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欲に濡れた手を繋ぐ



小さい頃からずっと一緒で、片時も離れる事がなかった。親友として隣り合って、助け合ってきた。あいつがいるから出来たことも乗り越えられたものも沢山ある。その関係に十二分に満足していたし、親や兄弟などいなくとも幸せだと感じることも多々あった。
だが、最近はそうじゃないらしいんだ。嫌になったとかではなく、困ったことがでてきた。一緒にいると出来ない事が一つある。それはとてもじゃないけど親友であり家族でもあるフレンには任せられない、頼れない。とゆうか見せたくない。

俺は髪をぐしゃ、と握り頭を抱える。そう、年頃になって起こった問題とは性的衝動。要するに欲求不満。別段おかしいことじゃないことは分かっているし、それを他の奴等になら、おもしろおかしく堂々と言ってのけてきた。
年代の同じ男同士でその手の話をして盛り上がったこともある訳で。最近できた彼女とヤりまくりだとか、前に初めて売春宿に入って最高だったとか…。世の女性に少し罪悪感は沸き上がるが、弄んだりしてる訳ではないので大目に見てほしい。
現に俺だってその行為に及んだこともある。女性とキスしたことも、体を重ねた事も当然のようにある。愛を囁き合うような人は今までいなかったが。
そうやって定期的に欲望を吐き出してはいるが、この頃はご無沙汰だった。だからといって……


「フレンにまで欲情とかマジねぇわー…」


机に頭から突っ伏して唸りながら、俺は自己嫌悪する。
俺はこの時ばかりはフレンと同棲していることを心の底から後悔した。いくら何でも節操がなさすぎだろ。
だけど、溜まった欲が解放を望み、ぐるぐると巡っているのも確かな事で。狭い家に一緒に暮らしている訳だから女性を連れ込んだり、ましてや一人で抜くこともできない。内容だけ聞くと平和な問題かもしれないが、俺にとってはかなりの死活問題なのだ。
重く嘆息する俺に目の前の男は苦笑する。同情と哀れみが綯い交ぜになった視線で見るのはやめてくれ。


「同じ空間にいたらやり辛いよなぁ…。
でも、性格と口は抜きにしても、お前ぐらいイイ男なら女はいくらでもいるだろ?」

「…簡単に言うなっての。まぁ女はいるんだが、な」

「いるけど?」

「フレンが、ユーリ最近は寒いからあまり夜中出歩くと風邪ひくよ〜とかってご丁寧に心配してくれるもんでな。
しかも、俺が出かけようとすると、さみしそ〜な面するし」「なんか想像つくなぁ…」

「あんな犬みてぇにシュンとされたら…なぁ」

「何人の女をも泣かせたお前でも、フレンだけは特別、か」

「おい、人聞きの悪いこと言うな」


目前に座る男を睨みつける。そいつは「おお、怖い」などと思ってもいない事を口にしながら、降参するように両手を上げた。
太陽もそろそろ沈む頃、突然押し掛けてきた友人に俺達は驚いたが、嫌な顔を隠そうともしなかった俺に対しフレンはいつもの笑顔で快く招き入れた。そのフレンが夕飯の買い出しに行っている間、俺と友人のケイトは今のような下世話な話へと発展していった。
この手の話はフレンがいる前ではしないというのが暗黙のルールになりつつある。別に仲間外れのつもりはないのだが、あの純真無垢でその辺のガキより無知な清い心を持ったフレンを交えたりでもしたら大変なことになるのが予想つくからだ。3日は知恵熱で寝込みそうだ、真面目に。


「この前よ、処分し忘れてたゴムをそこに置いといたんだよ。それ見たフレンが何て言ったと思う?」

「破廉恥だよユーリ!…とか?」

「それならどんだけ良かったことか…。ユーリはいい年して風船で遊ぶんだねって笑いながら言われた」

「はは…、そりゃキツいな」

「あー、俺そん時はほんっと後悔したね。もっと教えときゃ良かった〜って」


うなだれる俺にもう既に苦笑いしか返せないらしい。そりゃそうだ、普通の野郎なら当たり前に知っていることをアイツの場合は知らないのが当たり前なのだから。呆れを通り越して、感心すらしてしまう。誰だアイツに性教育を施したのは。保健体育どころの話じゃねえぞ。
……って俺が遠ざけさせてたのか。
とりあえず本題に戻せば、今の俺のこの現状をどうするかだ。そんなに好きにしたければフレンと離れて暮らせばいいじゃないか、と言われたこともあるが、あいつとの生活に慣れきった俺にとって、それは夫婦間の別居に近いものすら感じる。最早ここまできたら離婚騒動を味わってる気分だ。この歳でそれは勘弁したい。
早い話がフレンと離れて暮らしてまでこの欲を抑えたいのではなく、フレンと暮らしながらの打開策を導きだしたいという訳であって。そんな間抜けな話(俺は至って真剣)を聞いていたケイトが顎に手を当てながら考える素振りをする。


「…もういっそのことフレンと寝れば、お前?」

「ぶふっ!!」

「うわっ、いきなり吹くなよ!」

「っ、ケイト!笑えない冗談はよせっつの!」


げほげほと咳き込みながら声を大にして文句を言う。いきなり何を言い出すかと思えば…フレンと寝ろ、だとぉ?こいつは舐めてんのか。
俺は吹き出した紅茶を雑巾で拭き、テーブルの上に適当に投げた。使ったものを直ぐに片付けないとフレンから小言を言われるのだが、その本人はまだ帰ってきていない。


「…大体、フレンは男だ。いくらアイツが無知だとしても、セックスは男女間でするものだってことぐらい分かってるだろうよ」

「でも顔はかなりカワイイよな。そこらの美女以上に上玉だ。笑顔とか癒されるし」

「それは否定できねぇけど…」


確かにフレンの顔立ちは端正な造形物のようだ。稀代の彫刻家が残した最高傑作のような完璧さを持ちつつも、あのふにゃりと朗らかに笑う所なんかが幼さを残していて、加護欲を誘う。それに加えてあの人懐こい温和な性格に、親切でいてしっかりと礼儀を弁えた謙虚さ。更には天然爆弾ときたもんだ。
なんだ、あいつは。彼女にしたい人ナンバー1にでもなる気か。男だけどよ。
だが、フレンの見た目がいくら麗しく、いくら俺好みな性格だとしても、欲に走り親友を抱くほど見境ない事をするつもりはない。そんなことしてアイツを傷つけるのは嫌だし、嫌われたりでもしたら立ち直れる自信がない。


「フレン相手に抱く気は起きねえよ」

「でもムラっとしたのは確かなんだろ?」

「だああぁッ!!!あれはしょうがないんだよ!」


事実、フレンに欲情してしまったことは否定できない。だけど、それは俺が悪いんじゃないと思う。
普段より長湯をしたせいか風呂上がりの蒸気した白い肌は赤く染まり、髪の毛から伝う雫が首筋に筋をつくる。暑さにとろんとした艶めかしい表情で見つめられた時、俺は自分の理性を総動員させて煩悩と戦っていた。
その後、人の気も知らないでフレンは胸元のボタンを際どいとこまで開け、ズボンを膝上まで捲り上げすらっと伸びた生足を惜し気もなく晒していた。オプションにバニラアイス(棒付き)を舐めてるときたもんだ。
あれが確信犯じゃないんだからどうしようもない。暫く悶々としながら、フレンが眠りにつくまで我慢し、夜にすっかり元気になった息子を風呂場にて慰めた。なんて痛々しい思い出だろう。思い返すだけで顔から火が出そうだ。


「俺だって何が悲しくて男相手に……」

「お前贅沢すぎ、あと目が肥えすぎ。
…ユーリが知らないだけで、お前羨ましがられてんだぜ?」

「はぁ?あんでだよ?」

「あーんなかわいこちゃんを独り占めしてるんだ。そりゃあ野郎共が黙ってないっしょ」

「ふーん…あんま意識したことねぇけどな」

「そこが贅沢だって言ってるんだ。だったら俺にくれ!フレン相手なら男でも構わない!!」

「なんでそうなるっ!」


何やら訳の分からないことを言い始めたケイトをなんとか抑えた。じゃないとこのまま暴走しだしてしまいそうだ。なんだってそんなに皆してフレンに拘るのだろうか………失言かもしれない、俺もフレンじゃなければ同居なんてしてない。絶対に。
いくらか落ち着いてきたらしいケイトが深呼吸を何回か繰り返して、再び俺と向き合う。射抜くように見つめてくる視線が彼の真剣さを伝えている。


「…ユーリ、お前はフレンのことどう思ってるんだよ?」

「どうって…親友だと」

「なぁユーリ。俺にはただの親友がここまでお互いに依存するとは思えないんだ」

「どうゆう意味だよ」

「だから、お前も気付かないだけでフレンに対してそうゆう感情があるんじゃないかってこと」


ケイトの言い分からすると、俺自身が知らないうちにフレンに惚れてるんじゃないかというものだった。性的なものからはなるべく遠ざけようとするのも、結局は余計な知識を入れ他のものに目を向けないようにという俺のエゴなのだと。
俺はその仮説に対し反論なんか出来る訳がなかった。少なくともフレンが自分以外のもとへと行かないように仕向けようとしてたのも事実だ。独占したくないと言えば嘘になる。
でも、フレンを恋愛対象として見てるかと聞かれたらそれも違う気がする。本気ではなかったにせよ、女性に好意を寄せた時とは全く別物だ。フレンのことは好きだけど、それ以上の想いを抱いているのだ。それが何なのかは分からないけども。


「しいて言うなら守りたい存在ではあるけどな。ってかケイト、話の論点がずれてきてる」

「だから溜まってんならいっそのことフレンに解消してもらえよ」

「馬鹿言うな。アイツ泣くぞ、絶対」

「そりゃ初めてだからな。だけど、嫌がるかどうかは分からないぜ?」

「それでも、だ。俺はフレンが大事なのに変わりない。
それに俺の方が、まともな状態で男相手に勃つかよ」


拗ねたように吐き捨てた俺をどう捉えたのか、ケイトは急にニヤニヤと人の良くない笑みを浮かべた。それを見て背筋に冷たいものが走る。絶対によからぬことを考えているのは明白だ。
段々、苛々してきた俺はもうこいつ追い出そうかと思案してた時に、ケイトはゆったりとした口調で俺に淡々と告げた。


「なら試してみればいい」


言われた言葉に俺が目を見開くのを楽しそうにケイトは見つめた。何か言いたいのに言葉は喉に張り付いたかのように出てこず、不明瞭な音だけが零れる。情けないことだが完全に動揺してしまったらしい。
そして、やっとの思いで俺が口を動かそうとしたのと、部屋の扉が開くのはほぼ同時だった。俺は大袈裟なほどに肩を跳ねさせ振り返った。そこには案の定、先程まで話題に出ていた人物が立っている。


「遅くなってすまない。少し話し込んでしまった」


フレンは人好きする微笑みを浮かべながら机に荷物を置く。それを見届けていた俺達だが、ふいにケイトが立ち上がりフレンに近付く。
何する気なのだろうと訝しげに見る俺を余所に、ケイトはズボンのポケットから小さな袋を取り出し、中身を掌に出した。ここからだとそれが何かは確認できない。


「フレン、ちょっと口開けてくれる?」

「あっ、うん」


なんの疑いもなく口を開いたフレンの口内に、ケイトは小豆ほどのタブレットを放り込む。驚きにフレンは唇を引き結び、勢いのまま飲み下してしまった。
俺もそれを呆然と見つめていたが、慌ててケイトの肩を掴み振り向かせる。


「おいっ、ケイト!何飲ませたんだよ!?」

「毒じゃないから心配しなくてもだいじょーぶ」

「そうゆう問題じゃねぇ!」

「あらら。ま、俺はそろそろ帰るわ。紅茶ごちそうさん」

「待てよッ!」

「…その媚薬、弱いけど初めてにはキツいかもしんないから面倒みてやれよ〜」

「なっ…!!」


ひらひらと手を振りながら玄関へと向かうケイトの後に続くが、間一髪の差で外へと出られてしまう。
今、ケイトは何て言った?フレンに媚薬を飲ませた?なんの為に…?
脳内で自問自答を繰り返しながら俺は唯々、立ちすくみながら閉まった扉を穴が開くほど見つめていた。


──後ろから乱れた呼吸が聞こえてくるまで。














裏に続きます!
興味のある方はそちらもお付き合いくださると嬉しいです(^^)




 
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