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冷たい腕が好きだった




いつもと変わらない朝を迎える度、忙しなく過ぎてく時に立ち止まる度に、僕は貴方の背中を思い出します。







********



小高く山になった丘の上にそれはあった。あまり大きくはないが大理石を使い四角くかたどられた石が、たった一つだけ其処にぽつんと置かれている。
寂しげな雰囲気とは裏腹に、周りには色とりどりの綾をもった季節の花々が咲き乱れ、差し込む陽光も交じり、その場所は幻想的な雰囲気を放っていた。

人が足を踏み入れることもなく、小動物さえもあまり近付くこともない。周囲とは遮断されたような場所に、一人の人間が訪れた。
金色に輝く髪を風に揺らし、遠くを見据える碧の双眸は宝石のように煌めく。細身の身体に上質のマントを身に着け、風にはためかせながら歩いていたが、その石碑の前まで来ると立ち止まった。

「やっと見つけましたよ…」

よく通る凛とした声が暖かな空気を震わせる。
地面に膝をつき、その石碑を軽く撫でると、胸の前で手を組んだ。聖人が祈りを捧ぐようなその光景は、一見穏やかな様子とは違い、表情はどこか憂いを帯びていた。
祈りが終わるとその人は伏せていた頭をゆっくりと上げ、誰とも知れず笑みを浮かべる。優しげで、愛情に満ちた微笑みだった。今にも壊れてしまいそうな、儚い微笑みだった。


「貴方が旅立ってから……帝国はだいぶ変わりました。魔導機のない暮らしの中でも、人々は強く生きています。
帝国やギルド、みんなが協力して、助け合って…生きているんです。凄いでしょう?」


石碑を囲むようにして咲いている花の花弁をいたずらに撫でる。自然の物のせいか、帝都より花の香りが少しだけ強い。


「上手くいかないことや、大変なこと、辛いことも沢山ありました……でも、その分、嬉しいことだって沢山…あったんです」


数え切れない程の涙の向こうには、必ず笑顔があった。楽しいことに終わりがくるように、苦しいことにだって必ず終わりがくる。
アクアマリンのような瞳が瞬くと、一粒だけ、雫が落ちた。それは大地に染み込み、跡形もなく消えたが、直ぐにまたぱたぱたと雫が雨のように零れ落ちる。


「これが…、貴方の理想とした世界です……っ」


泣き笑いのその顔は、とても美しく、そして強かだった。絞り出した声は痛々しいのに、胸中に心地良く響かせるもので。
ざわざわと鳴り止まない木々の囁きに交じって、最後になるであろう泣き声が溶けこむ。


「さようなら…アレクセイ騎士団長………」


呟いた言葉は風にのって、今は亡き者に向けられ、届くのだろう。その時にはきっと今以上に笑顔溢れる世界になっていると信じて。
立ち上がった時には既に来る前と同じ、否、先程よりもずっと柔らかい表情になっていたその人物は、石碑に背を向け去っていく。


少し肌寒い秋風が、これから冬がくることを告げていた。
そうして冬がきて、春がきて、季節は巡っていく。その流れる時の中で生きる人に、少しでも多くの幸せを残していきたいと、彼は思っていた。
まだ夢が叶うまでは程遠いが、己がもっとも敬愛した人物が成そうとしたものを自分が築いていきたい。そして出来ることなら見守っていてほしい。
やり方は違えど、目指したものは同じだったあの人に、今が幸せなんだと胸を張って言えるように。
立ち止まり、空を見上げる。澄んだ青がどこまでも続くこの綺麗な世界を守っていきたい。


「……僕は、…貴方が…大好きでした……」


ずっとずっと秘めていた想い。
優しくて哀しいこの気持ちも一緒に、空へと返して、歩んで行こう。

きっと明日はまた晴れるから。













THE☆中途半端なSSでした。
自分おつッ!!



 

あぎゃーーっ!!






ブログから遠ざかり早5日…




ごめんなさーい!!

なるべく毎日、なんかしらブログ更新するようにしたいのですが、憎きテスト期間に入りなかなか出来ませんでした(´;ェ;`)
とりあえず終わったら小説アップしたいです。
むしろ、テスト期間中でも書くかもしれません。


ええ、テストは半分捨ててますから!(どーん)




兎にも角にも…亀更新すいませんっ……orz
11月あたりは豆に更新できる予定です(ノ_<。)




ユーリとフレン5







ユーリとフレン5
〜勘違いの行方〜





日夜繰り返される戦いの中に身を置いていれば疲れは溜まるもの。そこで無理をすれば判断力は鈍り、本来の力も充分には発揮できなくなる。
定期的な休息を取ることは必要不可欠であることを身を持って知っているユーリ達は、この日も違わず休む為に安価な宿に泊まっていた。場所は近いからという理由でオルニオンになった。勿論決めたのはユーリで、彼の持ち前の口の上手さによって半強制的に下された判断である。

その一行を率いるリーダーは、村へと入った時にばったり鉢合わせした親友の寝泊まりしている部屋で過ごしている。
調度フレンも休息を取る所だったらしく、ならば滅多に休みが被ることがないから一緒にいようと、ユーリが押しかけに行ったのだ。
当のフレンも当たり前のようにそれを受け入れた。それどころか、ユーリの申し出を聞くなり、とても嬉しそうに笑っていた。頬を染め、花が綻ぶように笑う姿は、その辺の純粋な少女よりも愛らしいものだ。

ユーリとフレンの相変わらずの仲の良さっぷりに仲間や部下も零れる溜息が隠せず、ご飯時になるまでは好きにさせとくことにした。
二人だけのあの世界に入っていけないから、という理由もあるが。


「ユーリとフレン寝てないといいんですけど…」

「寝てたら私の魔術で叩き起こしてあげるわよ」

「リタ、それはちょっと…」


時がたち夕飯の時間になったので、二人を呼びにエステルとリタがフレンの部屋へと向かう。折角の食事が冷めてしまう前にと、歩む足も自然と速くなる。


「ここでしたよね」

「ええ。んじゃ入りましょうか」


急いだ為か、割と早く目的地へと着いた。
そして入口の方へと行き、ドアをノックしようとしたその時だった。


『も…ユー、リ……やめ、て…』


微かに、だけどはっきりと聞こえてきたフレンの声にエステルの動きが止まる。
何事かとリタの方へと振り返った途端、続けてベッドの軋む音がした。


『今更何言ってんだよ。ほら…じっとしてろ』

『でも…、ぁ…やっ…!』

『いって!…爪たてんなって』



「…………」

「…………」


エステルとリタは黙ってお互いを見つめたまま、扉の前で立ち尽くしていた。
しっかりと耳に届いたフレンの強張った、しかし甘さの含んだ声色。ベッドのスプリング音。ユーリの少し切羽詰まった口調。

もしかして、いやそんな事。まさかこんな時間に。いやいや、でもあの二人なら。
普段は賢いと称えられる彼女等の頭も、この時ばかりは正常な働きを成すことは出来ずにいた。意味のない押し問答が脳内で繰り広げられている間に、追い討ちをかけるようにして再び室内から声が響く。


『むり…だよ、ユーリ……お願い…っ』

『何が無理なんだよ?』

『だって、こわ…い、……ひぁ!?』

『怖くねぇよ、痛いのは一瞬だ。いいから力抜けよ』

『や…待って、だめ…!』

『もう待たない』

『あ…ッ!!』


エステルはドアの前に添えたままだった手をゆっくりと引っ込める。同時にリタも踵を返し、扉に背を向けた。
怒りか羞恥か僅かに震えるその背をたっぷり数十秒眺めてから、エステルは場にそぐわないほど穏やかな口振りでリタの名を呼んだ。


「………戻りましょうか」

「…………そうね……」


二人は来た時と同じくらいか、それ以上のスピードでその場から離れていった。
















「うぅ…ユーリの馬鹿…。やっぱり痛かったじゃないか!」

「それはお前が力みすぎるからだっての」


怨みがましく言いながらフレンは自分の耳朶を押さえ、涙の滲んだ瞳で睨み付ける。それをユーリは軽くいなし、清潔なタオルで浮き出ている血を拭ってやった。


「なんで急にピアス穴なんか…」


部屋で談笑したり触れ合ったりしていた時、何を思ったのかユーリに唐突に言われたのは『ピアス穴空けようぜ』だった。
最初はフレンも興味津津だったのだが、いざ針を刺す段階になって怖じ気ついてしまったのだ。情けないとは思うが、目の前に迫りくる針を見ていると怖くなり、瞬間的に身を退いてしまう。
いつもはもっと大きな刃物を振り回されても怯まないというのに、矛盾しているとユーリは内心で毒吐いた。
だが、そんな子供染みたところも好きだと思う自分もそうとうなものだ。

深く息をつきながら、ユーリはズボンのポケットを探って目当ての物を取り出す。細い青のリボンが巻き付けられたシンプルな袋。そして、未だぶつぶつと不平不満を口にしているフレンに向かってそれを投げつけた。
とっさの条件反射で上手くキャッチして、放ったユーリの方を見ると彼は開けてみろと顎で示す。促されるままにフレンは包みを丁寧に開いた。


「ユーリ、これ…」


開けて出てきたものは小さなピアスだった。小振りな石のついたごく有り触れたもの。
しかし、その石の色はどこか懐かしさや安心感の込み上げるものだった。自分の見慣れた色、大好きでいて大切な綾。


「オレのはこっち。綺麗だろ?」

「…! それ…」

「お前はブラックオニキス。オレのがアクアマリン」

「…僕のはユーリの色だね」

「ご名答。ちゃんとつけてろよ、それ」


目を細めニヤリと笑うユーリはさながら確信犯なのだろう。フレンが拒否できないと知っているのだから。
全く意地悪なものだとフレンは思うが、そんな所も引括めて愛しいのだからしょうがない。
せめてもの仕返しにフレンも口端を持ち上げて、悪戯に笑った。


「このピアスも君も…ずっと手離さないよ」

「あったりまえだっての!」


ひとしきり笑い合って、どちらともなく唇を重ねる。
二人の耳からは互いの色が美しい輝きを放っていた。











それから約10分後に呼びにきたレイヴンに、エステルとリタの様子がおかしかったと知らされる。
ピアス穴を空けていただけのつもりのユーリとフレンにとっては、二人の挙動不信な言動についての理由など知るよしもなかったのだった。













短文なのにふつーに長い…。
うーん、もっと短い文章が書けるようになりたいです。




心臓が止まりそうです




どんなに綺麗な景色でも、どんなに鮮やかに彩られた草花も、百人がいたらその全員が称えるような偉い人物でも、自分の心をこんなにも揺るがすものは、彼以外にいないとユーリは思う。
だって、そうじゃなければ自分の心臓は、今こんなにも騒ぐ訳がない!


「ちょ、フレン、どうした?」
「ユーリ、好き、大好きだよ」


フレンにいきなり抱き締められたかと思ったら、すかさず熱烈な告白を受け、ユーリは珍しくも狼狽した様子を隠せないでいた。いつもなら自分から進んで好きなどと言わない彼が、今は何回も繰り返し、囁いている。
これは何かのドッキリ作戦なのか?と、焦った脳ではまともな答えすら導くこともできずにいた。


「とりあえず一旦離れろ、フレン」
「嫌だ、ユーリは僕のこと嫌いなのか?」
「んな訳ねえだろ」
「じゃあ好き?」
「世界一愛してるに決まってんだろ」
「ほんと?嬉しい」


ふわりと頬を赤らめて笑うフレンにユーリは軽く目眩がした。今の笑顔は反則だろ、と内心で愚痴る。情けない話だが、少し腰にきた。フレンの笑った顔には滅法弱い自覚のあるユーリだが、この反応には少し泣きたくなった。
どうすればこの現状を打破できるのだろうか。このままでいれば自分は確実にこの青年を襲ってしまいそうだ。それはマズい。なにがという訳ではなくとも、自分の為にも出来るだけ避けねばならない。
そう思案している間、放っておかれてることを不満に思ったらしいフレンは、ユーリのことをベッドに押し倒した。
ユーリは目を白黒させて現状の把握をしようとした。上を見ればフレンがにこにことしながら、とんでもない事を口にする。


「ねえユーリ、気持ちいいことしよう?」
「は…?」


言われた言葉を理解するより早く、フレンはユーリのズボンのチャックに手をかける。器用に動く手を慌てて制するも時既に遅し。フレンはユーリの熱を持ったそれを取り出していた。ほう…と感嘆に近い溜息をつくなり、それを口に含む。
ビクッと過敏に反応したユーリを満足気に眺めた後、フレンは口腔までそれを招き入れる。もう、どうにでもなれと投げやりな気持ちになって、甘美な快楽に身を任せ始めた頃、突然フレンの動きが止まった。

「…フレン?」

不審に思い、声を掛けながら軽く揺すった。
すると…、

「んー…ユー、リ……」

なんとも可愛い声で寝ながら己の名を言うフレンに、ユーリは酷く脱力した。心底疲れた、心臓に悪すぎる。

「マジで勘弁してくれ…」

中途半端な刺激を与えられ、放っておかれるなど生殺しじゃないか。責任をとってほしい。
ユーリは軽く泣きたくなったが、目前ですやすやと心地良さそうに眠る愛しい恋人に文句など言える筈もなく、ただ指通りのいい金髪を撫でるだけに終わるのだった。






後日聞いた話によるとその日、フレンはユーリの家に寄る前に宿屋のおばさんの所に行き、そこで飲んだくれのおじさんに絡まれ酒を飲まされて、ああなったらしい。
全く、迷惑なことはしないでもらいたいと思いつつも、今度フレンに酒を飲ませてみようと企むユーリであった。







心臓がとまりそうです



 

食べられた羊




起き抜けに感じた腰への鈍い痛みにフレンは眉を顰めた。未だ覚醒を渋る脳を一喝して、こんな場所で寝ていた記憶を辿る。しかし、それはわざわざ思い出そうなどとしなくても鮮やかに蘇ってきた。
確か此所は城内の奥まった所に位置する、今は殆ど使われることのなくなった武器庫だ。薄暗く、埃っぽいこんな場所で眠る趣味など自分にはない。
ああ、またか。騎士団の人間に無理矢理連れて来られるなり、凌辱され、犯された。平民出身の成り上がりの分際で、楯突いたのが気に食わなかったのだろう。自分達の勝手な横暴で、下町へと税金の徴収に行こうとした所を止めに入ったら、この有様だ。
常の日常になってしまったこの行為にもう痛みなど感じない。やるならやればいい、自分はこんな暴力になど屈しない。こんなことで負けるものか。


──だから、





「……っ、ユーリ…!」


この涙はたった一人の人物を想って流すものだ。あんな汚れた営みに対してなんかじゃない。どんなに身体は汚れようとも、心まで手出しさせない。この内に秘める信念だけは汚される訳にはいかないのだ。
何故なら、彼がこの腐敗しきった騎士団を脱退する晩の日に交わした、最後の約束だから。
『俺の代わりになんて言わない。お前だけの信念を此所で貫け』
真直ぐな視線で告げられた言葉が、自分を支える糧になっていることを彼は知っているのだろうか。


「……負けるものか」


立ち上がり、衣服を整える。どれだけいいように弄ばれても、辱められても、この気持ちは揺るぐことなく彼だけのものだ。
汚れた身体で彼に触れることは叶わないけど、心だけでも触れれるなら、それ以上は望まない。

重い扉をゆっくりと開き、外に出る。久し振りの光に目を細めながら、振り返ることなく長い廊下を歩いて行った。







食べられた小羊





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