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二つ星は恋をする


隣りにいないことが考えられない。
側にいることが当たり前で。
だからこそ失う時の痛みなんて気付くことがなかったんだ。

だから隣り同士が一番自然な形。












一言で感想を述べるとしたら、"見なけりゃ良かった"。
嗚呼わざわざ城に寄ってみようだなんて馬鹿な事考えなければよかったな(そうすればあんな場面に遭遇することもないまま明日もまたアイツの顔を見て笑って肩を叩けたのに。)
あれ?なんでこんなに俺が同様してるんだろう。別にいいじゃないか本人の自由ではないか。アイツが選んだことに俺があーだ、こーだと文句なんか言う必要がないし、言えっこない(確かにそう思っているのに何故こんなにも心臓の奥がムカムカするんだろう、考えても分からない。)
そうだ、相手も同じ男で同姓同士だったから少しばかり吃驚しているのか!やっぱりいくら親友だとしても、あんな所を見てしまえば気が動転するものだ(それでも、これ以上ないほどに俺の体を浸食しようとしているのは嫌悪でも嫉妬でもないどこか痛みの伴う悲しみだった。)

時間が巻き戻せるのなら、俺は今すぐにでも今から半日前の過去に戻りたい。
記憶が消せるものなら、今日一日分の記憶を全てまっさらにしてしまいたい。
そんな非現実的なことを目まぐるしく考えたどころで何も変わらないことは自分でもよく分かっている筈なのに、今の俺にはそんな曖昧な物に縋りついてしまいたい程には頭の中が混乱していたらしい。全くいい歳した大の男がたかがあんな光景を見ただけで、ここまで同様するなんて笑えるものだ。

フレンが俺の知らない男とキスをしていた。
たったそれだけの事なのに。









ノロノロとした足取りで家へと帰宅していた為か、俺が部屋の扉を開ける頃には辺りは暗闇に包まれていた。思ってた以上に心身共にダメージを負っているらしく、情けないことこの上ない。
普段は落ち着く空間である自室へと入っても居心地が悪い。暗闇に染まっている部屋に明かりを灯す気にもなれず、適当に荷物を放り投げてからそのままベッドへと身を沈めた。
目眩が酷く、果てには吐き気まで催してくる始末。身を横たえたまま大きく肩を揺らしながら呼吸をしてみるが、一行に変わらない。それどころか脳裏にあの光景が横切る度に俺の気分は鉛のように沈んでいった。終わりのない迷路に迷い込んでしまったかのように、いつまでたっても展開されていくあの場面。たった一瞬の出来事がループ状に巡っていく。
気付けば、宿屋の女将が洗濯してくれて日光の匂いをたっぷりと含んでいる皺のないシーツを手が白くなるまで握り締めていた。


──トントンッ…
途端、静寂が支配していた部屋に小気味良くドアをノックする音が響き渡る。幾分か時間がたち、やっと先程よりは落ち着いてきた脳内が指令をかけるより早く上半身をガバッと起こした。
今は誰かと顔を合わせる気分でもなかったが、こんな真夜中に急な来訪ともなれば何か事件があったのかもしれない。以前にも同じような事が度々あり、その都度、その問題を解決させていたのも自分だった。
今回もそんな事だろうと軽く思い、俺は床へと足を降ろすなり足早に扉へと迎いながらゆっくりとそこを開けた。


まず、月明りを背に視界に飛び込んできたのはキラキラと輝く金色。次いで海よりも深く、夜空よりも澄んだ青を拵えた真直ぐで透明な瞳。
暫くボーッと佇んでいたが、程よく赤味を帯びた形の良い唇から紡がれる聞き慣れた音色に、そこでようやく我に返った。

「ユーリ…」
「……フレン」

そこに現われたのは紛れもなく俺の幼馴染みであり、親友であり、さっきまで俺の胸中を掴んで離さずにいたフレンの姿だった。
このまま外に追い出すことも、かと言って中にはいどうぞと招き入れるのも躊躇われた俺は沈黙したまま突っ立っていることしかできない。
そんな俺にフレンは眉を下げながら困ったように笑いかける。

「こんな時間にごめん。部屋、入ってもいいかな?」

焦れったい俺の態度をどう捉えたのか、遠慮がちに発せられた言葉は、何故か少しだけ震えていたような気がした。

「ああ、わりぃ。入れよ」
「ん、ありがとう」

中へと促すと、フレンは俺の横を通り過ぎ、ベッドへと腰掛ける。後に続くようにして俺も隣りへと座った。
中に入れたはいいが、お互い黙ってしまい再びそこは静かな空間となる。フレンを横目で見やれば、どこか焦点の合っていない瞳が薄く水の膜を張らせて揺れていた。いつもは意志の強さが籠ったその眼は、全てを見据えているかのように揺るがないのに。
ふと、フレンは俺を視界に納めると少し悲しそうに微笑んだ。きっと俺が怪訝そうな顔をしていたに違いない。

「ユーリ、そんな顔して…なんかあったのか?」

刺すような視線を送っていたのは自身でも分かっていたが、それよりも自分のこととなると本当に鈍いフレンに呆れを通り超して、苛立ちさえ覚えた。

「それはこっちの台詞だ。お前、自分がどんな酷いツラしてるか分かってんのか?」

「酷い顔?僕が?」

「自覚なしかよ…」

俺は、はぁ…と重い溜め息を一つ零してフレンと向き合う形に座り直した。逃げられないようにフレンの両肩を押さえ付ける手に力を込める。

「ユーリ、肩、痛いから」

「うるせぇ。さっさとこんな時間に俺のとこに来た理由を言いやがれ」

「……」

「なにかあったのか?」

言いながら両者の距離を詰めるとフレンは僅かに狼狽した様子を見せた。近くに寄ったぐらいでそんな反応を見せたフレンを訝しく思ったが、すぐに合点がいく。
お互いの吐息がかかるぐらい詰め寄ったこの距離感は、もう少し近付けば唇が触れ合うことができるだろう。
さっきまで俺の脳内を忙しく巡っていたあの光景。何も関係ないとは言い切れない。

「昼にキスしてた男ともめたとか?」

「…ッ!!」

言った瞬間、フレンが息を飲むのが分かった。驚きと困惑とが交ざった双眸が波打つように揺れている。
どうしてそれを知っているんだと問い掛けるような表情を見て、今更ながら、やっぱりフレンはあの男とキスをしていたんだと頭の隅で理解した。ストンと収まった事実に今度は妙に沸き立つ熱い何かが心中を支配する。

近付いていた顔を離せば固まっていたフレンの体から力が抜ける。近くも遠くもない、付かず離れずのこの距離感が今の自分達を表しているようで、俺は込み上げてくる苦笑を隠すことが出来なかった。

「わりぃな。見るつもりは無かったんだが、偶然通りかかっちまった時に、な」

「そうだったのか…」

「それで、なんだ?そいつと喧嘩でもしたのか?」

努めて明るく聞いてはみたが、顔色に曇りを見せたフレンは緩く首を降るだけで俺の質問には答えなかった。
ここまで戸惑い見せるフレンは初めてのことで、俺自身もどう対応したものかと思案し始めた頃、フレンは勢いよく顔を上げた。そこにはさっきまで覗いていた弱々しい影はもうない。
「ユーリは誰かとキスしたことあるか?」

唐突な質問に俺は目を丸くする。この年齢でキスしたことがない方が珍しいだろ、と言おうと喉まで言葉がでかけたが止めた。奥手で生真面目なフレンにはたぶん理解不能な粋だろうから。

「あるぜ。回数とかまではいちいち覚えてないけどな」

「それって好きな人だったんだよね?」

「…まぁ、それなりには」

「その人とキスして気持ち悪いとか…嫌だとか思ったことあるか?」

控え目に、でも答えをはぐらかすことは許さないかのように強く聞かれた問いに俺は瞠目する。普通は恋人同士や親愛を込めて家族間などで行なうその行為に嫌だと思う訳がない。そもそも嫌いな奴と触れ合おうなどと、はなから思わないだろう。無理して付き合ったりする族もいるが、神経がご奇特な連中のすることだと考えている俺としては、嫌悪を抱くような行為であるとは思えない。
話の流れからして、フレンはその男との口付けに何かしら嫌な感情を持ったのは間違いないだろう。
だが、納得のいかない点がある。その場で悩むなり何なりと対処すればいいものを何故、今この時分になってから行動を起こしたのか。それもわざわざ俺の家まで来て。
ひとまず、質問に答えるべく俺は乾いた唇を舐め口を開いた。

「特別嬉しいとか感じたこともねぇけど、嫌だと思ったこともねぇよ。大体、好意持ってる奴とすることに対して嫌だとか思うようなら、それは好きってことじゃねぇ。お前だってそうだろ……って、フレン?」

ちらりと伺うようにフレンの方を見れば、彼は再び顔を伏せてしまっていた。頬にかかる金糸のせいで表情が読めない。
小さく動く唇が言葉を紡いでいるらしいが、それは微かなものでよく聞き取れない。俺に対し言っているというよりも、呟いてるといった方が正解だろうか。
そんなフレンを尻目に何か飲み物でも用意しようと立ち上がった。だが、ぐいっと腕を引かれ、腰を上げたままの体制だった俺は容易にフレンの方へと倒れ込むことになる。
勢いのまま倒れたせいで、フレンをベッドに押し倒すような体勢となってしまい、俺は慌てて上から退こうとしたが、手首を掴む手が離そうとしない為にそれも叶わない。
目前には不安そうに顔を歪めるフレンがいて、柄にもなく内心で焦りを感じていた。
フレンの形の良い唇が呼吸に開閉する度、吐息が首筋の辺りを掠めくすぐったい。

「フレン、どうした?」

「……っ、僕には分からないよ…」

「分からない?」

「…好きとか嫌いだとか…分からないんだ」

「あー…」

なんの事を指しているのかは自ずと理解できた。どうやらフレンは昼の出来事について悩んでいたらしい。今まで色恋沙汰とは無縁な上に、自分の気持ちにすら鈍い恋愛経験ゼロなフレンが、いきなりあの手の感情を向けられ戸惑っているのだろう。
その様が可愛く、彼の心を促してやりたいと思う反面、このまま気付かせたくないとも思う。俺が「それなら、その男のことは好きなんじゃねぇんだよ」とでも言えば、素直な彼はきっと俺の言葉を信じる。俺の言うことには無条件の信頼を寄せているフレンのことだ。

(そうすればフレンは、あの男のもとに行かない…?)

少しでも浮かんでしまった考えに、罪悪感が込み上げる。馬鹿げた事を思ってしまった。フレンが誰を好きになっても、俺に口出す権利などあるわけないのに。

(…だけど、離したくない。俺のものであってほしい)

フレンの瞳を覗き込めば、綺麗な碧が月光により輝いて見えた。嗚呼、この股体のなんと美しいことか。俺は俺自身の想いを無視し続けて、長いことこの淡い灯に蓋をしてきた。ゆらゆら揺らめくそれは少し風が吹けばすぐに真紅の業火になる。つまり、それは親友という今あるこのポジションを失うということに繋がっていた。
でも、伝えたい気持ちがある。もう逃げられないくらいに。

「…フレン、お前はその男が好きなのか?」

急な俺の問いにフレンは目を丸くする。こんな事を聞くのも野暮なことだと思う。少しでも好意がなければキスなど出来ないだろうに。
だが、俺の予想に反して、眉尻を下げながらフレンは首を横に振った。

「好きとは違う。確かに同僚としては良い人だと思うけど…」

「はっ…?じゃあ、なんでキスしてたんだよ、お前ら」

「あれ、は…突然されたんだ…。告白されて、そうゆう事は分からないって言ったら…じゃあ試してみればいい、って……」

しどろもどろになりながら説明した。彼の顔からして、嘘はないようだ。それに元来、彼はこの手のことには疎い為、そこまで器用に頭が働かないだろう。
フレンとあの男はなんの関係もないと判明した途端、力が抜け脱力した俺はフレンの上に覆い被さる。下で「わふっ」とか色気のない声が聞こえたけど、この際気にしない。
俺が今まで悶々と考え、塞ぎ込んでいたのはなんだったんだ。自分だけ先走り、振り回されていて馬鹿みたいだ。そう思うと同時に彼をまだとられていないという安堵と、自分にもチャンスがあるのかもしれないという期待に胸が膨らむ。もう後悔はしたくない。誰かのものになり、指を咥えて見てるなんてごめんだ。なら、ありのままの自分の気持ちを彼に伝えよう。賭けとしては怖いが、大丈夫。
(駄目だったとしても、いつか絶対に振り向かせてやるさ…)

「フレン」

呼べば即座に反応して俺を映すその澄んだ瞳も。

「じゃあ俺だったらどうだ?」

俺の声を全て聞こうとしてくれるこの瞬間も。

「俺を好きにならないか?」
お前を成す全てが愛しいと思える。どこに連れて行くのも恥ずかしくないが、どこに出すのも惜しいと思う。

「俺はフレンが好きだ。月並みで悪ぃけど…お前を愛してる」

フレンは俺の言葉に瞠目する。驚愕の色が強いその目は、だけど逸らされることはなく。重ねて言を紡ぐ俺を止めることもない。恋を知らないっていうなら教えてやる。俺のいう好きが分からないっていうなら伝えてやるから。だから…、

「フレンが知らない奴とキスしてた時、思った。俺はお前を手放したくない。
お前の隣りは俺でありたいし、あってほしいんだ」

「…ユ、…リ…」

フレンを抱き締めて、少し癖のある柔らかい髪に鼻先を埋める。日光を一杯に浴びた金糸から漂う香りは朝の清々しい空気のようだった。

「……僕はそうゆう感情に疎いんだ」

「ああ、知ってる」

「でも…あの時、嫌だって思ったと同時に浮かんだのは……ユーリのことだった」

フレンの顔の横に肘をついて、少し身体を浮かせる。そして下にある彼の顔を見れば、心なしか瞳を潤ませて、落ち着きなく視線を彷徨わせていて。フレンは大きく深呼吸するなり、何かを決心したかのように強く俺を見据えた。

「僕はユーリ以上に大切な人も側にいたい人もいない。いつだってユーリが僕の一番なんだ」

「…フレン」

「好きって、ことなのかな…。ユーリと一緒にいたい」

フレンの言葉に胸が高鳴る。心臓がさっきからうるさく騒ぐのを隠すように、俺は意地悪く挑発的な笑みを浮かべた。きっと答えはすぐそこまできている。

「なら、試してみるか?」

「…試す?」

何をしようとしているのか分かってないらしいフレンを尻目に、俺はゆっくりと顔を近付けた。驚きから、目を見開き固まるフレンの頬を軽く撫で、唇を押し付ける。
最初はすぐに離れ、その次は感触を楽しむように角度を変えて口付けを施す。長い睫毛が震え、目を閉じた。
フレンと始めて交わしたキスは酷く甘美な味がした。じわじわと込み上げる歓喜に、知らず身体が熱くなる。鼻にかかる声が漏れた所で、そっと離れればフレンは顔を真赤に染めて、乱れ気味の呼吸を整えていた。
それが何とも可愛らしく、また幼くて、たまらず吹き出してしまう。

「くくっ…、あはは!おまっ…マジかわいーの!」

「なっ…笑わなくたっていいじゃないか!」

声を張り上げて言い返すがどうにも迫力に欠ける。そうすることで、俺の悪戯心をよけいに強くすることを彼は気付いていないのだろうか。
距離を詰め、鼻先が触れ合うぐらいのとこで口端を持ち上げ問い掛ける。

「で?俺とも嫌だったか?」

「………分かってるくせに」

「お前の口から聞きてぇんだよ」

諦めか落胆か、溜め息をつきフレンは俺と視線を交えると微笑んだ。その笑みがあまりにも美麗で思わず息を飲む。

「とても嬉しかったし、気持ち良かった」

「…そりゃどーも」

「照れてるのか?」

「んな訳あるか」

「はは、そういうことにしとく。…好きだよ、ユーリ…」

今度はフレンから軽く口付けてくる。それは子供染みたキスだったが、俺を驚かせるには十分すぎるぐらいだ。

「お前…そーゆうの反則」

唇を尖らせて小さく悪態をつくが、フレンは笑うだけで、その表情がとても幸せそうだったから俺は何も言えなくなる。
ひとしきり笑い合った後、俺達はどちらともなく再び唇を重ね、互いに強く抱き締め合った。
互いの体温を分け合うように。







隣りにあるからこそ、
近い存在だからこそ。
手を繋いでいれる大切さを忘れてしまうけど、
君がいないのは寂しすぎるから、
ずっと一緒にいたいと願うんだ。













──後日談。
夜中にわざわざ俺の家に訪れた理由が気になり、フレンに聞いてみた。
すると彼ははにかみながら、こう言ったのだ。

「その前に家に行ったら、ユーリがいなかったんだよ。それで城に戻ったんだけど、やっぱりどうしてもユーリの顔が見たくて……夜中にすまなかった」

それを聞いた瞬間、俺は力一杯この可愛い生き物を抱き締めた。








〇後書き〇
もう何も言えません…。
ほんっと意味不明すぎてごめんなさい。
私だけ満足しててごめんなさい(T_T)
とりあえずヤキモキなユーリさんでした(笑)




 
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