解説(10)&良いお年をお迎えください

「今年一番寒い日に」(2014.12脱稿)

タイトルの由来は高橋徹也の楽曲から。2014年ラストにふさわしく、あくまで静かに愛を育みつつ年末を過ごす二人を書きたいな〜という所から端を発したネタですが、結局いつも通りの感じに…

実は30日の午前中まで、この作品を年内にアップするのは無理だと思っていました(;´Д`)娘の風邪がばっちり移ってしまい、途中まで全然調子が上がらなかったのです。途中まで書きかけたのを全部消去して、もう一度最初から書き直したり…しかし突然、同人の神様が降臨してギリギリ年内に間に合わせる事が出来ました!この感覚は、オフラインで同人活動をしていた時に何度となく経験した、「あーもう絶対出ないよこの本!」と極限まで追い込まれ、9割ぐらい諦めた頃になってようやく何かが舞い降りてきて、完徹で原稿を書き上げてイベント当日の朝にコピー・会場で製本、というのに似ています…似ているか?(^_^;)
そんな訳で思わぬ難産になってしまいましたが、どうにかこうにか形になって良かったです。難産だった分、思い入れもひとしおというものです。

エロこそありませんが、下ネタを一つ含んでいます。しかも、けっこう生々しい感じのネタですが大丈夫でしょうか?まあ書いちゃったけど!(笑)個人的には、この辺のくだりは書いてて楽しかったです(≧∇≦*)


さて、2014年9月からスタートしたこのブログも3ヶ月が経過しました。まさかこの年になって同人活動を再開、しかも20年ぶりのSDで牧神で…!とは全く想像もしていませんでしたが、こうして皆様に私の書いた物をご覧頂けるのはすごく嬉しいです。拍手やコメントなども、いつも本当にありがとうございます。

もちろん、2015年も牧神で突き進む所存でございます。当ブログの作品は「大人のための牧神」と銘打っている通り、今のところ牧=27〜30歳、神=26〜29歳の設定で書いている事が多いのですが、今後はもう少し年齢を上げた二人も書いていきたいな〜と思っています(*^o^*)ぜひまた来年も、当ブログに遊びにいらして頂ければ幸いです。

それでは皆様、良いお年をお迎えください。

今年一番寒い日に

窓ガラスを拭き終えてダイニングに戻ってくると、神が赤い実のついた枝をタンブラーグラスに挿している所だった。

「どうしたんだ、その赤い実の…枝っつーか何つーか」
「これですか?確かセンリョウ…じゃなくてマンリョウ?あっ、やっぱりセンリョウだったかな…とにかく、正月に飾る縁起のいい枝ですよ」
「結局どっちなんだ」
「んー、だからセンリョウかマンリョウのどちらかです。多分」

何ともあやふやな答えだったが、これ以上追及すると確実に神の気分を損ねるのでやめておいた。

「で?いったいどうしたんだ、その…センリョウだかマンリョウだかは」
「ああ、こないだ母親に電話で言われたんです。男二人で住んでるんだから、せめて正月ぐらいは殺風景にならないように何かしら飾っとけって。それもそうだなと思って、花屋で買ってきちゃいました」
「確かにな…」

身も蓋もない言い方ではあるが、神のお袋さんの愛情が感じられるようだった。藤沢の総合病院で看護師長をしている神のお袋さんは、例年の事ながら年末年始は出勤らしい。今度また、落ち着いた頃に神と二人で会いに行こうと思った。

「牧さんは年末年始は帰らなくていいんですか?ご実家」
「あー、うちの両親は駅伝見るために箱根の温泉だし、妹は彼氏とスノボ行ってるから。1月の三連休あたりに神と顔見せに来いって」

うちの家族―――特に母親と妹は神を相当気に入っており、それは若干鬱陶しいぐらいであった。もちろん家族として熱烈に歓迎されている様子ではあり、母親と妹が了解していれば親父が反対する事は皆無だ。

「まあ普通、男の嫁なんて認めちゃくれないですよね。こう言っちゃ何だけど、牧さんちが普通の感覚じゃなくて良かったかも知れない…」
「うん、その辺はうちは割とオープンにしてるかもな。それに…」

神はあまり自覚がないようだが、かなり女受けするタイプなんだろうと思う。特に、俺の歴代の彼女に対して辛口トークを展開していた妹でさえ、神には最初から好意的だったぐらいだ。神は15歳の時からずっと俺を好きだと言ってくれてはいるけれど、それに胡座をかく事のないよう気を引き締めていかなければならない。差し当たって神が、心身共にますます俺なしでいられなくなるようにするにはどうしたらいいだろうか。

「真珠を埋め込む?さすがにそこまではなー…」
「何の話ですか?」
「いや、別に。こっちの話」
「それならいいですけど、何か真珠がどうとかって…」

首を傾げつつも、神は枝を挿したグラスをダイニングテーブルの中央に据える。それによって正月らしさがさらに増したような気がした。

「そう言えば牧さん、同期の忘年会はどうしたんですか?今年はなかったですよね」

高校時代の同期による忘年会が、鎌倉の魚住の店で行われているのはここ数年の恒例行事だった。本当に、揃いも揃って個性的な奴らの集まりだと思う。そんな話を藤真に漏らしたら、「お前が言うな」の一言で片付けられてしまったが。

「あー、今回は忘年会じゃなくて新年会になったんだ。魚住の店に年末、大口の予約が入ったみたいで。それで実は、神も連れて来いって言われてるんだけど…」
「えっ、何でですか?」
「いやー、何かお前が俺の嫁って事がじわじわと浸透してて」
「えー、そんな…恥ずかしいからいいです」

俺たちの代における神の人気は高く、断トツと言っていいぐらいだった。おおむね温厚で人当たりも良く、理想の後輩像として映っているからだろうか。俺の前では決してそれだけにとどまらないのだが、それも藤真あたりに言わせれば「知るかよそんなの、俺らには関係ねーしどーでもいいんだよ」という事らしい。

「でも、そういう話ってみんな普通に受け入れるもんなんですか?今まで誰からも、えーキモいとか信じらんねえとか、そういう声を聞いた事がないんですけど」

神が不思議がるのも無理はなく、俺と神が付き合っている事が徐々に周囲に伝わり出してからも、何故かその手の誹謗中傷を浴びせられる事はなかった。それも神の人柄がなせる業かも知れないし、単に俺の元に届いていないだけかも知れない。たとえ誰かが苦言を述べていたとしても俺は構わないし、当然聞く耳も持ち合わせてはいない。

「多分、牧さんには何を言っても無駄だってわかってるんじゃないですかね?皆さん、牧さんの性格を知り尽くしている人達ばかりだから…」
「だろうな」

まあ、大方そんな理由なのだろう。 いずれ同期の集まりには、遅かれ早かれ神を同伴させる機会が訪れるような気がしてやまない。

「それより、換気扇の掃除終わりました?」
「えっ?」

自然と緩んでしまった口元を見咎めた神に詰め寄られ、間の抜けた反応を示す。呆れきった表情でため息を吐く姿は、既にいつもの「しっかり者の嫁」の顔をした神だった。

「ダメですよ、換気扇が綺麗にならないと年越せませんからね?ほら、早くドライバー持ってきて下さい」

それが終わったら買い出し行きますよ、とけしかけられ、すっかり神の尻に敷かれている善良な俺は黙って従うのみだった。さらに背中に飛んできた「駆け足!」という声にすら素直に応じ、俺はやや急ぎ足で工具類の置いてある玄関へと向かった。





やはり換気扇の汚れは一筋縄で行く物ではなく、とりあえず神がネットで調べたらしい「重曹を溶かしたぬるま湯に浸けてしばらく放置」という策を試みる事にした。その間に買い出し、という訳で神と連れ立って寒々としたマンションの通路を進み、エレベーターホールへたどり着く。

「牧さん、年越しそば何にしますか?」

エレベーターのボタンを押した神が問い掛けてくる。そうだな、と宙を見上げながら思案し始めた所で「沖縄そばの麺なら家にありますよ」と告げられ、「おっ、いいな。じゃあそれにするわ」と頷いてみせる。

「何で沖縄そばがあんの?」
「こないだ会社の同僚が出張で沖縄行ったんで、お土産に買ってきてもらいました」
「出張で沖縄とかいいよな…」

寒波到来中の折から、心底羨ましげな声を発してしまう。そんな俺を見て小さく噴き出した神が、「牧さんは沖縄行った事あるんでしたっけ?」と聞いてくるのへ「もちろん」と即答する。

「サーフィンとダイビング目的だから本島は何回も行ってるし、離島もけっこう行ってるな。石垣島とか宮古島、あと波照間とかも」
「へー、俺は本島は行った事あるけど離島はまだないなあ」
「じゃあ来年行くか。まずは石垣からな」

エレベーターは目的の地下階で扉を開き、静まり返った駐車場に俺の声と二人分の足音が響いた。神からの返事がないので首だけを斜め後ろにねじ曲げると、神はパチパチと音を立てそうなほどの瞬きをさせながら俺を凝視している。

「牧さんってほんと、天才的に相手の心を掴みますよね…女子はたまんないでしょうね」
「そうか?別に否定はしねえけど、俺はもうお前としか行きたくねえの、旅行でも何でも」

キーレスエントリーで車のロックを解除する。羽織っていたコートを脱ぎ、助手席に乗り込んだ神が唐突に「あっ」と叫んだ。

「どうした?」
「さっき、牧さんが言った意味…今わかりました」

そう言うと神は片方の口角を引き上げ、運転席に身を滑り込ませた俺の下腹部を手のひらで押さえ込んだ。

「わざわざ真珠なんか埋め込まなくたって、俺はずっと牧さんのものですから」
「何だよ、まさか今までその事について考えてたのか?」
「そうですよ。真珠ってどういう意味だろうってさっきから考えてて―――」

一度だけ指にくっ、と力を込めた後に手を離す。手は離れていっても視線は絡みついたままだった。どこまでも深い色合いの瞳に導かれるように、薄く開いた唇に触れるだけのキスを落とす。

「バカな事を考えてるって思うだろ?」
「まあ、正直ね。でも悪い気はしてないですよ?」

帝王の牧さんにそこまで想像させてるんだから…と神が意味深に笑うと、うっすらと赤みの差した頬に微かな窪みを作り出した。「えくぼの出来る男はエロい」というのはあまりにも有名な俗説だが、今、目の前にいる男を見る限りではそれはあながち間違っていないような気がした。そんな事につらつらと頭を巡らせている俺をどう思っているのか、わずかな沈黙を挟んだ神がとんでもない一言を紡ぎ出す。

「俺も入れちゃおうかな、真珠」
「えっ?!」
「冗談ですよ」

二人して顔を見合わせ、どちらからともなく笑い出す。ひとしきり笑った後、神が思わず震いつきたくなるような眼差しで俺を捕らえ、「頼まれたって、もう一生牧さんから離れてやんない」と呟いた。
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プロフィール
嬉野シエスタさんのプロフィール
性 別 女性
誕生日 5月10日
地 域 神奈川県
血液型 AB型