解説(8)

「こたつ内紛争」(2014.12脱稿)

タイトルの由来は、ソウル・フラワー・ユニオンの楽曲から。初冬らしく、こたつでみかんを食べる話を書こうと思い立った時、何かもうこのタイトルしかないと思ってしまいました(笑)。

前回、「解説(7)」で宣言した通り、基本的には甘くてラブラブな話です。が、どこかビターなテイストも加わったのは大人牧神だから…という事ももちろんあるのですが、この話を書いている最中に「ペトロールズ」という激シブなバンド(東京事変のギター・浮雲=長岡亮介のバンド)にハマってしまったからなのでした(≧∇≦*)ペトロールズ、倒れそうなぐらいカッコいいんだけど、決して万人に勧められるタイプの音楽ではない…でもすっげええええカッコいいんです!田島貴男好きな人なら絶対ハマる!!

あと今回、書いていて思ったのは、うちの神って基本的にはしっかり奥さんなんだけど若干爪が甘いなあ…という事( ̄∇ ̄)でもこれは、単に私がそういうタイプの受が好きだからかも…(^_^;)まあ、そんな可愛い神が私は大好きなんですけど!もう一生、牧に可愛がられているといいさ(*´∀`)♪
ところで、何だか壮大な未遂で終わってしまった感のあるこの話、続きはあるのか?あると思います!かつて、別ジャンルで後に続くべきエロシーンをばっさり切り捨てた話を書いた時、友人に「嬉野さん、あと2ページ足りない」と言われた事がある私が言うのも何ですが(笑)。しかも同じ字書きの友人だったため、「あと2ページ」という指摘が的確すぎて笑うしかなかったのですが…まあ、この話の続編はまたいずれという事で(*^o^*)

次回は多分、ちょっとした小ネタをお届けする予定です。「雰囲気エロ」と言いますか、「空気感だけで神をイカせる話」みたいなのを書きたいな〜と思っています。良かったらぜひまた覗きにいらして下さいね♪


12月に入り、急に寒くなりましたね(>_<)でも、寒い時は牧にギュッてしてもらえる神がマジで羨ましいです(笑)。神は絶対、牧を毛布扱いしていると思う!夜中にふと目を覚まして、ぐしゃぐしゃになった布団を掛け直して、牧の腕の中にもう一度すっぽり収まって「もう、寒いんだから…ちゃんとここにいて下さいねっ」とか言ってる神がめちゃくちゃ可愛すぎるんですけど…!ちなみに私は、今は娘と一緒に寝ているのですが、まあ温かくていい事はいいんですけど、寝相が最高に悪いため確実に蹴られます…(-_-;)

こたつ内紛争

一年前、牧さんと暮らし始めて最初の冬が訪れようとしていた頃に、こたつを出す・出さないで軽く揉めた事があった。
俺は、本当に真冬になるまでは必要ないと考えているのに対し、牧さんは「少しでも冬の匂いがしたらすぐ出したい派」であるらしい。そこで、ちょっとした意見の食い違いが生じてしまったのだ。

「えー、まだ11月ですよ?まだ早くないですか?本格的に寒くなってからでいいですって」
「何言ってんだ、こたつを出してこそ初めて来たるべき冬を迎えられるって言うもんだろ?ほら、とっととリビングのテーブル入れ替えるぞ」
「嫌ですよー、こたつなんて出したら…ダメ人間がまた一人増えるっ…」
「な、何だとーっ?!」

結局、元来の先輩の要望が押し通され、まだ「晩秋」と呼ばれている時期に早くもこたつ登場、という事態に相成ってしまった。

「あー、前に千原ジュニアがテレビで言ってたな…部屋の温度設定が合う人とじゃないと結婚しないって。あれって本当の事だったんだ…」

俺が恋愛と結婚の違いについて、しみじみと実感している事など知りもしないもう一人の家主は嬉々としてこたつで過ごし、時には俺を誘い入れて悪戯を仕掛けてきたりする。そして、何だかんだで絆されてしまう俺はこたつ布団の中で甘い声を出させられ、さらに場所を移した寝室でも男の背中に腕を回して快楽をねだる始末であった。

「なっ?やっぱりこたつ出して正解だっただろ?」

さんざん嬲られ、いろいろと絞り尽くされた後に耳元で囁かれる。それとこれとは別問題だ、と不服の意を唱えた所で体の疼きには勝てない。そして俺は、牧さんと俺を繋いでいる箇所をやんわり締め付けながら「まだ足りない」と言い―――最終的に、「こたつを出して良かった」という結論に達してしまいそうなので回想はこれぐらいにしておく。

「何で俺もあれだけイカされた後で、すぐまた欲しいって思っちゃうんだろ…ほんと、少しは自重しなきゃ…」
「どうした神、何を自重するって?」

ぶつぶつと文句を垂れていた所で、いつの間にか牧さんが至近距離にいた事に気づいてはっと我に返る。と同時に、理不尽な感情を抑えきれなくなった俺は思わず捲し立ててしまった。

「もう、牧さんのせいですからね!牧さんが全部悪いんですよっ!」
「えっ、いきなり?俺のせいなの?!」
「…あっ、すみません、何でもないです…」
「今のはとても、何でもねえってツラじゃなかったけど…あのさ、ここにあるみかんって食っていいやつ?」

恐る恐る牧さんに尋ねられ、改めてテーブルの上を見渡す。そこには家にある一番大きなザルに盛られた、二人分にしては大量のみかんが存在感をアピールしている状態だった。

「…あ、いいですよ。それ今日、実家から宅急便で届いたんです。静岡に住んでる叔母さん―――母親の妹から送られてきたとかで、こないだ電話があったんで」
「ふーん、そうか。じゃあ、あっちで食うから」
「えっ、あっちって?…あっ…!」

牧さんがみかんを三つほど掴み取って行った先に目を走らせた俺は、驚きのあまり叫ばずにはいられなかった。いつの間にやらリビングのテーブルは撤去され、先ほどまでなかったはずの家電―――全ての元凶である所の「こたつ」が、テレビ前のスペースを陣取っている。

「えっ、ちょっ…何で?何でこたつ出てるんですかっ?」
「ん?ちょうど掃除も終わったし、ついでだから出しちゃった」
「出しちゃったって…やられた、まだ11月なのにっ…!」

まさか俺の許可を得ず、勝手にこたつを設置するという暴挙に出るとは―――そういう些細な積み重ねがいつか離婚に発展するんだ、とよほど言ってやろうかと思ったがやめてしまった。昨シーズン、ここで繰り広げてしまった数々の痴態が嫌でも脳裏に蘇る。「で、何を自重するって?」と再度牧さんに問われ、慌てて頭の中の映像を打ち消したが遅かった。よくベッドの中で見せる、ひどくたちの悪い笑みがその口元に刻まれている。

「ま…牧さんには関係ないですっ」
「何で?自重する事ねーじゃん。俺、好きよ?こたつの中でのぼせてるお前…」
「あーっ、もうダメ!絶対!それ以上言ったら夕飯抜きにしますよ!」
「それは困る…から、とりあえず黙るわ。不本意だけど」

大きな、骨張った手が伸びてきてぐしゃぐしゃと頭を掻き撫でられる。その仕草に俺が弱いのを知り尽くされた上での行為だった。俺がかつて、掛け値なしに牧さんを信じていた頃の事を思い出す。もちろん今だって信じている事に変わりはないけれど、その意味合い・種類が違うと言えばいいだろうか。あの頃―――高校生の時の牧さんは俺などには全く手の届かない存在で、全てであり絶対だった。それがどういう運命の導きでか恋人になり夫婦となり、現在に至っている。

「お前も一緒に食う?みかん」

今では善良な夫となった牧さんに誘われるまま、俺もみかんを二つほど見繕ってリビングに足を踏み入れる。テレビの真正面の席で牧さんが胡座を掻いたのを見て、斜向かいの席に腰を下ろす。牧さんが早速みかんの皮に親指をめり込ませると、爽やかな酸味を帯びた香気が飛び散って鼻先を掠めた。

「そう言えば牧さん、みかんってヘタの方から剥く派ですか?それともお尻?」

牧さんの長い指によって、くるくると果実が剥かれる様にじっと見入っている。俺の視線に気づいた牧さんが顔を上げ、訝しげに眉根を寄せながらもそれに答える。

「そうだな、あんまり意識した事ないけど…まあヘタの方、かな?お前は?」
「俺はお尻からですね、子供の頃から」
「お前が言うと何かやらしいな」
「言うと思った…」

かく言う俺も、牧さんの手の内で丸裸にされる果実に己を投影していたりするのだが、何気ない仕草で軽く欲情してしまう癖はどうにかならないものだろうか。そんな俺の胸中を知ってか知らずか―――間違いなく見透かしている牧さんが、指先で引き剥がした一房を無言で俺の唇に近づける。オレンジ色に透けたそれにパクリと食らいつくと、薄皮を破って溢れ出た果汁が舌の上で弾け飛んだ。

「んー…ちょっとまだ酸っぱい、かな?」
「あっ、そう?俺は甘すぎるみかんより、少し酸っぱいぐらいの方が好き」

言いながら、牧さんは自分でもみかんを口に放り込み、「ああそうだな、これぐらいの方がちょうどいいかな。俺はね」と満足げに頷いてみせた。

「…俺さあ、時々考える事があるんだけど」

一つ目のみかんを早々に食い終わり、二つ目に手を伸ばした牧さんがためらいがちに切り出す。ちょうどみかんを消費する作業に没頭していた俺は、果肉を喉に詰まらせそうになりながら牧さんを見つめ返した。

「何ですか?」

牧さんは珍しく歯切れが悪いと言うか、何か気の迷いを生じている風だった。普段あまり見る事のない表情に鼓動が速くなるのを感じ、改めて姿勢を正す事でその先を促す。ややあって、牧さんから授けられたのはまるで予想もしていなかった告白であった。

「俺、もうずっと前から…多分、高3ぐらいの時からお前の事が好きだったんだわ」
「急にどうしたんですか?」
「何でもっと早く気づかなかったんだろうな」

柔らかく開かれた牧さんの手が伸びてきて、俺の片頬を優しく包み込む。中指の腹がこめかみや目尻、耳たぶといった部分を順繰りに探り当て、次第にゆっくりと離れていった。

「そうすりゃ、もっとずーっと前からさ…こんな風にお前と二人でみかん食ったり、触ったりキスしたり出来たのにな。くそっ、何つー遠回りな事を俺は…」

舌打ちまで混じる勢いで、こたつの天板に半身を乗り上げた牧さんが俺の唇を奪い去っていく。一瞬だけねっとりと絡み合った、柑橘類の味のする舌が俺の理性を他愛もなく喪失させた。

「そうですよ、何でもっと早く気づいてくれなかったんですか?俺は15歳の時からずっと、牧さんだけが好きだったのに…」

恨みがましく睨んでやると、心底済まなそうな口調で「それは…本当に悪かった」と頭を下げられる。俺としては正直、そう思ってもらえるだけで本望というものだった。俺も決して牧さんを責められる立場にある訳ではなく、一生告げる気もなく墓場まで持っていく覚悟だったからだ。

「でも仕方ないですよね、牧さん普通に女好きですもんね。俺だって一応、大学の時は彼女いたし…」
「あっ、俺、お前のそういう話聞いた事ないかも。聞かせて?」
「そうでしたっけ?でも、全然面白い話じゃないですよ…」

確かに、特筆すべき事は何もなかった。牧さんを好きで居続ける事に苦しくなり、誰か他の人を好きになれば忘れられるのではないかと考えていた時期があったのだ。しかしそれは無為な行動であり、牧さんへの思いはますます膨れ上がるばかりだった。

「牧さんを諦め切れなかったけど、伝える勇気もなかったし―――このままでいいやって何百回思った事か…」
「なあ神、そっち移っていい?」
「聞かなくてもそうして下さい…」

言い終わらないうちにこたつを抜け出した牧さんが俺の背後に回り、しゃがみ込むや否や俺を抱き込んで自分の胸へと引き寄せる。二本の腕で作られる狭い空間は、何物にも替え難い俺だけの世界だった。この幸福感を手に入れるための十数年だったとしたら、俺にとっては決して無駄な年月ではない。

「いや、でも俺が悪いんだよな。気づくチャンスはいくらでもあったはずなんだ、今考えれば」
「やめて下さい、そんな弱気な牧さんなんて牧さんらしくな―――」

ふと、感傷に浸りきっていた思考を途切らせる。俺は深々とため息をつくと、俺のセーターの裾を勝手に捲り、脇腹の辺りで不穏な動きを示している手を渾身の力でつねり上げた。

「…ってー!おまっ、しかも右手って…!商売道具なのにっ…」
「自業自得でしょ?すっげえしんみりしてた所だったのに…このドスケベっ」
「何だよ、だってしょうがねえじゃん。こんな据え膳、食わずに我慢するだけなんて俺は絶対無理…」

懲りない右手がみぞおちから胸元へと忍び寄り、Tシャツの下で尖り始めた突起を爪先で擦る。うっかり喉の奥をひくつかせてしまったのを唾を飲み込んで堪え、「ダメ、今は…」とどうにか声を絞り出した。

「もう4時だから、そろそろ買い物行って飯の支度しないと…でも、夜になったら―――」

そこでようやく牧さんの腕が緩められ、俺は張り詰めていた息を吐き出しながら腰を浮かせて立ち上がる 。床に手をつき、上体をねじ曲げて俺を仰ぎ見る牧さんに細胞を焼き尽くされるようだった。

「夜になったら?」
「夜になったら、です」
「わかった、夜な?」

律儀に念を押され、黙って首を縦に振る事で応じる。早く夜にならないかな―――と、今し方の乾いた指の感触を肌でリピートしている事はあくまで内密だが、言うまでもなく悟られている。

「じゃあ、車出すから着替えてくるわ」

俺に続いて立ち上がった牧さんが、食い散らかしたみかんの残骸を掻き集めて手のひらに握り込む。そうして俺の横をすり抜ける際、全てを狂わせる薄茶色の瞳がもう一度俺を捕らえ、「早く夜にならねえかな…」とボソリと呟いた。
prev next
プロフィール
嬉野シエスタさんのプロフィール
性 別 女性
誕生日 5月10日
地 域 神奈川県
血液型 AB型