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宇宙一、好きなんだ



"好きだ"と言われた。
"僕もだよ"と答えた。
そしたら"違う"と返された。
何が違うのか分からず、首を傾げていると再び"違うんだ"と言われた。

それじゃあ彼の言う"好き"とは何なのだろうか。













ある晴れた日の午後、コーヒーの香ばしい匂いが漂う部屋で僕とユーリは向かい合って座っていた。端から見たら、いつも通り雑談を交わす仲の良い二人に映っているのかもしれないが、今の僕らの会話は普通の親友同士が交わすにしては、少しばかり可笑しい点が多々あった。


「いいか?よく聞けよ。俺が言う好きってのはだな、」

「それは分かったよ。僕が聞きたいのは、君がその判断をするまでの経緯が知りたいんだ」

「過程なんてどうでもいいだろ、大切なのは結果だ」

「…その短絡的なとこ直した方がいいと思うよ」

「お前が堅物すぎんだよ。もっと物事軟らかく受け止めないと、将来ただの頑固オヤジになるぞ」


この終わりの見えない押し問答を始めてから軽く一時間は経過している。あまり多くはない休暇を使ってユーリのもとへと訪れているのだから、時間を無駄にしたくない。自分が勝手に来ているのだから文句も言えないが。
彼と話しているこの時間だって無意味な訳ではないが、それにしたって同じ事を延々と語っているというのは中々骨の折れるものだ。そろそろ終わらないかな、と明後日の方向に目を向けていると、珍しくもユーリが少し声を荒げてきた。


「お前、真面目に聞いてんのかよ?」

「聞いてたよ。だけど、君が不真面目なんじゃないか」

「俺の?どこが?」


僕の返答に不満をもったらしく、ユーリは不機嫌を露にして掴み掛からんばかりの勢いで言ってきた。その反応を見て流石に失言だったかと後悔した。
だけど、しょうがないじゃないか。急にあんな事言われて本気にする方がおかしい。

先刻、ユーリに好きだと言われた。そう思ってくれるのは素直に嬉しいし、僕自身もユーリのことは大好きだから、笑顔で僕もだと返したらユーリに酷く嫌な顔をされた。『こいつほんっと馬鹿なんじゃないか』と言いたいことがはっきりと分かるぐらいに。顔に書いてあるとは正にこのことだと、妙に感心してしまった僕もどこか抜けてるのかもしれない。
でもさ、いきなり好きだ云々言われたって僕はどうすればいい?しかもユーリ曰く、恋愛的な意味で。それって普通は異性に抱くものなんじゃなかっただろうか。だからユーリの言う好きは勘違いなんだ。僕がずっと側にいて、ずっと一緒にいた家族のような存在だったから、好きの延長線で僕に恋してるっていう思い違いをしているんだ。"フレン・シーフォ"という一人の人物を見ているのではなく、気心知れた"幼馴染みのフレン"として好きなんだ。
そうじゃなきゃ僕が困る。なにがという訳でもないけど、とにかく困ってしまうんだ。この宛もない感情が膨れ上がってしまいそう。


「ユーリが好き、それは僕も同じ。それじゃ駄目なのか?」

「駄目とか良いとか言ってるんじゃねーよ。お前が応えようともしないから納得ができねぇんだよ」

「応えているじゃないか」

「それがお前の本音なら文句も言わないさ」


腕を組んで、忌々しげに吐き捨てられる。彼は何を自分に求めているというのだろう。
ユーリが好きだってことは同じなんだって、何で分かってくれないんだ。ただ、それが彼の言う異性に対するそれじゃないだけであって。
その気持ちにまで僕に応えさせようといっても、できないとしか言えないんだ。一歩踏み込んでしまえば、戻れなくなる。その事の重大さをユーリは解っていない。


「ユーリは勝手だ、僕の気持ちを無視してる…」

「……お前、それ本気で言ってんのか?」


ユーリに背を向けているから彼の表情は分からないが、声のトーンが一つ下がったあたりから考えて怒っているのだろう。常人なら彼の低く鋭い声を聞くと、恐れ慄いてその場から逃げてしまうものだけど、常日頃から一緒にいた僕にとっては慣れたものだった。


「…僕のことを本当に考えてくれているなら、そうやって軽い気持ちで好きだなんて言わないでくれ。はっきり言って不愉快だよ」


言い過ぎだと自分でも分かっていたけど、止められなかった。ユーリと会話していて感情が高ぶってくるのを感じる。それは今だけに限ったことじゃなくて、ここ数年の話。
何故かたまにユーリに対して起こる激しい情緒が僕を悩ませていた。自分でもなんでそうなるのか理解出来なくて、最近は特に酷かったかもしれない。だからより、ユーリが気安く告白してきたことが許せなかった。
僕はこんなにも君のことで苦しんでいるのに、重荷を増やす気なのか、と。どうしようもない程、身勝手な考えだとは自分自身が嫌になるぐらい分かってる。そんなことユーリには関係ないんだって。だから、ユーリが何を発言しようとも僕がそれを善だ否だなんて言う権利なんかないんだって、身に詰まる程分かっているんだ。


「ああ、そうかよ」


さっきまでの苛立った声色はすっかり消え失せていたのに、僕はそのたった一言に肩を竦ませる。今、後ろを振り返るのが怖い。ユーリの眼を見たら己の中で渦巻く、名もないドロドロした想いを全て吐き出してしまいそうだ。
雰囲気だけで彼を探っていると、ふいに立ち上がる気配がした。そのまま彼は部屋の扉の方へと向かう。ドアノブを回す音がしたところで、慌てて振り返ると、今度はユーリの背を僕が拝む番となった。


「ユーリ、どこへ…」

「……人が腹括って告白した事もないがしろにする奴なんざと話なんかする気はねぇ。お前はそこにいればいいさ」

「…!!」

「じゃあな」


ぎぎっ、と木の擦れる音と共にその扉は閉まった。固く閉ざされたその一枚の壁を僕はただ、意気消沈と眺めているしか出来ずにいた。

















どれほど長い時間が過ぎたのだろう。日は既に傾き、辺りは暗くなり始めている。
ユーリが出て行ってから僕はどうすることも出来ず、ただ彼の帰りを待っていた。待ったどころでユーリが帰って来る保障など、どこにもないけど僕には待つ事しか選択がなかった。
小さい頃、隣り合っていた存在はいつからか、ずっと先を歩くようになっていた。どんなに追いかけても、再び距離は離れて行く。君はこのままどんどん先を歩いて行くのだろう。
僕の気持ちは幼かったあの頃に置き去りにしたままだ。当たり前のように一緒にいたあの頃に。


「……追い続けるのって、疲れるんだよ、ユーリ…」


苦笑を零しながら窓の外を見る。ぽっかりと浮かぶ月は雲に覆われ霞んで見え、夜闇の道を照らすには頼りない。
いつだか笑い話しの一環として、ユーリが僕のことを太陽に例えたことがあった。太陽がなきゃ生命は育たない、俺はフレンがいなきゃ今こうしていられないから、お前は太陽なんだと言っていた。その時は照れ臭さくて、だけど誇らしかった。じゃあユーリは月だね、月がなきゃ太陽だって存在できないよ、なんて僕も笑いながら返した。

でもね、それは間違いなんだと大きくなってから気付いたんだ。
太陽が明るいんだって分かるのは、夜が訪れるから。月がなきゃ太陽の価値なんて、誰も気付かずに終わっていたと思うんだ。ずっと照らされてるだけでは皆疲れてしまう。
僕は一人だったら輝くことも出来ない。全部全部、ユーリという存在があったから。ユーリという支えがあったから。
ユーリという存在を無くしてしまったら、僕にどんな価値があるというのだろう。どんなに離れても必死になって追いかけるんだ。いつだって君の隣りで笑ってられるように。


「…だから、踏み込めないんだ…」


ユーリが好き、そんなの今更だ。
僕の方が何年も前からこの気持ちに気付いてたよ。でも、望んでしまえば、より離れられなくなる。別れがきたら、もう二度と走れなくなる。
ならば最初から近付かなければいい。この親友というポジションを保ったまま、君が笑っている時に近い所から見られればそれで十分だ。そうすれば、別れなどこない筈だから。友であれば、哀しい現実に打ちのめされることなど無いままでいられるから。
そんな僕の狡い心情を知ってか知らずか、ユーリは僕の引いた境界線にやすやすと入ってきてしまった。自分の気持ちから逃げてばかりの僕とは違って、とても素直に綺麗な想いを向けてくれた。
そんなユーリが、僕は、


「だい、すき…なんだよ」
冷たくなった頬を温かな雫が濡らしていく。逃げてばかりいて何も言えなかったら、きっと後悔すると分かっていながらも、僕は差し延べられた手を取ることすら怯んでいる。
だって怖いんだ。君と僕が永遠に親友としていられることはあっても、愛し合っていける保障なんてどこにもないじゃないか。その時、僕はどうしたらいい?
置いてかれるのは哀しい。果ての未来に君といられたらとばかり願ってしまう。
ユーリが好きで、彼が欲しくて、見ていたくて、傍にいたくて、触れ合いたくて。
彼への想いが溢れそう。ユーリに会いたくて仕方がないのに、身体は動かずにいる。もどかしくて、こんな自分が情けない。
ふいに、カーテンが揺れる。窓は閉まってるのになと、ぼんやり頭の角で思った。


「なに泣いてんだよ」


ふわりと後ろから抱き締められた。久し振りに感じたその体温が優しくて、心地良くて、余計に涙は止まらなくなってしまったけど、ユーリは咎めることなく大きな手で僕の頭を何度も撫でてくれていた。
この時間が恋しい。ユーリが愛しい。もう嘘なんてつけそうにない程、溢れでる想いは小波のように揺れている。


「…僕はユーリがいないと…駄目なんだ……」

「うん、知ってる」

「だから、ユーリの気持ちには応えられない。君を失うぐらいなら…最初からない方がいいから…」


小刻みに震える身体が怨めしい。こんな時ぐらい力強くしゃんとしていたいのに、思い通りにいかない自身が歯痒かった。ユーリが立ち上がり、床に座る僕の目の前に周った。
はらはら伝う涙で、視線の先はとうに何も映ってはいない。……だからかな。近付くユーリの顔が視界一杯に広がっても、唇に柔らかい感触を感じても、大した驚愕もなく受け入れていられたのは。
それが離れた時にやっと、キスされたんだって気付いた僕は鈍いのかもしれない。


「……ユー、リ…」

「お前は難しく考えすぎなんだよ。要はこれから先、俺と一緒にいたいか、いたくないかだ」

「それは分かってる。だからといって…割り切れないよ…」

「じゃあ、簡単な事だ。後先のことばっか考えるんじゃなくて、今を見ろ。そして、お前の意思で選べ」


僕の意思、そんなの最初から分かってる。僕の歩んでいく道の先に、君が隣りにあってほしい。思いあって、手を繋いで、その先もずっと共に歩いていきたい。
ユーリの漆黒の瞳が僕を居抜く。常より真剣な色を拵えたその眼はどんな宝石にも勝るぐらい綺麗だった。そして、その眼に僕が逆らえる訳もないんだ。透かされて見られてる感覚すらあるその視線に、ごまかした感情など意味がない。


「選べよ、フレン」

「……僕、は…」


真直ぐすぎる言葉はいつも僕に安心を与える。彼らしい、低くても澄んだ音。
そうだ、僕は知っている。いつもユーリは先を歩くけど、いつだって振り返って笑ってくれていた。その温かい手を取れば、迷わず進んで行ける。


「…俺を選べ」


何も言うことなく、僕は自分から口付ける事で答える。
重ねた唇は蕩けそうなほど甘かった。






(やっと俺だけのもんになった)
(…もとから君だけだよ)
(うっわ、すごい殺し文句。二度と離さねぇから覚悟しろよ)
(うん……信じてる)










○後書き○
という名の言い訳。
なんて言いますか……ユーリの告白にタジタジなフレンみたいな…?
一緒にいたいのはフレンも同じなんだけど、確かな形にしてしまえば壊れる時が怖いっていう少し臆病なフレンちゃんでした!←分からんから

後書きすら意味不だっていうね(笑)





 
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