【/踏み込みタントウをしてみよう!静観塾?4】
(一)
「では、もう一つの基本功法である〔踏み込みタントウ〕をしてみましょうか。
実は、この功法も私のオリジナルなんですよ。」
私が言うと、
「ですよね。」
と、允が言った。
そして、
「先生以外の気功の本やビデオを見ても、最初から動かない形だけを書いているので、肉体的にも精神的にも緊張が取れないままにタントウに入るので、もっとラクに出来ないかなぁと思っていたところ、先生の〔踏み込みタントウ〕を見つけ、それをしているうちに僕はタントウが好きになったんです。」
と続けた。
「それは有り難い。
実は私もそうでね、習った頃は、どうしてもタントウが好きになれす、教室なんかでも殆どしなかったんですよね(笑)。」
と、私は応えた。
すると、紗梨が
「どうして〔踏み込みタントウ〕ができたんですか?」
と訊ねてきた。
私は少し考えてから話し出した。
「気功って、自然体を作る取り組みだと思うんですよね。
で、その自然体って何だろう、どういう状態だろうって考えた時、東洋医学の考え方である〔上虚下実〕という言葉が浮かんできたんですね。
それを練功に当てはめてみると、上虚を作るのがスワイショウで、下実を作るのがタントウではないかと直感したんです。
すると、自然体を作る為には、肩の力を抜いて緊張を取り除いていくスワイショウだけでは片手落ちで、タントウもきちんとしなければならない必須課題になる訳で、それを疎かにしてはダメだなぁと思うようになったんですね。
そうなると、タントウから逃げていてはダメで、ではどうすればタントウが楽しくなるか、ラクに出来るようになるかを追究せざるを得なくなりましてね。」
「その結果が、タントウの前に踏み込みを入れることだったんですね?」
と、允が言った。
「それを入れることで、どんな役割があるんですか?」
紗梨が訊いた。
私は答えた。
「そうですねぇ、まず、肩の力が抜けますね。
それから、足の使い方や体重の落とし方が身につく。
そして、何よりも禅的な境地にもなれるってとこでしょうか。」
「ゼンテキって、坐禅の禅のこと?」
と、紗梨が首を捻って言った。
「はい、その禅のことです。
禅というのは自分のしていることにのみ心を向けていくということで、それによって穏やかで安らかな気持ちになっていき、それを三昧とか定とかと言って、禅と定を合わせて禅定と言い、その境地を得ていくことが、ある意味、禅の目的なんだろうと思うんです。
勿論、気功は仏道修行ではありませんが、自然体を作るという点で、それを心理的な意味で言えば平常心を作るということになり、その平常心を作ることも気功の大切な課題で、だからこそ、禅的な修行からも学ぶ意味があるんですよね。」
「それが〔踏み込みタントウ〕ですか…。」
と、允は噛み締めるように言った。
「では、実際に〔踏み込みタントウ〕をしてみましょう。」
私はそう言って、二人を板の間の練功場に移動させたのである。
*ここからは、スワイショウの時と同じように誘導の言葉だけを記していきますので、読者のみなさんも一緒に実習してみて下さい。
(二)
*足を少し大きめに広げ、足先を前に向けて立ちましょう。
*まず、片方の膝を曲げて体重を掛け、それを左右交互にくり返して下さい。
ゆっくりため息をつくように息を吐き、肩の力を抜きながら片足に体重を落としていきましょう。
*足の裏でしっかりと体の重みを感じたら、今度は、その後に足の裏で床を踏み込むようにして続けて下さい。
*足の裏に重みを落とした後、床を踏み込む時に、足の裏を掌、腰をボールと見立て、バスケットボールのフリースローのような感じで、床をポーンと踏み込むようにしてみましょう。
腰がふわぁーっと浮き上がり、反対の足に沈んでいく、そんな感じで続けてみて下さい。
*やがて、足の動きと呼吸と心が一つになり、三昧の境地になってきますよ。
*次に、どちらかに腰が降りたところから、腰を上げないで水平にズラすようにしてみましょう。
*足の裏で床を外に押すと、腰は独りでにズレていく感じです。
その時に、膝が内側に入って来ないように、股を広げておいて下さいね。
*しばらく続けた後、ゆっくりと真ん中で止まっていくよにしてみましょう。
*足の甲の真上に膝頭があり、仙骨、腰椎、胸椎が真っ直ぐなるように、腰椎(命門)を少し後ろに押してから尾骨から沈むような感じで、体重を踵に落としていって下さい。
*足首はがちっと固めずに、故意ではないけれど、少し前後に揺れていて、その揺れが骨盤を揺らし、脊椎を揺らし、肩甲骨や大胸筋を揺らし、肩の中まで揺れていて、重みはどんどん踵に落ちていく、そんな感じでしばらく立ってみましょう。
*終わる時は足を戻し、少し膝を上げ下げして、膝をラクにしてから終わって下さい。
(三)
私たちは〔踏み込みタントウ〕を終えて座敷に戻った。
紗梨が口を開いた。
「立つ時間はどれくらいから始めればいいですか?」
「そうですねぇ、最初は1分くらいから始め、3分、5分と長くしていけば良いでしょうね。」
と、私は答えた。
「僕は、いま、約10分くらい立つようにしているんですが、それでも構いませんよね?」
と、允が訊いたので、「我慢大会じゃないんで、自分が心地よく出来ていれば、それでいいですよ。」
と、私は答えた。
「足幅は?」
と、紗梨。
「これも、最初から大きく広げないで、5分くらい立てるようになったら少し広げてみるといった感じでいいと思いますよ。」
と、私は言った。
「タントウは少し難しかったけれど、その前にした足の動きが気持ち良かったんですが、あの気持ちよさが禅的なんですね?」
と、紗梨が言い、私と允は顔を見合わせて、クスッと笑った。
「では、次回から、私の創作功法に入りますね。
と、私は告げて、第一回目の〔静観塾〕を終えたのである。