承太郎が僕を好きだなんて、そんな馬鹿な事があるかい?
【信心危うき恋心】
率先して友人を作った記憶はないが、人を好きになった経験はある。
教育実習で来ていた若い先生の卵や、近所の花屋で働く気さくな人。こちらが良い顔一つ見せなくとも、皆と同じ様に接してくれた『いい人』だ。
僕はどうやら、自分を特別視しない人を好きになる傾向があるようだった。だから『相手が自分を好きになる』という特別視が信じられない。
「僕は承太郎が好きなんだ」
その見返りが大きければ大きいほど、
「友人としてではなく、」
魅力的であればあるほど、
「君が好きだ」
快い答えが欺瞞だと思ってしまう。
自分の気持ちだけ信じてもらって、相手の言葉を信じないなんてふざけている。
だがそれほどに僕は承太郎の感情や気持ちを冒涜した。
しかし僕の中では、お堂を百回巡り、雨や雪でも絶えず祈りを捧げたって叶うかどうかわからない言葉が届いたなんて、正直言って信じられなかった。
こんな一端の民の言葉が天に届くわけがない。
そんな現実ばかり述べて、夢を見ることを恐れる厄介者だ。蜘蛛の糸など端から垂れてこない。そんな事ばかり信じていた。
だがそれと同じくらい、奇跡も近くに存在していたのだ。
「ほう」
簡潔すぎる。そんな真っ直ぐすぎる対応が僕の心臓を穿ち、どんどん寿命を縮める為に食い潰す。
「そう言われて、悪い気はしねえ」
別に悪い言葉や蔑まれたいわけで告白したわけではない。だがその答えに、理不尽だが真実味を感じなかった。
「本当かい?」
だから最初から疑ってかかった。
蔑みも快諾も嫌がり疑う。では一体お前は何がしたいのか。そう言われればそれまでだ。
しかし、なんと言えば良いのだろう。ただ『応えてくれた』というだけで心臓の負荷が最高潮に達した今、この事実を素直に受け止めて僕の身体が持つのかどうか分からない。
そんな初めて感じる不安が気持ちを埋め、呆然としながらも困惑していた様に思う。
「疑ってんのか?」
次にきた言葉に否定を返す。そうじゃあない。そんな悲しい顔をさせたくて言ったのでは決してない。
「じゃあなんだ?」
ああ、これも違う。君を怒らせたくて言った訳じゃあないし、僕だって謝る為に言った訳ではない。
「素直に受け取りやがれ」
そうだ。ごもっともだ。僕の中の天の邪鬼よどこかへ消えてしまえ。
「オレだって軽い気持ちで答えたわけじゃあないぜ」
承太郎の言葉にはたと気付いた。
「そうか…だよね…」
閉口する。まともに他人と関わって来なかったせいか、随分と身勝手な考えを巡らせていたようだ。
「ごめん」
気のきいた一言すら浮かばない。その謝辞だって、自分の都合の良い様に逃げ道を作っているだけ。『相手の為』なんて言えばおふざけも良いところだ。
しばし沈黙する。それが嫌な空気に感じて、上手く呼吸が出来ない。
こんな事になることは分かっていた。今更だが、なぜ告白なんてしまったんだ。
時をかけたい。その時をやり直したい。
「おい花京院、」
「え?」
「…何落ち込んでやがる」
「いや、えっと」
「好きって言ってんだ。悪かったか?」
ああ、また僕は真実から目をそらし逃げていた。正真正銘の馬鹿だ。救いようがない。
悩む事なんて無い。ここからはたった一言で、君を神様から恋人に出来るのに。
「ありがとう、承太郎」
やっと君を真っ直ぐ見つめられた気がするよ。
以上。もうお前考えるなよ面倒くさいなー!って思いながら書いてました。青少年の悩みは尽きませんね。
次行きましょう。
……
【無免許恋愛】
まどろっこしい事なんて無しにして君を抱きたい。
「いいぜ」
そんな簡素な言葉でも熱が上がる。
「何言ってやがる」
そんな罵倒だって喜んで丸のみだ。
でも伝えるのが恥ずかしくならない様にならないものかな?
いざ言おうとしたら君の瞳が煌めきを帯びていて、僕のこの邪な気持ちをエクソシストの如く清浄としようと望んでいるように見える。
「考えすぎだぜ」
そう思われて当然だ。僕はいつも考えすぎる。その事について悩んでまた考えて…つまり馬鹿なんだ。君に対してだけ頭がおかしい。
もっと素直に、恥やプライドかなぐり捨てて。でないと君に失礼だよね。ごめん、どうやら自分の事ばかり考えて本質を見失っていた。
そうさ、僕の純粋な気持ちを一言でいい。どんな答えでも君のならば受け止める。君はどうだい?
「承太郎、」
「なんだ?」
「触手プレイとか興味あるかい?」
その後の記憶がないから、目覚めた時夢かと思ったよ。でも頬に残る激痛は、どうやら現実みたいだね。
恋って難しい。
以上。