一連の出来事のせいで朝食すら食べることもできなかった俺は今、愛くるしくもあり唯一家族の中で大人しい赤ん坊 桂一に朝食を食べさせていた。
自分は食べる事は叶わなくとも、桂一にだけは食べさせてやらなければ。
そんな俺を知ってか知らずか、さっさと自分の支度を終わらせた葵が「お先に〜」と玄関へ向かう。
…手伝えよ!!
「あれ!?俺靴下どこやったっけ!?」
「…箪笥の一番右下!」
「教科書がないよ」
「…テレビの上!!」
和樹兄はかなりそそっかしい。
自分で置いた場所くらい、覚えていられないのか?
「ごめんごめん、いつもありがとな梁太郎!」
「……………いや」
毎度のことだからこそ、文句の一つでも言ってやろうかとも思ったけれど、こんな輝くような笑みを向けられれば何も言えない。
「じゃあ和樹兄、桂一頼むな」
「おう!任しとけ」
家族全員が家に居なくなる為、流石に桂一を置いて行くわけにはいかず、保育園に預かってもらっている。
保育園に桂一を連れて行くのは、和樹兄の役目だ。
「梁ちゃーん、置いてっちゃうよ?」
いつの間に支度したのか、玄関先には葵と笙子の他に、制服を着た蓮と香穂子が待っている。
置いて行くって…お前達を起こしてやったのは俺だろっ!
…なんて。
言ったって栓ないことなので言わない。
どうせ言い返されるのが落ちさ。
俺だって馬鹿じゃない。
「今行くっ」
簡潔に返事を返し玄関まで走るが、狭い廊下が行く手を阻む。
部活用のバックが引っ掛かり上手く走ることができない。
どうしてこの家の廊下はこうも狭いんだ。
もっと身体の大きい奴のことも考慮して建築してもらいたいね。
「梁ちゃんまだー?」
再度かかる呼び声は香穂。
人の気も知らないで。
「…ったく」
―忙しい事この上ない。
俺は身体中をあちこちにぶつけながら何とか玄関までたどり着くと、いつもとなんら変わらない光景を何故か少しだけ愛しく思った。
…なーんてな。