突き詰めていけば人類の発展にはかかせない工程ではないか。人は元来考える生き物であり、答えを求めて進化していくのだ。

「だが、君には必要ないだろう。それとも君は、不必要な進化を求めているのか」

何かを考えることが、必ずしも進化を求む姿勢とは限らない。現に私はとりあえず疑問に思ってみるだけで、答えなど欲してはいないのだ。強いていえばこれは暇潰しなのだよ。

「奇遇だな、私も暇なんだ。暇人同士、仲良くしよう」

君も暇人か。なるほど分かった。しかし初対面同士で話すというのは難しい作業である。何か互いに関心の持てる話題は無いかね。

「そうだな。君、音楽は好きかい?」

ああ、好きだとも。邦楽洋楽ジャズラップ、レゲエにクラシック。吹奏楽曲は別でカテゴライズされるっけ。

「吹奏楽曲はクラシックに入るんじゃないか?しかし今それは重要なことではないよ。重要なこと。それは君は音楽が大好きだということだ。もちろん私もね」

ほう。何か楽器など扱えるかね。

「管楽器が好きだね。私は特にユーフォニアム。テューバの低音も中々だがね。トランペットやトロンボーンなどの直管楽器はジャズがいいね。ホルンの音色は耳に心地よい」

ジャズと言えばサキソフォンだろう。花形だ。サキソフォン族と言えば私はバリトンサキソフォンが一番好きだね。クラリネットではバスクラリネット。フルートとピッコロは耳が痛いよ。

「君も中低音が好きと見たが」

いかにも。高音は体質的な問題もあって苦手なんだ。

「体質的な問題とは?」

鼓膜が必要以上に振動するというか、ぐわんぐわんと音が揺れるんだよ。これがアマチュアの演奏ならまだしも、プロの演奏においてもそうなるのだから困ったものだ。

「確かにそれは大変だね。ところで金管八重奏のテルプシコーレは聴いたことあるかな?」

もちろんだとも。軽やかなメロディーは朝の城下町というイメージだが、そこから一転して、まるで追いかけっこでもしているかのように賑やかで楽しいメロディーになる第三楽章が私は好きだな。

「朝と言うなら第一楽章だろう。始まりを感じさせるよ。ホルンとユーフォニアムの掛け合いの部分が素敵だね」

第一楽章もいいがね、私はやはり第三楽章派かな。そんなことより君、私は君に言わなければならないことがある。これは中々楽しい暇潰しだね。

「君が話してくれるからさ」

不思議だ。初めて喋った気にならない。なあ、君はもしかして以前私とどこかで会ったことないかい?

「さてねえ。記憶というのは存外曖昧なものだったりするのさ。なあ、そんなことより私は君と音楽についてもっと話しているべきだと思うのだけど」

それもそうだ。さて、エスノというものは奥が深いね。実に不思議で、色彩鮮やかなサウンドは不思議と心に残るよ。

「民族音楽だっけね。私も好きだ。パーカッションが楽しいアジアのものが特に好きだね」

フラメンコなんかどうかな。私はあれを聞く度ステップが踏みたくなる。ハイハイッ!

「おや、それはダンスかい?」

君には私が見えるのかね。私はここに在るのだけれど、ここに居るわけではないのに。その証拠に私は自分が見えない。もし君が本当に私のことを目視出来るというのなら。

「出来るというのなら?」

君は迷い子。ああ、またもや暇潰しの相手が減るのか。まあ、それはさしたる問題ではないので置いておくとしよう。さあ、迷い子君。早く目をお覚ましよ。さもなくば戻れなくなる。何てったって記憶は曖昧なものだからね。夢は記憶の塊。さあ、さあ、さあ。早く目をお覚まし。そして、私にまた音楽を与えておくれ。



***



まず目に入ったのは白い天井。
鼻につく消毒液の香り。ここが病院だと瞬時に知る。私は眠っていたらしかった。少しだけ首を上げると、私の体は白い布団に飲み込まれており、投げ出された腕には何やら白いチューブが繋がっている。白、シロ、しろ。違うのは、ここはあまりにも確かな世界であること。違うのは、私は答えを求めなければならないこと。

私は、誰だ。

夢前案内人



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最後の生者<ラストアライブ>

突然の喉の渇きに目が覚めた。
サイドテーブルに手を伸ばす。が、何も掴むことが出来ずに、ランプをつけてから仕方なく体を起こした。
寝ぼけ眼をこすりながら改めてテーブルを見ると、綺麗さっぱり何もなく、やがて其処に置いてあった筈のペットボトルは、昼間に全て飲んでしまったのだと思い出す。

体を動かすのは酷く億劫であったが、どうにもこの渇きに勝てそうにない。俺は財布を手にベッドから降りた。



********



この病院は五つの病棟から成り立っている。故に自販機の数も多いのだが、特別病棟の一階、待合室にある自販機に売ってあるのが一番美味い。
俺の病室は東病棟の三○八号室。特別病棟へは一階からしか行けないために、面倒だが階段を下りなければならない。何故かは分からないが、この病院のエレベーターは夜中になると使用禁止になるのだ。
灯りは一切ついておらず、窓から差し込む青白い月明かりのおかげで、やっと先が見える。
虫の音が心地よい。コオロギだろうか?名称は分からないが、よく聞く鳴き声だ。木々のざわめきや秋風の吹き抜ける音など、個々は小さな音量に過ぎないけれど、それらが相まって静かな賑わいを見せている。
夜は好きだ。特にこんな真夜中は、皆寝入っており昼間が嘘のように静かで、心が落ち着く。
やがて俺は、特別病棟へ辿り着いた。



********



―――特別病棟。
其処に入院するのは、精神異常者やもう治る見込みが無い病人達ばかりだ。精神異常者と普通の患者を一緒にすると、普通の患者が精神異常者に感化されてその人も精神に異常をきたす可能性があるとされたため、精神異常者は隔離することになっている。これはどこの病棟も同じだろう。治る見込みが無い病人達を隔離するのは、普通の患者と一緒にして、変に生きる希望を与えてはいけないというこの病院の方針から生まれた。静かに余生を過ごしてもらうために、死を待つのみ同士で固めておくべきだと。
故にこの病棟の待合室は、在って無きエリアである。

「……?」

自販機の前には先客がいた。小柄な少年のようで、紫色の病服を着ているのを見る限り、どうやら彼はこの病棟の病人らしい。
珍しいこともあるもんだと、俺は歩きながら首を傾げた。
何故なら、この病棟の患者達は滅多に部屋を出ることがないからだ。しかも真夜中である。彼がどちらの患者かは分からないが、どちらにしろ夜出歩くことは珍しい。

「あ…」

不意に彼が此方を向いた。酷く怯えた表情をしている。

「ジュース買いに来ただけだよ」

ぶっきらぼうに言って少年の隣に立つ。俺よりほんの少し低い位置に頭があり、けど同い年くらいかと直感的に思った。

「お前、もう買ったんだろ?邪魔」

少年の手にある玉露缶を見てからそう言うと、彼は「あ、ごめん…」と小さく呟いてから半歩下がった。
コインを入れ暫し悩んだ後、俺はレモンティのボタンを押した。程無くして、ガコン、という音が妙に大きく響き、見ると下の取り出し口にレモンティの缶が落ちていた。

「ん?何コレ」

缶の側面に何かシールが貼ってあった。『5』と書かれた風船を持ったうさぎの絵だ。

「うさ子キャンペーンのポイントシールだね」

いつの間にか俺の手元を覗き込んでいた少年が、そう言った。
聞き覚えのないキャンペーン名をオウム返しして詳細を問うと少年は、それはこのレモンティの製造会社が期間限定で行っているキャンペーンなのだと教えてくれた。

「三十ポイント貯めて応募すると、抽選で三百名にうさ子袋が当たるんだ」

うさ子とは、このレモンティのオリジナルのキャラクターだろう。俺は、簡単に相槌打ちながら缶の側面に書かれたキャンペーンの説明を読んでいた。
キャンペーンの終了日は今から二ヶ月程前で、キャンペーンは既に終わっていた。

「なんだ。もう終わってんじゃん」
「まあね」
「お前は応募したのか?」
「うん。抽選は外れたけど」

ということは、少なくとも彼は六回はこの自販機でレモンティを買ったということか。まあ、どうでもいいことだが。

「君、この病棟の人じゃないね?」
「え?ああ。俺の病室は東病棟の三○八号室」
「東病棟か」

少年は、以前は東病棟にいたんだと話した。しかし、彼の患う病がついに治せないものだと分かり、この病棟に移されたのだという。

「ショックより驚きの方が大きかったな。え?何で?みたいなさ。家族とかが泣いてても、いまいち実感がなくて…」

彼は結構雄弁らしく、聞いたわけでもないのに、彼から話してくれた。

「今もか?」
「え?」
「今もそうか?死ぬことが怖いとかないか?」

俺なら怖いだろうと思う。俺は彼のように、“死”がはっきりしているわけではないが、それでも怖い。
彼の場合はカウントダウンのようなものだ。年月日は分からなくとも、そう遠くない未来に死ぬと分かっており、それを回避することは出来ない。

「始めは夜眠れなかったけど…。今はそうでもないかな」

自販機のライトで照らされた青白い顔を、まじまじと見つめる。彼は、にっこりと微笑み、

「此処にいる人の大半は僕みたいな人ばかりだからさ。何て言うか……世界が違うんだ」
「世界が違う?」
「うん。言葉では説明出来ないんだけど………あれかな、ちゃんと形を持った死を覚悟し、静かに待つ者の世界」

意味分かんないね、と少年は笑う。だけど俺は笑えずに、何故か自分に憤りを感じていた。

「あ、そろそろ戻らないと…」
「俺もだ」
「ねえ、また此処に買いに来る?」

少年は、どこか悲しそうに言った。

「ああ。此処の飲み物が一番美味いからな」

そう言うと、少年は嬉しそうに、「良かった」と微笑んだ。

「また話ししようね」
「おう。じゃあな」

少年が俺に背を向けて、闇に消えていく。暫し見送ってから、俺も踵を返した。





その後、少年と会うことは二度となかった。




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アンダンテ - andante

 先日、窓の向こうの世界に早咲きの桜が現われた。満開ではないけれど、それは確かに春の到来を告げていた。
 春の到来。卒業。
 …ああ、もうそんな時期になるのか…。目を背けていた現実を突き付けられて、悔しいから強がって笑ってみる。

「五十分から卒業式の練習だよ!」
「分かってるって!」

 私は残ったオムライスを口の中にかきこむと、靴袋を掴んですぐさま教室を出た。



――――桜、ひらり。



 下校時刻になったので私は、友人と一緒にいそいそと帰り支度を始めた。高校入学と同時に買った、いかにも高校生らしいスクールバッグ。三年前は綺麗だったが、それも今ではすっかり色褪せ、端っこが擦り切れていたり所々白くなっていたりと、かなりボロボロになっている。
 支度を終え、放課後の誰もいない廊下を、友人と談笑しながら歩いていると、どこからかクラシックの曲が聞こえてきた。ところどころ音が詰まり、かなり拙い演奏だ。

「吹奏楽部、頑張ってるねえ。」

 友人は音楽室の方に目をやって言った。元吹奏楽部員の私は、少し誇らしげに頷いた。

「この時期は大変なんだよ。卒業式で演奏するし、三月の終わりに春の定期演奏会もあるから。テストもね。」

 おつむのよろしくない私は、そのせいで随分苦労したっけ、と思いながら苦笑した。友人はふうん、と相槌を打ち、窓の方に近付いた。私もそれに続いて彼女の隣に並んだ。
 太陽を背にしているせいか、校舎には黒い影がかかっていた。音楽室の明かりがついていなければ、いくら場所を知っていると言っても少し考えてしまっていただろう。

「ねえ、ちょっとだけ寄ってかない?」
「は?」
「どうせ帰ってから暇でしょ?試験終わってんだしさ。」

 行こう行こう、と友人は軽快な足取りで音楽室へと駆けていった。突然のことに反応の遅れた私は、慌てて彼女の後を追う。少しだけ、息が詰まりそうになるのを感じながら。





 音楽室のある階層に上がると、音がよりいっそう大きくなった。そういえば、夏のコンクールで引退して以来、部活には一切顔を出してないな。なんてことを考えながら、友人と音楽室に向かう。
 音楽室は階段を上がって右に曲がり、そのままずうっと奥の角を左に曲がったところにあった。扉は防音のため二重構造になっているが、その効果は皆無に等しい。
 私達は扉からそっと中を覗いた。合奏をしていたようだ。合奏体形になって指揮者の話に真剣に聞き入る彼らを見ていると、急に疎外感を感じた。数ヶ月前までは私もあの中にいたのに、今は何故か、少し遠いように思える。

「うわー、これはお邪魔しづらいな。」
「する気だったの?吹奏楽部でもないのに。」
「あわよくば間近で聴けないものかと、」
「馬鹿。」

 軽く睨むと、友人はごめんごめん、と頭を掻いた。私も勿論本気ではない。と、その時、音楽室から音が聞こえてきた。そのどっしりと安定した低音は、言わずもがなチューバのものである。

「あ、あれってあんたがやってたやつだよね?えっと……、」
「うん、チューバ。」

 友人の、大きいなあ、という呟きを聴きながら、私の目は自然とこの音を出している奏者の方に向いた。
 視線の先にいるのは、銀メッキのピストン式チューバを構えた男子生徒だ。ガタイが抜群に良いという訳でもないのに、なかなかどうして、こう見ると実に逞しく、力強く見える。それは彼の音にも言えることで、私は静かに目を閉じて、彼の音に聞き入った。

(前より太くなってる。)

 勿論、それは彼の体型ではなく、彼の音が、である。

(やっぱり男の人の音っていいなあ。力強さが全然違う。)

 男らしい力強さと、春の太陽のように温かくて、優しい雰囲気を持つ音。私がどう頑張っても、奏でられなかったもの。





「はい、経験者です。チューバ歴四年目!」

 経験者か、というパートリーダーの質問に、彼は笑ってそう言った。高校から始めた私は、《経験者》と聞いて、少し身構えたのを覚えている。

「先輩達もですか?」
「んー、俺はそうだけど。」
「…私は、高校からです。」

 私は小さく呟いた。彼は、「そうなんですかー」と意外そうに返してきた。彼の反応に納得がいかないまま自己紹介は終わり、その日の練習が始まった。

「先輩!」

 練習を終え片付けをしていた時、彼が近くに寄ってきた。

「先輩、高校からなんですよね?」

 その言葉に私は、恐らくあからさまに顔をしかめただろうと思う。自分が上手くないのは十二分に理解していた。なので、わざわざ指摘されたくはなかった。しかもそれが先輩にならまだいいが、【彼】つまり後輩に言われるのだから、実力や年数上遥かに劣っていても、やはり悔しい。
 だが、彼が私にかけた言葉はそうではなかった。

「嘘でしょ?先輩、かなり上手いじゃないですか!」

 私は思わず、「え?」と聞き返してしまった。彼はにっと笑って。

「先輩、上手いです。高校からって聞いてたからそんなに上手くないのかなーって思ってたんですけど、びっくりしました。」

 素直なのは、多分彼の性格だろう。そこには彼の人柄も影響したのか、嫌味のないその言い方に嫌な気はしなくて。彼がチューバを片付ける為、先に教室を出て行った後も、私は暫く茫然としたままだった。
 この時のことを思い出す度、「人間って単純だなあ」としみじみ思う。私は、この時のこの出来事をきっかけに、彼という人間を好きになった。でも、それはまだ人として好きになっただけで、いつからそれが恋に変わったのかは分からない。

「私ね、男の人が吹くチューバの音が好きなの。」
「先輩、エロいっすね。」
「エロいとか!そんなんじゃないから!」

 慌てて首を振ると、彼は面白そうに笑った。

「だって男と女じゃ力強さが違うでしょ?」
「そうかなあ…。」

 彼は同意し難いらしく、首を捻る。少なくとも私はそう思うんだよと言うと、彼は苦笑を浮かべた。

「だから君の音も好きだよ。」

 これではまるで告白ではないか、と一人恥ずかしくなる私の思いを知ってか知らずか、彼は「へへっ」と笑って、

「ありがとうございます。」

と言い、また吹き始めた。その音を聴きながら、私も見よう見まねで同じ音を出そうとしてみるのだけど、やはり出来ない。
 そっと隣に座る彼を見ると、彼は背筋をシャンと伸ばして、どこか遠くを真っ直ぐに見ながら、力強く優しい彼の音を奏でていた。

(やっぱり好きだなあ。)

 彼のことは人として好きだ。けど彼の音には、恐らくそれ以上の感情を抱いていた。
 間違なく私は、彼の『音』に惚れたのだ。ずっと聴いていたくて、自分の練習を疎かにしてしまいがちになるほどに。その音を手に入れたくて、やがて私は、彼に惚れていったのだ。





 扉から覗いていた私達にいち早く気付いたのは、パーカッションの子だった。先輩が来ている、と言ったのが扉を隔てていても分かったので、ちょっぴり恥ずかしい気持ちになる。言わなくてもいいのになあ、なんて思っていると、全員の視線がこちらに向く中、部長が走ってきて扉を開けた。

「来てたなら声かけてくださいよ。」
「いや、合奏中だったしさ。このまま帰る予定だったんだけど。」

 そうして連れられるがまま、私達は指揮者の後ろにあった椅子に座らされた。

「先輩!」

 顔を上げると、彼がチューバの横から顔を出して手を振っていた。手を振り返すと彼は嬉しそうに笑う。それは反則だろう、と私は、多分赤くなった顔を隠すように下を向いた。
 練習は六時半まで続いた。結局最後までいることになった友人は、願いが叶ったというのにとても疲れた顔をしていた。

「すごく居心地悪かった…。」
「うん、お疲れ様。」
「先輩!」

 声のする方に首を捻る。彼だ。もう片付けを終えたらしい。

「久し振りですね。先輩、中々来てくれないから淋しかったんですよ。」

 笑う彼を見ながら、それは本心だろうか、と少し期待する自分を感じて、ばれないように苦笑する。

「かなり上手くなってたね。びっくりしたよ。」
「当たり前っすよ。俺天才だから。」
「調子に乗るな。」

 彼の頭に手刀を落とす。勿論冗談だから、軽く触れる程度だ。彼は「痛いですよー、暴力反対ー」と笑いながら私の手刀を防ぐ。
 そうやってふざけていると、部員の一人が彼を呼びに来た。どこもこうなのかは知らないが、少なくともここの吹奏楽部は部活が終わる前に集合して、顧問からの話を聞く。
彼が部員に「すぐに行く。」と返したのを見て、「じゃ私達もそろそろ…」と荷物を持ち上げた。

「じゃあね。練習頑張って。」
「あ、先輩!ちょっと待っててください!」

 彼は慌てたように荷物置場へと走っていき、自分の鞄から何か取り出して戻ってきた。そしてそれを私に差し出す。
 ロイヤルブルーの小さな紙袋だった。中に青い小箱が入っている。
 開けていい?と聞くと、彼は少し緊張した面持ちで頷いた。
 私は恐る恐る箱を開けた。中には音符の形をしたブローチが入っていた。

「へえ、可愛いじゃん。」

 手元を覗き込み、友人が言う。彼は恥ずかしそうに頭を掻きながら、

「ささやかながら、大学合格と卒業祝いです。おめでとうございます」

そう言って頭を下げた。

「二年だけだったけど、先輩には色んなこと教えてもらいました。先輩と一緒のパートになれて、一緒にチューバ吹けて良かったです。」

 先ほどの部員が、再び彼を呼ぶ。そろそろ行かないといけない。彼はまだ何か言いたそうな顔で私と部員達が集合している方とを交互に見やった。

「ブローチ、ありがとう。すごく嬉しい。大事にするね。」

 私がそう言うと、彼は嬉しそうに笑った。「充分だよ」と心の中で呟きながら、彼に早く行くように促す。

「大学、大変だろうけど頑張ってください。また来てくださいね。待ってますから。それじゃあ、さよなら」

 彼は再び頭を下げて、部員達の方に走っていった。その後ろ姿を見ていると、奥にいた顧問の先生と目が合い、私は頭を下げて音楽室を後にする。
 暦上では春になったとはいえ、まだ寒い時期だ。外はすっかり陽が落ちて、空はもう黒くなっていた。





「良かったの?」

 帰り道。切れかけの街灯が照らす中で、友人がぽつりとそんな質問をこぼした。

「何が。」
「ん、いや…。やっぱ何でもない。」

 寒いねと間を繋ぐように友人は言う。私も、そうだねと白い息を吐いた。
 友人が何を気にかけているかなんて、聞かずとも容易に想像がつく。そして、それに対する答えも、私は持っている。後悔するか否かと聞かれれば多分するだろうとは思う。だけどそれは一時のことだ。

 ただ、無性にあの春の太陽のような優しい音が聴きたくなった。そこで思い出したのだが、もう春は来ているらしい。

アンダンテ
ゆっくり、歩くような速さで、
でも確かに時は流れているようだ。
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何も聞かないで、ただ


「三千世界の鴉を殺して、あなたと朝寝がしてみたい。」


どうせ叶わないって、分かってるけど。


* * *


すき。すき。
大好き。

「……では次のところを、春日!」
「えっ?」

クラス中の視線が私の方に集まる。先生の顔も教科書から私へと向けられた。先ほどまで自分の世界にいたせいで、とりあえず当てられたことは分かったのだが、今までの授業の内容なんてさっぱり。何をどうすればいいのかが全く分からない。辺りを見回してみると、当たり前のことではあるが、皆教科書を開いている。ほう、朗読か。しかし、どこのページだろう。遠目からでは字が羅列しているというだけしか分からず、それがどの物語のどの部分か特定できない。

「…二百五十七ページの三行目」

呆れたような先生の言葉に、私は慌てて教科書を開く。しかし、困ったことに、二百五十七ページは資料ページのようだった。三行目もくそもない。

「先生、炎色反応の写真をどう読めばいいのでしょうか?」
「分かりました。まずは黒板の上の時間割りと時計から読みなさい」
「十一時五十八分。今日の時間割はオーラル文法、日本史、化学、現国、体育、総合です」
「今の時間は?」
「国語」
「貴女の持っている教科書は?」
「…………物理科学」

クラス中からどっと笑いが起こる。先生が小さく溜め息をつくのを見て、どうにも恥ずかしくなって、私は赤くなった顔を下に向けるのだった。


* * *


「仕方ないじゃん」

声に出すと、幾分か落ち着く。
今はお昼時。ここは屋上。冬の冷たい風は、恥ずかしさで火照った体に心地よかった。
授業を聞いていなかったわけではない。意識が別の方に行っていただけだ。とか、結局は授業を聞いてなかったことに変わりはないのだけれど、そういう言い方で正当化してみようとする。でも、やっぱり無理。はあ、と溜め息を吐きながら、コンビニ袋に手を突っ込んだ。
手に取ったそれは、ショコロネ、という名前で、期間限定らしい。普通のコロネと違うのは、まずパン生地にチョコを織り交ぜてあることと、中に生チョコが入っていることで、チョコ好きの私には堪らない一品である。
口の中に広がるチョコレート。甘くて、優しくて、何だか泣きそうになった。最近の私は、やけに涙脆い。その理由は、十二分に理解している。

「仕方ない、のよ」

言い聞かせるように呟いて。
咀嚼する度、世界が揺らいだ。

「仕方、ない、んだもん」

呟く言葉は、対象を見失い、ただ空に融けた。口腔内に広がるチョコレートの、当たり前の甘さが今は残酷なように思う。

『私もチョコレート、好きなんですよ』

記憶の中でふわりと笑った。それがきっかけ、だなんて。全くなんて単純な。でも、きっと仕方ないのだ。

「…チョコ、溶けちゃう」

外は寒いから、それはありえないだろうに、私は慌ててパンを口に入れた。


* * *


放課後。
西日が差し込む無人の廊下はとても綺麗で、寂しい。
この学校には校庭がないため、グラウンドで部活動に励む生徒の姿、というものは無い。だから、私の靴音がいつもより大きく響く。
時計を見ると、五時前だった。見たかったドラマの再放送があったのになあ、なんて。私は溜め息をついて、教室に入った。
机の上には色んなものをめちゃくちゃに詰め込んだ私のスクールバッグがある。私はそこに、先ほどもらった課題のプリントを押し込み、乱暴に席に座った。

動くことが億劫に感じる。
マフラーを掴むと机の上に置いてその上に伏せた。

このまま寝てしまおうか、と思った。ここは学校で、五時半には全校生徒は帰らなければならない。とすると、五時半になれば先生達が校内を見回りに来るだろう。

考えて、情けなくなって、自嘲気味の笑みがこぼれた。
馬鹿らしくて、余計に苦しくなった。

(…!)

足音が、響いた。無論私のものではない。ゆっくりだが確かに、音が近付く。どうやら音主はこちらに向かってきているみたいだ。心臓が変に期待しているらしく、酷くうるさい。やがて。

足音が止まった。

音の距離的にこの教室の前だ。少しの間を置いて、再び足音が響く。
教室に入り、机の間をうねうねと通って、音の主はどうやら私の席のところで止まったらしい。息が、詰まる。

椅子が引かれる音がした。主人がいないはずのそこに、気配が生まれた。
手を伸ばせば届く距離だ。でも、なんだか怖くて顔すら上げられない。

誰か、から笑みがこぼれた音がした。そして、何かが私の頭に触れた。手だった。広く大きなそれは、優しく、一定のリズムで前後する。

(ああ、なんで、)

世界はこんなにも甘く優しいものだったろうか。もしそうなら、どうして、今まで。
息が詰まりそうだった。それが誰か、分かったから。だって、この手の感触を私は、一番鮮明に覚えていて、一番欲していて。
時よ止まれ、と。そう願った。ありえないことを、私はちゃあんと知っている。でも、少なくとも私の中では、それは永遠のことだと思った。

手は、名残惜しそうに私の頭を離れた。もっと、と言えたら、どんなに良かったろう。

カリカリ、と音がした。誰か、は何かを書いているみたいだ。
誰か、はそれを書き終えると立ち上がり、そして私の頭を最後に一撫でして、立ち去っていく。音が聞こえなくなったくらいに、私はそっと顔を上げた。椅子はきちんと直されていて、そこに誰かがいたという痕跡はない。

夢だったのだろうか。
もしそうなら、神様は残酷だ。

ふと、机の隅に何かが置いてあるのに気付く。紙…、いや、手紙のようだ。それを手に取って、恐る恐る読んでみる。

視界が揺らいだ。
息を上手く吸えなくなって、私は顔を覆う。咽び泣く声が、どうか彼に届かないように。

すき。すき。大好き。
どうせ叶わないって分かってる。
ならば、ずっと秘めておくから、せめて。





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