【樹木の呼吸を身につけよう!・5/静観塾?11】
(一)
*「今日は、これまでの足の裏呼吸と掌呼吸を合わせた全身的な貫気の練習をしますね。」
*そう言って、私は愚庵にやって来た梨紗と允を直ぐに練功場に連れて行った。
「まずは、足の裏から胴体一杯に吸い上げた気を、肩から腕を通し、掌から吐き出す、足の裏から掌への貫気法です。」
そして、直ぐに実習に入ったのだ。
「ラクに立った後、膝をゆるめ、少し体を沈めながら両手を前に垂らすようにしてから、ゆっくり足の裏から胴体一杯に息を吸い上げながら両手を前から頭上に上げていき、膝をゆるめ、体を沈めながら両手を横から降ろし、上げてきた気を肩の中から腕を通し、掌から吐き出すようにして、この動きを続けましょう。」
二人は黙って、体内の感覚を感じながら〔足の裏から掌へ〕の呼吸を続けた。
私は動きを続けながら、この呼吸のコツや注意点を話すことにした。
「手の誘導と呼吸で脚の裏から胴体一杯に吸い上げてくるんですが、そのまま息が肩関節の中を通って上腕に入るくらいにするといいですよ。
その気の動きを上手く誘導するために、上げていった手を横に持っていく時、胸板から左右に開いていくようにし、そこまで吸うようにするんです。
ですから、足の裏から肩を越えて腕に入った辺りまで吸い、そこから両手を降ろしながら、肘、前腕、手首、掌と吐き下ろしていくんですね。」
「吸う時の長さより、吐く時の長さの方が短いんだ。」
梨紗が声を出した。
「そうなんですが、実際の呼吸の長さは一緒か、吐く方が少し長めなんですよね。」
と、私は注意を入れた。
「この場合も、自分で陰陽に分けたり、三陽に分けたりしてすればいいんですね。」
と、允が訊いた。
私は、
「気功は東洋医学の考え方に裏打ちされていますから、補瀉という考え方で、気の巡っていないところや少ないところには気を補い、痛みや炎症など違和感のあるところ、つまり邪気のあるところから邪気を消していくことが目的で、その為に気を通していく訳ですから、常に自分の体の中を感じて、何処を通していくかを決めれば良いので、允さんの言うように、自分で通したいところを通せるようにして行けばいいと思いますよ。」
と答えた。
「邪気祓いを何となくするんじゃなく、自分の体の中の塊とか緊張とかイヤなところをきちんとわかって、そこを通していくようにするんですね。」
と、梨紗が言い、二人はまた練習を続けたのであった。
(二)
しばらくしてから動きを変えた。
「今度は体の正中に仕切りを入れて、左足から左手へ、右足から右手へと、左右別々に気を通す練習を左右交互にしてみて下さい。
片手ずつ上げていく時、肘を使って引き上げていくようにするので、腰が同じ方に捻られていきますので、手の動きは、前から上げて後ろから下ろしてくるという感じになりますからね。」
と、私は動きの見本を見せながら話した。
二人は黙って練習していたが、やはり梨紗が口を開いた。
「先生、この方が胸から肩の中を通って腕まで上がっていく感じがよくわかります。」
「どんな動きの時も、腋の下の空間が広がるように、肘から上げていきますからね。」
と、私は動きのポイントを注意した。
「それから…、」
と、私は話を続けた。
「片手を前から上げながら腰が捻られていくんですが、手を後ろから降ろしながら、腰は捻り戻されてくるので、手が降りた時には腰は正面を向いていますからね。」
「えっ、そうなんですか!」
允が自分が後ろを向いたまま手を下ろしているのに気づいたようだ。
そして、
「なるほどー!
一瞬たりとも、体の何処かが止まって動いていないなんてことはないんですね。」
と、自分の動きを確かめるように言ったのである。