以下(追記)の文章は創作です。
2017-5-31 21:49
(小説)
少し休憩にと足を伸ばそうとして、ラリサは中庭まで来てしまった。
(休まないと仕事の効率が上がらないって、誰かが言っていたから、いいよね……)
心の中で、言い訳を考える。
摂政が執務に使っているこの建物は、それなりの広さがある。緑化のために作られたらしい、この中庭には、ラリサ自身も殆ど訪れない。
適度に陽が差し、緑が輝き、心地が良さそうだ。特にあのベンチは木陰になっていて……と、そこに座る人影があった。
セーラー服を着て、帽子を被った少年が、本を読んでいる。とても、絵になる様だとラリサは思った。まるでここが貴族の邸か何かで、彼はそこの坊ちゃまか何かのような。それには大分小さな中庭ではあるけれど。そんなことを考えながら、一歩踏み込んだまま、立ち止まっていると、少年が本から顔を上げた。
「誰……?」
そう尋ねる少年の、少し鋭い目つきは、ラリサの知る誰かに似ていた。
「あっ、すみません。私は、ここで事務方の仕事をしている者でして……」
ラリサが答え終わる前から、興味がなさそうに本へ視線を戻す少年。
どうも緊張する相手だとラリサは思ったが、初対面では大体そんなものだ。
「そう」
彼は呟くように答えた。しばし置いて、
「一応、よろしくね」
とも。幼い見かけの割に声は低い。
「はい、よろしくお願いします」
少年はまた読書を始めた。
その彼をちらちらと見やり、整った顔立ちだとラリサは意識した。
「……邪魔かな」
少年は席を立つそぶりを見せた。
「そうだよね、おねえさんが座る場所がないもの。男の僕が譲るべきだよね」
どこか嫌味にも聞こえることを言いながら。
「あ、ち、違います。いいですから、そのまま座っていて」
「そう?」
初めて、彼がラリサをまともに見た。
「君、今度新しく採用された摂政の秘書でしょ」
唐突にそう言われてラリサはうろたえる。
「いや、えぇっとあの……確かに摂政閣下のお近くにもうかがいますが、秘書とかそういうものでは。私なんかがとんでもない」
少年はくすくすと笑った。
「特別枠、というものかな」
耳に痛いことを、ごく普通の調子で言う。ラリサは、すっと熱が引く気がした。
「うーん、きちんと試験は、受けているんですよ」
「分かるよ」
と言いつつ、まだにこにこ笑っている。
「でも、どうしてご存じなんですか?私のこと」
「それは、僕は摂政の身内だもの。大体のことは知っていなきゃ」
「身内? 閣下のですか?」
ラリサは不思議に思った。摂政の親きょうだいの話は聞いていない。天涯孤独なのだと勝手に思っていた。彼女だけでなく、恐らく国の人全てがそう思っていることだろう。
「そうだよ。まぁ、他の人には言っていなくとも無理はないけど」
隠し子とか、そういう類なのだろうかと、ラリサは考えた。言われてみれば、色素の薄い金髪や、青い瞳は摂政にそっくりだ。
「と、言うと、俗な想像をするのかな」
図星を突くような、痛いことを言う少年だ。何とも可愛げがない。
「出来の悪い双子のようなものだよ。よくいるでしょう、弟は優秀なのに、家を食い潰すだけのような駄目な兄が。そんな典型だと思ってもらえればいいよ」
ラリサは戸惑った。何かの比喩か。その話をそのまま受ければ、この少年は摂政の兄ということになる。
しかし、摂政は、見た目は美しいが、年齢は二十代のラリサより確実に大分年上の「おじさま」だ。本人には絶対に言ってはいけないことだが。
「でも、アリオールも、こんな子に興味があるんだね。やっぱそっちは人並みか」
まじまじとラリサを見ながら、そんなことを面白そうに話す。
「な、何てこと言うんですか」
アリオールとは、摂政の非公式な呼び名だ。それを呼ぶ人は限られてくる。まして、からかうようなことを言うなど、あり得ない。
少年は動じずに続ける。
「人並みというには、随分若いような気もするけどね。ロリータコンプレックスも歴とした変態だと思うけど、何だか市民権を得ているよね」
「やめてください。私はそんなんじゃないし、摂政のお耳に入ったら……」
「入ったら?」
(休まないと仕事の効率が上がらないって、誰かが言っていたから、いいよね……)
心の中で、言い訳を考える。
摂政が執務に使っているこの建物は、それなりの広さがある。緑化のために作られたらしい、この中庭には、ラリサ自身も殆ど訪れない。
適度に陽が差し、緑が輝き、心地が良さそうだ。特にあのベンチは木陰になっていて……と、そこに座る人影があった。
セーラー服を着て、帽子を被った少年が、本を読んでいる。とても、絵になる様だとラリサは思った。まるでここが貴族の邸か何かで、彼はそこの坊ちゃまか何かのような。それには大分小さな中庭ではあるけれど。そんなことを考えながら、一歩踏み込んだまま、立ち止まっていると、少年が本から顔を上げた。
「誰……?」
そう尋ねる少年の、少し鋭い目つきは、ラリサの知る誰かに似ていた。
「あっ、すみません。私は、ここで事務方の仕事をしている者でして……」
ラリサが答え終わる前から、興味がなさそうに本へ視線を戻す少年。
どうも緊張する相手だとラリサは思ったが、初対面では大体そんなものだ。
「そう」
彼は呟くように答えた。しばし置いて、
「一応、よろしくね」
とも。幼い見かけの割に声は低い。
「はい、よろしくお願いします」
少年はまた読書を始めた。
その彼をちらちらと見やり、整った顔立ちだとラリサは意識した。
「……邪魔かな」
少年は席を立つそぶりを見せた。
「そうだよね、おねえさんが座る場所がないもの。男の僕が譲るべきだよね」
どこか嫌味にも聞こえることを言いながら。
「あ、ち、違います。いいですから、そのまま座っていて」
「そう?」
初めて、彼がラリサをまともに見た。
「君、今度新しく採用された摂政の秘書でしょ」
唐突にそう言われてラリサはうろたえる。
「いや、えぇっとあの……確かに摂政閣下のお近くにもうかがいますが、秘書とかそういうものでは。私なんかがとんでもない」
少年はくすくすと笑った。
「特別枠、というものかな」
耳に痛いことを、ごく普通の調子で言う。ラリサは、すっと熱が引く気がした。
「うーん、きちんと試験は、受けているんですよ」
「分かるよ」
と言いつつ、まだにこにこ笑っている。
「でも、どうしてご存じなんですか?私のこと」
「それは、僕は摂政の身内だもの。大体のことは知っていなきゃ」
「身内? 閣下のですか?」
ラリサは不思議に思った。摂政の親きょうだいの話は聞いていない。天涯孤独なのだと勝手に思っていた。彼女だけでなく、恐らく国の人全てがそう思っていることだろう。
「そうだよ。まぁ、他の人には言っていなくとも無理はないけど」
隠し子とか、そういう類なのだろうかと、ラリサは考えた。言われてみれば、色素の薄い金髪や、青い瞳は摂政にそっくりだ。
「と、言うと、俗な想像をするのかな」
図星を突くような、痛いことを言う少年だ。何とも可愛げがない。
「出来の悪い双子のようなものだよ。よくいるでしょう、弟は優秀なのに、家を食い潰すだけのような駄目な兄が。そんな典型だと思ってもらえればいいよ」
ラリサは戸惑った。何かの比喩か。その話をそのまま受ければ、この少年は摂政の兄ということになる。
しかし、摂政は、見た目は美しいが、年齢は二十代のラリサより確実に大分年上の「おじさま」だ。本人には絶対に言ってはいけないことだが。
「でも、アリオールも、こんな子に興味があるんだね。やっぱそっちは人並みか」
まじまじとラリサを見ながら、そんなことを面白そうに話す。
「な、何てこと言うんですか」
アリオールとは、摂政の非公式な呼び名だ。それを呼ぶ人は限られてくる。まして、からかうようなことを言うなど、あり得ない。
少年は動じずに続ける。
「人並みというには、随分若いような気もするけどね。ロリータコンプレックスも歴とした変態だと思うけど、何だか市民権を得ているよね」
「やめてください。私はそんなんじゃないし、摂政のお耳に入ったら……」
「入ったら?」
コメントする
カレンダー
自由領域
アーカイブ
- 2017年9月(1)
- 2017年7月(1)
- 2017年6月(4)
- 2017年5月(5)
- 2017年4月(2)
- 2017年3月(2)
- 2017年1月(2)
- 2015年7月(1)
- 2015年6月(2)
- 2014年4月(1)
- 2014年2月(4)
- 2014年1月(33)
- 2013年12月(28)
- 2013年11月(45)
- 2013年10月(36)
- 2013年9月(34)
- 2013年8月(41)
- 2013年7月(29)
- 2013年6月(34)
- 2013年5月(51)
- 2013年4月(30)
- 2013年3月(37)
- 2013年2月(44)
- 2013年1月(22)
- 2012年12月(24)
- 2012年11月(22)
- 2012年10月(18)
- 2012年9月(8)
- 2012年8月(23)
- 2012年7月(20)
- 2012年6月(27)
- 2012年5月(27)
- 2012年4月(18)
- 2012年3月(22)
- 2012年2月(16)
- 2012年1月(8)
- 2011年12月(14)
- 2011年11月(6)
- 2011年10月(20)
- 2011年9月(21)
- 2011年8月(54)
- 2011年7月(27)
- 2011年6月(26)
- 2011年5月(36)
- 2011年4月(17)
- 2011年3月(38)
- 2011年2月(15)
- 2011年1月(36)
- 2010年12月(38)
- 2010年11月(32)
- 2010年10月(30)
- 2010年9月(40)
- 2010年8月(38)
- 2010年7月(39)
- 2010年6月(38)
- 2010年5月(25)
- 2010年4月(22)
- 2010年3月(20)
- 2010年2月(39)
- 2010年1月(43)
- 2009年12月(30)
- 2009年11月(40)
- 2009年10月(55)
- 2009年9月(32)
- 2009年8月(56)
- 2009年7月(50)
- 2009年6月(26)
カテゴリー
- 詩(40)
- 日記(1003)
- 【小説】古都鎌倉に(19)
- 二次元の話(164)
- オマージュ創作(63)
- 二次創作(47)
- メンタル/霊感(47)
- 二次創作(ドラグナー)(28)
- 二次創作(Promised Land)(1)
- 宇宙恋記メビウス(15)
- エルファリアU(1)
- PCゲーム(45)
- PS2(11)
- 創作まんが(19)
- アニメ感想(18)
- バトン(7)
- 携帯ゲーム(12)
- SFC(1)
- 自作(試作)BL(4)
- 随想(25)
- 暗い話もしくはお蔵入り、愚痴とも言う(11)
- 小説もしくは散文詩(5)
- ブラウザゲーム(PC)(7)
- ブラウザゲーム(携帯)(0)
- ブログネタ(1)
- 自作小説(4)
- 未分類(127)
プロフィール
誕生日 | 1月22日 |
系 統 | 萌え系 |
血液型 | O型 |