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功法・12

【樹木の呼吸を身につけよう!・6/静観塾?12】


(一)

 允と梨紗は、腰の捻りを加えながら左右交互に足の裏から気を吸い上げ掌から吐き出すようにして、片手ずつ前から挙げて後ろから降ろす動きを続けていた。
 「では、今の腰の捻りはそのままにして、左右同時に気を通してみましょう。
 両手を前から挙げながら腰を捻り、両手を前後で降ろすようにしながら左右交互に続けてみて下さい。」
 「胴体の中では左右の気は混じり合っても良いんですか?」
と、梨紗が訊いた。
 「勿論、それでも良いし、若し両方の気が一緒になれば、その気をそのまま上げていって、頭のてっぺんから噴水のように吐き出してもらっても構いませんからね。」
と、私は答えた。
 しばらくその動きを続けていた允が、心地よさそうに言った。
 「足の裏から吸い入れた気で体の中を綺麗にして、汚れた邪気を頭から吐き出しているようで、私は頭から吐き出す方が好きみたいです。」


(二)

 「では、その両手の動きを続けながら正面を向き、最初にしたように前から挙げて横から降ろす動きに替えてみて下さい。」
 二人の動きはかなり滑らかになっていた。
 それを見て、私は次の動きへと誘導することにした。
 「自分のペースで構いませんから、今度、両手が横から降りてきたら、その手を横から挙げて前から降ろしていくような動きに替えてみましょう。」
 「今までの気の動きとは逆に、掌から吸い入れて、胸、おなかと降ろし、足の裏から吐き出すんですね。」
と、允が言った。
 その動きをしながら梨紗が言った。
 「わたし、足の中がうまく通せないみたいです。」
 「足の感覚がわからない場合は、膝を曲げるのをやめてもいいし、膝を曲げていっても、その足の形にとらわれずに、胴体の幅のママ、骨盤から真っ直ぐに足の裏というか、大地の中まで吐き降ろすようにした方がわかりやすいかも知れませんね。」
と、私は助言した。
 「そうですよね、樹木の幹から根っこに吐き降ろすんですから、真っ直ぐですよね。」
と、梨紗が答えた。
 「その動きに腰の捻りを入れて、上げていく手も掌を上に向け、周りの天の気をみんな集めて頭から胸の中に吸い入れ、体の中を綺麗にして、汚れを大地に吐き降ろしていくような動きを加えてみるのも楽しいですから、試してみて下さい。」
 動きを替えた梨紗が、
「わたし、この動き、好きかも。」
と嬉しそうに言った。
 「最後は正面を向いて、数回してから、みんな大地に吐き降ろして終わりましょう。」
 二人が終わったのを見て、
「しばらく、そのままぼんやり立って、体の感覚を味わい、それから両手を擦り、足踏みなどをして、体を元に戻して終わりましょう。」
と、私は言って、〔樹木の呼吸〕の基本を終えたのである。

功法・11

【樹木の呼吸を身につけよう!・5/静観塾?11】



(一)

*「今日は、これまでの足の裏呼吸と掌呼吸を合わせた全身的な貫気の練習をしますね。」
*そう言って、私は愚庵にやって来た梨紗と允を直ぐに練功場に連れて行った。
 「まずは、足の裏から胴体一杯に吸い上げた気を、肩から腕を通し、掌から吐き出す、足の裏から掌への貫気法です。」
 そして、直ぐに実習に入ったのだ。
 「ラクに立った後、膝をゆるめ、少し体を沈めながら両手を前に垂らすようにしてから、ゆっくり足の裏から胴体一杯に息を吸い上げながら両手を前から頭上に上げていき、膝をゆるめ、体を沈めながら両手を横から降ろし、上げてきた気を肩の中から腕を通し、掌から吐き出すようにして、この動きを続けましょう。」
 二人は黙って、体内の感覚を感じながら〔足の裏から掌へ〕の呼吸を続けた。
 私は動きを続けながら、この呼吸のコツや注意点を話すことにした。
 「手の誘導と呼吸で脚の裏から胴体一杯に吸い上げてくるんですが、そのまま息が肩関節の中を通って上腕に入るくらいにするといいですよ。
 その気の動きを上手く誘導するために、上げていった手を横に持っていく時、胸板から左右に開いていくようにし、そこまで吸うようにするんです。
 ですから、足の裏から肩を越えて腕に入った辺りまで吸い、そこから両手を降ろしながら、肘、前腕、手首、掌と吐き下ろしていくんですね。」
 「吸う時の長さより、吐く時の長さの方が短いんだ。」
 梨紗が声を出した。
 「そうなんですが、実際の呼吸の長さは一緒か、吐く方が少し長めなんですよね。」
と、私は注意を入れた。
 「この場合も、自分で陰陽に分けたり、三陽に分けたりしてすればいいんですね。」
と、允が訊いた。
 私は、
「気功は東洋医学の考え方に裏打ちされていますから、補瀉という考え方で、気の巡っていないところや少ないところには気を補い、痛みや炎症など違和感のあるところ、つまり邪気のあるところから邪気を消していくことが目的で、その為に気を通していく訳ですから、常に自分の体の中を感じて、何処を通していくかを決めれば良いので、允さんの言うように、自分で通したいところを通せるようにして行けばいいと思いますよ。」
と答えた。
 「邪気祓いを何となくするんじゃなく、自分の体の中の塊とか緊張とかイヤなところをきちんとわかって、そこを通していくようにするんですね。」
と、梨紗が言い、二人はまた練習を続けたのであった。


(二)

 しばらくしてから動きを変えた。
 「今度は体の正中に仕切りを入れて、左足から左手へ、右足から右手へと、左右別々に気を通す練習を左右交互にしてみて下さい。
 片手ずつ上げていく時、肘を使って引き上げていくようにするので、腰が同じ方に捻られていきますので、手の動きは、前から上げて後ろから下ろしてくるという感じになりますからね。」
と、私は動きの見本を見せながら話した。
 二人は黙って練習していたが、やはり梨紗が口を開いた。
 「先生、この方が胸から肩の中を通って腕まで上がっていく感じがよくわかります。」
 「どんな動きの時も、腋の下の空間が広がるように、肘から上げていきますからね。」
と、私は動きのポイントを注意した。
 「それから…、」
と、私は話を続けた。
 「片手を前から上げながら腰が捻られていくんですが、手を後ろから降ろしながら、腰は捻り戻されてくるので、手が降りた時には腰は正面を向いていますからね。」
 「えっ、そうなんですか!」
 允が自分が後ろを向いたまま手を下ろしているのに気づいたようだ。
 そして、
「なるほどー!
 一瞬たりとも、体の何処かが止まって動いていないなんてことはないんですね。」
と、自分の動きを確かめるように言ったのである。

功法・10

【樹木の呼吸を身につけよう!・4/静観塾?10】



(一)

 「先生、先日の〔気功講習会〕、とても勉強になりました。」
 梨紗が愚庵に来るなり大きな声を出した。
 「えっ、梨紗さん、行かれたんだ。
 僕、仕事だったからなぁ。」
と、允が残念そうに笑いながら言った。
 「何が勉強になりましたか?」
 私が訊くと、梨紗は躊躇うことなく真っ直ぐに私を見て言った。
 「パンニャーパーラミターが、究極最高の状態での気づきということであって、私たちは、例えスワイショウであったとしても、その最高の状態を作るように努力することが必要で、それが不安や恐れを取り除き、心静かなニルヴァーナの境地になる道だというところです。」
 さすがはヨガの先生だ。
 梨紗は、気功に直接関係のない周辺の東洋的な思想的話には理解があるんだと感じた。
「そんな面白そうな内容だったんですか?」
 允が言うと、
 「そうよ。
 般若心経を読んで、ただ仏教的に解説したんじゃなく、気功やヨガを学んでいく姿勢を教えて下さったのよ。」
 そう言って、梨紗は、どんなもんだい!とでも言いたげに、口を真一文字に結んで顔を斜め上に向けた。
 「先生、此処でもそんな話をして下さいよ。」
と、允が乞うように言った。
 私は、
「はい、わかりましたよ。
 樹木の呼吸の練習が終わったらね。」
と応え、その話を終えて、
「足裏呼吸の次の練習、掌呼吸の練習に進みますよ。」
と言って、二人を練功場に立たせ、〔静観塾〕を始めたのである。


(二)

 「自然にラクに立ち、、掌の感覚を感じて下さい。」
 「それぞれの掌に気のボールを持っている、そんな感じでいいですか?」
と、允が言った。
 「はい、そんな感じでいいですよ。
 そこから息を吸い入れながら両手を横から上げていき、その気のボールを胸の中まで吸い入れ、次に、息を吐き出し、軽く膝をゆるめ、腰を落としながら胸の気を掌に吐き降ろし、その動きを続けましょう。」
と、私は導いた。
 「掌は下向きのママでいいですよね?」
と、梨紗。 私は黙って頷いた。
 二人は、鳥がゆっくり羽ばたいているような感じのその動きを続けた。
 「二頭のゾウさんが鼻を上げたり下ろしたりしながら水を吸い入れたり吐き出したりしているみたいで、何か楽しい!」
 突然、梨紗が言った。
 私は、別の気功教室でこの練習を指導した時、ゾウが鼻で呼吸をしているような感じでという比喩を用いたことを思い出したが、梨紗がそんな感じをもってくれたということは、彼女がヨガのインストラクターとして、生徒さんに解りやすい言葉で伝えようとしている善い先生なんだと思った。
 「この掌呼吸も足の裏呼吸と同じように、陰陽に分けたり、陽を三つに分けたりするんですよね。」
 動きを続けながら允が訊いた。
 「はい、そうしてみて下さい。」
 私はそう応えてから、簡単な説明をした。

*読者のみなさんも、次のルートをそれぞれに試してみて下さいね。

1、陰陽に分けて。
?掌と腋の下を通して胸の中へ。
  
?手の甲と肩の横から上を通して胸の中へ(やや上気味)。

2、三陽に分けて。
?人差し指から合谷と肩関節の前側を通して大胸筋側へ。
?1の?と同じ。
?小指の後ろ側(解剖学用語では後内側)から肘頭、肩関節の後ろを通して肩甲骨側へ。

*合谷は、母指(親指)と示指(人差し指)の骨が接合する股のところにあるツボの名前。


(三)

 「先生、足の裏呼吸が、樹木の幹と根っこでの呼吸だとすれば、先程の掌呼吸は、枝葉の呼吸と呼んでもいいですね。」
 練習を終えて座敷に坐るなり梨紗が言った。
 すると、允が少し考えながら言った。
 「脚の裏呼吸が大地の気と自分の気を混ぜ合わせているというか、大地の気で自分の中の邪気を洗い流していて、掌呼吸は天の気によって自分の胸の中の邪気を洗い流していく、そんな気功に感じるんですが…。」
 なるほど允は鍼灸師だ。
 陰陽の理論で考えている。
 私は感心した顔で話した。
 「そうなんですよ
 自然界で言えば、天は陽で、大地は陰になりますよね。
 そして、体、内臓で言えば、胸の中が陽で、腹の中が陰になりますよね。
 だから、胸の中は天の気を採り入れたり、天の気で洗い流したりすれば良いし、おなかの中は大地の気を採り入れたり、大地の気で洗い流すと善いんですよね。」
 「そうかぁ、根っこで大地の気を、枝葉で天の気を…ということかぁ。」
と、腕を組んでうんうんと頷きながら言う梨紗の姿が面白かったが、私は真面目な顔のまま続けて言った。
 「この〔樹木の呼吸〕は、採気法でも邪気の洗い流し法でもなく、その準備としての練習、気を通す練習なので、まずは、脚や腕で気を自由に通せるようになって下さいね。」
 すると、二人は素直に「はい」と応えたのである。

功法・9

【樹木の呼吸を身につけよう!・3/静観塾?9】


(一)

 「脚の場合は、そのロールケーキの胴体を真ん中で二つに分ければいいんですか?」
と、梨紗が言った。
 「そこなんですよ、問題は…。」
 私はそう言って別の絵を描いた。
 サイコロ状の真四角のブロックを横に二つ並べ、それを三段に積み上げたような図だ。
 六つに仕切られた窓と考えてもよい。
 「本当は丸く描いた方が良いのかも知れませんが、これは太腿を水平に切って上から見た図です。
 ですから、本当は左右二つ描かねばならないんですが、まぁ、どちらか片方の脚にしておいて下さい」。
と、私は言った。
 「この図の右側の三つが脚の内側で陰になり、左側三つが外側で陽になります。
 先ほどの胴体はロールケーキでも良いんですが、脚の場合は、縦に二つに割って考えて下さいね。」
 私が言うと、梨紗が
「何処で二つに切れば良いんですか?」
と問うてきた。
 「大まかに言えばですねー、下腿の前の脛の骨の出っ張りのライン、後ろで言えば、アキレス腱からふくらはぎの真ん中を通るラインで内側と外側に分けて下さい。」
 「その外側の部分を前、横、後ろと三つに分けて、胴体の外側、つまり陽の部分とつなげるんですね!」
と、梨紗が声を高くした。
 「脚の内側全体を陰として、胴体の中心と繋げるんですか。
 なるほど、これは経絡を勉強してきた鍼灸師には思いもつかない発想でした。」
と、允は感心していた。
 「厳密に言えば、脚の陰は、アキレス腱の内側の淵と、脛骨の出っ張りを降りていった足首の前の太い腱の内側とを結んだラインで陽と陰に分けた方が良いので、陽の方が少し大きいんですよね。
 ですから、前側の山の頂部分、尾根に当たるところは陽として理解しておくべきなんですよね。」
 私が言うと、梨紗が難しそうな顔で言った。
 「先生、わたしのように、まだ気の感覚の弱い人間は、内くるぶしの幅で上がってきて、そのまま胴体の中に入っていくという感覚くらいでも良いですか?」
と訊いてきた。
 私は梨紗の言った感じの方が判りやすいかも知れないと思った。
 そこで、
「それがいいですねー。」
と応えた。
 「足を左右二つに分けずに、足と胴体を合わせ一つのロールケーキにして考えれば判りやすいです。」
 そう言った後、梨紗が続けた。
 「あっ、そうか、樹木の呼吸なんだから、足と胴体を合わせて一本の太い幹になるんですね?」
 「両足の間の空間も合わせて中心軸、つまり、陰のルートとして理解すべきなんですね。」
と、允が納得した顔をした。
 私は、
「陰陽共に三つに分けて、三陰三陽とすべきところを、〔樹木の呼吸〕の足裏呼吸では、陰を一つにし、陽を三つに分けて練習するようにしているんですよ。」
と言い、図を描き直した。
 描いた図は◎の図で、外側の円を前、左右、後ろとして線で分け、中の○に矢印で〔中心軸=陰〕と書いた。
 「梨紗さんの言うように足も胴体も合わせてロールケーキにしちゃえばいいんでした(笑)。
 この方が判りやすいですね。」
と言い訳をし、次の練習のために二人を立たせたのである。

功法・8

【樹木の呼吸を身につけよう!・2/静観塾?8】


(一)

 足の裏呼吸が終わったところで私は少し話をすることにした。
 「いま練習した脚の裏呼吸での気の通るルートですが、厳密に言えば、胴体と脚では少し違うンですよね。」
 「陰陽のことですね?」
 允(まこと)が訊いた。
 「そう、陰陽による違いなんです。」
 私が答えると、梨紗(リサ)が声を出した。

*読者のみなさんには申し訳ありませんが、登場人物の女性の名前を紗梨から梨紗にへんこうさせて頂きます。
*サリよりリサの方が呼びやすいものですから…。
<(_ _)>

 「允君はプロなのでかえって混乱するかも知れませんし、梨紗さんも少しは勉強されていると思いますが、あなた方が本で勉強された経絡のルートと、気の感覚によるルートは違うンですね。」
 私は少し説明する必要があると感じ、一度二人を板の間に座らせ、ホワイトボードに図を描いて説明した。
 描いた図というのは、外枠が少し太めの土管を立てたような図だ。
  「胴体での陰陽というのは、実は表裏のことなんですね。」
 「表裏って? おなかと背中?」
 梨紗が訊いた。
 「内外のことだよ。」
と、允が言う。
 「体壁系と内臓系と言っても良いでしょうね。」
と、私は付け加え、そして話した。
 「経絡上に点在する経穴は、陰の経絡の経穴も陽の経絡の経穴も全て体表面に在ります。
 それは、鍼もお灸も体表面からしか施術出来ないからなんですよね。
 経絡、即ち気の通るルートは経穴を結んだ線ではなく、幅の広い立体的な層になって流れているんです。
 陰の経絡の経穴はお腹側にあるけれど、実は、そこは反応点、刺激点であって、経絡がそこを通っている訳じゃないんですね。
 陰の経絡は、もっと体の中、胸で言えば、肋骨で覆われた籠の中にあり、お腹で言えば、腹膜で覆われた中を通っているんです。」
 「それで内外、即ち、表裏なんですね。」
と、允が言った。
 「先生!」
 梨紗が手を挙げた。
 「こんな風に考えればいいんでしょうか。
 その図ですが、例えば、ロールケーキがあり、それを適当な長さに切って立てて、それを胴体と見立てると、外のスポンジの部分が陽で、中のクリームのところが陰って訳ですね?」
 「なるほど!」
と、允が小さな声で言った。
 「そう、先ほどの〔樹木の呼吸〕は、そのスポンジの部分を陽として三つに分け、中のクリームの部分が陰で、それを一つにして中心軸にして、胴体の気を通す練習をしたんですよ。」

(つづく)
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