(……鉄平さんが、来ない…)
木吉とて老舗呉服屋の若旦那だ。
忙しさもさることながら、文さえもめっきり数が減っているように感じた。
(本当は…逢わない方がいいのかもしれない。なのに俺は…)
弥雅は現在黒子の遊廓に籍を置いているだけだ。
赤司のものであるという事実は変わらない。
そして弥雅が想いを馳せる木吉は、赤司の一派に属さない敵であるという立場も。
だが理性に勝る本能は木吉をこんなにも恋しがる。
人知れずため息を吐き出す弥雅は、座敷へと続く廊下を曲がった。
「……そうですか。くれぐれもご無理はなさらないようにとお伝えください」
「?」
黒子の声がする。
不意に弥雅が足を運ぶと、訪問していた人物がちょうど去るところだった。
「黒子、来客か?」
「ええ。木吉屋の使いの方です」
「…!」
木吉、と聞いてこうも反応してしまうのだ。
我ながら呆れる、と弥雅は内心自嘲した。
「君達の着物はいつも木吉屋で調達させてもらっているんですよ。木吉さんがここの馴染みということもあって、いい品をかなり安値で用意してくださるんです」
「そうだったのか。どうりで…これも上物だ」
「ああ、君のはまた別ですよ」
「別?」
「君の着物は全て木吉さんから直接いただいているんです。君に似合うからといつも上質な着物を見繕っては持ってきて…。君には内緒にしてくれと言われていましたが」
「…!」
片目をつむる黒子に、弥雅は頬が熱くなるのを感じた。
(鉄平さんが…俺のために…?)
らしくない、と自身を叱咤するも嬉しさが抑えきれないのはもはや当然で。
慣れない幸福という感覚に酔いしれてしまいそうになる。
…だがふと先程の黒子と使いの者の会話を思い出した。
とても吉報を聞いたという雰囲気ではなかったようだが。
「…黒子、さっき使いと何を話していた?」
「おや、盗み聞きですか。感心しませんね」
「はぐらかすな。全部を聞いていたわけじゃない。ただ無理をしないようにと聞こえたから、鉄平さ…木吉様に何かあったのかと」
「そうですね…。ああ木吉さんご自身はお元気ですよ。ただ」
「ただ?」
「どうも商いが思わしくないとかで…少しお疲れのようですね」
「商い…?あの木吉屋がか?」
「…と言いますと?」
「いくら不景気になったとしても木吉屋に限って経営が落ちることはまずないだろう。あれだけ大きな老舗なら古参の客だって多くいるはずだ。…何か理由があるのか?」
「ふふ、弥雅君は聡いですね。さすがです」
黒子は意味深に笑ってみせたが、すぐに肩をすくめた。
「残念ながらボクにも理由はわかりません。ただ、木吉さんの商いの腕は確かなはずです。よって彼自身の手腕によるものではないでしょう」
「なら……」
「一概には言えませんが…例えば外部から何らかの接触を受けたことによるもの、とか」
「…!」
「あくまで推測です。なのであまり深く考えないことをお勧めします。君までやつれてしまってはうちも危ういですから」
それだけ告げると黒子は自室へと戻っていった。
残された弥雅は立ちつくしたまま、思わず眉間にしわを寄せる。
(……外部からの、接触…?)
「まさか」
弥雅は首を振った。
思い当たる節はある。
だがそれはまだ弥雅の杞憂にすぎないかもしれないのだ。
(そんなはずはない……いくら奴だって、そこまで軽率な行動は取らないはずだ…)
弥雅は不意に木吉を思い出す。
格子越しに目が合った時の、あの安堵したような表情。
逢えば嬉しそうに引き寄せて、口付けを落とすのだ。
『弥雅……逢いたかった…』
「……鉄平さん…」
弥雅は理解している。
赤司征十郎という男を。
遅かれ早かれ、木吉の元には何らかの手が伸びるだろう。
赤司の持つ支配力は、どこまで遠くに離れようと及ぶ。
(…ほら、ここにまで)
胸を押さえた。
何もかも忘れてどれだけ木吉を激しく愛そうとしても、自身の中の何かが弥雅の邪魔をする。
まるで心を去勢されたように、「思い上がるな」と。
(…もしも、木吉屋に何らかの影響を与えているのが赤司だったら)
「っ……」
突如弥雅は走り出した。
ただの推測だが、それでも可能性は高い。
むしろ思い当たるのは赤司しかいなかった。
「黒子!」
「…?弥雅君、どうしました?そんなに血相を変えて」
「あ、いや…」
柄にもなく焦ってしまった自身を叱咤した。
黒子は目ざとい。
弥雅が何か企んでいると知れば当然その行動を制限しにかかる。
「もう行ってしまったかと思って急いだだけだ。ところで黒子、少し外出したいんだが」
「外出?君がですか?珍しいですね」
「まあな。久しぶりに赤司の顔を見に行くつもりだ」
「なるほど。赤司君とはあれきりでしたからね。時折文のやり取りをするくらいですか」
「ああ。稼ぎは足りているだろう」
「そうですね。君なら十分でしょう」
黒子はうなずいた。
通常娼妓は外に出ることなど許されないが、ある程度の祝儀を出せばそれを成すことができる。
そして今や裏吉原一の娼妓である弥雅にとってそれはたやすいことだった。
(…赤司、か……)
赤司の元へ行く。
これは嘘ではない。
ただ、目的が違うだけだ。
(俺は、赤司の所有物としてじゃなく…「俺」として、鉄平さんに向き合いたい)
その思いは、赤司と決別することに等しい。
それがどれほどに恐ろしいことか、弥雅は理解している。
(自ら本人の目の前で、敵になると宣言するんだからな…)
命知らずだと、以前の弥雅ならば鼻で笑うだろう。
誰か一人に本気になるなんて、正気の沙汰じゃないと。
それでも…と弥雅は熱くなる目頭に首を振った。
(仕方ないだろう…!あの人の敵になりたくない…。あの人には、嘘をつきたくないんだ…!)
数日後、弥雅は黒子に見送られ廓を出発した。
赤司と…その存在だけで心をも支配するあの所有者と、決別するために。
(…そうして初めて、俺は鉄平さんの言葉に応えられる気がする…)
弥雅は久しく見ることのなかった広い空に目を細めた。
続
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な、内容ねえ〜………
さらっと流すつもりがまたもや長引いてしまい肝心な話が次に持ち越しとな。
とりあえず、この過去編は弥雅君がひたすらがんばる話です。
弥雅君て自身にとって無益だったり意味ない行動って極力避けると思うんですよ。
でも木吉さんのためにたくさんたくさん考えて行動に移しちゃったりするわけです。
愛です。愛。
それって弥雅君の想いの暴走とかではなくて、ちゃんと木吉さんの想いを受けてるからなんですよね。
…まあ書いてるの私なんで全然伝わってないかもですがorz
あと、木吉さん贔屓しすぎ(笑)
なんなの自分の好きな子には自分好みの服を与えるって…あんたって人は…←
愛ですよね。愛。(二回目)
さて、次はいよいよ赤司様んとこ行きます。
どうなることやら。
大変お粗末さまでした!(土下座)
だよなだよな!鉄平さんのためならなんだってだよな!
つかつかヤバイわ着物を弥雅の為って……!!!\(^o^)/
アカンアカン……木弥アカンよ、アカン!!!←
木弥書きたくなるわ……
つかなんかねこれは勝手なあれですが
凄く弥雅を理解してくれててやることを見たら
ああー!すげええと勝手に盛り上がった!!
やらせたいことをやってくれて
すごくすごく……あ、うん茜ちゃんが好きです!<●><●>←待て
どなんだろどなんだろ!赤司に歯向かうですって!
なんて全裸待機せざる終えないそれ!!\(^o^)/バッ←
いつもいつも楽しみでもう嬉しいとしか言えません!
またまた更新お待ちしております!!!
あ!でも無理しないでねーっ!では!
うおおおおおおおおなんか毎回ゐ子ちゃんがそのようにコメントくれるから書いてるよおおおお←
私的弥雅の主観としては鉄平さん!その他!くらいだと思うので(笑)
木吉さんのことで多少の余裕度ができると間に仲いい他の娼年達も入ってくるかもですが。
とにもかくにも、これ大丈夫かと毎回問うている気がするが…
今回会話も少ないし、なんか…ごめん!みたいな(゜Д゜;≡;゜Д゜)
弥雅くんは一生懸命でかわいいです。
書いていて楽しいし、比較的書きやすいので助かります(´ω`*)
なんと次回は赤司様宅に乗り込むなどとおっしゃっていますが…
ようやくここまでキター( ´ ▽ ` )ノって感じです!←
長々だらだらと過去編にお付き合いありがとう!!
お借りしてる弥雅くんに恥じないよう精進します!!