【菩薩静功/静観塾?23】
(一)
「では、菩薩静功の練習に入りましょう。」
と、私は伝え、話を続けた。
「前の抱気静功の主たる目的は、体内の空洞感である〔ふぁんそん感覚〕を体感することにあったんですが、この菩薩静功は、それと同時に、掌の向いている側の外の気との一体感を体感していくことによって、〔空の体感〕を味わうための練習にもなっているんですね。」
「空って、体感できるんですか?」
訊いたのは梨紗だった。
「そうですねぇ、それを理解して頂くために、気功における感覚の変化発展について述べておきましょうか。
最初、私たちの肉体感覚は固体です。
それを緩めていくと、粘土のような軟らかな感覚になってくるんですが、まだ固体なんですね。
更に緩めていくと液体感覚になってきて、そうなると液体のような流れが出来てくる。
それが洗い流しや貫気法の初期段階になるんです。
やがて、体に気のボールを押し当てた時や、洗い流した後に細かな粒子が無数にあるような空間の感覚、空洞感が出て来るようになり、それが〔ふぁんそん感覚〕で、液体から気体への変化なんですね。
体内に、その空洞感が出て来ると、それは細かな粒子の空気で出来ているので、それを包む表面の幕は消えていくんですが、それが皮膚の感覚としての実体感を薄れさせ、体内と外との境目感覚を無くし、中と外との一体感を作っていくようになってくるんです。
そして、体の半分以上の皮膚の感覚が薄れていくと、外の空気感覚も大きくなっていき、水平線の向こうの空まで、青空の広がる天空一杯まで大きくなっていくんですよね。」
「それが〔空の体感〕なんですね!」
と、梨紗がやや興奮気味に言った。
「ふぁんそん感覚はそこまで広がるんですかぁ。」
允も珍しく高揚した表情になっていた。
「まぁ、それも頭脳を使っての意識的な取り組みではありませんから、感覚として、体感を通して深めていきましょう。」
と私は告げ、菩薩静功の実習に入っていった。
(二)
「菩薩静功は、十種類の坐法から出来ています。
その坐法の形を共通の認識にする為に、一つ一つの坐法に名前を付けていますので、その名前と、その名前の持っている意味、坐法の時の感覚のヒントなどについて、簡単な説明もしていきますね。」
*ここからは坐法の名前と形、名前の意味、ヒントについて列記していきます。
*途中で允や梨紗の質問が入るかも知れませんが…。
1、南無(なむ)
《形》胸の前で合掌。
《意味》南無とはナームという梵語の漢訳。
南無阿弥陀仏、南無妙法蓮華経などと用いられ、帰依致しますという意味。
《ヒント》胸の中の〔ふぁんそん感覚〕を体感する。
2、禅定(ぜんじょう)
《形》両手を重ねて掌を上に向け、恥骨の前で足の上に載せて、親指の先を合わせる。
《意味》禅は、今していることのみに心を向けるという意味で、定は、それによってもたらされる安定した心の状態のこと。
《ヒント》丹田感覚を体感する。
3、後光(ごこう)
《形》両手を左右で肩の高さに挙げ、肘を90度くらいに曲げて耳や側頭部の高さで掌を向かい合わせる。
肩の上で大きめの気のボールを挟んでいる形。
《意味》後光とは、文字通り後光が差しているという意味で、言わば、頭部の周りのオーラを意味している。
《ヒント》意念(気持ち)を顔の中に入れ、両手で挟んだ気のボールの中で頭部、顔面部の感覚が消失していく。
4、不動(ふどう)
《形》両手を肩幅程度に開き、肘を曲げ腹の前で指先を前に向けて掌を下に向ける。
《意味》他からの影響によって心が揺り動かされることのない、腹の据わったどっしりした心の状態のこと。
《ヒント》肘から先が少し温かめの空気の上に乗って、浮かされている感覚と同時に、その空気が下腹や太腿の中にもしみこみ、空気による腰湯感覚。
5、安心(あんしん、あんじん)
《形》掌を上に向け、坐を組んだ膝の上に載せ、胸板から肩の前までをふわぁーと広げる。
《意味》ほっとしたという安心感より更に広がった完全なる心の安定した状態のこと。
《ヒント》顔から胸、腹までの体の前側がくりぬかれた〔ふぁんそん感覚〕になると同時に、前側に広がる大きな空間の気との一体感を体感。
(つづく)