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零が暴走して優姫と一線越えちゃう話



 喉が乾いて仕方ない。この症状が何を意味しているのか、自分は良く知っている。

「零!大丈夫!?」

顔を苦し気に歪め胸を押さえながら、ずるずると壁に背を預け座り込む零に、優姫は慌てて駆け寄ると気遣わしげに顔を覗き込む。

「血が……欲しいの?」

真剣な優姫の瞳。
浅ましい光を放つヴァンパイアの瞳を優姫には見られたくなくて、思わず零は視線を逃がした。
自分が化け物だということはとっくにわかっている。
けれど優姫の前では、せめて、普通の人間でありたかった。

「……来て」

何も答えない零に痺れを切らしたのか、優姫が零の手を掴むとそっと立ち上がらせる。
発作の為、なかなか思うように歩けない零の背に腕を回すと、ゆっくり零の私室へと向かって歩き出した。
近くなった優姫との距離に、胸が震える。
零の中の獣が、早く早く血をよこせと叫んで、零の血液を沸騰させる。
知らず吐息は荒くなり、優姫の髪を微かに揺らした。
ガチャリと扉が閉まって、すぐに静寂が訪れる。
締め切られた零の部屋には、己自身の荒い吐息と小さな衣擦れの音しか響いていない。
優姫はゆっくりと零をベッドまで運び座らせると、その隣に自らも腰を下ろした。
何をするつもりだ、と嫌な予感の中、険しい表情で睨み付けてみても優姫の表情は変わらない。

「私の血、飲んで」

そう言って、優姫は当たり前のように髪をかき上げると、細い首筋を惜し気もなく晒した。
どくん、と零の心臓が激しく脈打つ。
だが、しかし。

「ほーら、零!私なら大丈夫だからさ!」

零の躊躇いをわかっていて、優姫は零の負担にならないよう努めて明るく振る舞う。

「私が零のそんな顔見たくないだけだからさ。ね、お願い……零」

本当に馬鹿だと思う。
優姫も、浅ましい自分も。
けれど、もう限界だった。

「……ごめん」
小さく、小さく呟いて。
優姫の体を強く掻き抱く。
そしてそのまま首筋に顔を埋めると、誘うように香りたつ首筋を舌で舐め上げた。
甘い皮膚。
この下に流れる血潮は、もっともっと甘美な味だと知っている。
もう一度、舌を這わせれば優姫の体がびくりと跳ねた。
そして。


「あっ……」
薄い皮膚に牙を突き立て、流れ出た血を啜る。
優姫が零の頭を抱くように抱え込み、痛みに耐えるようにその小さな体に力がこもった。
すまないと、申し訳ないと、本当にそう思う。
けれどその何百倍以上、この血を全て飲み干してしまいたいと切望する醜い自分。
甘く滑らかで麗しく、爽やかでなにより美味い。
この血が、優姫がいとおしい。
どさり、と。
気づけば零は優姫をそのままベッドに押し倒していた。

「…え?ぜ、ろ…?」

困惑する優姫の声をどこか遠くに聞きながら、執拗にその首筋を舐め上げる。
耳裏から鎖骨までを舌で辿れば、優姫がまたびくりと体を震わせた。

「ちょ、え、零!?」

明らかな異変を感じとった優姫が、じたばたと抵抗を試みるように手足を動かす。
けれど圧倒的な体格差を覆せるはずもなく、組み敷かれた優姫に逃げる場所などない。

「や、ちょ!ぜ…」

零!と言いかけた言葉は、唇ごと零に飲み込まれる。
一瞬何が起きたのかもわからず、目を見開く優姫の瞳に写るのは、見慣れた人の見たことのない表情だった。
何も言葉を発することが出来ない。
いや、発することも出来ないほど激しい口付け。
執拗に絡め取られる舌は、微かに血の味がした。
「…ん、はあ」
吐息と、鼻から抜けるような頼りない優姫の声が室内に響く。


どれほどそうしていたのだろうか。
「…ぜ、ろ……」
息も絶え絶えな優姫の声にはっと体を起こした零と、両の瞳に涙を浮かべこちらを見つめる優姫。

「…あ、」
───自分は一体何をしている…?

蘇る記憶。
快楽の欠片。
あれは紛れもなく自分で。
優姫の濡れた唇が、零の罪を伝えていた。







2へつづくかも!?
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夏影





 空高く昇る太陽と、けたたましく鳴きわめく蝉の声が、今の季節を伝えている。

 月森は一人、通学路を歩いていた。まだ9時前だというのに、照りつける太陽は容赦ない。
時折遠慮がちに風が吹くものの、生温いそれは気持ちよいものではなく、逆に不快感すら煽りかねない。
 額や首もとに浮かぶ汗の玉を持参したハンカチで拭き取りながら、月森は目的の場所へ急いだ。


 今、ほとんどの高校は長期休暇、いわゆる夏休み中であり、月森の通う星奏学院も例に漏れずその一つである。
しかし夏休み中と言えども学院は音楽科生徒のために練習室を開放しており、月森もまたそこを利用している人間の一人だ。
 やはり学院で練習をしたほうが集中出来るし、何より図書館があるため疑問に思った点をすぐに調べられる。自宅から学院まで、そう離れていないことも理由に含まれるだろう。


 ただ、問題なのはこの暑さ。あまり表情に出にくいため周りには理解されないが、月森だって暑いものは暑い。
よく友人からは「こんな暑いのに、月森はいっつも涼しい顔してるよな〜」とぶつぶつ言われるけれど、月森だって涼しいわけではない。
ただ暑いからといって、だらしない格好や言動をするのは如何なものかと思うだけだ。


 そんなことを考えながら、月森は校門を抜ける。
グラウンドで精を出す部活動生の声をどこか遠くで聞きながら、早速練習室へと向かった。
校舎内に入れば、頭上からの日光が遮られるため、ほんの少し楽になる。外気よりもひんやりとした空気が心地よい。

 かつかつ、と靴音を響かせながら、月森は予約していた練習室へと歩を進める。さあ今日は何から弾き始めようかと頭の片隅で考えながら、予約していた練習室のドアノブに手をかけた瞬間。

 聞き覚えのある音が聞こえた。拙くけれど一生懸命で。どこか胸に響く素直な音色。

「……日、野…?」

 月森は、思わずその音の聞こえる2つ程奥の練習室に足を進めた。小窓から覗き込めば、予想していた人物が楽譜とにらめっこしながら必死に指を動かしている。
これでも月森は朝早く出てきたつもりだったのだけれど、彼女の様子を見る限り、つい先程練習を始めたようには見えない。一体何時から練習していたのだろう。


 練習室の中の日野は、動かしていた手を止めヴァイオリンを下ろすと、険しい顔で楽譜を目で追っては首を捻っている。わからないところでもあるのだろう。
今までの月森ならば放っておくところだろうが、今は素直に手を貸してやりたいと思う。彼女の音色がどう変化していくのか、知りたいと思う。
その努力を目の当たりにした今ならば、尚更。

 そんな自分の変化に少し驚きつつも、自分の練習のことも忘れてノックをしようと片手をあげかけたその時。

日野の肩に、誰かの手が伸びた。

 振り返った日野は、険しい顔から一変、満面の笑みを浮かべるとその人物に向き直る。赤みのある髪、穏やかな相貌。あの人は。

「王崎先輩…」

 星奏学園のOBでありながら、未だにオーケストラ部にも顔を出している心優しい、月森とは正反対の穏やかな雰囲気を持つ人物。きっと日野が、王崎先輩に練習を見てほしいと頼んだのだろう。

 何を話しているか、ここからはわからないけれど、何だかとても楽しそうだった。日野も、そして王崎先輩も。
確かに王崎先輩ほど、講師役で適任な人物はいないだろう。日野との付き合いも長いため悪い癖なども理解しているし  一番大切なことであるが  その実力などは言わずもがなだ。


 ああ、これならば自分が教える必要もないな、とちくりと痛む胸で思う。どうしてこんなことで落ち込んでいるのか。わかりそうでわからないこの妙な気持ち。

思わず口をついて出た溜め息は、思った以上に重い響きを持って。どこか苦い気持ちを抱えながらも、月森はさっと踵を返すと自分の練習室へと向かう。
また響き始めた軽やかな音色を背に聞きながら、月森はガチャリと練習室の扉を閉めた。
いつも聞き慣れているその音が、今日はどこか胸に重くのし掛かる。知らず知らずヴァイオリンケースを持つ手に力が入り、暗く沈みがちな思考を遮るように瞳を閉じた。
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