バレンタインから始まる恋1(ZA)

キーンコーンカーンコーン

と、平和でけだるい午後を告げるチャイムがなって、さあ昼休み。

ガクランに身を包んだ容姿端麗頭脳明晰、ちょっと皮肉屋な生徒会書記ゼルガディス=グレイワーズがすっと席を立つ。
そして小脇にランボーの詩集「イリュミナシヨン」を抱えると静かに教室を出て行った。
その一分後。


バーーーーーーーン

「ゼッルガディスさーーん、あ、はっぴー、ばれんたいーーん!!!」

教室の後ろのドアが吹き飛んで、ミニスカセーラー服をはためかせた黒髪の少女が突入してくる。

「はーい、これがアメリア印、愛と勇気と友情と、根性と努力と限界を超えた、愛の結晶チョコレートです!!」

ぽふん、と少女のまわりにはなぜかピンク色のスターダストが飛んでいる。

「ああ、ゼルガディスさん、本日は大変お日柄もよく、絶好の告白日和!私、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンの渾身の愛をどうぞ受けとってくださいvvv」

ぽすっ、とアメリアは恥ずかしそうに小さな箱を前に差し出した。それは白地に金色のリボンがかかっていて、チョコレート色をした文字が優雅にプリントされている。にぎやかにとりだしたにしては、落ち着いた上品なチョコレートだった。

「……あれ……ゼルガディスさん…?」

キョロキョロキョロ

ここで初めてアメリアは愛しの彼がこの場にいないことに気がつく。とたんに片方の手を胸にあて、不安げな表情になるアメリア。そして可憐にうつむく。

「……どうして……どうしてあなたはいつも、私に寂しい思いをさせるの?」

赤い唇が震え、青い瞳から涙がこぼれてきた。
だが、健気にもその涙を手でぬぐうと、少女はため息をひとつつき、チョコをそっとその胸に押し当てる……

そんな彼女のふるまいをみて、数人の男子が駆け寄ろうとした。意外や意外、アメリアはモテるのである。
だが、本人があまりにもゼルガディスさんラブオーラを出すために、ほとんどの男子が手を出せないだけなのだ。

「ア、アメリアさん!」
「泣かないで、これくらいのことで」
「もう、あきらめてオレとどこかに行こうよ」
「僕ならあなたのことを悲しませたりしない!!!」
「アメリアちゃん…!」




「わっかりました!そっちがその気ならこっちもこの気です。このアメリア、これしきの試練でくじけるわけがありません!!!!」

ずごっ

あわれ、十四人ほどの男子がその場に崩れる。


「きっとあの人のことだから、中庭の隅の大きな木の下で本でも読んでるんです。いってみましょう。とうっ」

そういうと開け放されている窓に駆け寄りそのままそこを飛び越える。

「レビテーション!」

ふわっ、と逆光を浴びて少女は大空へ舞った。


教室のカーテンが緩やかにゆれる。