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奥義はないけど、明日はある(ゼルアメ)

世界が歪んで遠のく。

気がつくと、ゼルガディスはあの塔に戻っていた。

「どうだった?」

男が尋ねてくる。

ゼルガディスはそれにはこたえず、男をみつめた。

「……世話になったな」
「え?」

ゼルガディスはそういうと、男に背を向けて歩きだした。

「行くのか?」
「……ああ」
「そうか。達者でな」

初めてゼルガディスは男にかすかな笑みを向けた。
そして彼は塔を降りる階段の途中にある大きな窓に手をのばす。

鍵はかかっていないらしく、押すと開いた。
ゼルガディスは飛翔魔法を唱えると、そのまま夜空めがけて飛び出していった。


ヒュルルル……と鋭い音を立てて空をきる。

目指す先はただ一つ。
聖王都セイルーン。

充分に高度を保って見下ろす眼下の景色は、陸地にそって街の光が瞬き、海は深く暗い。
上空に行くほど空気は冷たくなったが、いまはそんなこと気にしなかった。

このぶんなら夜明けには着くだろう。

消費した魔力はそうだな、アイツの横で休ませてもらえばいいことだ。



「あいつにも、あんな遠慮があったとはな」

空中でつぶやく。

いや、あいつはいままでにも、ああやって自分の悩みを隠し通してきたのかもしれない。

そんなことにも気づいてやれなかったなんて、自分はなんておめでたい男なのだか。

そういえば、アメリアは最後に会った時に、いっていたか。

なにがあっても、あなたの夢を叶えて、と。


「まったく、な」

ゼルガディスは哀しい目をして苦笑した。


「お前を泣かせて置き去りにして、人間に戻ったところでなんの意味もないんだよ」

それぐらいわかれ、と心の中でつぶやいたが、気の優しい彼女には酷な言葉だと思った。

「いいさ。お前を守れれば、一生、この身体でも」


夜空をかける彼の銀色の髪は、まるで流れ星のように閃いた。




********
というわけで終わりです。ひゃっふー、終われたぞ!!
この話は、こんな感じで…。
そんなこんなで、途中になっていた話に戻りますね。
ここまでお付き合い、ありがとうございました…!

奥義はないけど、明日はある(ゼルアメ)

「ゼルガディスさん……?」

アメリアが涙でかすれた声をだす。

「アメリア」

ゼルガディスは彼女の頬の涙を手で拭おうと思った。

だが、その手はスルリとその顔をすり抜ける。

けれど、アメリアの蒼い瞳だけはしっかりと自分をみつめていた。

「……すぐお前のところにいく。安心して待ってろ」

そういうと、彼女が小さくうなずいた。

そこで……世界がクニャリと歪み、あたりの輪郭がボケて溶けだした。

奥義はないけど、明日はある(ゼルアメ)

ゼルガディスはカーテンをつかむと、それをめくって中に入った。

アメリアがうつぶせになって、ベッドの上で枕に顔を押しつけて泣いている。

予想はしていたが、実際に目の当たりにすると胸に鈍い痛みが走った。

「……アメリア」

声をかけても相手から反応はない。

「アメリア」

彼女の頭を撫でようと手をのばした。

だが、その手は彼女の黒々とした頭を素通りする。

彼はハッとして自分の手をみた。

彼女にふれる部分の自分の手が、半透明になっているのだ。
あのテラスから入ったときの窓ガラスのように、ふれることはできない。

彼女と自分は同じ空間にはいないのだ。

「アメリア!」

それでも彼は声をかけた。

すると、少しだけ彼女が身じろぎをした。

「おい、アメリア」

その反応に、思わず希望を寄せる。

だが、彼女はそのまま、またしばらく肩を震わせ、ようやく顔をあげた。

奥義はないけど、明日はある(ゼルアメ)

思惑通り、ゼルガディスは部屋の中に入り込んでいた。

(これがアメリアの部屋か……)

初めてみる景色に心奪われる。

想像していたように、細工を凝らした家具や見事な調度品が置かれている。

だが、あまり威圧感はなかった。
どの家具も丁寧な作りながら親しみを感じさせる。アメリアらしい雰囲気だ。

だが、部屋の中は、小さなすすり泣きがする。
ハッとしてみると、声のする方に天蓋付きのベッドがあった。
薄いカーテンが、ベッドをとりまくように引かれていて、それをめくれないと中の様子はみえない。


奥義はないけど、明日はある(ゼルアメ)

間があいてしまいました(><)
ちびっと更新。

******

ゼルガディスは無意識のうちに足を前に踏み出していた。

アメリアが閉めたガラス窓に手をかける。

すると、不思議なことが起きた。

自分の手がガラス窓にふれる感触がない。

フワリと手が窓を突き抜ける感覚。

ゼルガディスはハッとして、あることを悟った。

いける。

心の中でそう思う。

彼は用心のために両腕を顔の前で交差させると、弾みをつけて窓ガラスに身体ごとぶつかった。

するり、と身体が硬い物質であるはずの窓をすり抜ける。
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