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小ネタシリーズまとめて解説

時々、通常アップしている作品とは別に、ちょっとした小ネタを思いつく事があります。当ブログにお越し頂いたお礼として拍手ページに上げているのですが、そうした作品がだいぶたまってきましたので、ここでまとめて解説(と言うか補足)したいと思います。


「オートマティック」(2014.9脱稿)

タイトルの由来は宇多田ヒカルの「Automatic」ですが、正確にはUNCHAINがカバーしたバージョンの「Automatic」です…って言っても、何の事かわからんですよね(^_^;)でも、UNCHAINバージョンはめちゃくちゃカッコイイので(原曲より好き!)、良かったらぜひYouTubeで探してみて下さい(*^o^*)

この話ははっきり言って、私の願望を綴っただけと言っていいかも(笑)。一日の終わりに牧の膝枕でエネルギーをチャージするとか、もう最高すぎるんですけど…!(≧∇≦*)ちなみに、「神の膝枕で牧が寝る話」というのもいずれ書きたい…と言うより書く予定です!


「アイスクリーム・シンドローム」(2014.10脱稿)

一応、2014年10月にアップした「終電まぎわのバンジージャンプ」の後日談なのですが、単体でもお読み頂けると思います。ハーゲンダッツのアイスを牧神が二人で仲良く(?)食べるというお話。まあ、何だかんだ言って牧は神には甘いという事でしょうか(笑)。多分牧は、神の全てが可愛くてしょーがないんだろーなあと…( ̄∇ ̄)
タイトルの由来は、スキマスイッチの楽曲のタイトルから。アイスを食べる話を書こうと思ったら、この曲が頭に浮かんだのでそのままタイトルに採用しました(^_^;)


「ただ見たいだけ」(2014.12脱稿)

はっきり言えば「視姦」がテーマ(汗)。この時、ペトロールズという激シブ・大人バンドにハマりまくっていたため(もちろん今もハマっている)、「雰囲気エロ」「空気感だけで神をイカせる話」を書きたいな〜と思ったらこうなりました(*´∀`)ただひたすら夜、みたいな感じと言ったらいいのでしょうか?あと、牧という男はとにかく「視姦」が似合うなあと(笑)。いっさい手は下さず、ただ見てるだけで人を追い込むっていうね…!牧の視線の先で悶絶してる神がまた可愛すぎる…
個人的に、「ヤッてないけどエロい」話というのは大好物なので、これからもちょくちょく書いていきたいと思っています(*^o^*)
ちなみに作中で牧が言っている「愛を語るより口づけを何とか」は、30オーバーの方なら誰もが知ってる(と言い切っていいのか)WANDSの「愛を語るより口づけをかわそう」です!WANDSと言えば、もちろんSD(アニメ)のエンディングが頭の中を流れるよ!世界が終わるまでは〜♪


「フラニーと同意」(2015.1脱稿)

今回アップした話。これは私の個人的見解から思いついたネタです(笑)。ネタバレになってしまうので詳しくは語りませんが、まあ、牧は気長に待って頂ければ…という感じでしょうか(^_^;)
タイトルはGRAPEVINEの楽曲のタイトルなんですが、たまたまこの曲を聴いていた時にこのネタを思いついたので、タイトルにも採用してしまいました。

実は、GRAPEVINE(グレイプバイン)は私にとって非常に思い入れのあるバンドで、20代の時にめちゃくちゃ好きでライブにも足繁く通っていたんですね。
しかし、ベースでリーダーの西原さんが病気のため脱退してしまい、リーダーが大好きだった私は本当にショックで…バンドから次第にリーダーの面影が薄れていく事に耐えられず、いつしかライブにも行かなくなってしまったのですが、牧神熱が再燃した去年ぐらいからまた聴くようになりました。12年ぶりぐらいに…そういう意味では本当に、牧神には感謝したいです。牧神のおかげで復活した物があったり、新たに聴くようになったバンドがあったり、個人的には大変忙しい毎日を送っております(笑)。もうiPodがパンパンだよ!



さて、次回作は先日も申し上げた通り「牧神はじめて物語」です(笑)。これから書くのですが、R18作品のため少々お時間を頂く事になると思います。今月中にまた、お目にかかれれば幸いです。

ただ見たいだけ

およそ人類が、「キスの最中に目を開ける派」と「閉じる派」に分かれるとするならば、俺は恐らく前者の方に当てはまるだろう。神と付き合い始めてから、と付け加えた方がより正確かも知れない。

だが、毎回キスの際は必ず目を開けているという訳でもないため、「じゃあいったい何なんだ」と言われてしまうと自分でもよくわからない。ただ俺は神の表情の変化を、一分一秒でも見逃したくないというだけの話だった。

神は可愛い。普通に信頼のおける後輩だと思っていたのが、あるきっかけを境に恋人になり、今は夫婦として一つ屋根の下で生活している。神と深い仲になってからは、もうじき一年になるだろうか。それまでは特に疑いなく女と付き合っていて、一番最後に付き合った彼女とは多分結婚まで行くんだろう、と漠然と考えていた。それが今や、神以外の伴侶などあり得ないと思っているのだから我ながら驚くより他にない。

「だって知らなかったもんな、神がこんなに可愛かったなんて…何か今まで、すっげー損してた気分…」
「何か言いました?」

俺の隣で村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」のページを繰っていた手を止め、顔を上げた神と視線がかち合う。先ほどから俺が神を、穴が開くほど見つめている事を知った上での発言だった。よく神は俺の事を「悪い男」呼ばわりするが、神だって十分たちが悪いと言うか相当の確信犯である。

「神が可愛くてしょーがねえなあっていう話」
「そうですか」
「あれっ、何かリアクション薄くねえ?」
「そりゃあ、ほぼ毎日可愛いって言われ続けていればね」

読みかけの文庫本をローテーブルに載せた神が、ソファーに背中を預けて呆れ気味の視線を寄越す。そんな風に俺を咎める素振りも殊更に可愛かったのだが、さすがに今は控えた方がいいようだ。

黙ったままの俺に業を煮やしたのか、神はゆっくりと身を起こしてしなやかな両腕を俺の首に巻きつかせ、「ん」と顎を上向ける。神からの誘いを断る術を持たない俺は素早く神との距離を詰め、その顔を両手で挟んで唇を近寄せた。昔、「愛を語るより口づけを何とか」という歌があったと記憶しているが、やはり薄い反応しか貰えないような気がするので胸の内だけにとどめておく。

唇を重ね、熱のこもった口内に舌を差し入れる。ソファーが軋んでギシリと音を立てるのと、神の喉の奥から微かに声が漏れるのがほぼ同時だった。そんな不思議なシンクロを体感しつつ、俺は伏せていた瞼をそっとこじ開ける。神の固く閉じられた目と微かに揺れる睫毛が確かめられ、それはほぼいつも通りの光景だった。征服欲が満たされ、悦に入った次の瞬間に事態は急変する。唇と舌は深く繋がれたまま、神の黒々とした瞳がパチリと見開かれて俺を捕らえたのだ。

予想外の展開に少なからず怯んだものの、結果的に神から逃れる事は出来なかった。俺への目線はそらさないまま、一旦舌を引っ込めた神が俺の下唇に前歯を立ててぐっ、と押し込む。噛みつかれた刺激が一瞬だけ口先を走り抜け、甘い痺れとなってそれは残った。

「……」

咄嗟に指で下唇をなぞった俺に、神が「大丈夫ですよ、切れるほどは噛んでませんから」と小さく笑う。もちろんそんな心配をしている訳ではなかったが、曖昧に「そうか」とだけ返しておいた。

「気づいてたのか?俺が見てるって事に…」
「まあ、何となくですけど…気配で」

そんなに見たいんですか?と問われ、当然だとばかりに頷いてみせる。ほのかに上気した頬に手のひらを這わせ、親指だけををずらせて神の上唇に着いた唾液を拭い去った。

「俺はもう、お前の事ならどんな些細な事でも見逃したくねえの。だいたい、スタートからして出遅れてるんだから…」
「悪趣味ですね…でも、いいですよ?他ならぬ牧さんだから許します」

再び神の、闇を取り込んでいるかのような目が俺へと注がれる。まるで俺が深みに嵌まり、足を絡め取られる事を予見している眼差しだった。俺としてはとっくに深みに嵌まっているつもりだったが、まだまだ底には到達していないらしい。と言うより、そもそもこの思いに終着点など存在するのか。

神の人差し指がおもむろに伸びてきて、俺の唇の間に浅く突き入れられる。爪先が歯の表面に当たり、硬い、色気のない音を鳴らした。

「大好きな牧さんの目が、これから先も俺だけを映してくれるなら―――」
「そんなの、言わなくたってわかってるだろ?」
「言わなきゃ伝わらない事だってあると思いますけど」

神がわずかに頬を膨らませて俺を睨む。それはそうだ、と納得した俺は改めて神に向き直り、そして告げた。

「確かにな、じゃあ言うわ。…愛してるよ、宗一郎」
「このタイミングでそれ言いますか…」

途端に表情を歪ませた神がそそくさと俺の肩口に突っ伏し、そのまましばらく微動だにしなかった。「顔、見せて?」と囁いても頭を横に振り、「今、すっごい変な顔してるから絶対見ないで下さい」と繰り返すばかりで要領を得ない。

俺は神の両肩に手を置くと、無理強いとまではいかない範囲でその体を引き剥がして瞳の奥を覗き込んだ。俺が神の事なら、どんな些細な瞬間でも見逃したくないと言っているのにどうしてそれがわからないのだろうか。

解説(11)&今年もよろしくお願い致します

遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。今年も当ブログをよろしくお願い致します。


「七色」(2015.1脱稿)

2014年11月にアップした、彩ちゃん初登場の「大人ヒットパレード」よりちょっと前のお話。「大人ヒットパレード」がアスリートフードマイスター試験当日(1月中旬)の話なので、本作はそれより10日ほど前の出来事を書いた話になります。時系列としては、「今年一番寒い日に」→「七色」→「大人ヒットパレード」という流れです。

タイトルの由来は、jazztronikの楽曲のタイトルから。jazztronikの「七色」という曲が個人的に好きで、私の中で勝手に彩子のテーマソングとして位置づけていたりします(*^o^*)しかし、歌詞を読むと「彼氏とは別れちゃったけど、すっきりさっぱり新しい気持ちで未知の世界へ踏み出す」みたいな感じの内容なので、歌詞の内容と本作は特にリンクしていないという事でご了承頂ければ幸いです…(^_^;)

よく、BL系の絵描きの方が「いつも男ばかり描いてるから、たまには可愛い女の子描きたーい!」とおっしゃっているのを見かけますが、字書きでもそれは同じです!(笑)特に彩子は書いてて本当に楽しいので、ついつい早いスパンで再登場させてしまいました(≧∇≦*)そのうちまた書きたいと思います。

今回は神と彩子がメインの話でしたが、最後にギリギリで牧を登場させたのは私の意地です。だって好きだから!牧が!(笑)
なお、作中で神が語った「夫婦が仲良くやっていくための秘訣」ですが、既婚者の私はもちろん実践できてません(>_<)朝なんて子供の世話で忙しいんじゃー!まさに戦場!でもそれじゃ到底、神のような「出来た嫁」には程遠いですよね。反省反省…(*_*)

ちなみにもう一つ、作中に出てくる「魚住の所の新年会」とは、いわゆる「3年生チーム」の同期会で毎年行われている忘年会or新年会(in魚住の店)です。詳しくは、2014年12月にアップした「プロブレム・ナイト」と「今年一番寒い日に」をご覧頂ければ幸いです。これまでに何度か申し上げていますが、3年生チームが好きだーっ!!個性の強い面々もさることながら、牧があくまで普通(むしろ雑)に扱われている感じがいいんですよね。
この同期会、神が行ったら絶対チヤホヤされんだろーなー(笑)。3年生チームの間では、神は「理想の後輩」としてダントツ人気というのが私の見解なので…(*´∀`)


次回作は、牧神が付き合い始めて2ヶ月ぐらい経って、初めて体を繋いだ話(いわゆる「はじめて物語」)を書く予定です。今やすっかり夫婦として濃厚なセックスをしていると思われる二人ですが、やはり一度は、初めての時の初々しい感じ(牧紳一に限って、「初々しい」なんて言葉があるのか?)を書いてみたいと思ったので…R18作品なので、脱稿までに少しお時間を頂くかも知れません。その前に小ネタを一つぐらいアップできればと思っております。

ではでは、今年ももちろん牧神で駆け抜ける所存ですのでよろしくお願い致します。

七色

熱めに淹れてもらったソイラテを啜り、本に挟んでいた栞を抜き去った所で「神くん!」と声を掛けられる。その直前から既に、誰かが勢いよく店内に飛び込んできた気配を察していた俺は静かに顔を上げた。

「あっ、彩ちゃん。お仕事お疲れさま」

再び栞を元の位置に戻して文庫本を閉じる。ここまで走ってきたらしい彩ちゃんがストールを取り去り、息を整えている姿が視界に捕らえられた。

「ごめんね遅くなって…だいぶお待たせしちゃったんじゃない?」
「ううん、俺もさっき来たばかりだから」
「ほんとごめんねー」

彩ちゃんは、俺の前の席に荷物を置くと財布だけ取り出し、「私、ちょっと注文してくるね」と言いざまカウンターへ向かおうとする。

「彩ちゃん待って。ここ、俺払うから」

俺も財布を手に立ち上がる。女の子の横に並ぶ機会が激減しているせいか、目線の置き所に少なからず迷いが生じてしまった。

「えっ、いいの?」
「うん、だって今日は俺が頼んで来てもらったんだから…良かったら、ケーキとかスコーンとかも一緒に食べようよ」
「ほんと?ありがとう。ちなみに神くんは何飲んでるの?」
「俺?ソイラテのエクストラホット」

どうしようかなー、とカウンターに寄りかかった彩ちゃんがメニュー表を指でたどり、「んー、せっかくだからニューヨークチーズケーキとか食べちゃおうかな」と俺を見上げてくる。

「あっ、俺もそれにしよ」
「そしたら、飲み物は甘くないやつがいいから…じゃあアメリカーノのトールで。マグカップでお願いしますね」

注文と支払いを済ませ、受け渡しカウンターの方へ移動する。「先に戻ってて。俺、持ってくから」と言うと、彩ちゃんの琥珀色の瞳が殊更に輝きを増した。

「神くん優しいー!そんなに気遣いできる男子なのに、どうしてよりによって牧さんの嫁なのー」
「ちょっ、彩ちゃん声デカいって…」

彩ちゃんにまで「嫁」呼ばわりされてしまうぐらいだから、俺と牧さんの事はかなり隅々まで知れ渡っているのだろう。別に隠してる訳じゃないから当たり前か、と俺は彩ちゃんが席に戻っていくのを待って薄くため息をつく。同時に、口元が綻んでしまうのを慌てて手のひらで覆い隠した。





「あっ、年明けに神くんと会うの初めてよね?あけましておめでとう」

彩ちゃんの前にマグカップとチーズケーキの載った皿を並べると、唐突に改まった挨拶と会釈をされて俺も急いで居住まいを正す。

「そう言えばそうだよね。こちらこそ、今年もよろしく」
「はい、お約束のノートのコピー」

鞄からクリアファイルに挟まれた紙の束を出し、俺に向かって手渡してくる。アスリートフードマイスターの一次試験を10日後に控え、俺が彩ちゃんに頼んで講習会のノートをコピーさせてもらったのだった。書道5段だという彼女のノートは完璧で、講習会の出席者はおそらく全員、コピーさせてほしいと頼んでいたのではないだろうか。もちろん俺もその一人だった。

彩ちゃんとは去年、初級コースであるジュニアアスリートフードマイスターの講習会で久々の再会を果たした。それ以前もごくたまに顔を合わせる事はあったものの、ちゃんと連絡を取り合うようになったのはここ最近の話だ。そして俺は、再会して30秒足らずで牧さんと一緒に暮らしている事を露見されてしまったのだった。誰に聞いたのかと尋ねると、「えー、仙道くんとか藤真さん」という半ば予想通りの答えを聞かされ、全身が脱力してしまったのを覚えている。

「ごめん彩ちゃん、コピー代いくらだった?」

ファイルを受け取り、尻ポケットに挿した財布に手を掛けた俺を「あーいいのいいの、全然大丈夫」と彩ちゃんが制する。

「うちのプリンターでコピーしちゃったし、コーヒーとケーキまでご馳走してもらっちゃったからそれで十分よ」
「ほんとに?こんなので良ければ、いつでも奢ってあげるけどね」

パラパラと紙を捲り、整然と書きつけられた文字を眺め入る。字が綺麗なだけではなく、要所要所をきっちり押さえている彼女のノートは簡潔でわかりやすかった。

「ありがとね、彩ちゃん。これさえあれば一次試験は受かったも同然だよ」
「そう言ってもらえて嬉しいけど、神くんは絶対大丈夫だと思う。だって、最初から心構えが違うし」
「心構え?」

思い当たる節が見つからず、何度か瞬きをしてみせた俺に彩ちゃんの悪戯っぽい眼差しが注がれる。

「そう、現役アスリートの旦那さんを支えようとする心構え。私なんかはスポーツメーカー勤務だから、この資格もあくまで仕事の一貫だけど…」
「いいじゃない、それだって全然立派な心構えだよ」

現役アスリートの旦那さん、という言葉に若干照れながらもカップの縁に唇をつける。「そうかなあ」と小首を傾げつつ、チーズケーキの先端をフォークで突き刺している彩ちゃんに俺はさらに口を開いた。

「そうだよ。俺は牧さんと住むようになって、必要に迫られたって言うか―――もちろん牧さんは何も言わないし、俺が作った物は何でも美味いって食ってくれるけど、それだけじゃやっぱまずいかなって」
「あ、何か今、さりげなくノロケ入った」
「えっ?ああごめんね、ちょっと自慢しちゃった。…で、アスリートフードマイスターの資格を取ろうと決めたはいいけど、講習会からして女の子ばっかりだったのは一つだけ誤算だったかな」

一通り話し終えて自分のフォークを摘まみ上げる俺を見て、彩ちゃんがおかしそうに噴き出しながら「そりゃそうよ、神くんには悪いけど…だいたい、フードと名の付く資格は女子が多いって相場が決まってるのよ」と言った。

「やっぱそうなっちゃうよね?まあ仕方ないけどね」
「ねえ、神くんたちはお正月はどうしてたの?」

フォークで削り取ったケーキの欠片を、おもむろに口に運んで噛み締める。いつもながらスターバックスのチーズケーキは濃厚で、コーヒーと一緒に食べる事で調和される味なのだろうと思われた。

「正月?別に普通だったよ。普通に目黒不動尊に初詣行って、あとは棚とカーテンを見にイケアに行ったぐらい。彩ちゃんは?」
「私もまあまあ普通だったけど…あっ、元旦に彼氏の実家に挨拶に行ったかな」
「そうなんだ、もしかして結婚するとか?」

次の瞬間、彩ちゃんの動作がピタリと止まり、目が見開かれると共にその頬がほの赤く上気する。

「すごいね神くん、何でわかったの?」
「わかるよー、だって実家に挨拶って言ったらそれしかないでしょ…いやー、でもほんとおめでとう。いつするの?」

俺まで何だか嬉しくなってしまい、つい矢継ぎ早に質問を浴びせてしまう。はにかんだ様子で、最高級の笑顔を浮かべる彼女はとてつもなく可愛かった。

「ありがとう。とりあえず、籍だけは来月か再来月に入れようかなって。式の日取りとかはまだ全然先だけど」
「そっかー、彩ちゃん結婚するんだ」

感慨深く目を細め、何気なく彩ちゃんのウエディングドレス姿を脳裏に思い描いてみる。それは十分綺麗だったけれど、実際には俺の想像などたやすく超えるに違いないし、言うまでもない事だった。

「それでね、実は神くんに聞きたい事があったんだけど…」
「うん、何?」

不意に彩ちゃんに切り出され、俺は椅子に座り直してその顔を見つめ返す。やや間を置いた後、彼女から提議されたのは俺にとっては予期せぬ内容だった。

「夫婦が仲良くやって行くための秘訣について」
「それ、俺に聞くの?」

意外な話の流れに、俺は戸惑いを隠しきれなかった。以前、ちらっと耳にした所によると彩ちゃんはその彼氏とけっこう長く同棲していたはずだ。どう考えても、牧さんと暮らし始めてようやく2年足らずの俺が語るテーマではないし、そもそも俺たちは世間一般的な「夫婦」ではない。

「俺なんかに聞かなくたって、他にいくらでも適任の人いるんじゃないの?」
「それが、神くんしか思い当たらないんだってば。私の周りでは結婚してる子まだそんなにいないし、それに…」

彩ちゃんは一旦そこで言葉を途切らせ、マグカップを両手で包み込むようにした。パールホワイトに塗られた爪に、淡いオレンジの照明が当たって柔らかい光を放っている。

「はっきり言って、あのタラシの牧さんが神くんを嫁にしてて、それも仙道くんや藤真さんが呆れるぐらいにメロメロだっていうのが相当すごい事なのよ。私からしてみれば」
「改めてそう言われると恥ずかしいなあ…」
「神くん、絶対牧さんに何かしてるでしょ」

所在なく後頭部を掻き回す俺への追及を、彩ちゃんが緩める事は決してなかった。俺はそうだなあ、と視線を宙に走らせると、一つだけ心掛けている習慣について話し始めた。

「…秘訣ってほどでもないかも知れないし、彩ちゃんはとっくに実践してるかもだけど、毎朝の挨拶だけは絶対に欠かさないかな。しかもちゃんと目を見てね」

あくまでこれは、「目を見て挨拶する」という点が重要だった。俺と牧さんの仲はおおむね良好だとは思うけど、たまには言い争いになる事もあるし、気まずい雰囲気のまま眠りにつく事もある。それでも朝になれば素知らぬ顔で、何事もなかったように「おはようございます」と告げるのだった。それで全てがリセットされ、様々なわだかまりが浄化するものと俺は勝手に解釈している。牧さんの思惑は知らないが。

「あー、確かに…毎日挨拶はしてるけど、ちゃんと目を見てっていうのは案外してないかもね。ありがと神くん、すごい参考になった」
「まあ、単純な事なんだけどね」

残りのソイラテを一息に飲み干し、甘くぬるまった呼気を吐き出す。俺の助言がなくても彩ちゃんは幸せになれるだろうが、彩ちゃんのような女の子に頼られるのは当然、男としては光栄というものだった。





「神くんは、今度の魚住さんとこの新年会は行かないの?」

スターバックスを出て、駅までの道すがら彩ちゃんに問いかけられる。確か今週の土曜日だったかな、と牧さんから聞かされたスケジュールを頭の中で引っ張り出しながら俺は首を横に振ってみせた。

「えー、あれってうちらの一個上の同期会でしょ?俺、関係ないし行かないよ」
「そうなの?何か三井さんが、今度の新年会に牧は神を連れてくるのかとか、牧が嫁を紹介するらしいとか何とか…」
「うわーっ、三井さんまでそんな事言ってんの?…いや、でもやっぱやめとくよ。試験も控えてるし、家で勉強してるよ」

とは言え、いずれはその同期会に顔を出さざるを得ない予感がするのは気のせいだろうか。いいんだけど、別にいいんだけど…と声には出さずに独りごち、彩ちゃんに感づかれない範囲内で深々と息を繰り出した。

「神くん、私、山手線だからここで」

やがてJRの乗り場が見えてきて、山手線に乗る彩ちゃんと京王線に乗る俺は改札口付近で「じゃあまたね」と互いに言い合った。

「あっ、彩ちゃん」

くるりと体を回転させ、立ち去りかけた背中を呼び止める。振り返った彼女に、俺はあえて他愛もない事を口にした。

「今日の晩飯なんだけど、昨日カレー作ったから今日もメインはカレーなのね。でも副菜に迷ってて…出来れば、ブロッコリーとエノキ茸を使い切りたいんだよね。どうしたらいいと思う?」
「ブロッコリーとエノキねえ…その組み合わせだったらスープにしちゃったら?ネギかベーコンがあれば一緒に入れちゃって、スープはコンソメでも鶏がらでも」
「スープか…その発想はなかったかも。ありがとう、すごい助かった」

やはり彩ちゃんに相談したのは正解だった。彩ちゃんは「こんな相談ならいつでも受け付けるからね」と笑い、「じゃあね神くん、試験頑張ろーねー!」と手を振って今度こそ駅の構内にその姿を紛れさせて行った。

少しだけそれを見届けてから、俺も京王線乗り場を目指して歩き出す。しばらく人の流れに従いながら足を進め、たどり着いた改札口で良く知り尽くした人影があるのを発見した。

「牧さん」
「おう」

駆け足でその背中に追いつき、肩を叩いて立ち止まらせる。牧さんと帰宅が同じ時間になるのはそうそうある事ではなく、それは牧さんも同意見のようだった。

「珍しいな、この時間にお前とここで会うの」
「そうですね、今日はちょっと遅くなったんで…あっ、晩飯は昨日のカレーと、ブロッコリーとエノキのスープですよ」

忘れないうちに、彩ちゃんから伝授されたメニューを披露しておく。さすがに牧さんには何の脈絡もないセリフに聞こえたようだが、すぐにその表情を和らげて「そうか、わかった」と頷いてくれた。こんなやり取りにはすっかり慣らされてしまった、とでも言いたげな顔つきだった。

「あっ、そうだ。実はさっき魚住からメールが来てて…」

自動改札をくぐり抜けた所で、牧さんがポケットから取り出した携帯の画面を振りかざすようにする。歩きながらなので一瞬ではあったが、何やら小さい文字の羅列が垣間見えた。

「魚住さんから?」
「神が新年会に来るなら、舟盛りに伊勢海老と鯛をつけるけどどうするって聞いてきてるんだけど…」
「えっ…!」

―――この、一つ上の代の人達の無駄な情熱や労力はいったいどこから来るのだろうか。誰か一人ぐらい批判する奴はいないのかよとも思うが、幸か不幸か、そういう事をしそうなメンバーに心当たりがないというのが現実だった。

「嫌だったら無理して行く必要はねえけど」
「別に嫌ってほどじゃないですけど、今回は遠慮しときます…」

軽い眩暈や頭痛に襲われつつも辛うじて俺は答え、彩ちゃんの結婚話については何となしに言うタイミングを逃してしまった。
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プロフィール
嬉野シエスタさんのプロフィール
性 別 女性
誕生日 5月10日
地 域 神奈川県
血液型 AB型