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つくカケSS - 花の散り咲く日・エピローグ

自作ゲーム『創るカケラとあなたの夢』の補完的な過去編SSのエピローグです。これでようやく一幕。
後編からどうぞ。


**********


討伐戦が終幕し、数日経った。

島に徘徊していた狩る者が離れている母体から海水の供給を受けられる新種であったことなどの事実が解明されていく中、花の国の大きな庭に立ち尽くし空を見上げる咲香の姿があった。
この数日間、彼女が用事もなく自分から城の外に出ることはなかった。外に出た今でさえ、喪服に身を包んで憂いを帯びた表情を空に向けている。

「咲香……」

声がした方に咲香が無言でゆっくり振り向くと、黒いドレスを身にまとったコフィンローズが、悲しげな表情を咲香に向けていた。

「ローズ。ずっと……わるかったな」
「……構わぬ」

意気消沈していた咲香を傍で支えていたのは彼女である。
しかし彼女でさえ、この数日間の咲香に言葉をかけることは叶わなかった。

「親父なぁ、強ぇからって無茶ばっかりしやがってさ、人の上に立つどころか生きてるのさえ不思議なくらいだったよ」
「……」
「あたしもなんで覚悟してなかったのかな」
「……出来ていたとて、悲しいだろう」

コフィンローズが遠慮がちにつぶやくと、咲香は「そうだな」とうなずきながら言葉を続ける。

「親父は……たくさん守ったんだよな」
「ああ」
「本当、すげーよ。やっぱ、親父はあたしの憧れだ。今も変わらねぇ」
「咲香っ……」

コフィンローズが一瞬何かを言いたげに口を動かすが、すぐに唇を噛み締めて震わせ、ゆっくりと口を開く。

「 そう、だな。わらわも、凍季殿を、あの儚くも尊いお方を……心から、お慕い……していた 」

コフィンローズはまた、咲香に術式を渡した時のようなか弱い少女の顔で言葉をこぼす。

「ありがとな。お前がそう思ってくれてたから親父は、ああなった後でも笑ってられたのかもな」
「……うつけが! 貴様がいたからであろう! わらわなど……わらわ、など……っ」

涙をこらえるコフィンローズの怒鳴り声に覇気は一切無い。唇を噛み締める少女の姿に、咲香は微笑みかけながら言葉を続ける。

「だから、あたしだけじゃねぇんだって。娘のあたしが言うから間違いないだろ。ローズに、ロードのおっさんやカグラのババアもいて、国のみんなもいて……親父は、なんだかんだで幸せもんだったのかもな」

そう言ってから咲香は、後方─進んでいけば凍季と華春の墓に着く方を向いた。

「でも、あたしはもう親父みたいには出来ねぇ」
「……咲香?」
「だってよぉ、」

再びコフィンローズの方に向き直りながら、咲香は自分の胸元を押さえて涙をこぼす。

「こんなに……胸が痛ぇんだ……! ローズ、お前らにまでこんな、痛ぇ思いさせるなんて、あたしには、辛すぎんだよっ……!!」

溢れる涙を止められない咲香に続くように、コフィンローズの頬にも雫が伝う。

「ああ……そうだ、咲香。お前までいなくなったら……わらわ達は……! 頼む、生きろ……生きてくれ!」

咲香を気遣って言えなかった、コフィンローズの本音がこぼれだした。

それから、二人は涙が涸れるまで共に泣き続けた。




それからしばらくして、咲香とコフィンローズは涙はおさまったものの目の赤みがまだ引いてないままで、墓に歩を進めた。墓までの道のりは明るい日が差す、美しく穏やかな森に出来た道である。
道中は無言だったが、もうじき墓が見えるだろう所に来て、コフィンローズが口を開いた。

「華春殿の墓には、枯れない梅の花が咲いていたな」
「ああ。親父が入ったから、今度はヤツデの花も咲くんじゃないか」
「ヤツデ、冬の花か」
「髪飾りは別の花だったけど槍にはくくりつけてたからな。きっと普通のヤツデに負けないくらいでっかい花が……」

墓にたどり着き、その様相を見た咲香の言葉が止まる。

「咲香? ……こ、これは……」

咲香に続き、墓を見たコフィンローズも驚きの色を示す。

凍季と華春の眠る墓には、梅とヤツデが両脇を彩り、真ん中の土が露出している部分から小さな白い花が咲いていた。

「この花は……ご夫婦が、互いに揃えて髪に付けていらした……」
「スノードロップだ」

そう言って咲香は長身を屈め、スノードロップをまじまじと見つめる。
素朴で可愛らしい、雪のような花。

「冬と春の間に咲く花だ。まったく、親父もお袋も仏になってまでのろけやがって……」

咲香は少女らしい可憐な笑みをこぼす。
コフィンローズはその様を微笑みながら見つめ、言葉をかける。

「この花の花言葉はわかるか」
「ああ、『希望』だよ。『逆境の中の希望』ってのもある」
「やはり良き花だな。ご夫婦に似合いの花だ」

咲香はローズの言葉に満悦した様子で、また墓石の方を見上げる。

「希望……あたしもなれるかな」
「それは知らぬ。精進せよ」
「なんだよ、やっぱ可愛くねぇオバハンだな」
「ふん、貴様こそ可愛いげのない小娘だろうが」

軽口もほどほどに、二人は静かに祈るように手を合わせ、墓に拝む。
数分ほど経ってから顔を上げ、再び庭に戻る道へと進んでいった。

(親父、お袋……あたしは生きうる限り生きるよ。全力で生きて、みんなの未来を守って、新しい花も咲かせてやる。だから、安心して寝てろ)



夫婦の眠る墓に静かな風が吹き、美しい花々を優しく揺らしていた。





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