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Twitter140字短文まとめ(5)

Twitterで随時更新中の、140字短文まとめ第5弾です。
文章修業の一環として、「診断メーカー( shindanmaker.com )」の140字SS用腐向けお題で引き当てたネタに基づいて短文を書いています(診断メーカーが元ネタじゃない物もあり)。
短文は随時こちらで更新しています。→ twitter.com



「牧さん、まだ寝ないんですか?」と神に尋ねられ、「んー、あともう少しな」と答える。
「じゃ、俺は先に寝てますね」と返された直後に視界が薄暗くなり、ほんの一瞬唇を掠め取られる気配を感じた。足早にリビングを立ち去る神を見送り、己の口元を指でたどりながら惰性でつけていたテレビを消した。

(お題「おやすみのキス」2015.9.14)



「明日は…」牧さんの誕生日ですね、と続けるべきセリフを飲み込む。「晴れますかね」などという無意味な問いに差し替えたのをどう思ったのか、「そうだな」と牧さんが眠たげな声で応じる。実際眠いのだろうと会話を切り上げようとした俺に、牧さんの唇から優しい言葉が放たれた。「いつもありがとな」

(お題「明日になったら」2015.9.17)



最初は同じコートに立てればいいというだけの、純粋な願いに過ぎなかった。それが関係が深まるにつれて欲深さもエスカレートし、そして今―――
「どうしてほしい?」と吐息混じりに促され、俺は微かに我が身を強張らせた。唾液を飲み込み、褐色の肌に手を添えながら震える声で懇願する。「イカせて…」

(お題「貪欲」2015.9.20)



「今日、何の日かわかりますか?」と言った神の、心底照れ臭そうな様子が全てを物語っていた。わざわざ言及するのが女子みたいで恥ずかしい…といった所か。真摯な眼差しと共に神に向き直り、「付き合い始めてちょうど一年だよな?」と答える。顔を赤らめ、瞳を伏せた神に触れるだけのキスを施した。

(お題「一周年」2015.9.24)



ガタン、というスーツケースの重厚な音で我に返る。もう何十回、遠征に向かう牧さんを見送り続けてきただろうか。いつもならごく普通に「いってらっしゃい」と告げる所だが、不意に思いついたセリフを口に出してみる。「留守は守りますから」やや驚いたように、褐色の瞳を見張った牧さんの姿があった。

(お題「おるすばん」2015.9.30)



冷え切った夜気に向かって盛大なくしゃみをした俺に、牧さんが「寒いか?俺のマフラー巻けよ」と言いざま自分のマフラーを解いてくれた。ありがたく受け取って自分の首に巻き付けると、「よく似合ってる」という優しげな声が響く。汗や体臭、香水の入り混じった牧さんの匂いがあらぬ欲情を生み出した。

(お題「似合ってますよ」2015.10.13)

解説(20)

「境界線を越えるな」(2015.10脱稿)

牧神なんだけど、神は登場しなくてひたすら牧と武藤がグダグダ語っている話(笑)。牧とは違うベクトルで武藤が好きな私が、とにかく牧と武藤しか出てこない話が書きたい!という一心で書きました(*´∀`)今回、念願叶って非常に満足です!
牧は、武藤を始めとする三年生チームには絶対に雑な扱いをされていてほしい!というのが私のポリシーだったりします( ̄∇ ̄)ごく普通の一般男子的な牧、萌える…!やっぱり好きだわ武藤、っていうか三年生…

今回の話、先日発売されたペトロールズのアルバムを聴いたら一気に筆が進みました。ありがとうペトロールズ〜!最高だよペトロールズ!ちなみにタイトル「境界線を越えるな」は、私が牧&武藤の話を書くならこのタイトルで!というのをずっと温め続けていたんですね( ´艸`)今回書けて本当に良かった!あと、酒については私は全く詳しくないため、芋焼酎派の私の旦那にそれとなく聞いた事をここで追記しておきます。

次回も、ペトロールズのアルバムを聴いて思いついた、非常に趣味に走った牧神をお届けしたいと思います。今度はちゃんと神も登場するのでご安心ください(*^o^*)ではではまた…

境界線を越えるな

何か怪しいな…という気持ちを露わにしながら、俺は目の前の男を凝視している。この男とはかれこれ、十年以上の付き合いになるだろうか。高校時代は強豪、しかも県下一と呼ばれるバスケット部に所属し、共にレギュラーとして数多の試合を戦ってきた仲間だ。そんな、向かいの席に着いている男―――牧が、あからさまに怪訝そうな表情で「何だ武藤、俺の顔に何かついてるか?」と尋ねてきた。

「あーそうだな、目と鼻と口がな」
「お前にしてはつまんねえな」
「だな。俺も今、すっげー後悔してる…」

如何にもがっくりと肩を落としつつ、しかし大して落胆した訳でもなくグラスビールに手を伸ばす。俺はいわゆる「ビール党」で、飲みの席ではずっとビールでいいと思っているぐらいなのだが、牧は既に麦焼酎のロックに口をつけている。しかも「炙りしめ鯖」を肴に、だ。

「しかも『百年の孤独』のロックだもんなー。ったく、飲ん兵衛にも程があるっつーか…」
「ん?お前も飲むか?」
「や、いいわ。俺、焼酎は芋派だから」
「ふーん」

何故、牧と差しで飲む事になったのか―――まあ、「俺が誘ったから」の一言で済む話なのだが、どうも牧の身辺に「何か」があったらしく、それを探り出してこいという藤真先輩の仰せに従った次第だった。「藤真が直に聞きゃいいじゃん」というもっともな意見には、「俺が聞いて、牧がまともに答えてくれる訳ねーだろ」と即答された事は言うまでもない。

藤真が牧に、バスケ以外では信用されていないのは自業自得だとして、俺だったら牧が素直に応じてくれるかと言えば少なからず疑問が残る。まず、この男は自分の事をベラベラ他人に話さない。人当たりはそう悪くはないのだが、やはり「優しそう」と言われるよりは「怖い」と称される方が多いだろう。それなのにやたらと女が寄ってきて、俺の知る限りでは中学ぐらいからずっと女が途切れた事はない。しかし今―――。

「牧が彼女と別れたの、今年の初めぐらいだよな?ほら、壮絶な修羅場の末にさ…」

嫌な顔をされる事は百も承知で、改めてそう確かめてみる。案の定、不機嫌極まりないといった目線を俺へと寄越してきたが、それも俺にとっては既に見慣れた代物だった。
「壮絶な修羅場」という言葉で集約してしまったが、あの時ほど自分が牧じゃなくて良かったと安堵した事はない。当時の彼女とはけっこう長く…確か五年近く付き合っていたはずだった。何となく二人は結婚まで行くんじゃねえかという予感はあったし、本人もそんなニュアンスの事を口にしていた気がする。それが別れてしまった―――しかも牧から別れを切り出した、と聞いて顎が外れるほど驚かされた。

「あん時、俺にも何回か連絡あったもんな。紳一に別れたいって言われたんだけど意味わかんない、武藤さん何か知らないですかって。よっぽど切羽詰まってたんだろうなあ」
「それは…悪かったな。迷惑かけた」
「まあ、それは仕方ねえっつーか別にいいんだけど…」

やけに従順に謝ってくる牧に違和感を覚えつつ、俺は箸を持ち直して炙りしめ鯖を摘まみ上げた。パクリと口に放り込み、しみじみと美味さを噛み締めた後にゆっくりと視線を上向ける。

「牧。お前、新しい女出来ただろ」
「……」

牧は無言のまま、色素の薄い瞳をわずかに丸く見開いてみせただけだった。図星だったのか的外れだったのか、容易にはわかりかねるほどの変化だ。これは間違いなく前者だ、と踏んだ俺は即座に椅子を引いて前のめりの体勢を取った。ここ半年あまり、牧にしては珍しくフリーだったがついに陥落した、という事だろうか。

「…で?」
「何だよ」

苦虫を噛みつぶしたような、とは正に今の牧みたいな状態の事を指すのだろう。牧とは伊達に長い付き合いではないので、こんな仏頂面とも腐るほど対峙させられている。清田を始めとする後輩連中からは「武藤さん、くっそ機嫌悪そうな時の牧さんとよく一緒にいられますね」と感心される事が多々あるが、「あー、あれは牧のデフォだから」と返すと大概は納得されるのが常だった。

そう言えば、あいつからはそんな愚痴を聞いたが事ないな…と俺は、今この場にいない後輩の顔を思い浮かべる。一つ下の神宗一郎は、OBの集まりや飲みの席などでは牧のお世話係を請け負ってくれるという、実に奇特な男だった。牧と同様に余計なお喋りを好まず、どんな事態にも冷静に対応してくれそうなイメージから自然とそんな役割を担わせている。

あえて「イメージがある」と付け足したのには理由があり、実は去年のOB会の暑気払いで神が珍しく深酔いした事があったのだった。あの時は牧が、神を高円寺の自宅まで送り届けたようだが大丈夫だったのだろうか。まあ俺が心配する事でもないか…と改めて牧に向き直り、牧が最も嫌がるセリフを紡ぎ出す。

「どこで知り合ったのよ。つーか、いつから付き合い始めた?」
「俺、まだ何も言ってねえんだけど」
「わかるってそんなの、俺の目はごまかせねえって知ってんでしょ?」

牧は答えず、相変わらず眉間に縦皺を刻み込んだままグラスの中身を一息に呷った。周囲の喧騒と、氷とグラスのぶつかり合う音だけが二人の間を埋めている。およそ並みの人間では堪えられそうもない時間だったが、意外にも痺れを切らしたのは牧が先だった。「仮に、俺に新しい女が出来たとして」と言い置いてから通りがかった店員を呼び止め、「すみません、獺祭発泡にごりで」とオーダーする。

「あ、もうポン酒に走りやがった」
「何でお前にいちいち報告しなきゃいけねえんだ」
「そらそーなんだけどさあ…」

牧の言う事はもっともだが、俺にも意地という物がある。今まで牧の女関係は全て把握し続けており、その記録をここでストップさせる訳にはいかないのだった。牧は俺をチラリと見やり、やれやれ、とばかりに両肩をすくめてみせる。

「そう言や、武藤から俺にその手の報告って全然ねーよな」
「…うっせ!痛いとこ突くんじゃねー!」

牧の頭をはたく真似をした俺の右手は見事に空を切り、大袈裟に俺の攻撃をかわした牧の髪がバサリと揺れた。さらに「大学時代に一回あったぐらいか?」と追い討ちをかけられ、慌てて「俺の事はいいんだよっ」と睨み返す。このまま形勢が逆転してしまっては、本末転倒もいい所だ。

その後、何度か牧の本心を聞き出そうと試みたものの、牧のくせにやけに歯切れが悪いと言うか、曖昧な返事ではぐらかされるばかりだった。今までなら、この時点で彼女について何らかの情報を導き出せているはずなのに、今回ばかりは恐ろしくガードが堅い。何故だ。俺のこの、巧みな話術を以てしても牧の鉄壁を突き崩せないとは…やがて俺たちのテーブルに「獺祭発泡にごり」が運ばれてきたので、ふと思い立って全く別の話題を振ってみる。

「そうそう、知ってた?神が…」
「えっ?」
(あれ?)

ささやかな違いだったが、牧の声音にある種の動揺が走ったのを聞き逃す俺ではなかった。神と何かあったのだろうか、と案じつつ立ち去ろうとした店員を慌てて引き止め、「あーお姉さん、黒霧島水割り。あと比内地鶏のたたきね」と矢継ぎ早に畳みかける。

「黒霧の水割りか…ビール党のお前にしちゃ珍しいな」
「何か、急に飲みたい気分になったから。…あのー、神、こっちに戻ってきたんだよな?5月ぐらいに…」

既に周知と思われる事実を提示し、牧の反応を窺う。やはり牧の眉根が、ほんの一瞬寄せられた気もするし気のせいかも知れない。神は去年、OB会の暑気払いの直後から期限つきで広島へ転勤しており、二ヶ月ほど前に東京へ戻ってきたと聞いていた。清田や小菅あたりは会ったらしいが、俺はLINEで一、二度連絡を取ったきりでまだ直接は会っていなかった。

「会った?神に」
「あー、俺はまだ…いや、会ったな。うん」
「どっちなんだよ」
「会った」

すっげー怪しい―――危うく、そんな言葉が喉から出かかったのをどうにか収める。気を取り直し、何気ない風を装いながら「へー、そうなんだ?知らなかった」と言ってやると、これまたやけに白々しい調子で「そうだっけ?」と返された。やはり怪しい。これが怪しくなくて、いったい何が怪しいと言うのか。

「いつ会った?」
「先週かな…」
「すげー最近じゃん。どこで会った?」
「辻堂…」

会話の端々に面倒臭さを滲ませるようになった時が、核心を突かれている何よりの証拠だった。牧本人は気づいていないだろうが、この癖は十数年前から全く変わる事なくもたらされ続けている。牧のそういった一面を、垣間見られる立場にある自分が少しだけ誇らしかった。

「辻堂って何、海南行ってたの?何だよ、俺も誘ってくれりゃ良かったのに」

椅子にもたれかかって背筋を反り返らせ、天井に突き上げた手を頭の後ろで組む。それに対しては「あー、そうだな…悪かったな」と不明瞭な声で呟かれるばかりだった。そこへ、威勢のいい店員の声と共に黒霧島の水割りと比内地鶏のたたきが到着し、やや張り詰めていた空気が解ける。心なしか牧もホッとしたような息を漏らしていて、思わず腹の底で「こいつ命拾いしたな…」と毒づかずにはいられなかった。

「あ、やっぱ美味いなー黒霧。何か久しぶりだわ」
「そりゃ良かったな」

すっかり俺の追及を逃れた気になっている牧に、「お前も食えよ」と比内地鶏の皿を指し示す。「お、サンキュ」と箸を伸ばしかけた牧の動作がピタリと止まった。「どうした?」と聞くより先に、「悪い、ちょっとメール…」と牧がポケットから携帯を取り出す。誰からだ、と詮索するまでもなく神からだと察知した。ディスプレイを眺める牧の、閉じられた口の端に若干の緩みが生じている。

「メール、神から?」
「うん、まあメールっつーかLINEだけど…」

何故俺が「神から」だとわかったかについて、牧の方では考えが及んでいない様子だった。それも通常ならあり得ない状況であり、俺の中で急に全ての回路が開けたような気がした。あ、「女」じゃねえんだ、という直感が俺の頭に降り注ぐ。まるで凪いだ海のように、静かで穏やかな牧の目を俺は今まで見た事がなかった。正直「穏やかな牧」というのも薄気味悪かったが、事実なので仕方がない。もし、牧をそうさせている張本人が神だとしたら―――いや、まだ確定するには早すぎる。これまで女が切れた事のない牧に限って、そんな話があるのだろうか。

「神、こっちに呼んだら?」
「今日は無理だな。残業らしい」
「そういう連絡?」

牧の指がディスプレイの上で素早く滑り、恐らくは「了解」とでも返信しているのだろう。俺は再度、温和で物腰が柔らかいと評判の後輩の顔を脳裏に蘇らせた。強いて表現するなら「癒し系」か、と思う。ストイックで厳しい世界に生きるアスリートだからこそ、最強の癒しという物が必要なのかも知れない。あくまで憶測だが。

「ところで武藤、何で今の…神からだってわかった?」

心底不思議そうな問いかけに、俺は勝手に巡らせている想像を停止して牧を見つめ直した。それは俺にも上手く説明できそうにない。頬を引きつらせながら短い吐息を漏らし、「さあ、何でだろうな?」と答えてやるのがせいぜいだった。

「あー、参ったなあ。藤真に何て報告しよっかなあ」
「え?藤真?」
「いや、何でもねえわ。こっちの話…」
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プロフィール
嬉野シエスタさんのプロフィール
性 別 女性
誕生日 5月10日
地 域 神奈川県
血液型 AB型