2014-5-14 23:18
世界が歪んで遠のく。
気がつくと、ゼルガディスはあの塔に戻っていた。
「どうだった?」
男が尋ねてくる。
ゼルガディスはそれにはこたえず、男をみつめた。
「……世話になったな」
「え?」
ゼルガディスはそういうと、男に背を向けて歩きだした。
「行くのか?」
「……ああ」
「そうか。達者でな」
初めてゼルガディスは男にかすかな笑みを向けた。
そして彼は塔を降りる階段の途中にある大きな窓に手をのばす。
鍵はかかっていないらしく、押すと開いた。
ゼルガディスは飛翔魔法を唱えると、そのまま夜空めがけて飛び出していった。
ヒュルルル……と鋭い音を立てて空をきる。
目指す先はただ一つ。
聖王都セイルーン。
充分に高度を保って見下ろす眼下の景色は、陸地にそって街の光が瞬き、海は深く暗い。
上空に行くほど空気は冷たくなったが、いまはそんなこと気にしなかった。
このぶんなら夜明けには着くだろう。
消費した魔力はそうだな、アイツの横で休ませてもらえばいいことだ。
「あいつにも、あんな遠慮があったとはな」
空中でつぶやく。
いや、あいつはいままでにも、ああやって自分の悩みを隠し通してきたのかもしれない。
そんなことにも気づいてやれなかったなんて、自分はなんておめでたい男なのだか。
そういえば、アメリアは最後に会った時に、いっていたか。
なにがあっても、あなたの夢を叶えて、と。
「まったく、な」
ゼルガディスは哀しい目をして苦笑した。
「お前を泣かせて置き去りにして、人間に戻ったところでなんの意味もないんだよ」
それぐらいわかれ、と心の中でつぶやいたが、気の優しい彼女には酷な言葉だと思った。
「いいさ。お前を守れれば、一生、この身体でも」
夜空をかける彼の銀色の髪は、まるで流れ星のように閃いた。
完
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というわけで終わりです。ひゃっふー、終われたぞ!!
この話は、こんな感じで…。
そんなこんなで、途中になっていた話に戻りますね。
ここまでお付き合い、ありがとうございました…!
2014-5-14 13:27
「ゼルガディスさん……?」
アメリアが涙でかすれた声をだす。
「アメリア」
ゼルガディスは彼女の頬の涙を手で拭おうと思った。
だが、その手はスルリとその顔をすり抜ける。
けれど、アメリアの蒼い瞳だけはしっかりと自分をみつめていた。
「……すぐお前のところにいく。安心して待ってろ」
そういうと、彼女が小さくうなずいた。
そこで……世界がクニャリと歪み、あたりの輪郭がボケて溶けだした。
2014-5-5 07:18
ゼルガディスはカーテンをつかむと、それをめくって中に入った。
アメリアがうつぶせになって、ベッドの上で枕に顔を押しつけて泣いている。
予想はしていたが、実際に目の当たりにすると胸に鈍い痛みが走った。
「……アメリア」
声をかけても相手から反応はない。
「アメリア」
彼女の頭を撫でようと手をのばした。
だが、その手は彼女の黒々とした頭を素通りする。
彼はハッとして自分の手をみた。
彼女にふれる部分の自分の手が、半透明になっているのだ。
あのテラスから入ったときの窓ガラスのように、ふれることはできない。
彼女と自分は同じ空間にはいないのだ。
「アメリア!」
それでも彼は声をかけた。
すると、少しだけ彼女が身じろぎをした。
「おい、アメリア」
その反応に、思わず希望を寄せる。
だが、彼女はそのまま、またしばらく肩を震わせ、ようやく顔をあげた。
2014-5-2 07:02
思惑通り、ゼルガディスは部屋の中に入り込んでいた。
(これがアメリアの部屋か……)
初めてみる景色に心奪われる。
想像していたように、細工を凝らした家具や見事な調度品が置かれている。
だが、あまり威圧感はなかった。
どの家具も丁寧な作りながら親しみを感じさせる。アメリアらしい雰囲気だ。
だが、部屋の中は、小さなすすり泣きがする。
ハッとしてみると、声のする方に天蓋付きのベッドがあった。
薄いカーテンが、ベッドをとりまくように引かれていて、それをめくれないと中の様子はみえない。
2014-4-26 06:50
間があいてしまいました(><)
ちびっと更新。
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ゼルガディスは無意識のうちに足を前に踏み出していた。
アメリアが閉めたガラス窓に手をかける。
すると、不思議なことが起きた。
自分の手がガラス窓にふれる感触がない。
フワリと手が窓を突き抜ける感覚。
ゼルガディスはハッとして、あることを悟った。
いける。
心の中でそう思う。
彼は用心のために両腕を顔の前で交差させると、弾みをつけて窓ガラスに身体ごとぶつかった。
するり、と身体が硬い物質であるはずの窓をすり抜ける。