2010-9-22 01:51
リナはパンパンと制服の裾を手ではたいて身を起こす。ここスレイヤーズ学園の制服は、セーラー服であり、紺色のスカートにえんじ色のスカーフがつく。そしてそのスカーフには、この学園の紋章がプリントされているのだ。
「あーもー、痛かった!…ところであたな誰?」
キョトンとしてながらまだ地面に座り込んでいる黒髪の少女をみおろしてリナが聞いた。しかし、一方的に聞くのはマナーに反すると気がついたのだろう、彼女は「私はリナ=インバース。中等部の2年生よ」とつけくわえた。
「私はアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンといいます。二週間ほどまえに転校してきました。1年生です」
「……はあ」
リナは無意識に腕を組んで相手をしげしげとながめる。
「んで?転校早々にしてゼルのことが気にいったの?」
「えっ」
アメリアがまた顔を赤らめる。なんて表情にでやすい子だろうとリナはある意味感心をした。と、アメリアという子は急にうつむいた。そしてその姿勢でしばしとどまる。それからやおら顔を上げると苦しそうな表情をしながらもリナをまっすぐにみつめてきた。
「あのっ……あなた、ゼルガディスさんの彼女さんですか!?」
ずごっっっ
見事なすっ転びようだった。アメリアは慌てて立ちあがると、地面とおでこをくっつけているリナを抱え込んで起こした。
「どうしたんですか!?大丈夫ですか!!!」
耳元で大声をだされて、リナはうるさそうに眉をしかめる。そして「だいじょぶだから」というとやれやれといった風にアメリアの手から抜け出した。
「…あたしがゼルの彼女なわけないじゃない〜!どこをどうみたらそう思うのよ」
「え、いあ、そのだって、ずいぶんと親しそうにゼルガディスさんのことをいうから」
「そりゃ、まあねぇ。ご近所さんだったから、いわゆる幼馴染なのよ……」
リナの父、そして母が働く外資系の会社は社宅を持っていた。そこに同じ会社の同僚としてゼルガディスの父の居を構えていたのである。それゆえリナとゼルガディスは必然的に顔なじみになったのだった。
「ね、だから私は彼女じゃないの」
そうはいってもまだアメリアは納得しかねる、といった表情だ。どうしたのよ、とリナが聞けば、
「でも…幼馴染だってことイコール彼女じゃない、なんて限りません。リナさんは本当に好きじゃないんですか…?」
っじぃ
おっきな青い瞳が上目使いで心配そうにチロンとみあげてくる。リナはため息をつきながら、ロングの髪を一度ばさりと片手でなびかせた。
「あっのねー!そりゃ、ゼルのことけっこう好きよ。なんでも話せるもの。大事な友達。でも、あんたがゼルのこと好きなんだったら、快くそれを応援してあげましょうって、そう思ってんのよ」
「えっ…いや、私は別にそんな好きとか…」ごにょごにょと言葉を濁らせて視線をうろうろと走らせるアメリア。それをみて短気なリナはちょっとイラっときた。
「こらそこ!これだけ私に疑いと嫉妬をむけといてそんな風に逃げない!」
「嫉妬なんてしてませんっ」
「じゃあ、なんなのよ」
どーみてもそう思えたけど、とリナはいって、それからフッと笑った。
「あなた、あいつのどこが気に入ったの?」
「……どこって、そんなのわかりません…」
またもやぽうっと赤くなる。この子、どこまで顔を赤く出来るんだろうとリナは実験したい欲求にかられたが、今回はやめておくことにした。それよりも彼女の答えを聞く方がおもしろそうだ。
「……なんでって……ただ、好きになったんです…」
「あのね、ひとつだけいっておきたいことがあるんだけど、もしかしてよ?もしかしてあなたゼルのこと理想化してたりしない?」
「理想化…」
アメリアが繰り返す。
「そ、ゼルガディスは頭がいいとか、顔がいいとか、ミステリアスでいいとか、大人びてる感じがしていいとか…そういったことよ。あいつを好きになる子は多いのよ。でも大概美化してるのよね。もちろん、あの人が頭が切れて、そして面白い人間だってことは私、十分知ってるわ。でもね、あいつあれで結構こどもっぽいし、変わりもんよ。あなたそういうことちゃんとわかってる?」
そういわれてアメリアは大事に抱えていたチョコレートを強く胸に押し当てて考えだした。そして思いつくままにこういった。
「ゼルガディスさんのことは私、たしかにまだ二週間しか知りません。自分だってバカだなぁって思ってます、でも…あの人をみていると勝手に胸とか頭が熱くなってきちゃうんです。自分でもどうしたらいいかわからないんです。ゼルガディスさんのこどもっぽいところですか?えと、それに当てはまるかわからないんですけど、お弁当のほうれん草のおひたしをお箸でよけてたから、それをみていたら、私のことに気がついて急におひたしを全部一度に食べた、とか?ほうれん草好きじゃないんですね。それから他には…あ、私の携帯にストラップが三つついているんですけど、それが変な風にからんじゃって、困ってたらたまたまゼルガディスさんが近くにいて、彼がとってあげるっていったんです。それで私、渡したんですけと、やっぱりなかなかとれなくて。そしたらゼルガディスさんだんだんむきになってきて、私がもうやめましょうっていってもヤダっていって、お昼休みが終わる鐘が鳴ってもまだで…私たちこの中庭にいたんですけど、もう先生が教室に来るから帰りましょうってい
ってもひたすらストラップをガチャガチャやっていたんですよ。そしたらついにとれたんです。私がお礼をいおうと思ったら、彼、すくっと立ち上がって、
どうだぁ!この俺にとけんストラップはない!はっはぁ!!
って高笑いをし始めました」
「………すごいわね、アメリア。あんたこの短期間のあいだにそこまでゼルの性格に向き合ったの………ねぇ、そんなのみてても好きなの?」
「はい、だから好きなんですvvv」
世の中広い、とリナはこの時、それを深く、強く実感したのだった。