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解説(7)

「大人ヒットパレード」(2014.11脱稿)

タイトルの由来はBRADIOの「オトナHIT PARADE」で、小説を書くにあたって表記を変えてしまいました。
ものすごい余談ですが、このBRADIO(ブラディオ)というバンドのボーカル・真行寺くんは、レキシ(元SUPER BUTTER DOG)の池ちゃん、SCOOBIE DOのMOBYに続く久々に思い切ったアフロヘアの人なので、「アフロ枠の新星」として個人的には期待してます(笑)。昔はスキマスイッチの常田くんもアフロだったんだけどねー(^_^;)


「木曜の晩には誰もダイブせず」「終電まぎわのバンジージャンプ」に続く、「SDの登場人物が何だかんだでみんな仲良かったらいいなシリーズ」第3弾ですが…みんな大好き・彩ちゃんの登場です。はっきり言って捏造です(>_<)まあ今更か!でも、高校時代は接点のなかった牧と彩子って、社会人になったら何かいい飲み友達になってそうな気がするんですよね。お互い、タイプではないから恋愛には発展しなさそうだけど…(笑)

あと今回、神と彩子が試験を受けている「アスリートフードマイスター」についてちょっと調べてみました。里田まいが取得した事で有名になったこの資格(里田まいはジュニアマイスターだったと思いますが)、一次試験が1月、一次合格者のみが受ける二次試験が3月にあるようです。神と彩子は、ジュニアマイスターの講習会で久々に再会したという設定です。

それにしても、やっぱり彩子は書いてて楽しい!(≧∇≦*)ぜひまた登場させたいキャラの一人ですね!あと、どうやら牧神の結婚指輪は、以前アップした「ゆっくりまわっていくようだ」内で物議を醸した「ハリー・ウィンストン」に決定したようですね(笑)。その辺の経緯はまた、改めて書いてみたい気がしますが…

次回作は、当初小ネタとして書く予定だったのが、いろいろこねくり回しているうちに長くなりそうなんで、普通に一本の作品として上げたいと思います。初冬にありがちな、槇原敬之の「ふーゆーがーはーじーまるよ〜♪」的な内容です。そして甘いです!さすがの私も、「もうお前ら勝手にやってろよ」と言いたくなるような…いや、でも牧神だからしょうがないです。牧神はラブラブが正義です!牧が、とろけそうな顔で神を見つめているのを想像しただけで鼻血が…(*´∀`)
小ネタは小ネタで、また新たにネタを考えたいと思いますのでよろしくお願い致します。


さて先日、こちらからもリンクを貼らせて頂いている「ボサノバ」様に、当ブログの事を紹介して頂きました。ありがとうございます!私は確かに20年前にもSDで活動してはいましたが、相当のブランク(何せ20年…)を経て再燃したクチなので、牧神としてはまだまだ修行中の身です。長く牧神で活動されている和美様は、まさに牧神の鑑とも言うべき方なので、私も早くその域に達せるように頑張りたいと思います。どうぞ、末永くよろしくお願い致します。

いよいよ明日から12月ですが、12月も牧神、そして来年以降ももちろん牧神で突っ走ります。自分でも大丈夫か?と若干心配になるほどハイペースですが、何だか勢いが止められないので本能の赴くままに突き進む所存です。多分、私の中で何らかのダムが決壊して、長年せき止めていた情熱が溢れ出しているんだと思います…(*^o^*)

牧神とは全然関係ない話で締めちゃいますが、来年1月に出るthe band apartのニューアルバム「謎のオープンワールド」が眠れないほど楽しみです。早く、早く聴きたい…!!「殺し屋がいっぱい」ってどんな曲なのーっ?!

大人ヒットパレード

「今日の試験、何時からなんだ?」

ダイニングテーブルでテキストとノートを食い入るように見ている神に尋ねると、頬杖を外し、やや殺気立った眼差しを投げかけられる。

「2時からです。渋谷だから、あと30分ぐらいしたら家を出ます」

神が食器棚に置かれた時計を確認し、再びノートに視線を落とす。俺もそれに倣って神の手元を見下ろしながら、自分の顎を親指の腹で軽く掻いた。

「アスリートフードマイスターって確かあれだよな?田中将大の嫁が持ってるっつー…」
「里田まいが持ってるのはジュニアマイスターの方で、俺もそっちは取得済みなんですけど、今日受けるのは上級マイスターです」
「なるほどな…で、どうなんだ?受かりそうなのか?」

次の瞬間、俺たちの間の空気にピシッと音を立てそうなほどの亀裂が入り、俺は自分が地雷を踏んでしまった事をまざまざと知らされた。

「今、聞くんですかっ?それを?」
「…すみませんでした…」

素直に謝る俺に、神が大袈裟にため息をつきながらも「まあ、牧さんが美味しいコーヒー淹れてくれたら受かる可能性もなきにしもあらずですけど」と、その唇の端を引き上げてみせる。俺が先ほどから既に、コーヒーの用意をしている事に気づいた上での発言であるのは言うまでもない。

「もちろんわかってるって、お前の黄金比率はコーヒー8の牛乳が2だもんな」

ほら、と手渡したマグカップを満面の笑みで受け取り、意気揚々と口をつける。テーブルの上には赤ボールペンで凄まじく書き込まれたテキストと本人にしか解読不可能なノート、そしてノートのコピーと思われる用紙が散乱している状態だった。

「まあ、彩ちゃんにノートをコピらせてもらったから、一次試験はどうにか通りそうな気はしますけど…」
「彩ちゃんって、彩子の事か?あー、何か去年の講習会で久々に会ったって言ってたよな」

テーブルの端から落ちそうになっているコピー用紙を一枚取り上げ、何気なく目を走らせる。

「何だあいつ、めちゃくちゃ字ぃ綺麗じゃねーか」
「書道五段らしいですよ。おかげであの講習会に出てた人は全員、彩ちゃんのノートのコピー持ってます」
「だろうな…」

神もそれなりに字は綺麗な方だと思うのだが、ノートに関しては「自分だけがわかれば良し」「他人に見せる気はゼロ、むしろマイナス」という主義であるらしい。神のノートの意味不明な羅列と、清々しいほど整然とした彩子の字とをつい見比べてしまった俺に、神が思い切り不貞腐れた口振りで「牧さんが何を考えているか、俺にはちゃんとわかってますよ」と言い捨てた。

「あっ、いや、俺は別に…」
「いいですよもう、全然気にしてませんからー」

それのどこが気にしてねえっつうんだ―――そう口走りそうになるのをぐっと堪え、神の向かいに腰を下ろして自分のコーヒーを啜る。今日のコーヒーほど渋く、苦々しいと感じられる事はないような気がしてならない。

「あーあ、彩ちゃんはスポーツメーカーに勤務してるからいいけど、俺なんてスポーツとほとんど関係ない職種だからなー。強いて挙げれば、旦那さんが現役アスリートって事ぐらいで…」
「いいじゃねーか。お前それは最大の武器で強みだぞ、マジで」
「ええ、彩ちゃんも全く同じ事言ってました」
「あ、そう…ええっ?」

あまりに自然な受け答えに、うっかり聞き流しかけた俺は慌てて意識を現実に引き戻す。やはり、俺が驚きの声を発した理由にちゃんと気づいている神が俺を見やり、困惑したように首を縦に振ってみせる。

「あいつ、俺たちが付き合ってるって知ってんの?」
「はい、去年の講習会で再会して30秒ぐらいで言われました。『神くん今、牧さんと一緒に住んでるんでしょ?どうよ、現役アスリートとの夫婦生活は』って」
「ふっ…いや当たってるよ、当たってるけどな」
「誰に聞いたの?って言ったら、『えー、仙道くんとか藤真さん』って即答されて、その瞬間に俺は全てを諦めました」

まさに、無の境地といった面持ちの神がマグカップの中身を一息に呷る。それについては俺も同意見だった。仙道や藤真の名が出てきた時点で、もはや「終わった」と言っても過言ではない。

「まあ隠してる訳じゃねえけど、大っぴらに公表する事でもねえもんな」
「そうなんです。俺としては静かに夫婦生活を送りたいけど、やっぱり相手が牧さんですから。世間がほっといちゃくれない、みたいな…」

でも嬉しいな、という密やかな神の呟きをもちろん俺は聞き逃さなかった。目線だけを上向けて理由を問うと、神が何とも照れ臭そうな笑みを浮かべながら俺を覗き見ている。

「単に呆れられてるだけかも知れないけど、牧さんと付き合ってるのが公認みたいになってるのは気分がいいです。正直、自慢したいぐらい」

普段は死んでも言わないようなセリフを紡ぐ神に、「熱でもあるのか?」という言葉が喉元まで出掛かるのを必死で飲み込む。そんな不注意では済まされない発言をしてしまったが最後、今日の夕飯は抜きどころかまともに口も聞いてもらえなくなるのは避けられない事態だ。しかし、ともあれ嬉しい事には違いなく、俺は勝手ににやけてしまう顔をどうにも抑えられなかった。何とか空咳をして気持ちを落ち着かせ、真正面から神の顔を見つめ返す。

「俺も、お前と一緒にいられてすっげー幸せ。そうだな、例えるなら…鵠沼海岸に向かって神が好きだって叫んでもいいぐらい」
「あっそれやめて下さいマジで、俺が恥ずかしいのみならず周りの人への迷惑行為にもなりかねませんので」
「えっ嘘だろーおい、何だよその取り付く島もねえ感じ…」
「じゃ、時間なんでもう行きますね」

慌ただしく席を立った神がテーブルの上をさっさと片付け、ひとまとめにして鞄にしまい込む。その、一切無駄のない動きを呆気に取られながら眺めていた俺の前に空のマグカップが置かれ、「ごちそうさまでした」と口早に告げられる。やや消化不良気味ではあったものの、愛情の裏返しという事で俺なりに解釈しておく。当然それも口にしたが最後―――とにかく、己の保身のためにも余計な発信はしない方が吉だ。

玄関先でピーコートを羽織り、マフラーをぐるぐる巻きにしている神に「これから風呂掃除して、洗濯物と布団取り込んだら車で迎えに行くから」と声を掛ける。それに対し、「あー、ありがとうございます」と礼を述べる神はおおむねいつも通りの佇まいだった。

「そう言えば彩ちゃん、来月だか再来月だかに結婚するらしいですよ」

コートのポケットからiPodを取り出し、絡まっていたイヤホンをほどいていた神が思い出したように俺を振り返る。

「へえー、そうなんだ?じゃあ今度、何かしら祝ってやんないとな」
「そうですね、牧さんがお祝いしてくれたら喜ぶと思いますよ…あっ、ちょっと忘れ物…」

言いざま、神はバタバタとスリッパの音を響かせながら俺の横をすり抜けて寝室へ向かう。そしてまた、小走りに戻ってきた時には左の薬指にプラチナリングが嵌められていた。

「…今日は大事な試験なんで、お守り代わりです」

俺の反応を待たずにそれだけ言うと、やはり俺の顔は見ずに靴を履き始める。「何も聞くな」というオーラが痛いぐらいに伝わってくるのを無視し、屈めていた身を起こしかけたタイミングを狙って半開きの唇にキスを落とした。

「頑張れよ」

神の唇がほのかに湿り気を帯びたのを見届け、その肩を一回だけ叩く。それでも神は無言のままだったが、俺に叩かれた箇所を幾度か撫でさすった後、長い睫毛を伏せながらこっくりと頷いてみせたのがたまらなく愛おしかった。





東急プラザの駐車場に車を停め、試験が行われている会場のビルに向かう。終了時間は3時45分と聞いていたが、ちょうどビルの入り口あたりに着いた時には3時50分を回っていた。

試験を終えてきたらしい人々が三々五々ビルから出てくるが、ほぼ全員が二十代から三十代と思われる女の子たちだった。何となしに居心地の悪さを覚えていると、飛び抜けて背の高い男と派手な出で立ちの女が出てきたので片手を上げて合図する。

「あっ、牧さん」

ホッとしたように表情を緩めた神が俺に気づき、その直後に彩子の、「あーっ、牧さん!」という甲高い声が響いて周囲の女の子たちの注目を一気に浴びてしまう。ちょっとしたざわめきが起きている事などまるで眼中にないといった風に、彩子がブーツの踵をカツカツ鳴らしながら駆け寄ってくる。

「おう、久しぶりだな。元気か?」
「うん、まあ元気だけど…って言うか、ねえ?話には聞いてたけど、神くんの旦那さんってほんとに牧さんだったのね!やだーっ、すごい圧巻…!」
「ちょっ、彩ちゃん声デカいって…!」

慌てて追いついてきた神に咎められ、「あっ、ごめんなさーい」と手のひらで口を覆ったものの目は笑っている。こいつも、仙道や藤真と同じ系列の人間である事をすっかり忘れていた。

「お前さあ、話には聞いてたけどっつーのは、誰にどんな話を聞いたんだ?」
「んー、主に仙道くんとか藤真さんだけど、そんな大した話は聞いてないわよ?ただ、あのいっつも途切れなく女がいたはずの牧さんが神くんにメロメロだとか…」
「ふーん、なるほどな…うん、そりゃ事実だな、紛れもなく」
「牧さん!」

耳の先まで真っ赤になった神に一喝され、とりあえずは黙ったものの全く悪い気はしていない。ところで…と俺は試験を終えた二人に、真っ先に掛けるべきであったセリフをようやく切り出す。

「二人とも試験お疲れさんな。で、どうだったんだ?」
「聞かないで下さい…」

まさか問2の解答が「トランス脂肪酸」だったなんて…と神が、その顔に暗い陰を落としながら部外者には一切理解できないセリフを吐く。その隣で彩子も「あー、あれは盛大な引っ掛け問題だったわね」と相槌を打っていたが、それもまた俺などには想像もつかない内容だった。

「でも神くんだったら多分大丈夫よ。だって今日の神くん、勝負に出てるもんね」
「えっ?」
「その指輪。すごいよねー、何たってハリー・ウィンストンだもんね。って言うかもう、牧さんの愛情しか感じられないんだけど」

彩子の指摘通り、神の左の薬指には控えめにダイヤの付いた指輪が光を放っていて、当然俺の同じ指にも同じデザインのそれが収まっているのだった。もちろん彩子もとっくに周知済みであり、「ほら、牧さんだって…」と、俺の左手首を女にしておくには惜しいほどの握力で引っ張り上げる。

「そう言や、さっき神から聞いたけど結婚するんだって?おめでとう」

そんな彩子の左手にも、明らかに婚約指輪以外の何物でもない指輪が輝いていたので俺はもう一つの本題を思い起こした。「あら、ありがとう」と、俺の手を離した彩子が自分の指輪をしみじみと眺め入る。

「実はもう6年ぐらい同棲してて、私は結婚はまだ先でいいかなって思ってたんだけど、彼がね、ちゃんとしたいって言うもんだから…」

柄にもなくはにかんでみせる彩子に、俺まで心なしか喜ばしい気持ちになってしまう。やはり、昔からの仲間が幸せになっていくのを目の当たりにするのはいいものだ。それは神も同じらしく、いかにも感慨深げに目を細めながら彩子を見ている。

「おー、そりゃ彼氏も賢明だな。お前みたいないい女は、捕まえるべき時に捕まえとかねえと後で取り返しのつかねえ事になりそうだもんな」
「あら神くん、旦那さんがそんな事言っちゃってるけど大丈夫?」
「うん、だって彩ちゃんがいい女だっていうのは疑いようのない事実だしね」

彩ちゃんならいい奥さんになれるよ、とこれまた俺にとっては最強で最高の嫁である神が太鼓判を押す。「神くんが言ってくれるなら絶対大丈夫ね」と、眩しいほどの笑顔をたたえる彩子は確かにいい女だった。

「まあ、一応試験も終わっただろうし、彩子も結婚決まったっつー事でお祝いしてやるよ、近々」
「えー、じゃあ肉で」
「即物的すぎるだろ!」
「あ、俺も肉食いたい」

渋谷の往来で、突如沸き起こる「カルビコール」の方がよほど俺には恥ずかしいのだが、呆れつつも「わかった、肉な?」と応じてやると、これまた二人してにんまりと微笑んだ。

「キャーッ嬉しい、麻布十番ね!麻布十番に美味しい焼き肉屋さんあるから!神くん、一緒に骨付きカルビ食べようね!」
「あー、骨付きカルビいいよねー。彩ちゃん、一緒にハサミでチョキチョキして食べようね、牧さんの奢りでねっ」
「まあ骨付きカルビでも何でもいいけど、出来れば給料日の後で…って聞いてねえし」

何やら肉の話題で盛り上がっている二人を黙って見守るしかない俺だったが、不意にとある案を思いついて口を挟む。

「そうだ彩子、結婚祝い何がいい?お前の事だから、どうせ酒とかだろうけど…」
「えっ、いいの?悪いわねー、じゃあヴーヴクリコのラ・グランダムで」
「…お前は本当に飲ん兵衛だな!根っからの!」
「そうかなあ、だって神くんだってけっこう飲めるんでしょ?」

いきなり矛先を向けられた神は、即座に「滅相もない」と言わんばかりに手を振り、「いやー、俺は彩ちゃんには負けると思うよ絶対…」と力なく笑うのみだった。

「牧さん、車どこ停めたんですか?」

ひとしきり話が済むと、急に風の冷たさが身に染みるようになる。冬至の頃と比べ、だんだんと日が伸びてきたとは言えまだ一月だ。これ以上、路上で立ち話をするのも限界だろう。神が尋ねてくるのへ「東急プラザの駐車場」と返し、彩子に「お前も乗ってけよ」と促した。

「家まで送ってく。今どこに住んでんだ、都内か?」
「武蔵小山だけど…車って何乗ってるの?」
「車?BMW」

一拍以上の間を置いた後、彩子の艶めいた唇からため息にも似た声が漏れ出る。

「牧さんってさ、ほんっとーに1ミリたりとも期待を裏切らない男ね…」
「彩ちゃん、牧さんは去年までプジョーに乗ってたんだけどBMWに乗り換えたんだよ…」
「嘘っ、またプジョーって!どんだけイメージ重視なのっ?!」
「つーかどんなイメージなんだ、俺は…」

どうしようかな、と彩子は瞳をくるりと回転させながら俺と神とを交互に見上げ、そして言った。

「せっかくだしBMW乗りたいけど、ちょっとヒカリエ寄ってから帰るね。それに…」
「それに?」

彩子はすぐには答えず、今度は神に数秒ほど視線を留める。神の大きな、潤み気味の目が不思議そうに瞬かれた。

「牧さんが乗ってけよって言った時の神くん、すっごい能面みたいな顔してたから」
「えっ…!」
「じゃ、今日はこれで。またねーっ、神くんあとでLINEにメッセ入れる!」

焼き肉楽しみにしてるねー!と手を振りながら彩子が軽やかに去っていくと、甘い香りのする一陣の風と共にその場には俺と神が残された。

「…あのー…」

嵐が過ぎ去った後のように、二人して茫然と立ちすくんだまま彩子を見送る。何ともばつの悪そうな表情を滲ませた神が、何度かためらった末に口を開いた。

「牧さん、俺ね…さっきは本当に、本当に何も他意はなかったんだけど、心の声を見透かされたかも知れない…」
「心の声?」
「牧さんと二人きりで帰りたいなっていう…あとね、牧さんのBMWクーペに乗っていいのは俺だけだっていうかね…あーもう違うんです、ほんと違うから。ごめんね彩ちゃん…」

やたらと「違う」を連発する神が珍しく冷静さを欠いている様子なので、俺もこの機に乗じて日頃は遠慮している行為を申し出てみる。

「手、繋ぐ?」
「えっ、ここ思いっきり246号沿いの歩道ですよね?しかも渋谷だし。ダメです、絶対ダメ」
「こういう時のお前、マジで容赦ねーよな…」
「あー、すっげー恥ずかしいなあ俺、彩ちゃんに悪い事しちゃったなあ…」

その後も神はぐずぐずとぼやき続け、俺の「あいつさっき、LINEにメッセ入れるっつってたじゃん。確認してみれば?」という提案は、「そんな恐ろしい事できませんよ」の一言でばっさり切り捨てられた。

解説(6)

「12月の」(2014.11脱稿)

タイトルの由来はthe band apartの楽曲から。この曲の中の、「30秒後はわからない 30分後は変わらない? 30日後はわからない 30年後はどんな景色?」という歌詞が好きで、この曲をテーマにした牧神を書いてみたいとずっと考えていたのです。

11月22日の「いい夫婦」の日に、何とか更新が間に合って良かったです。それにしても、前作のバブリーでゴージャスなホテルネタから一転して墓参りとは…大丈夫でしょうか(汗)。SD同人界広しと言えども、墓参りをネタにした話はなかなかないような気が…あっ、もしかしてこの解説から先に読まれている方がいらっしゃいましたら、もちろん牧神のどちらかが死んだネタではございませんのでご安心下さい(^_^;)。

私は以前、別のジャンルでも攻受の共通の知人が亡くなって二人で通夜に参列するというネタで書いた事がありまして、それがそのジャンル・カプで初めて出す本だったため、同カプの友人をビビらせてしまった前科があります(>_<)。ちなみにその友人曰く、「初っぱなから葬式ネタだったので、この人大丈夫か?と心配になった」との事…あっはっは(笑えない)。

墓参りというのは、普通に付き合ってる段階ではまず一緒に行かない気がするんですよね…やはり結婚とか婚約とか、よっぽど深い関係にならない限りは。なので、今回の話は大人牧神ならではの内容になったのでは?と思っています。だって、牧神にはずーっと添い遂げてもらいたいんだもの〜!夫婦ですよ夫婦!キャー!(落ち着け)
この話に出てきた牧の妹は、4つ年下で化粧品会社の商品開発部に勤務している設定です。まあ、間違いなく濃いキャラクターになる事は必至かと…オリキャラ設定は好き嫌いが分かれる所でなかなか難しいのですが(^_^;)、いずれ折を見てまた再登場させたいと思います。


次回作は、「木曜の晩には誰もダイブせず」「終電まぎわのバンジージャンプ」に続く、「SDの登場人物が何だかんだでみんな仲良かったらいいなシリーズ」第3弾です(笑)。「牧神と愉快な仲間たちシリーズ」とも言う…ちょっと意外な人物が登場しますので、よろしければぜひまた覗いてみて下さいね(*^o^*)

今年も残すところあと一ヶ月ちょっと、いよいよ冬シーズン到来ですが、冬仕様の牧神っていいですよね〜(*´∀`)定番のクリスマスネタ・お正月ネタ・大雪ネタとか、もうありとあらゆるパターンの牧神が思いつくよ!きっと週末にはスノボとか行ったりするんだわ〜!しかし私はスキーもスノボもやった事がない…が、頑張る??(;´Д`)
昔はスキー・スノボと言えば広瀬香美だったけど、今って誰なんだろう…やっぱEXILEとかかな〜。

いつも拍手ありがとうございます!本当に励みになります。また近いうちにお目にかかれれば幸いです。

12月の

あれは俺が高2で神が高1の時だから、かれこれ13年ほど前の話になるだろうか。部室で、刷り上がったばかりの「海南大附属高校バスケットボール部・部員名簿」を何気なく捲っていた俺は、神の緊急連絡先として父親ではなく、母親の名と携帯番号が記されているのが目に留まった。

「……」

考えられる理由としては両親の離婚によるものか、父親が単身赴任で不在であるとかだろう。あるいは死別によるものか―――そこへ、ドアをノックする音と「失礼します」という声がして、入ってきたのが神本人だった。

「あのー、牧さん…」

当時の神は、シューターとしての才能を開花させるだいぶ前だったからどこか頼りなげと言うか、ただ細いだけの印象しか与えていなかった。しかも俺を「怖い」と思っているのが丸分かりで、その時もかなり離れた位置から恐る恐る声を掛けてきたのだった。

「何だ?」

俺が返答すると、神はビクリと肩を震わせつつも一応は俺から顔をそらさなかった。なかなか大した奴だと感心していると、「そろそろ練習が始まるんで、武藤さんに呼んでこいって言われました」と告げてくる。

「わかった、今行く」
「はい、じゃあ…」
「あ、ちょっと待て神」

そそくさと、その場を立ち去ろうとした神を呼び止める。あからさまに居心地悪そうな空気を放ちながら振り返ってきた神に、俺は構わず口を開いた。

「お前の緊急連絡先、お袋さんの名前になってたけど…」

神はぎょっとしたようにその大きな目を見開いたが、俺が手にしていた冊子の表紙に書かれた「名簿」という文字を見て納得したのか、深々と呼吸を繰り出した後に「父親は、俺が小5の時に亡くなりました。交通事故で…」と言った。

「そうか、それは…辛い話を聞いて悪かった」
「いえ、もう5年前の話ですから。今は特に辛いって事もないですし」

気まずい沈黙が流れる。何と返したらいいのか考えあぐねている俺に、神の方から「あの、実は…」と切り出してきて、そのやけに思い詰めたような口調に俺が目を見開く番だった。

「どうした?」
「父親の名前、真一郎って言うんです。真っていう字は、真実の真の方なんですけど。何か、牧さんの名前と似てるなあって思って…」

急に流暢に喋り出した神にさすがに面食らったが、前々からそんな思いを抱いていたに違いない。機会があれば話したかったのだろうと解釈し、俺は神に注いでいた視線を少しだけ和らげた。

「あー…まあ、似てるっちゃ似てるな」
「そうなんです。あっ、だからと言って、牧さんに父親像を重ね合わせてるとかじゃないですよ」

すみません、と神は軽く頭を下げ、今度こそ早足で部室を後にして行った。残された俺は神が閉めた扉と名簿とを見比べ、神の発言をゆっくりと頭の中で反芻した後に独りごちた。

「つまり、俺が老けてるっていう事か…?」

不思議と嫌な感じはしなかった。神の父親が亡くなっていたと聞かされたのもあって、神妙な気分に浸っていたからかも知れない。ただ神の持つ淡々とした佇まいが、その時はどういう訳かすぐには忘れられなかった。





「辻堂って都会になりましたよね」

―――あれから時は過ぎ、すっかり成長した神は細いだけだった体にしなやかさを加え、さらには匂い立つ色香まで醸し出すようになっていた。俺の腕の中で、ほんのり桜色に染まる肌がまたたまんねえんだよなとほくそ笑んでいると、何かを察したらしい神に「聞いてますっ?」と咎められる。

「あー、聞いてる聞いてる。辻堂が都会になったとか何とか」

先ほど駅に着いた時に見た、大きなショッピングモールを慌てて脳裏に蘇らせる。神は、俺がきちんと話を聞いていた事に対して不満げに唇を尖らせたものの、すぐにそれを引っ込めて「そうですよ、あのテラスモールが出来てから2年?3年?…ぐらいは経ってますもんね」と、窓の外を流れる景色に目を転じた。

辻堂は言うまでもなく海南大附属高校の所在地であり、俺や神が大事な数年間を過ごした聖地であるが、今日、俺たちがここに来た理由はその海南へ向かうためではなかった。辻堂駅から海南方面とは逆のバスに揺られ、向かっている先は市営霊園だった。そこに神の親父さんが眠っている墓があり、目的はもちろん墓参りのためである。

「親父さんの命日、1日だったっけ?」
「そうです、12月1日…先週の月曜日ですね」
「そうか。本当は命日に墓参りできれば良かったんだけど、ちょっと遅れて悪かったな」
「まあ、平日でしたからね。月曜じゃ、俺も仕事休めなかったし…」

今日はその命日に一番近い日曜日で、初冬にしては暖かく、穏やかな日差しが降り注いでいた。ここが湘南だからという事もあるだろう。恐らく、都内に比べて1、2度ぐらいは気温が高いのではないか。寒いのが苦手な俺は、あと数年経ったらこの辺りで家でも買って神と暮らしてえな、と割と本気で考えていた。そんな構想を頭に描いている俺をどう思っているのか、神が柔らかい眼差しを寄越しながら言葉を繋ぐ。

「それに、命日だったらうちの母親が墓参りしてるから大丈夫ですよ。母親も久々に父親と積もる話もあったでしょうし、二人きりの方がかえって良かったんじゃないですか」

あまりにもっともすぎる神の意見に、俺も確かにな、と頷いてみせる。

「ああ、そういう事なら俺なんかの出る幕じゃねえわ」
「でしょ?」

そこへ、「次は霊園前、霊園前です」という機械的な女性アナウンスが流れ、誰かがすかさず停車ブザーを押す。次停まります…という、運転手の低く不明瞭な声がひっそりと発せられた。





バスから降りたのは俺たちを含めた十人ほどで、全員が霊園を目指して歩き出していた。だらだらとした坂道を、舞い落ちてくる枯れ葉を踏み締めながら登る。

「線香と花は?」
「霊園着いたら、受付で買います」

誰一人会話をしている者はなく、俺たちも短いやり取りの後はどちらからともなく口を閉ざした。坂道を上がりきった所に霊園があり、見晴らしのいい敷地が広がっている。俺たちのような墓参り客の他に、法事か四十九日かで訪れている喪服姿の団体もいくつか見受けられた。

受付に座っていた、眠たげに目をしばたたかせている中年の男から線香と花を買う。神は財布から千円札を取り出しながら「あっ、うちの墓ってどこだったっけなあ…」とぼやき、男から釣り銭を手渡されついでに墓の区画番号を尋ねていた。

「南東・ま・7ですね…すみません、メモに書いてもらっていいですか?…はい、ありがとうございます」

仏花の挿さった手桶と線香の束、そして無造作に番号を書き付けられた紙切れを受け取った神が俺に向き直り、薄い笑みを浮かべてみせる。

「墓の場所、いっつも忘れちゃうんですよね…このメモ、なくさないように取っとこう」

そう言って神は財布に紙切れを大事そうにしまい込んでいたが、数日後にはレシートと一緒に捨てられる運命にあるのは何となく予想がついた。だが、その事にはあえて触れずに黙って神から手桶を引き取る。

暖房が効いて暑いぐらいだった事務所を出ると、冷えて乾き切った空気が頬に当たり、その温度差でぶるりと肩を震わせた。反射的に神の空いている手を掴もうとして、寸での所でそれを抑える。俺の中でそんな葛藤が生じている事など知る由もない神が、「今日は墓参り日和ですね」と反応に困るような事を呟いた。墓参り日和かどうかはともかく、雲一つない晴天には違いなかった。

「こっちが南東かなあ」

ところどころで掲げられている案内表示を頼りに墓を探し、ようやくたどり着く。先週、神のお袋さんが供えたらしい花が手向けられていて、墓石の周りの雑草なども綺麗に取り除かれていた。とりあえず近くの石段に荷物を置き、コートとマフラーを脱いでその上に載せる。

「水、汲んでくる」
「あっ、お願いします」

鞄の中から雑巾の入ったビニール袋を取り出している神に声を掛け、その場を離れる。一番近い水道で手桶に水を汲みながら、整然と墓石の並ぶ光景を改めて見渡した。それは何とも静謐な眺めで、ここにはいったいどれだけの魂が宿り、眠りについているのだろうといった事にぼんやりと思いを馳せた。

「牧さんちのお墓ってどこにあるんでしたっけ」

水の張った手桶に、雑巾を二枚投げ入れながら聞いてきた神に「鎌倉」と答え、さらに続ける。

「極楽寺と稲村ヶ崎の間ぐらいかな」
「また、いい所にあるんですね…でも、死んだら別々になっちゃうのかな」
「まあ通い婚にはなるかも知れねえけど、藤沢と鎌倉だったら全然近いし大丈夫だろ」

手が切れそうなほど冷たい水で雑巾を絞り、墓石を拭き始める。神のお袋さんが綺麗に掃除してくれたおかげか、雑巾には特に目立った汚れは付着しなかった。墓標には埋葬されている人々の没年月日や俗名が記されていて、一番最後に「富美子」とあるのは恐らく神のお祖母さんだろう。そして、その右隣に神の親父さんである「真一郎」という名が刻まれているのを視界に捕らえた。

「交通事故って言ってたよな、親父さん」

萎れてしまった花を抜き取り、空いたスペースに新たに買った花を挿し込んでいた神の動きが止まる。

「そうです。前にも話したかな―――車で取引先に向かっている途中で、急に飛び出してきた女の子とボールを避けきれずに電柱に衝突したそうです。即死だったらしいですけど…」

少し口をつぐんだ後、「でも良かったです」と神がポツリと言った意味がすぐにはわからなかった。

「良かったって?」
「おかげで、女の子は無傷だったと聞いたので…母親も、女の子は助かったし、お父さんも苦しまずに天国行けて良かったじゃんねって言ってましたよ、あの時」

きっと、事あるごとにそんな風に言い聞かされてきたのだろう。そういうお袋さんによって形成された神の人格が、俺の生涯に多大な影響をもたらす事になったと言っても過言ではない。

「でも、牧さんはまだ死なないで下さいね」
「えっ?」

墓石を磨く作業を休め、屈んでいた姿勢を起こす。神が一見、そうとはわからないぐらいに瞳を潤ませながら俺を凝視している。

「今、牧さんに先立たれたら俺、どうしたらいいかわかんないから…」

珍しく弱々しげに頭を垂れる神の背中をわざと強めに叩き、「死なねえよ、って言うか勝手に殺すな」と俺は笑った。

「最低でも、人間の平均寿命ぐらいは全うするつもりだから安心しろ」

一通り掃除が済んだ所で、線香の束にライターで火をつける。わずかに風が吹いていたせいか、なかなか安定した火種は灯らずに少しだけ苦戦したものの、どうにか白い煙は立ち上って特有の香りを鼻先に漂わせた。

「じゃあ牧さん、お先にどうぞ」

線香皿の網の上に線香を置いた神が、俺をチラリと一瞥して脇に退く。神家の長男を差し置いて俺が先でいいのか、という素朴な疑問には「俺の旦那さんは牧さんですから」という、思わず顔がにやけるような答えが示される。

「そっか、じゃあ俺から…な?」

自然と緩む頬を咳払いで締め、改めて背筋を伸ばした俺は柄杓に掬った水を墓石に掛けた。手を合わせて目をつぶり、孫を見せられない事への謝罪と、神を必ず幸せにするからどうか見守ってほしい、という誓いを胸の内で唱えた。
俺と入れ替わりに墓前に立った神が、同じように墓石に水を掛けて手を合わせる。伏せられた瞼の透明感のある白さと、黒々とした長い睫毛の繊細なコントラストが美しかった。

お参りを終えた神は俺に向かって礼を述べ、「今度は、牧さんちの墓参りにもご一緒させて下さいね」と言った。

「ああ、そうだな。うちは両親が健在だから、普通にお彼岸の時期に行くだろうけど…何なら、うちの家族と一緒に行くか?」
「えっ、牧さんの家族とですか?それはいきなり、ハードル高いです…」
「構わねえよ、お前は俺の嫁なんだから。うちの妹なんかめちゃくちゃ喜ぶぞ」
「あー…」

妹、と聞いて途端に神が戸惑ったような、むず痒そうな表情を窺わせたのには理由があった。俺たちが付き合い始めて間もない頃、鎌倉までドライブしに来たついでに実家に寄ってもらった事があったのだ。

妹は、就職と同時に家を出て一人暮らししているが、その日はたまたま実家に帰っていた。そして、神を紹介した際に妹がまじまじと神を見据え、開口一番言い放ったセリフが―――。

「しっ……んじらんねえぐらい肌綺麗ですけど、どこの化粧品使ってんですか?って聞かれたんですよね。初対面で」
「済まなかったな、妹は化粧品会社で働いてるから…あれは完全に職業病だな」
「いえ、それはいいんですけど、別に何も使ってないよって言ったら、えー洗顔だけですか!って驚かれたんですよね。男だから洗顔だけじゃないですか、基本的には」
「でも、確かに綺麗だよな」

身支度を整え、トートバッグを肩に掛けた神の顔筋がピシリと凍りついた。

「人んちの墓の前で何言ってんですか…」

行きますよ、と早々にその場を立ち去る神を慌てて追いかけ、すぐに追いつく。明らかに赤みの差した頬を指先で押すと、光の早さで振り払われた上に恨めしげに睨みつけられた。

「もう!牧さんっ…」
「まあ今度二人で行こうな、とりあえずな」

努めて真剣な口調で告げると、ようやく神の足が止まった。しばしの空白の後、「はい」という消え入るような返事が返され、それから霊園を出るまで二人の間で言葉が交わされる事はなかった。

辻堂駅行きのバス停は霊園の斜向かいにあって、時刻表を見た限りではあと5分後に次のバスが到着するようだった。定刻通りに運行されているかは不明だが、一応は来る予定になっているバスを待つ事にする。

「牧さん、辻堂着いたら…」
「ああ、寄ってくだろ?海南」
「そうなんですけど、今、3時15分ですから―――ここから駅までが30分ぐらいで、そこからまた海南まで歩くと4時過ぎちゃうかな。日曜だから、その時間だと校門閉まってるかも知れないですね」

神が携帯で時間を確かめながらそう言ったので、俺もつられて腕時計に視線を落とす。

「んー、でも行くだけ行ってみるか。俺はけっこう海南行く用事あるけど、お前は最近行ってないんだろ?」
「そうですね、確かに…じゃあせっかくだから行ってみましょうか」

先ほどまでは抜けるような青空だったのに、12月ともなれば3時台で既に夕景の色が混ざり始めている。周囲の並木が、満遍なく黄色や赤で染まっているのを眺めているうちに定刻通りバスが来て、どうやらそれは霊園始発のようであった。

ガラガラのバスに乗り込み、一番後ろの座席に腰を下ろす。「このバスは―――経由、辻堂駅行き…」という運転手の聞き取りにくいアナウンスを耳にしながら、俺は座席の下で手のひらを広げて「神、手」と小声で促した。
程なく重ね合わされた神の手を、様々な思いを込めて握り締める。「発車します…」という、やはりはっきり響かない声と共に扉は閉まり、エンジンの吹かされる重い振動を全身で感じ取った。

☆リンク1件追加しました☆

このたび、リンク欄に牧神サイト様を1件追加しました。
牧神ファンの方なら皆さんご存知と思いますが、和美様の牧神サイト「ボサノバ」です。
今年の6月、いきなり牧神熱が再燃した私はこちらのサイト様を発見し、雷に打たれたような衝撃を受けました…
このブログが誕生し、20年ぶりに牧神を書く事になったのはひとえにこちらのサイト様のおかげであり、感謝してもしたりないぐらいです。本当にありがとうございます!

おそらく、皆さんの方が良くご存知でいらっしゃると思いますので、あえて私が説明する必要はないかも知れませんが、小説も漫画もイラストも素敵という奇跡のようなサイト様です。牧神は確かに超マイナーカプですが(泣)、牧神に関してはこちらのサイト様で十分補完できております。

しかし、このブログを携帯・スマホでご覧頂いている場合はリンク欄が表示されないようです。お手数ですが、携帯・スマホでご覧頂いている方は下記よりジャンプして頂きますようお願い致します。


ボサノバ/和美様
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プロフィール
嬉野シエスタさんのプロフィール
性 別 女性
誕生日 5月10日
地 域 神奈川県
血液型 AB型