スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

【ミニSS】嶺猫さんのぼやき。その2。

『創るカケラとあなたの夢』と『ミドリカ・コメディー・ビザールショー』に登場した嶺猫が誰かと会話しながら中二病(高二病?)を披露する日常系会話ミニSSです。 かなり青臭いので苦手な方は注意。

*****************

大学のお昼。


花音「うー……」

嶺猫「どうした、食事中のケータイは行儀が悪いぞ」

花音「私のイラスト、ほとんど見てもらえないなぁって……」

嶺猫「ああ、イラストサイトに投稿していると言ってたな」

花音「うん、でも全然パッとしない……同じくらいに始めた人はめいっぱい伸びてるのに」

嶺猫「ふむ」

花音「数字がほしいわけじゃないけど……やっぱりもっと見てもらいたくなるし、人気のある人に……嫉妬とか、しちゃうし。私っていやしいのかなぁ」

嶺猫「嫉妬も自己顕示欲もごく普通の人間らしい感情だろう。そこで自身を向上させる努力もせずに相手を潰すことしか考えなかったり卑怯な手を使って名声を得ようとしたりすると醜悪なものになってしまうんだと思う」

花音「ん、まぁ……それは確かに」

嶺猫「だが考えても見れば、妬ましくなることも名声を欲する気持ちも、正しく行動にうつせば目的達成へのモチベーションに変わる。必ず全員が大物になれるわけではないが、人生の中で精神的充足を得ることなどにも繋がると思うのだよ」

花音「んー……要するに、人気者になりたいから魅力的になれるように努力や工夫をしよう、みたいな?」

嶺猫「ああ。一見、負の感情に見えてもやり方次第でどうにでもなる。だからお前はいやしくなんかないさ」

花音「ありがとう。……なんていうか嶺猫ちゃん、最近ますます大人になったような感じがするね」

嶺猫「どういう意味だ?」

花音「あのね、嫌なこと言っちゃうかもしれないけど、昔の嶺猫ちゃんは怒りっぽくて、いつも悪者は断じて許さん! 腹立たしい! って感じだったよね」

嶺猫「ぐ……」

花音「今も正義感……っていうのかな、それは変わらないけど、そういうこと話す口ぶりも見方も落ち着いてポジティブになってきて、そこが大人になってきたって感じがする」

嶺猫「そうか、自分だとよくわからないが……嬉しいよ。お前もあれだ、その、いろいろと熱く語るのが大人しくなってきたよな」

花音「え、あ、そ、それは(ひょっとして萌え語りのこと!?)」

嶺猫「ま、まぁ、好きなことに熱くなれるのは良いことだが、音量が気になっていたというか、その」

花音「ちょ、ちょっと、その時はホントにごめ……というかやめてぇ! それに、わ、私は嶺猫ちゃんよりはうるさくなかったよっ!」

嶺猫「なんだと? お前の方が音量が大きかっただろうが!」

花音「むっ、嶺猫ちゃんの方がみんなびっくりしてたじゃんか!」

嶺猫「お前なんか周囲が困惑していただろうが!」

花音「それだって嶺猫ちゃんもみんな反応に困ってたもん!」

嶺猫「ポジティブならいいって話じゃな……ん?」

花音「せ、先生?」

先生「今は二人ともうるさいしみんな困ってる」

花音「あっ」

嶺猫「あ……」

花音「……」

嶺猫「……」

嶺猫&花音「「ごめんなさい」」


花音「……嶺猫ちゃん」

嶺猫「なんだ」

花音「お互いに黒歴史だってわかってることで張り合うのはさすがに空しいね」

嶺猫「……そうだな」



おしまい。

【ミニSS】嶺猫さんのぼやき。その1。

『創るカケラとあなたの夢』と『ミドリカ・コメディー・ビザールショー』に登場した嶺猫が誰かと会話しながら中二病(高二病?)を披露する日常系会話ミニSSです。
かなり青臭いので苦手な方は注意。

*****************

本乃絵さん家の夜。


嶺猫「つくね。そのストラップ、こんな時間まで作ってたのか」

つくね「うん……どうしてもこの辺りがうまくいかなくて。明日までに作らなきゃ」

嶺猫「徹夜か、それなら私のドリンクを一本やろう」

つくね「ありがとう。もっと早く作れたら良いのになぁ」

嶺猫「そうだな、早いことは今後においても良いことだろう……だがな、近頃思うのだよ」

つくね「?」

嶺猫「早さを求めるあまり、大切なものまで犠牲にしていないかと。それを良しとする時もあるだろう、しかしそればかりではいずれ全て失う。立ち止まるよりもはるかに遅い」

つくね「……???」

嶺猫「ああ、すまない。要するにお前のペースで良い、ゆっくりとでもまっすぐ進んでいけば早さなら後からついてきてくれるだろう。それから毛布を被って暖房もつけろ、風邪なんか引いたら元も子もないぞ」

つくね「うん。お姉ちゃん、ありがとう」

嶺猫(……誰だって完璧な人間になることなど到底不可能だろう。ましてこんな世の中だ。それでも、だからこそ、できうる限りで前を見据えていたいものだ)



おしまい。

つくカケSS - 花の散り咲く日・エピローグ

自作ゲーム『創るカケラとあなたの夢』の補完的な過去編SSのエピローグです。これでようやく一幕。
後編からどうぞ。


**********


討伐戦が終幕し、数日経った。

島に徘徊していた狩る者が離れている母体から海水の供給を受けられる新種であったことなどの事実が解明されていく中、花の国の大きな庭に立ち尽くし空を見上げる咲香の姿があった。
この数日間、彼女が用事もなく自分から城の外に出ることはなかった。外に出た今でさえ、喪服に身を包んで憂いを帯びた表情を空に向けている。

「咲香……」

声がした方に咲香が無言でゆっくり振り向くと、黒いドレスを身にまとったコフィンローズが、悲しげな表情を咲香に向けていた。

「ローズ。ずっと……わるかったな」
「……構わぬ」

意気消沈していた咲香を傍で支えていたのは彼女である。
しかし彼女でさえ、この数日間の咲香に言葉をかけることは叶わなかった。

「親父なぁ、強ぇからって無茶ばっかりしやがってさ、人の上に立つどころか生きてるのさえ不思議なくらいだったよ」
「……」
「あたしもなんで覚悟してなかったのかな」
「……出来ていたとて、悲しいだろう」

コフィンローズが遠慮がちにつぶやくと、咲香は「そうだな」とうなずきながら言葉を続ける。

「親父は……たくさん守ったんだよな」
「ああ」
「本当、すげーよ。やっぱ、親父はあたしの憧れだ。今も変わらねぇ」
「咲香っ……」

コフィンローズが一瞬何かを言いたげに口を動かすが、すぐに唇を噛み締めて震わせ、ゆっくりと口を開く。

「 そう、だな。わらわも、凍季殿を、あの儚くも尊いお方を……心から、お慕い……していた 」

コフィンローズはまた、咲香に術式を渡した時のようなか弱い少女の顔で言葉をこぼす。

「ありがとな。お前がそう思ってくれてたから親父は、ああなった後でも笑ってられたのかもな」
「……うつけが! 貴様がいたからであろう! わらわなど……わらわ、など……っ」

涙をこらえるコフィンローズの怒鳴り声に覇気は一切無い。唇を噛み締める少女の姿に、咲香は微笑みかけながら言葉を続ける。

「だから、あたしだけじゃねぇんだって。娘のあたしが言うから間違いないだろ。ローズに、ロードのおっさんやカグラのババアもいて、国のみんなもいて……親父は、なんだかんだで幸せもんだったのかもな」

そう言ってから咲香は、後方─進んでいけば凍季と華春の墓に着く方を向いた。

「でも、あたしはもう親父みたいには出来ねぇ」
「……咲香?」
「だってよぉ、」

再びコフィンローズの方に向き直りながら、咲香は自分の胸元を押さえて涙をこぼす。

「こんなに……胸が痛ぇんだ……! ローズ、お前らにまでこんな、痛ぇ思いさせるなんて、あたしには、辛すぎんだよっ……!!」

溢れる涙を止められない咲香に続くように、コフィンローズの頬にも雫が伝う。

「ああ……そうだ、咲香。お前までいなくなったら……わらわ達は……! 頼む、生きろ……生きてくれ!」

咲香を気遣って言えなかった、コフィンローズの本音がこぼれだした。

それから、二人は涙が涸れるまで共に泣き続けた。




それからしばらくして、咲香とコフィンローズは涙はおさまったものの目の赤みがまだ引いてないままで、墓に歩を進めた。墓までの道のりは明るい日が差す、美しく穏やかな森に出来た道である。
道中は無言だったが、もうじき墓が見えるだろう所に来て、コフィンローズが口を開いた。

「華春殿の墓には、枯れない梅の花が咲いていたな」
「ああ。親父が入ったから、今度はヤツデの花も咲くんじゃないか」
「ヤツデ、冬の花か」
「髪飾りは別の花だったけど槍にはくくりつけてたからな。きっと普通のヤツデに負けないくらいでっかい花が……」

墓にたどり着き、その様相を見た咲香の言葉が止まる。

「咲香? ……こ、これは……」

咲香に続き、墓を見たコフィンローズも驚きの色を示す。

凍季と華春の眠る墓には、梅とヤツデが両脇を彩り、真ん中の土が露出している部分から小さな白い花が咲いていた。

「この花は……ご夫婦が、互いに揃えて髪に付けていらした……」
「スノードロップだ」

そう言って咲香は長身を屈め、スノードロップをまじまじと見つめる。
素朴で可愛らしい、雪のような花。

「冬と春の間に咲く花だ。まったく、親父もお袋も仏になってまでのろけやがって……」

咲香は少女らしい可憐な笑みをこぼす。
コフィンローズはその様を微笑みながら見つめ、言葉をかける。

「この花の花言葉はわかるか」
「ああ、『希望』だよ。『逆境の中の希望』ってのもある」
「やはり良き花だな。ご夫婦に似合いの花だ」

咲香はローズの言葉に満悦した様子で、また墓石の方を見上げる。

「希望……あたしもなれるかな」
「それは知らぬ。精進せよ」
「なんだよ、やっぱ可愛くねぇオバハンだな」
「ふん、貴様こそ可愛いげのない小娘だろうが」

軽口もほどほどに、二人は静かに祈るように手を合わせ、墓に拝む。
数分ほど経ってから顔を上げ、再び庭に戻る道へと進んでいった。

(親父、お袋……あたしは生きうる限り生きるよ。全力で生きて、みんなの未来を守って、新しい花も咲かせてやる。だから、安心して寝てろ)



夫婦の眠る墓に静かな風が吹き、美しい花々を優しく揺らしていた。





つくカケSS - 花の散り咲く日・後編

自作ゲーム『創るカケラとあなたの夢』の補完的な過去編SSの後編です。長くなったので後編ももう一回分けます。
前編からどうぞ。


**********


『カタマリの島』。

海の上にある、巨大な無人島の呼び名だ。
『カタマリユリ』と呼ばれる巨大な百合の花が中心に美しく咲いていることから名付けられた。しかし知的生命はおらず、現地生物の中には非常に狂暴な種族もいるため、好き好んで入ろうとする者はまずいない。

そこに、幼い頃の咲香は「強くなりたい」という単純な理由から一人で入った。
今でこそ次期当主として申し分ない実力を備えている彼女だが、7歳ほどの少女が獰猛な生物に挑むなど結果が見えている。案の定、危ないところで凍季に助けられ、きつく叱られた。
親として当然の反応、しかし、幼い咲香は反論を投げかけずにいられない。

「親父はいつも無茶ばかりするじゃんか。だから、強いんだろ」

花縁 凍季は、君主でありながら前線に赴くことが多いことで有名な武人である。しかし、その戦い方は己を犠牲に他者を守ろうとするようなものであるがために、 他国の君主達などから『命を知らない男』と囁かれてしまっている。咲香の行動は、そんな父の背中を見ていたがためのものだろう。

半べそをかきながらキッと睨みつけてくる咲香に、凍季は困ったように、低い位置で結んだ長髪を軽く掻いてから「ちげーよ」と言い放つ。

「俺が強いのはそんな理由じゃねぇし、第一、お前がいなくなんのはダメだ。俺が死んだ時に誰がみんなを支えるんだよ」

真剣に返す凍季だったが、咲香はより強く睨み付けた。

「……わけわかんない。親父もいなくなったらダメに決まってるじゃん。ロードおじちゃんもカグラおばちゃんも、ローズ姉ちゃんだって、ずっと親父のこと心配してんのわかってんだろ!」

幼い瞳が涙に揺れる。
凍季は少し間を置いて、覇気がない声色でつぶやいた。

「咲香……わりぃな、俺はもうこんな風にしか生きれねぇ。一番愛してた華春(かはる)がいなくなってからは尚更だ。お前は、俺みたいなヤツにはなるんじゃねーぞ」

なんて父親だ、と幼心に感じながらも、咲香はずっと凍季が大好きであった。

今も昔も、それは変わらない。



草木の生い茂る無人島に着いた咲香達がまず驚いたのは、狩る者の憔悴ぶりと、第二陣で出たのであろう兵士達のうち数十人もが重軽傷を負いながらも狩られずに一命を取りとめていたことである。
咲香達は疑問を抱くより先に負傷兵の保護と手当をしながら、口が聞ける者からは情報を聞き出した。

「狩る者に追い詰められてもうダメかと思った時、胸のあたりで何かが光りました。その瞬間、柔らかな光のバリアが私を包み込み、数分ほどですが狩る者の攻撃から守ってくれたのです」

その後に取った行動こそ様々であったが、ほとんどの兵士は同じようなことを口にした。同時に、狩る者の憔悴ぶりについては「数時間前から徐々に弱り出した」と語る。

あまりに都合がいい事態に全員がやや困惑しながらも歩を進める。そんな中、咲香は先陣を切りつつ少し考え事をしていた。

(狩る者の弱り具合、もしかすると母体が討伐されたから……いや、母体がなくなって子まで弱るなんてケースは聞いたことがない。しかし今回は狩る者が海水無しでこのだだっ広い島を歩き回れたりとそもそもがイレギュラーだらけだ、有り得なくは無いかもしれん。仮にそうだとして……)

真面目な面持ちから一瞬、強い不安の色を滲ませる。

(第二陣の内の誰かが母体を討ったのか? あの面子の中で一番の手練れは親父だろう。だが、兵士達の言う術式は恐らく全部親父のだ。自動護符よりちょっと強い程度のものとはいえ、あれだけの人数分用意してて自分に使うものを用意出来るのか?)

そこまで考えて、咲香はかぶりを振ってから行かんとする道へ急いだ。


咲香が連れてきた兵士のほとんどが負傷兵の保護に追われつつも、誰一人傷付かずに中心部に迫ってきた。途中で通信が途切れたものの、通信途絶対策にと海水補給係の衛生兵も連れてきたので構わず進む。
中心部は無数の樹で覆われ、不気味な威圧感を感じさせる要塞のような壁を作り上げていた。
その一角、樹が不自然な形で曲がりくねり、大人でもなんとか通れるほどの通り道を見つけた。

「ここか……」

そうつぶやいてから、咲香はその辺の落ちている葉っぱに軽く指を宛てて数秒ほど念じる。すると、葉っぱから白く発光した大型犬のような何かが出現し、咲香が「行ってこい」と指示すると一目散に穴の中へ走って行った。
少し待ってから、穴の中が淡く照らされる。術式による、「危険はない」という合図である。

「行くぞ」

兵士よりも先に、咲香はその穴に潜り込んだ。


穴を潜り抜けると、 薄暗い閉鎖的な森の中に出た。大量の木々が地面を隠すほど剥き出しの根を張っているにも関わらず、不自然な一本道が出来ている。
咲香は、出口で待機していた術式を先に歩かせながら慎重に歩を進める。
すると、道の向こうの闇に、木の下に寄りかかる人影が見えた。

「……!」

身に鎧を纏い、頭半分ほどの兜の下から逞しくも凛々しい顔立ちとプラチナブロンドの短髪を覗かせている。間違いなく、鋼の国の騎士であろう。
咲香が近寄ると、騎士は鎧の隙間から怪我を負い、応急手当をしたと思わしき血だらけの腹部を抑えながら呼吸を整えていた。騎士は咲香に気が付き、銀色の瞳を咲香に向けながら口を動かす。

「貴女は……花の国の……」
「待て! じっとしてろ」

咲香が腰巻きスカートから大きな花のようなものを取りだし、騎士が押さえている場所にかざすと柔らかく光りだした。
光が染み込んでいくように身体中の傷が少し浅くなり、騎士の呼吸も穏やかになっていく。

「……よし、腹の傷は少し深いが、内臓まではやられてない。それより海水だな」
「ありがとう……ございます」

咲香の合図に兵士が歩み寄り、騎士に海水の補給と応急処置を施している最中、騎士は口を動かす。

「花の国の次期当主様。お気づきだとは、思いますが、現当主様は……」
「……一人で、母体と戦ってるんだろ」

ここまで来る最中、手練れの武人達に何度か遭遇した。そして凍季の次に強者であろう騎士がここで重症を負っている。

「私の、力及ばず……このような……」
「いや。鋼の国の騎士、よくここまで辿り着けた……じゃあ、いってくる」

震えを隠せない様子のまま更に闇の奥へと進もうとする咲香の背中に、騎士は言葉をかける。

「花の国の……次期、当主様」
「なんだ」
「今を逃してはいつお伝えできるかわかりません。ですから、無礼を承知で申し上げます」

騎士は、真剣な眼差しを咲香に向けた。銀色に輝く瞳が一層強い光を放つ。

「どうか、現当主様を守るためにご自身を犠牲になさることはお止め下さい」
「なっ……!」
「 あのお方は……最初から他人にのみ護身術式を使い、あまつさえ私をここまで逃がすために術を使った。あのような無謀な戦い方を、貴女様にはなさらないでほしい 」
「てめぇ……親父を……花縁凍季を侮辱するのかッ!! よりにもよってあたしの前で!!!」

咲香は煮えたぎるような怒りを露にするが、騎士は言葉を続ける。

「申し訳ありません……ですが、どうか、命の恩人の娘である貴女様だけは……これは、あの方をお守り出来なかった私の、我が儘でございます……ッ!」
「!……」

騎士は懇願するように頭を下げ、怪我を我慢していた時以上に顔を悲痛に歪める。

「……そうか、わかったよ」

咲香は術式を先に走らせて奥へと疾走していき、兵もそれに続く。

一行の影が見えなくなり、騎士と手当てを続けている衛生兵のみが残された場所で、騎士は大粒の涙をこぼして嘆いた。

「あのような存在を守りたいと、生きてきたはずなのに何故……騎士でありながら、自分はこんなに無力なのか……っ!!!」



薄暗い道を抜けた先には、 マリンブルーの柔らかな光に包まれた広い空間の中央で巨大で美しいカタマリユリが誇らしげに咲いていた。この光はカタマリユリが海水の粒子を根から掬い上げて周囲に広げているものであり、花がカタマリユリと呼ばれる由縁でもある 。
大木のように太い根がギチギチとせめぎあって床を作り、天上は発光する樹木の葉で隙間なく覆われて作られている。閉鎖的でありながら幻想的な、この世のものとは思えない聖域であった。

「……あ、あぁ」

そんな美しい風景に見とれている者は今、一人もいなかった。

カタマリユリの真下に太い根が裂けて出来た二つの揺りかごがあり、二つの動かない影が眠っている。
ひとつは懐に槍が刺さった巨大な母体の狩る者。もうひとつは、凍季であった。

「あ…………ぁ、あぁあぁあああああ!!!!!」

咲香の悲しみの絶叫が響き渡る。
安らかに眠っているように見える凍季の身体には、もう生きていないとわかるほどの傷が刻まれていた。

涙も亡骸も、カタマリユリの光は優しく包んでいた。

つくカケSS - 花の散り咲く日・前編

自作ゲーム『創るカケラとあなたの夢』の補完的な過去編SSの前編です。
特にネタバレなどはありませんが本編をプレイ後、もしくはある程度(コフィンローズが登場する場面くらい?)まで進めた後にお読みいただくことを推奨いたします。


**********


海上の巨大な無人島で狩る者が大量に発生していることが判明し、各国の名将が部下を従え集って討伐戦に赴いた。だが、第一陣があまりの敵の数に一度撤退したため第二陣も出動し、それから3日ほど経った。

花の国の城内にある医務室。腰まで伸びた黒髪に白い象牙色の肌をした、見かけは30代ほどに見える婦人がベッドに横たわりながら看護師からの手当てを受けていた。患者服に身を包んだ婦人は治療の最中でありながら横に座っている深緑色のポニーテールの少女に真剣な様子で何かを話し、その言葉を聞いた少女は突如目を見開き口を開いた。

「親父達が……取り残されているかもしれない、だって……!?」

その少女、17歳になったばかりの花縁 咲香は婦人の言葉に動揺の色を隠せずにいた。
美しい黒髪をベッドから無造作に垂らしながら婦人は「ああ」とうなずき、言葉を続ける。

「途中までは我らで一掃できたのじゃが内部に近づくにつれ狩る者も数と力を増していきおった。いつの間にか通信まで効かなくなったことに気付き、皆に伝えようとした途端に背中を取られた……格闘家の身でありながら、なんという不覚」

婦人はシーツを握り、ほのかに瞳を潤ませて美しい顔の眉間に深いシワを寄せる。

「それから凍季(とうき)の奴め、勝手にわらわに術をかけておったのじゃな。命に危険が及んだらここに飛ばされるように」

いささか焦りと苛立ちが隠せない声色で言い続ける婦人はただの女性ではない。
コフィンカグラ・ルナティック・スウィートハロウィン。スウィートメルヒェン王国現女王陛下その人だ。彼女も名のある格闘家であるとはいえ、一国の主とも言える立場の人間が出向かねばならなくなったというのが現状であり、花の国の現当主である咲香の父親―花縁 凍季も例外ではなかった。

「あの広大な島の上、通信の効かぬ海水ボンベがいつまで持つか。恐らくこのような送還の術式はあやつとて何枚も使えんじゃろう、撤退しようにも囲まれているやもしれぬ……脱出に成功するか、中央のカタマリユリにさえ辿り着けばよいのじゃが……」
「……ぐ……っ」

大人しく聞いていた咲香だったが、顔面蒼白で冷や汗を垂らし、とても冷静とは言えない状態であった。
そこに、一人の兵士が咲香のもとに来た。

「咲香様! こっ、紅葉様がお戻りになりました!」
「紅葉が!?」

『紅葉』と呼ばれている人物は凍季と共に討伐戦に向かった部下の一人である。直接的な武力ではなく、香やその煙を用いた術式によるサポート力の高さから今回選ばれた兵士だ。咲香も紅葉の作る香を好いており、穏やかな人間性からも信頼を置いている。
しかしその人物が戻ってきたということはコフィンカグラ同様深傷を負い、この不利とも言える状況で討伐隊がサポートの一端を失ったということでもあるのだろう。
それをすぐさま理解したのか、咲香は更に冷静さを失った様子で兵士に問いただす。

「どこにいるんだ! 状態は! 」
「は、はいっ、紅葉様は隣の医務室にて治療を受けておりまして、すぐに意識も回復しましたが……」
「わかった! すぐに向かう!」

兵士の言葉を待たず、咲香は足早に歩を進める。

「お、お待ちください! 紅葉様は……」

兵士が何かを伝えようとするも、その前に医務室の戸が閉じられた。

「小娘め」

コフィンカグラはなんとも言えぬ複雑な表情でつぶやき、兵士の方に視線を移す。

「して、そのコウヨウとやらに何があったのじゃ」
「は、はい、実は……」



「紅葉!」

ほどなくして、第二医務室に声が響く。しかし他の患者や看護師からのキョトンとした視線に、咲香はようやく少し冷静さを取り戻した様子で「あぁ、すまん」と静かに謝ってから紅葉を目で探す。
紅葉は奥の方で困ったような表情で咲香の方を向きながら治療を受けていた。患者服に着替える暇も無かったのか、いつもの巫女装束のような軍服のままである。咲香の方から全身の様子はよく見えないが、その喉元には首輪のような機械が取り付けられているようだった。

「……!」

咲香は足を進めようとして一瞬ためらうが、その様子を見た紅葉は小さく手招きをした。咲香はそれに誘われるようにゆっくりと紅葉のもとに向かい、ベッドの足元に立つ。
紅葉の身体には所々に切り傷が見られるものの、一見さほど重症には見えない。ただ、首の部分だけが異質だった。

「……紅葉、いったい何が」

その問いに、紅葉ではなく治療をしていた看護師が「咲香様」と応えた。

「紅葉様はもう、機械や香術無しには話せないかもしれません」
「!!」

咲香はひどく動揺したが、看護師は更に言葉を続ける。

「狩る者に声帯を潰されたようでした。喉に溜まった不純物も取り除き、お身体は安定いたしましたが、声帯はもう……」
「……そんな」

咲香が絶望の表情を見せた瞬間、掠れたような機械の音が響く。

「咲……カ……ッさ、マ……ァ」

紅葉が首につけた治療用の仮設装置で喋ろうとしていた。
しかし機械が肌に触れる感触に過敏に反応してしまい、余計に妙なイントネーションになってしまっている。
紅葉は看護師が止めようとするのをおさえて言葉を続ける。

「と、ウき、様……ぁ……ガ、あぶ、ナ……いッ……!」
「!!!」

装置から声を絞り出した紅葉は全身を震わせ、紅潮した頬に大粒の涙をこぼす。その直後に息苦しそうに身を屈めたのを見て看護師が「それ以上はお止めください!」と叫びながら装置を調整し始めた。
咲香は決意したような表情で「後は任せた」と言い残し、医務室を後にした。


咲香が自室に戻り、普段着から戦闘用の特攻服に着替えている最中にトントン、と戸が叩かれる。閉じられたままの戸の向こうから女性の兵士の声が届いた。

「咲香様、コフィンローズ姫様がいらっしゃいました」
「ローズか、通せ」

丁度サラシを巻き終えた咲香が応えると、戸がゆっくりと開けられ、竹馬のような靴を履きシンプルな紺色のドレスに身を包んだ一見7歳程度に見える女性が真剣な面持ちで姿を表す。

「咲香……何をしている?」

幼い声質でありながら外見不相応に凛とした口調で話すこの女性、コフィンローズ・ヴァイオレット・スウィートハロウィンは問い詰めるように咲香の元に近付く。

「よもや、あの島に行こうというのではなかろうな。凍季殿達を助けると」
「! ……ああ」

苦々しくも強い口調で答える咲香に、コフィンローズは眉根を寄せる。

「貴様……自分の立場がわかっていってるのか。わらわとて凍季殿を救いたい。だが貴様に万が一のことがあればこの国はどうなる、小娘とてそれくらいはわかるであろう」

母が子を叱るかのように鼻先まで詰め寄るコフィンローズに、咲香は少し動揺を見せるもすぐに持ち直した。

「わかってる……だけど、あたしが行かなきゃ誰が行く?」
「……」

無言で表情を一切変えないコフィンローズを前に、突如、咲香は先ほどまでの威勢が緩んだように震えながら言葉を続ける。

「…… あたしは、このまま、黙って、親父まで失いたくない、 お袋もすぐいなくなっちまった、もう、どこにも、家族が、いなく……なる ……ッ」

今にも泣き出しそうに本音をこぼす咲香を前に、コフィンローズは苛立ちの表情を見せ、小さな手で咲香の胸ぐらを掴んだ。

「この、小娘が! わらわに睨まれた程度で弱音を吐きおって! それでも次期当主か!」

コフィンローズの怒声を受け止めながら、咲香は唇を噛み締め、

「それでも、あたしは、行く」

と答える。それを見たコフィンローズは「ふん」と一息漏らして乱暴に手を離す。巻き終えた特製のサラシは緩むことはなく、咲香自身も気を持ち直した様子であった。

「どのみち止めるつもりなどない。他国からこれ以上の増援を望めぬのも事実、そして凍季殿は以前より父上の深き親友であり、今しがた母上の命の恩人でもあるからな。貴様が留守の合間はわらわがこの国を守ろう」
「……いいのか」
「だが、条件がある」

コフィンローズは拳をギュッと握ってから広げ、手のひらの上に小さく光る花のような何かを出現させた。

「これは……」
「わらわが凍季殿より頂いた護符だ。すでに形は整っている、貴様ならば送還術式に変えることが出来るだろう」

その小さくも力強い術式を咲香の手に渡しながら、コフィンローズは言葉を続ける。

「凍季殿がわらわの母上に施してくださったものと同様の術式を己に付けろ。そして兵士も数人連れて行け、わらわの国からも手配する。これが条件だ」
「……ああ、わかった。すまない」

咲香が術式を優しく握ると、手の中から桜色の柔らかな光がふわりとこぼれだす。
それを見つめながら、コフィンローズは切なく儚い表情を見せる。

「……咲香、貴様の命は貴様だけのものではない。少なくとも、貴様を取り巻く者達にとっては。しかし、凍季殿は……それだけは、いつまでも理解して下さらなかったようであった」

三十代も半ばであるはずのコフィンローズの口から、弱々しい少女のような本音がこぼれだした。
prev← →next
カレンダー
<< 2024年04月 >>
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30