榛名「あの…」
アメ「はい」
榛名「あなたって、確か、めんどくさい性格のコイビトを持って、いろいろ苦労していることで有名な人ッスよね?」
アメ「はい?」
榛名「ほら、性格がひねくれてて、いちいち強情で根性がネジ曲がっているタイプの男が好きで、手を焼いている人ですよね?」
アメ「あの…それは…ゼルガディスさんのことですか?」
榛名「そう、その名前までややこしいヤツ!」
アメ「ややこしいって…確かにみんなからしょっちゅう呼び間違えられて怒ってましたけど」
榛名「あのー、そんな男を相手にしているアナタに、ちょっと相談したいことがあるんですけど」
アメ「あ、なんでしょうか? このアメリア、お答えできることならなんっでもしますよ!」
アメリア、突然のガッツポーズ。
榛名(なんか、テンションの高い子だなあ…)「ええと、実は…オレも似たようなタイプと付き合ってんですよ」
アメ「そうなんですか!? じゃあ、ご相談って…」
榛名「そういうヤツと付き合う時のコツとかあったら知りたいんス」
アメ「こ、恋バナですね!!」
榛名「え…ああ、まあ」
アメリアにキラキラオーラが 漂いだす。
アメ「そんな…私とゼルガディスはまだ恋人っていうほどじゃないですけど…」
そして唐突に恥じらうアメリア。
アメ「でも…いつかは、ちゃんとゼルガディスさんの口からも…その、『コイビトだよ』って言葉を聞いてみたいんですけど…あああ、いってて恥ずかしくなってきました!!」
榛名「大丈夫です、聴いてるこっちも充分気恥ずかしい気持ちになってるから、いま」
アメ「ほえ?」
榛名「あー、いや! とにかく、そういったメンドクッサイ相手と長く付き合うにはどうしたらいいのかな〜って」
アメ「そうですね…。確かに、わかりやすい反応をしてくれ ないから、こっちはカンを頼るだけっていうか…ちょっとハラハラしますよね」
榛名「そう!! いろいろやってやっても、喜んでるんだか、迷惑がってるんだが、わかんねーし。そういうときってどうしたら…」
アメ「うーん。でも、やっぱり心のどっかでは嬉しいって思ってくれてるんですよ」
榛名「え?」
アメ「だって、本気で嫌だったら、もうこっちのそばにこないじゃないですか。気が向かないことには興味を持たないタイプなんですから」
榛名「そっか…。そういえば、タカヤはオレのこと嫌いだとか、あきれ果てたとかいうわりにはすぐに顔をだすよな…」
アメ「タカヤさんってい うんですか?」
榛名「あっ…」
アメ「素敵なお名前ですね。恋人さん」
榛名の頬に赤みがさす。
榛名「あー、いや、ほんとカッワイクねーヤツなんですけど」
アメ「でも、好きなんでしょ?」
榛名「いや! それは! ……そりゃ…」
アメ「思うに、相手を愛する気持ちが大切ですよ。その人が好き、大好き、そばにいるとなんだか嬉しい気持ちになってきちゃう。そーんな気持ちを思うままにだして、相手といっぱいそばにいて、いっぱい楽しく笑うことができたらいいんですよ☆」
榛名「いっぱい、笑う?」
アメ「そそ! きっと、あなた の恋人さんもゼルガディスさんに似てるんなら、あんまり素直に笑ったりしないと思いますけど、でもそんなことおかまいなしで、こっちが楽しい気分でいるとね、いつのまにか相手も笑ってたりするんですよ。私、向こうがそんなふうにつられて笑ってくれるときが、すっごく幸せなんです!」
榛名「そっか…オレが楽しそうにしてればいいのか。オレが楽しそうで、タカヤも一緒に楽しそうになったら成功ってことですよね」
アメ「はい! それにその…そういう人って、こっちのこと気にしてないふりをして、いきなり…迫ってきたりしませんか?」
榛名「そういや、オレ、ときどきギュワって抱きつかれることある。…なんか、黙って突然やってくる から、予測はできねえんだけど」
アメ「ホントですか!? 私も…急に抱きしめられて、気がついたら…されてたり」
榛名「なにを!??」
アメ「き…キスですけど」
榛名「ああ、まだそこか」
アメ「いっ、いま、なにを考えたんですか…?」
榛名「あー、いや、べっつに、気にしないで」
アメ「ううう…」
榛名「いや、とにかく、いま、気分がはれてきました。なんか、こー、もうどうしたら…! って感じにおいつまってたんで」
アメ「それならよかった。大切なのは愛です、愛!! 心に、愛とガッツと正義があれば、乗り越えられないもの はない! ねっ、一緒にどうぞ、ビクトリー!!」
颯爽とキメポーズを決めるアメリア。
榛名「んじゃ、こうスね、ビクトリー!! お、なんかこれいいかも」
アメ「はい。どんなときも、お互いの気持ちを大切にして素晴らしい愛をはぐぐんでいってください」
榛名「おっし、さっそくタカヤんとこいってきます。相談にのってくれてありがとー! 彼氏さんと仲良くねー」
アメ「はーーーーい。……うーん、誰かの気持ちを明るくするのってやっぱりいいなあ〜。さーて、私もガンバロー☆」
ゼル「おい」
アメ「うきゃあ! びび、びっくりするじゃないですか」
ゼル「そいつは悪かったな。しかし、アメリア…」
アメ「はい?」
ゼル「いま親しげに話していた男はなんだ…?」
ゼルから不穏な空気!
アメ「え? な、なんですか。まさかなにか変なことを考えているんじゃないですよね?」
ゼル「べっつにどうというわけではないが、ずいぶんと長くしゃべっていたから…」
アメ「もー、せっかく人が楽しい会話をしていたのに。そんな言い方、ひどいです」
ゼル「楽しい会話…?」(ぴくっ)
アメ「………あ、なんか変な顔してます。もー、どうしてゼルガディスさんはそうやって疑り深いんですか。そんなん じゃ 、いつまでたっても根暗魔剣士って異名がとれませんよ?」
ゼル「根暗っていうな! だいたい、そんな異名はもっとらんっ」
アメ「とにかくハッキリいいますけど、私とあの人は恋人のことで話をしていたんです」
ゼル「恋人…?」
アメ「そうです。私がどれくらいゼルガディスさんと一緒にいることが好きなのかってことをあの方に語っていたんです!」
ゼル「なあ!!」
アメ「わかっていただけましたか?」
ゼル「……………」
アメ「ね?」
ゼル「…………わかったよ」
アメ「えへへー」
そんでもって榛名の方は。
榛名「隆也ぁ、オレ、お前とメシ食べてるとき、すげー好き」
隆也「腹減ってりゃ、メシはいつでもうまいですからね」
榛名「オレ、お前とぼんやりしているときも好き」
隆也「ウトウトできるときって、人間って幸せを感じるそうですからね」
榛名「オレ、お前の身体さわってるときもマジで好き」
隆也「やめろ、へんたい!!」
榛名「……隆也」
隆也「あんすか?」
榛名「お前、オレと一緒にいても、たいして幸せじゃねーの…?」
隆也「え…?」
榛名「なんだ…やっぱりオレばっかり幸せなんじゃん…」
隆也(やべっ、いま、ズキュッ…ってきた)
榛名「隆也…?」
隆也「いや…べつに……べつに、幸せじゃねえなんていってねえこともねえですけど…」
榛名「は? なんなんだよ、それ、どっちなんだかよくわかんねーよ!」
隆也「くっそ、こっ恥ずかしいこといってんだから、ニュアンスで悟れよ!!!!」
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やっぱり理想通りにはいかないけれど、それなりにふたりの形はあるのだった。