親愛なるゼルガディスさん
お元気ですか?この手紙が奇跡的にあなたに届くといいのだけど。
今日、この手紙を書こうと思ったのは、ゼルガディスさんと私が初めて出会ってからちょうど10年経ったと気づいたから。
なんだか信じられないけど。
ゼルガディスさんと、リナさんと、ガウリイさんとの旅。
出会っては別れ、また出会っては別れ。たくさんの笑ってしまうような楽しい時を過ごし、山ほどの困難を乗り越えてきましたよね。
ゼルガディスさんはご存知ですか?
リナさんとガウリイさん、ご結婚されたんですよ!!
あのリナさんが!
ガウリイさん、よかったですよね!
すごいですよね!!
でも、あれだけお互いのことを支え合っていたんだから、自然なことなのかもしれないけれど。でも嬉しいです。
あの2人には、もうどれだけハラハラさせられたか。
私のねーさんにも、いつの間にか、気になる人がいるみたい。まあ、私のねーさんが気にいるなんて、そーとーな人だと思いますが。
私はというと、相変わらず全てのお見合い話を流してしまったので、王宮内でもとうとう匙を投げられました。
父さんからは、もうお前がいい人なら、誰でもいいって言われました。
けれど、私のことを抱きしめてくれるような王子様は、残念ながらこの世にはおりませんので、私は生涯をこの身一つで終えようと思います。
ひとつだけ、私にある思い出。
たった一度だけ、想いを寄せる方と口づけを交わすことができました。
私は決して忘れません。
私はその思い出を胸に抱き、この生涯を過ごしていきます。
それでは、どうぞお元気で。
遠い空の下で、幸運を祈っています。
アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン
「なんだよこれ。アイツ、また一人で盛り上がってんな…」
生涯独身の覚悟を決めたとか、アイツいまいくつだよ。確か26かそこらだろ。
「女ってせっかちだよな…」
頭をかきつつ、けれど、ドキリとしている自分がいる。
会わなかったこの数年は、自分が思っていたより彼女に困惑を与えたらしい。
(あんなもの、カウントしてたのか?)
3年前。
長旅になりそうだからと、別れの挨拶をするために立ち寄った王都セイルーン。
彼女がしきりに再開の約束を求めてきたので指切りをした。
その時、多分、自分はなにかに酔っていたのだろう。
その夜、あまりに見事だった満月のせいか。それとも、城の庭に咲き誇っていた花々の良い香りにか。
それとも、可愛らしい王女が流している涙にか。
唇に ふれてみたいと思った。
それは、ふれるか、ふれないかのキスだった。
そんなものを、後生大事にしてるのか。
「……まったく、不憫なやつだな」
皮肉めいた笑みをわざと浮かべてみても、心の中はざわついている。
行こうか、セイルーンへ。
彼女からの手紙が背中を強く押している。
このまま、アメリアを一人にさせ続けるほど、この旅に価値はあるのか?
この身が、まだキメラのままだということを知られるのが嫌だった。
でも、これ以上、再開の時期を延ばしていたら、アメリアの心を失うかもしれない。
ゼルガディスは深い、深い息を吐いた後、数少ない荷物をまとめ出した。
宿を引き払い、このまままっすぐセイルーンに向かったとして、どのくらいかかるのか。
(うまくしたら20日間くらいで)
聖王都のお姫様を尋ねられる。
そういえば、頭が追いついていなかったが、リナとガウリイが結婚したって?
いつでも変わることなくリナを守っていたガウリイ。
ときにはぞんざいに扱われていたりもしたけれど。
一人の女性を守れる強さ。
ゼルガディスはまっすぐ前を向いて歩き出した。