スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

First Impact




こぽこぽ、と紅茶をカップに注ぐ音が妙に耳に響く。

シンプルで且つ機能的、防音室のためとても静かな月森の部屋は、今の香穂子には酷く厄介だった。
何かしら気を紛らわせる物はないかと辺りを見回すものの、必要最低限の家具しか置いていないらしく特に話題も見つからない。


付き合い始めてまだ間もなく月森の家に招待された時は本当に驚いたものの、それ以上に嬉しくて。
まるで恋人同士のようだ、と(実際恋人なのに)馬鹿なことを考えては心を踊らせていたのだけど。

「…どうぞ」
「あ、ありがとう…」

差し出された紅茶に手を伸ばす。それだけのことなのに、妙に胸がドキドキして呂律もよく回らない。

渇いた喉を暖かなハーブティーが流れ落ち、少しだけ気分が落ち着いた。
ふぅ、と吐息が零れ、両手で包み込んだカップから視線を上げれば、真剣な表情でこちらを見つめる月森の視線。


「つ、月森…くん?」

呼び掛けても逸らされない視線にどうしようもなく息苦しくなって。
体全身が強張っていくと共に、熱を孕む体。
高鳴る、心。

「…香穂子」

そっと月森の口が囁くように名を呼んで。
それだけなのに、心臓が壊れそうなほどリズムを刻んでいる。


「…月森…くん…」

何故だろう?何も考えられなくなって、香穂子もまた月森の名を呼ぶ。

絡まる視線。

酷く熱くて、切なくて、恥ずかしくて。逸らしてしまいたい衝動に駆られるけれど、でも逸らしたくないと何かが引き留める。
スローモーションのように何もかもがゆっくりと流れるような錯覚の中、確実に近づく端正な月森の顔。

少しだけ躊躇って、それでも月森の大きくしっかりした掌が香穂子の頬に伸びる。


「…香穂子…」

「…月森くん…」


吐息のような月森の囁き声にクラクラして。
麻酔がかかったかのように言葉を発することすら難しく、何とか絞り出した声は、自分ですら聞いたことのない 甘ったるい声。


「香、穂…」

細められる月森の瞳に、香穂子もまた瞳を閉じて。


瞬間、柔らかな感触。


ふわりと届く香りが、確かにそれが月森のものだと伝えて。

そっと瞳を開けば、同時に月森の腕の中に閉じ込められ、顔を伺うことはできない。しかし、きっと今の自分はすごく変な顔をしているからむしろこれで良かった…かもしれない。


未だ頭はぼーっとしていて、指先は震えているけれど。
ガチガチに固まった体の緊張を解いて、目の前の月森の肩に頭を預ける。





きっと一生忘れることなんてない



初めてのキス。



First Impact
(あなたと全ての『初めて』を)
続きを読む
前の記事へ 次の記事へ