9/1 舞子様よりリクエスト、フレ♀ユリで微裏ぐらい…?ですので閲覧にはご注意下さい。リク詳細は追記にて。






「お相手して頂けませんか?」

そう言って差し出された白い手を取りながら、これは夢なのか、とフレンは小さく呟いていた。







「…なんか、地味じゃね?」

自らの姿を鏡に映すユーリの少々不満げな様子に、皆は驚き、そして軽く吹き出した。

「何で笑うんだよ」

「だって、あなたがそんな事を気にするとは思わなかったから」

くすくすと笑うジュディスの言葉に、ユーリはむっと頬を膨らませた。その表情は、普段と違う装いのせいも相俟ってより可愛らしさを増している。カロルなど、まともにユーリの姿を見られずにいた。

「とってもよく似合ってますよ、ユーリ!地味だなんて、そんな事ありません!」

「う、うん、ボクもそう思う…よ?」

「はっはっはっ、お子様には刺激が強すぎたみたいね〜」

「そ、そんなことないよ!!」

そう言いながらもレイヴンの後ろに隠れてちらちらと顔を覗かせるカロルに、ユーリは呆れ混じりの溜め息を吐き、再び鏡で己の姿を確認した。


深い群青色のドレスは、『ユーリの目の色に似ている』と言ってエステルが選んだものだ。縫い込まれた細かい銀糸や小さな宝石が身体を捻る度に控えめな輝きを放ち、腰の下辺りから裾に向けて広がるラインが優美と言えばそうなのかもしれない。

だがやはり、ユーリは鏡の前で首を捻らずにはいられなかった。

露出も装飾も少ない。
派手に着飾った貴族の令嬢ばかりの場で、これではあまりにも目立たないのではないか。そうとしか思えなかった。

「どったのよ、ユーリ。何か不満でもあるわけ?」

「不満ってか…オレは別にいいんだけどさ、依頼の内容的にはどうなんかな、と思ってさ」

「別にいいんじゃない?どうせあいつ、相手がアンタならなんでもいいわよ、きっと」

「…なんでも、ってな…」

「それに」

皆から少し離れてユーリの様子を眺めていたリタが、つかつかと近付くとユーリの背後に回った。

「…どうしたんだよ」

「露出が少ないとか、アンタ本気でそう思ってんの?」

「どういう意味だ?」

「…わかんないなら別にいいわ」

「さあユーリ、仕上げをしますからこっちに来て下さい!みんな、また後で会いましょうね!」

エステルと共に別室に向かうユーリを見送り、仲間達は顔を見合わせて笑った。

「何だかんだ言って、結構ノリノリじゃないの、ユーリってばさ」

「当たり前なのじゃ!ユーリだって、何処の者とも知れぬ女に恋人を奪われるのは嫌に決まっておるからの!」

「どこの、って…貴族のお嬢様なんだから、よっぽど身元は確か…痛あっっ!?何するのさリタ!!」

殴られた頭をさすりながら涙目で睨むカロルを無視し、誰とはなしにリタが呟いた。

「全く、面倒臭いったらないわね…」

「大丈夫よ、そんなに心配しなくても。私達も準備、しましょう?」

「…そっちも面倒臭いのよね…」

エステルに無理矢理付き合わされたリタはいつまでも文句を言い続け、レイヴンはカロルと目が合うと両手を広げて大袈裟に肩を竦めて見せるのだった。






「はあ……」

分かっていた事とはいえ、フレンは酷く疲れていた。

それ程大きな催しではない、と言われていたが、充分な規模と広さのように思えた。これで大した事がないというのなら、もっと盛大な式典の後などはどうなってしまうのか。
今後、自分にとって無関係とは言い難い事実を前にしながら思い出すのはたった一人の恋人の事だけだった。

群がる女性達からやっとの思いで逃れ、僅かに開いた窓からの風に揺れるカーテンに身を隠すようにしながら、壁にもたれかかって溜め息を吐く。


その時、フロアがにわかにざわついた。


何かと思って見れば、フロアに入って来たのは見覚えのある二人の女性。

一人は桃色の髪を結い上げ、ふわりとした可愛らしいデザインの白いドレス姿の皇女エステリーゼだ。そして、その隣に並んで歩く黒髪の女性の姿に、フレンは思わず隠れていた柱の陰からフロアへ飛び出していた。


ふらふらと引き寄せられるようにその女性の元へ近付くと、フレンに気付いた女性が艶のある笑みを浮かべ、白い手袋に包まれた細い指を差し出して言った。


「お相手して頂けませんか?」


その手を取って持ち上げ、掌に口づける。周囲のざわめきなど、この時フレンの耳には入っていなかった。



「…僕は、夢でも見てるのかな…」

「夢?そんな力一杯抱いといて実感ねえの?」

踊りにくい、と言われる度にユーリの腰に回した腕の力を緩めるが、またいつの間にかつい強く抱き寄せてしまう事を繰り返し、既にユーリも文句を言わなくなっていた。
それどころか逆に身体を擦り寄せて来るユーリの様子が、余計に『これは夢だ』とフレンに思わせる理由になっているのだった。


「とりあえず、どうして君がここにいるのか教えてもらいたいな」

「おまえに会いたかったから?」

「…だったらどうして疑問形なんだ…」

悪戯っぽく見上げてくる瞳に心臓を跳ねさせつつも必死に平静を装い、徐々にフロアの隅へと移動する。

中央付近で踊る二人は注目の的で、普段ならそういった視線を嫌がるのはユーリのほうだ。

だが、今はどうだ。

ユーリにダンスの心得があるとも思っていなかったが、軽やかにステップを踏む姿は驚くほどさまになっていて、むしろフレンのほうがリードされているような状態だった。

楽しげな様子のユーリはフレンしか見ていない。周囲の視線に耐えかねたフレンが少々強引に場所を移動しようとしているのには気付いたようだが、それでも笑みを絶やす事はなく、微かに聞こえてくる囁きすら楽しんでいるように見えた。


ユーリの動きに合わせ、美しく結い上げた髪に飾られた花が優しく香る。普段は大きく寛げられている胸元は、今は首の中程までを群青色の布地に包まれて一見すると控えめな装いに見えるのだが、ユーリの背に手を触れたフレンは一瞬その感触を疑った。

掌に伝わったのは、ユーリの滑らかな素肌の感触。

思わず覗き込んだ背中は大きく開いていて、腰の少し上までがほぼ全て見えているような状態だ。隠すように掌を広げたら『くすぐったい』と言って更に身体を押し付けられ、もう悠長に構えている余裕はなくなった。



ユーリの腕を引き、騒がしいフロアを大股で抜けて行くフレンの姿を、いつの間にか紛れていた仲間達が見送っていた。




「どういうつもりなんだ!!」


先程のフロアから二部屋程離れた一室で、フレンはユーリを怒鳴りつけていた。

「どういうつもりって、何で?」

「あんなに目立ったら言い訳が大変じゃないか!!」

「思いっきり抱きついといてよく言うな…誰に何の言い訳する必要があんだよ」

「そ…それは、その」

ユーリは急に勢いをなくしたフレンににじり寄ると、ふん、と鼻で笑った。


「随分とおモテになるようだなあ、騎士団長様は」


びくりと体を震わせたフレンがユーリを見ると、口元は笑っているが目が笑っていない。何故ユーリがこのような姿でここにいるのか、フレンは瞬時に理解した。


「…エステリーゼ様か」

「そういう事。なんかおまえがモテてモテてどうしようもなくて困ってるからどうにかしてやってくれ、って頼まれてさ」

「何だ、それ……」

「はっきり断るのも優しさだと思うぜ?」

「…それは、あの場にいたお嬢さん方に対して?それとも君に対して、なのかな」

「両方、だな」

見上げるユーリを抱き寄せ、唇を重ねる。甘い香りが鼻孔を擽り、じわじわとフレンの身体に浸透して理性に揺さぶりをかける。
まるで媚薬のようだ、と思って唇を離した先のユーリは、どこか物足りないといった様子で尚もフレンに身体を密着させた。

「ユーリ?」

「ほんとはあそこでキスぐらいしてやるつもりだったんだけどなあ」

「え…いくらなんでもそれは」

「そうすれば諦める奴だっているかも知れないだろ?…おまえはオレのなんだから」

「ユー……!!」


今度はユーリがフレンの背中に腕を回し、伸び上がってキスをする。強く押し付け、舌先がフレンの唇をなぞるとすぐに開かれたその中へと侵入し、互いに舌を絡ませ合う。

呼吸が苦しいのは、口が完全に塞がっているからというだけではない。興奮で荒くなる息遣いと、激しく貪る部分から漏れる湿った音が静かな部屋を満たしていった。


「ん……っふ、ぅん……」

「ふ…ッは、ユー…リ、ちょっと…!」

「ん…、なに…?」

「こ、これ以上は我慢出来なくなるから……」

「…我慢するつもりだったのか?」

「え……っ!!?」

ユーリが勢い良くのしかかって来て、フレンの視界がぐらりと揺れた。
情けない事に、半ば腰砕け状態だったフレンはいとも簡単にユーリに押し倒されていた。
たまたまなのか、それとも分かっていたのか、部屋の長椅子に仰向けに転がされたフレンにユーリが跨がるような格好だ。


やけに挑戦的な笑みを浮かべたユーリが、やや乱れた髪を耳にかけながら身体を折り曲げ、フレンの耳元に顔を寄せて囁いた。



「……欲しい」



すぐに唇は塞がれて返事など出来ない。
ユーリの手が触れた部分が熱く滾り、顔を赤くしたフレンをユーリが満足そうに見下ろした。



ーーーーー

続く