T市の月見団子は、長く伸ばした涙滴の形をしています。
中には何も入っていませんが、生地が甘いです。
お月見の日だったそうなので、実話を元にあと30分で小話を書きます。
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さっきから空を眺めている。
学校で、天体観測の宿題が出たからだ。
いい具合に日も暮れてきた。
でも、今日は満月。
そう、見事な満月が宙に浮いている。
月見には最高の日だ。
けれども、生憎、天体観測には向いていない。
何故先生はこんな時期に、星を見ろと言ったのだろう。
見えやしない。
ただでさえ自然現象に興味なんかないのに、余計悩ましい。
枠が印刷されたプリントを丸めて、筒にしてみた。
そうしたところで望遠鏡になどなりはしないけど。
本物は持っていない。
高価だからだ。
月を見てみた。
すっぽりと入った。
もしも未来、人が宇宙に行くならば、月で「地球見」でもするのかな―。
アニメの影響かそんなことを考えた。
少し横になった。
同級生は、宿題のプリントをどう仕上げるだろう。
あたかも星が見えたかのように取り繕うだろうか?
そうするのが楽かもしれない。
でも、先生の策略かもしれない。
仕方がない。
こういう時は事実を在りのままに書くのが、一番なのだ。
枠の中に大きく丸を書いた。
―だって月しか見えないんだからしゃあないじゃん。
月だって天体だ。
だが、それでは通るかどうか分からない。
良心がためらわれたので、小さく適当に近眼でも見える明るい星を書き加えた。
その中に存在しないものもあったかもしれないが。
大丈夫、心の眼で見た真実だ。
限りある一日の終わり頃、母がスーパーで買ってきた月見団子を口にした。
それは小さかったけれど、ちゃんと月を模した綺麗な丸い球の形だった。
宿題があれでいいのかどうか、心配ではあったが、もう月見や天体観測をする気分ではなかったので、いつでも真昼間なゲームの世界へ逃げ込んだ。
先生が認めなくても、残念、もう既に大きな丸が紙の上には書いてある。
色でも塗ろうか。
人生は、どうしたって納得のいかないものである。
思い通りにいかない、理不尽なこともある。
月見酒とも洒落込めない。
それなのに。
今夜の主役は、どうしたって月である。