話題:コーディネート
☆学生時代の実話です。
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その昔…
江戸の町を守る為、時の僧[天海]が江戸城を中心とした、大がかりな風水を施した事が御座いました。
勿論、天海祐希ではなく、天海僧上の方の天海で御座います。
江戸城から見て、真北に日光東照宮。
真南に愛宕山、そして増上寺。
鬼門である北東には上野寛永寺。
最後に裏鬼門にあたる南西に目黒不動尊。
左様な具合で。
其うして、江戸の町は、この風水結界に因り実に四百年もの長きに渡る平安を迎える事とあいなるので御座いますが‥
さて、
大政奉還より時は流れに流れ…
江戸が東京と呼ばれてより久しい頃。
旧江戸城跡にほど近いビルヂングの地下一階、作業員控え室での或る夜半の出来事…。
其処には四人の勤めを終えた学徒見習い役(学生アルバイト)と一人の電氣番留守居役(残業してる電気部職員)が輪となり座しておりました。
その電氣番は里中氏(さとなかうじ)と申す夜夢奇異卒(ヤンキーあがり)の四十男で御座います。
なにゆえ、正職電氣番が見習い部屋に足を運ばれたのか?
四人の見習い達は訝かしく思いながらも、里中氏の話に耳を傾けておりましたのですが、当の里中氏の口から出る事と申せば…
「やれ、天の氣はどうだ」だの「最近どうよ」だの「やってる?」だの…今ひとつ内容の伝わらないものばかり。
その癖、半時を越えて尚、居座っておられるとなれば‥なかなかどうして、場の空氣が徐々に気まずくなって来るのも致し方ありますまい。
氏には氏で、何かしら思うところがあるので御座いましょうが…。
それにつけても面妖なのは、先程からの里中氏の姿勢。それは丁度、御身(おんみ)の左を前に出す半身の姿勢で、もし其の肩に桜吹雪の入れ墨でもあれば【遠山金四郎殿】と間違えそうな塩梅で御座います。
はてさて、この面妖な姿勢の意味するものは?
所が、徒かも金毛九尾の狐に誑かされたかの如き不可思議を抱えたまま、遂には一刻が過ぎようとした頃‥
里中氏の左の手首に、何やら綺羅哩(キラリ)と光る物が巻かれておる事に、私は気付いたので御座います。
大和古来の物とは思えぬ紋様‥これは間違いなく、南蛮渡来の品で御座いましょう。
成る臍(へそ)成る臍(へそ)。
きっと里中氏は、これを私達“学徒見習い役”に見せたかったに違い有りませぬ。
私『さ、里中氏、若しや其れは南蛮渡来の…』
里中『嗚呼、此れか。お主よく気付いたの』
謂え…気付くも何も、其れだけ腕をこれ見よがしに突き出されては、否が応でも気付かざるを得ないと云う…。
私『謂え、ふと目に留まったもので…ところで、其れはいったい何なので御座いますか?』
里中『ん?此れの事か?』
其れ以外に何があると申されるのか?
私『左様、其れで御座います』
里中『此れはのぅ…【炉烈駆守】と云う南蛮随一の時計なのだ』
私『ほほぅ…それが噂の“ろれっくす”で御座いまするか…』
《続きは追記ページより》。